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※飯田哲也氏の記事の2、3ページ目(全3ページ)を抜粋。
http://eco.nikkei.co.jp/column/iida/article.aspx?id=MMECcm000010112008&page=2
■「新アポロ計画」
「ブラック・ケネディ」とも呼ばれるオバマは、たんに同じ民主党の若きリーダー像が重なるだけでなく、勝利演説に見られるとおり、理想と理念に裏付けられた新しいビジョンを提示し、国民を鼓舞する「言葉」の力を持っている。そのケネディにちなんで、オバマが期待されているのが、「新アポロ計画」である。
「これから10年で人類を月に送る」。1961年にケネディがぶち上げたアポロ計画の結果、確かに1969年7月20日、アポロ11号は月面に着陸した。同じように、ブラック・ケネディにこれから10年間のグリーンエネルギー変革を期待するグループがある。発起者は、サンフランシスコに本拠のある「アポロ同盟」である。「クリーンエネルギー経済」に今後10年で500億ドルを投資して、500万人の「グリーンカラー雇用」を生み出すというもので、民主党関係者も多く、オバマの環境エネルギー政策にも重なって見える。極めつけは、「今後10年でアメリカの電力を自然エネルギー100%に転換しよう」という、今年7月21日のアル・ゴアの「リパワー・アメリカ」の呼びかけだ。ゴアは、当選後のオバマにも、さっそくこの「10年で100%」を目標とするよう提案している。
オバマ自身は、大統領選向けに「New Energy for America」というエネルギー政策を発表している。クリーンエネルギーに今後10年で1500億ドル(約15兆円)を投資して500万人の雇用を生み、輸入石油を減らし、2015年までに100万台のプラグイン・ハイブリッド車を走らせ、自然エネルギー電力を2012年までに10%、2025年までに25%を達成し、温室効果ガスを2050年までに1990年比で80%削減する、というものだ。数字は異なるが、内容は「新アポロ計画」にほぼ重なって見える。
勝利演説でも「Yes, we can !」のフレーズで月面着陸に触れたオバマは、アメリカの成功物語に裏付けられた「新アポロ計画」が期待されていること、また自身もそれを意識していることは間違いない。
■『グリーン・ニューディール』にシンクロする世界
オバマへの期待を一気に押し上げたのは、アメリカ発で未だに進行中の金融崩壊であろう。世界全体の株式市場は3000兆円を失い、急速かつ大規模な信用収縮がグローバルに進行する中で、実体経済の縮みも始まっている。誰もが1929年の大恐慌を思い出し、今後の世界経済の展開を不安な思いで眺めながらも、同時に、ルーズベルト大統領(当時)が行ったニューディール政策を世界中の人が思い出している状況だった。
そうした中で、「グリーン・ニューディール」の登場は、必然でもあった。オリジナルは、英国を中心とする「グリーンニューディール・グループ」が今年7月に発行したレポートである。このレポートは、市場原理主義や無限成長を前提とする資本主義とは異なる、持続可能で公正な経済社会のあり方を求める「ニュー・エコノミック財団」(NEF)が事務方として取りまとめたもので、金融・気候・エネルギーという「3つの危機」(Triple crunch)に対して、新エネルギーを中心とした「グリーン・ニューディール」を求めたものだ。
その後、気候変動やエネルギー危機に対処するだけでなくグローバル経済を引き上げるために国際エネルギー機関(IEA)も、今後2050年までの温室効果ガス半減に向けて、45兆ドル(約4500兆円)もの、空前の規模の投資を行う「グローバル革命」を求めたのに応えて、ブラウン英首相やサルコジ仏大統領もこれに賛同した。10月には国連(UNEP)が「グリーン経済イニシアティブ」というレポートを出し、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長がこれを引いて、「グローバル・グリーン・ニューディール」(GGND)を米国の新大統領に期待する考えを表明した。オバマの勝利を受けて、シュタインマイヤー・ドイツ外相も、オバマに「ニュー・グリーン・ディール」を求める期待を表明している。
こうして、世界で3つの危機が進行するにつれて、「グリーン・ニューディール」を求める声が澎湃(ほうはい)と沸き上がり、オバマがグローバルな政治舞台に登場するタイミングと重なって、オバマへの大きな期待にシンクロしているのだ。
■『グリーン・ニューディール』の可能性
ところで、グリーン・ニューディールの中身は、圧倒的に再生可能エネルギーである。
過去10年単位で見ても、1990年代はインターネットやITが経済と雇用の牽引車となり、その後は金融と不動産(住宅投資)がそれを担った。これを補う新しい成長セクターも求められている。再生可能エネルギーは十分にそれを担えるが、それだけではない。
再生可能エネルギーは、20世紀に自動車が果たした役割と同じものを21世紀に果たすと言われ、実際に、10年後には自動車産業に匹敵する規模へと成長しうるペースで成長しつつある。再生可能エネルギーの他にも、断熱住宅投資、そしてクリーンエネルギー自動車や送電ネットワークの更新などの低炭素社会インフラに対して、空前の規模の投資が担うことが期待されている。こうした低炭素社会インフラへの大規模な投資を世界中で行うことで、新しい成長セクターを生み出し、雇用(グリーンジョブ)を生み出しながら、「3つの危機」からの回復を図ることは、適切であるだけでなく、十分に可能性があり、そしてそれを可能にする政治が求められている。
オバマはたいへんな時期に就任するため、理想を掲げた公約どおりの政治ができないのではないかと懸念する声も聞こえる。しかし逆に見れば、現下の「たいへんな時期」とは、市場原理主義がリードした経済や金融システムが崩壊しつつあるのであり、そのあり方を抜本的に見直す必要に迫られている時期である。歴史的に見れば、レーガン、サッチャー、そして現ブッシュ政権と市場原理主義は、絶えず公正さや環境保全を求める社会や政治に対して障害やむしろ逆行する方向をリードしてきたもので、これから行われるであろう転換は、冷戦崩壊時にも匹敵するグローバル政治経済体制の見直しと見ることができる。だとすれば、オバマに期待される「グリーン・ニューディール」では、相当に思い切った変革ができるチャンスなのである。
■そして日本は?
新しい成長セクターが必要であり、それが環境・エネルギーだということは、日本でも多くの政治家や識者が述べている。ただしそのほとんどは、「日本の得意分野だ。したがって日本のチャンスだ」という、ナイーブ(素朴)な意見の開陳に留まっている。
これまでのコラムをお読みの方にはご理解いただけるだろうが、こうした「素朴な見方」は二重の意味で本質を見誤っている。まず、最大の勘違いは、環境エネルギー分野は決して日本の「得意分野ではない」ことだ。確かに、トヨタのプリウスやシャープの太陽光発電という単体技術は、これまでのところ競争力がある。しかし、環境エネルギー分野を総体として見た競争力は、とくに単体技術よりも環境エネルギー政策や新市場構築の力量において、大きく立ち後れている。
第2に、「グリーン・ニューディール」は大規模な投資が求められるのだが、アーネスト・ヤングの出している「再生可能エネルギー投資魅力度インデックス」で、日本は世界20位となっている。実際に、2007年の世界全体の再生可能エネルギー投資において、日本は、約半分を占める欧州や約4分の1の米国、約6分の1の中国、約8分の1のブラジル、インドといった国々と比べると、ほとんど存在感がない(08/09/10 ダッシュ・フォー・リニューアブル――主なき「福田ビジョン」の行方の図を参照)。
「グリーン・ニューディール」は、もちろん日本にも必要なのだが、その前に、これを実現するために、慎重にデザインされた環境エネルギー政策の変革、それを実現する政治の変革である。「日本の得意分野だ」などと呑気に構えていると、「グローバル・グリーン・ニューディール」の大変革の波に飲み込まれ、日本は一気に置き去りになってしまうのではないか。
[2008年11月12日/Ecolomy]
◆関連リンク
「グリーン・ニューディール」で経済危機を立て直す−環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長に聞く(3・完)このままでは日本の電気料金は上がる一方(2008年11月21日)
http://www.news.janjan.jp/world/0811/0811200956/1.php
【エネルギー】アメリカで息吹をあげる新エネルギー経済(ワールドウォッチ研究所 2008年5月)
http://www.worldwatch-japan.org/NEWS/ecoeconomyupdate2008-5.html