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【日経ビジネス】「飢えている人がいる時に、食べ物をクルマに食べさせる」バイオ燃料の“真面目な悩み”
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20080630/164048/
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「飢えている人がいる時に、食べ物をクルマに食べさせる」バイオ燃料の“真面目な悩み”
風当たり強い新燃料は投資テーマになりうるのか?
2008年7月17日 木曜日
飯野将人, 堤 孝志
ニュービジネス バイオ燃料 カーボン・ニュートラル バイオエタノール
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NEXT BIG THING! ベンチャーキャピタリストはIT(情報技術)、バイオの“次に来る巨大潮流”を追い求めている。本稿ではNEXT BIG THING「クリーンテック分野」の投資で先行する海外(主に米国)事例を拙訳書『クリーンテック革命』(ファーストプレス)に触れながら紹介する。さらに、この分野はわが国にも先進的な事例がある。ニッポンの事例とニッポンの投資実務家の思いも語ろう。
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バイオ燃料に対する風当たりが強い。
6月5日に出された国連食料サミット宣言で、バイオ燃料推進派の米国やブラジルは「バイオ燃料が食料危機に与える影響は小さい」というくだりを盛り込もうとしたが、途上国を中心にバイオ燃料普及に伴うトウモロコシなどの価格高騰に対する批判が強すぎた。結果、妥協の産物として「今後も国連食糧農業機関(FAO)などを中心に食料価格への影響を研究し、各国が対話を継続する」という表現に落ち着いたことは記憶に新しい。なんだ、こりゃ? まるで役人言葉だ。なに言っているのかさっぱり分からん。
● 人間が飢えている時に、人間の食べるべきものを自動車に食べさせてどうする?
米国のトウモロコシ生産量は世界の4割。その2割以上がエタノール燃料に充てられるようになったため価格は急騰した。シカゴ商品取引所で2000年にトウモロコシ1ブッシェル当たり2ドルだったのが2008年2月には5ドル台になった。
米国農務省出身でワールドウオッチ研究所を創設して地球環境問題に取り組むレスター・ブラウンは「世界の8億人が所有する自動車が、20億人の貧困層と食料資源を巡って争っている」と憤りを隠さない。地球温暖化対策として2005年から植物を原料にしたエタノールなどバイオ燃料の積極活用を掲げてきた南アフリカ共和国のルラマ・ジングワナ土地問題・農業相、穀物価格が上昇し国民の不満が高まる中、主食であるトウモロコシについて食料向けだけに使途を限定し、バイオエタノール向けには一切使わないと言明した(NIKKEI NET 2008年4月26日)。
バイオ燃料は京都議定書で「カーボンニュートラル」と認められた。これはバイオ燃料の原料となるサトウキビやトウモロコシが生長する時に光合成をして大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収するので、これらを原料とする燃料を燃やした時に排出されるCO2が、生育過程で吸収されたCO2と相殺されるという考え方だ。
このうまく言いくるめられたような理屈のせいで、国際統計データとしてのCO2排出量の計算からは化石燃料以外のCO2排出量が除外されている。こう表現されると、バイオ燃料を使いさえすれば化石燃料が節約できる分だけまるまるCO2排出が削減されるという誤解を与える。現に2006年にバイオマス燃料の利用促進を目的として閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」ではバイオ燃料の利用量がそのまま原油の節減量として評価されている。
しかし、この理屈からはバイオ燃料の生産過程(原材料植物の育成、伐採、運送、精製)における燃料消費とそのCO2排出が抜け落ちている。バイオ燃料の生産過程におけるCO2排出を考慮するとほとんどのバイオ燃料はカーボンニュートラルどころかむしろ、化石燃料だけの場合よりもCO2排出を増やしているという研究もある(東京工業大学 久保田宏教授)。
また、例えばブラジルで食料と競合しない形で輸出用に大量のエタノールを生産しようとすると、新たに燃料作物栽培用の耕地として熱帯原生林を農地転換するしかない。現存の熱帯林は植物の生長と蓄積物の分解がバランスした状態にあるが、これを伐採することによって失われるCO2の吸収効果をバイオエタノールの化石燃料対比の正味CO2排出節減効果で相殺するためには40〜75年かかるとも言われる(同上 久保田宏教授の研究)。
バイオエタノールの主原料であるトウモロコシは、米国が2005年の全世界生産量7.9億トンの4割に当たる3億トンを生産し、そのうち0.5億トン(世界の総輸出量の実に6割に当たる)を単独で供給してきた。その米国は2007年に0.6億トンをエタノール向けに転用した。2008年には2億トンが転換されると言われる。米国では補助によってエタノール用のトウモロコシ生産が優遇された結果、大豆や小麦の作付面積が減らされ、それらの穀物の市場流通が激減した。直接食料用ではない余剰生産穀物がエタノール転換されている事情や、気候不順による一時的不作による備蓄在庫の減少という事情を差し引いても、米国における大量のエタノール転換が世界的な穀物価格の急騰の要因であったことは間違いないと見られる。
● 冷静に「バイオ燃料をめぐる技術動向」を見てみる
食糧不安を背景として世界的に「バイオ燃料悪玉論」が盛り上がっているが、「一律にバイオ燃料はダメ」というのでなく、「ダメなバイオ燃料」と「よいバイオ燃料」を分けて考えるべきだ。日本は非食用作物を原料とするバイオ燃料の開発を比較的早くから進めてきたし、幾つかの萌芽が出ている。
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20080630/164048/?P=2
技術開発の方向性について農水省が挙げる技術的課題を見ると(農林水産省「バイオマス利活用の推進」)、第1に収集・運搬コスト低減(伐採木材の運搬や稲わらの収集工程の効率化)、第2に資源作物の開発(エタノールを効率的に大量精製できる非食用作物の開発)、第3にエタノール変換効率の向上(稲わらや間伐材などからエタノールを大量に精製する技術)が挙げられている。乾燥地でも栽培可能な植物(ヤトロファ等)、藻類のような非食用植物の燃料化、排泄物からメタンガスを分離する技術といった方面で盛んに開発が進んでいる。
● 藻から燃料?
『クリーンテック革命』では米国のベンチャーの例ばかりを紹介したが、この分野はわが国でも研究が盛んだ。
「藻から燃料」なんて想像し難いが、面積1万平方メートル当たり1年間に取れる油はトウモロコシ0.2トン、パーム油6トンに対して藻類は47〜100トンというケタハズレの試算もある(日本経済新聞2008年5月13日)。筑波大学では「ボトリオコッカス」という自然に広く分布し、油を合成する藻から油を抽出する研究が行われている。ボトリオコッカスは光合成でCO2を取り込み炭化水素を生成し細胞外に分泌する。この炭化水素は重油に似た成分で、そのまま船の燃料に使えるほど質が高いという(東奥日報2008年2月26日)。
● 夢の燃料作物を海外で
乾燥地で栽培可能な「ヤトロファ」を海外へ飛び出して栽培し、バイオディーゼルの生産に挑戦するベンチャーも出てきた。ヤトロファは毒性があり食用に適さない反面、やせた土地でも成長が早く干魃(かんばつ)や病気に強いうえに果実に含まれる油分が非常に多い。これは植生に乏しい土地を純粋燃料用の作物で緑化できるということを意味するわけで、バイオ燃料に対する多くの批判に耐える植物なのだ。バイオ・アグリが中国で100万本のヤトロファの植林を行っているほか、日本植物燃料、日本バイオテックなども同様にヤトロファを海外で栽培している。
ヒマワリは他の作物と交互に栽培することができる作物であり、食用作物との競合が緩和される便利な作物だが、サンケアバイオフューエルスはヒマワリを使ったバイオディーゼル事業を推進している。これも海外生産組だ。
英国企業でありながら英国外でプランテーション運営を行いバイオ燃料生産を行うベンチャー、D1オイルズは2002年設立後たった2年で2004年10月AIM市場(ロンドン証券取引所の高度成長ベンチャー企業向け市場)にスピード上場し、BPと合弁会社を設立するなど躍進中。国内バイオ燃料ベンチャーにも同様のシナリオが可能なはずだ。
● しょうゆ、みそ、日本酒、納豆、漬け物・・・ニッポンの「発酵技術」は世界のキーテック
稲わらや間伐材といった非食物系セルロースを原料としてエタノールを精製しようという試みもある。セルロース分解に利用される酵素、分解されてできた糖の発酵技術がイノベーションのターゲットだ。「酵素」「発酵」といえば、しょうゆ、みそ、日本酒、納豆、漬け物などわが国の伝統食品の「キーテクノロジー」ではないか!
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20080630/164048/?P=3
清酒メーカーの月桂冠は、麹菌の遺伝子を清酒酵母に組み込んだ「スーパー酵母」で前処理したセルロースから一気にエタノールを生成してみせた(同社発表より)。これは「スーパー酵母」を用いたシンプルな方法で効率よくエタノールを生産する技術で設備が比較的小規模で済むため、植物原料が植生する場所ごとに小規模なプラントを分散展開して処理することも可能。「地産地消」に沿った技術と言える。
また、耐熱性酵素研究所というベンチャーは、農業廃棄物(主成分はセルロース)からバイオエタノール生産に利用できる糖質を抽出する酵素群およびそのシステムの開発に取り組んでいる。国内よりも海外の会社からの引き合いが強いそうで、グローバル市場での活躍が期待される。国内の酵素・発酵技術の高さを裏づける好例と言える。
ただし、バイオ燃料事業は本質が農業であり、作物の生育サイクルや栽培地の確保、応用分野の開拓、流通インフラの整備に長い長い時間がかかる。この点、ソフトウエアの開発や流通と比べてベンチャー投資の対象としては格段にハードルが高い分野でもある。我々が運用するベンチャーファンドは10年以下の期間のものが多いが、D1オイルズのような超特急の例は別として、バイオ燃料のような気長な投資回収を目指す投資機会に対してどう対応するのか工夫が必要だ。
● 国内のバイオ燃料の政策支援はどうなのか
2005年に閣議決定された京都議定書目標達成計画によれば、2010年度までにバイオエタノールを含む輸送用バイオマス燃料を原油換算で50万キロリットル導入することを目指している。いささか乱暴な計算だが、5月末の原油価格1バレル135ドル、1ドル=105円としてざっと市場規模440億円の市場が誕生することになる。さらに2007年2月の「バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議」では技術開発によって2030年に600万キロリットル(原油換算360万キロリットル)の国産バイオ燃料生産が可能としている。
もっとも足元では、小規模な実証実験や一部の自治体やNPO(非営利組織)等による取り組みが行われている程度で、国内市場はまだ「夜明け前」。これには様々な要因がある。燃料植物を生産するにも我が国は国土面積が限られている。廃材は収集コストが高い。バイオエタノール3%まで、バイオディーゼル5%までの混合率とする上限規制もある。バイオ燃料に対応する供給体制など、流通や利用にあたって対策が必要なことも少なくない。化石燃料と比較してもコストがまだ高く助成策なしでは、採算度外視でもバイオ燃料に転換しよう、という奇特なユーザーにしか売れない。
しかし、グローバルではまったく様相は異なる。世界のバイオ燃料生産量は2005年末時点でバイオエタノールで3650万キロリットル、バイオディーゼルで400万キロリットル(バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議資料)。2010年の我が国の導入目標と比較して、ざっと81倍の市場が存在するということだ。我が国は石油消費量では2005年に6.5%の世界シェア(BP, Statistical Review of World Energy (2006))を有することを考えれば、バイオ燃料後進国である事実がはっきりする。
このような大きな格差があるのは、内外の導入促進策の差による部分が大きい。
米国では「2005年エネルギー政策法」の成立により、2012年には約2800万キロリットルの供給が定められており、さらにブッシュ大統領は2007年1月の一般教書において、この義務量を2017年までに1.3億キロリットルとすることに言及している。米国では2007年12月に成立した「新エネルギー法」により、年間で2022年に1億3600万キロリットルの再生可能燃料導入を義務化した。
これを「裏返し」して見れば、日本市場は“まだ政策的な支援はこれから”という黎明にあり、今後の潜在性はそれだけ高いということだ。バイオ燃料混合分への免税措置やバイオ燃料製造事業者の設備投資に対する税制優遇措置の提案による化石燃料との価格差解消など、各省庁のバイオ燃料関連の取り組みも活発になってきており、課題は解消されつつある。
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(註)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、筆者が所属する組織の見解を示すものではありません。
(註)本コラムはクリーンテックビジネスに関する筆者個人の考えを述べたもので、個別企業の株式や債券の売買にかかわる助言を目的としていません。また記事内容は信頼できると思われる情報源からの情報に基づいて作成しているものの、正確性・完全性を全面的に保証することはいたしかねます。
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