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http://mainichi.jp/enta/book/news/20081026ddm010040004000c.html
*堤未果さんの部分だけ転載します。
◇主役は、いつも自分 活字文化は日本の「武器」なんです−−ジャーナリスト・堤未果さん
原稿に行き詰まったとき、全く違うジャンルの読書がしたくなる。
「格差社会について書いていてアイデアが浮かばず、ファンタジーを読んで体を柔らかくしたことがありました。資料を読み続けると理屈が先行して、すっと頭に入る文章がでてこない。読書で感動し心を解き放ったあとなら、自然に原稿が書けますから」
新しい発見があったり、深く共感できるような読書には、長距離ランナーが感じる快感、「ランナーズハイ」に通じるような効果があるという。
最近も、中国大革命を体験的に描いたノンフィクション「ワイルド・スワン」(ユン・チアン著)や、ミヒャエル・エンデの作品などを読み返し、心身の柔軟体操をした。大好きな本は、いつでも手に取れるよう、ベッドの横に置いておく。
「映像は確かに刺激が強いけれど、一方的に送られてくる情報をみんなで共有するメディア。それに比べ、本は自分の、自分だけの世界がつくれる。物語やテーマに寄り添って読み、考え、そのたびに新たな感動がある。だから、主役はいつも自分なんです」
幼いころに、元文化放送アナウンサーで詩人の母親(堤江実さん)に読み聞かせをしてもらったのが、本との幸せな出会いだ。
「最初に音で入ってきたので、想像力をいっぱい使ったんですね。日中は家にいない母親が、毎晩、寝る前に本を読んでくれる。大好きなお話は何度もせがんで、字を読めないうちから暗唱していたんですよ」
米国の格差社会を描いた「ルポ貧困大国アメリカ」を発表して以降、講演に招かれることが増えた。「ネットと携帯があれば新聞は要らない」と考えている若者たちも念頭に、活字の大切さを強調するという。
「同じニュースでも、テレビは記憶に残らない。でも、新聞は、考えながら主体的に読むものなので、途中で他の人と議論もできる。もっと知りたければ自分で探そうという気にもなる。情報を並べただけのネット情報とは違って、新聞は問題を見出しや注釈で整理してくれますから」
と同時に、特定のニュースソースや主義主張に偏ってはいけない、バックにどの国のどの企業がスポンサーとしてついているかも見る必要がある、と警告する。堤さん自身も、あるテーマを追求するときには、自身の考えに近いものだけでなく、リベラルな主張から保守的な考え方まで幅広く本を選んで読んだうえで、切り口を考える。
「日本の活字文化は何にも勝る武器だと思います。米国では1年に本を一冊も読まない人々がたくさんいます。米国の単行本は厚くて高価で、敷居が高い。米国が7年間も無謀な戦争を続けている背景には、テレビが活字を上書きし、情報格差の下、自分の頭で考えなくなった多くの国民の存在があります。帰国して一番印象的だったのは、日本では1000円以下でたいていの新書が買え、どんな小さな町にも書店があることでした。活字を読み、自分の頭で考えられる人々は、この国の宝ものです。どんなにネットが便利になろうと、そのことは忘れてほしくない」
米国の恩師がこんなことを教えてくれた。<本を読めば読むほど、豊かになる。文章を書けば書くほど、確かになる。話せば話すほど、機敏になる>【聞き手・佐藤由紀】