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【三菱東京UFJ銀行の“怪談”】6000人が作ったシステムは必ず動く【根拠はないが必ず成功する】
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http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20080423/299886/
(日経ITpro)[2008/04/24]
6000人が作ったシステムは必ず動く
最盛期の開発要員6000人,開発工数11万人月,投資額2500億円,取引件数1日1億件。三菱東京UFJ銀行が「Day2」と呼ぶ,勘定系システム一本化プロジェクトの成果物である。6000人のシステムズエンジニア(SE)が作り上げた巨大システムは,2008年5月の連休明けに必ず動くはずだ。
23年間にわたって情報システム開発プロジェクトの取材を続けているが,6000人のSEを集めた事例は過去に一度も見聞きしたことがない。世界を見渡してもおそらく例がないはずだ。これから何年間,記者を続けるのか分からないが,今回の三菱東京UFJ銀行を除けば,6000人を動員するプロジェクトを取材する機会は二度とないだろう。
6000人のSEが同時期に集まったのであって,「6000人月」ではない。開発工数は先に書いた通り,11万人月である。この数字も凄い。一体何を作ったのかと思ってしまう。正確にはこのSEパワーは開発だけではなく,テストに惜しみなく使われた。三菱東京UFJ銀行は2007年8月までにサブシステムの開発と単体テストを終え,9月から今日に至る8カ月間,接続テスト,総合テスト,最終確認テストと,ひたすらテストを重ねてきた。多少,SEは減ったとはいえ,ざっと5000人が8カ月テストをしたとするとこれだけで4万人月,開発工数の3分の1がテストに費やされた計算になる。また,6000人もSEがいると,相当数のマネジメント要員が必要になる。こうしたことを考え合わせると,実際にプログラムの開発や改修に使われたパワーは全体の半分以下だろう。
本来なら有り得ない開発工数とマネジメント工数とテスト工数である。必要があったとしても普通はそこまで投資できない。システムの安全性と投資というトレードオフについて,三菱東京UFJ銀行は安全性を徹底して優先する方針をとった。投資は青天井としても6000人・11万人月とは人間がマネジメントできる範囲を超えている。「本当に問題なく動かせるのか」と心配する人が出るのは仕方がない面もある。ちなみに「無駄な投資ではないのか」と思う人もいるだろうが,「すべての商品とサービスを継続し,しかもトラブルを絶対起こさない」と無理難題を同行に命じたのは,マスメディアと監督官庁と一部の預金者である。
根拠はないが必ず成功する
それでも筆者は冒頭に記した通り,この巨大システムは大きなトラブルなく,必ず動くと信じている。IT業界の方やユーザー企業の方から質問される機会があると「何事もなく成功します」と答えている。ITpro読者には釈迦に説法だが,プロジェクトに「必ず動く」という言葉を使うことは本来できない。それは承知の上で「必ず動く」と今回は言い続け,書き続けている。
必ず動くと言い切る根拠は何か。三菱東京UFJ銀行が徹底したプロジェクトのリスクマネジメントをしているからか。例えば最終確認テストにおいては約8万ものテストケースをこなし,本番に向けては200のサブシステムについてそれぞれ232項目の移行判定基準を確認する。単体テストが終了してから8カ月もSE集団を抱え込んでテストと確認を繰り返す姿は鬼気迫るものがある。だが,それでも「必ず動く」とは言い切れないのがシステムの世界である。
実のところ根拠は何も無い。「必ず動くと信じている」だけだ。信じる理由の第一は,6000人のSEの方々が開発し,テストを繰り返してきた以上,その努力が報われて欲しいと思うからである。「少人数のプロジェクトであったら成功を期待しないのか」などと詰まらぬ突込みを入れないで頂きたい。プロジェクトマネジャである根本武彦執行役員システム部長は2月に開いたシステム本格統合説明会で,「一人ひとり全員が額に汗をかき,ここまでこつこつと努力してきた。ぜひとも最後までご支援いただきたい」と言って頭を下げた。浪花節は嫌いだが,6000人のSEを最後まで応援したい。
第二に,いささか大げさだが本プロジェクトには日本のIT関係者の威信がかかっていると思う。システムダウン,計算ミス,開発失敗といった大きなトラブルがここ数年起き,裁判沙汰も増えている。このままでは「情報システムの世界は闇だ」という認識が定着しかねない。ここで一発,圧倒的な成功例を世に示し,「やればできる」とアピールして欲しい。
第三に,三菱東京UFJ銀行はITの分野においては日本有数のプロジェクトマネジメント力を持つユーザー企業である。経営トップである畔柳信雄三菱UFJフィナンシャルグループ社長は第三次オンラインシステム開発に参画,情報システム部長やシステム担当役員を歴任し,プロジェクトマネジメント学会にも参加している(関連記事「サッカーもプロジェクト,仕事もプロジェクト」)。金融機関経営者としての畔柳氏を評価する知見を筆者は持たないが,情報システムのプロジェクトについて畔柳氏は間違いなく最も豊富な経験を持つ経営者である。システムとプロジェクトが分かる経営トップが陣頭指揮をしても失敗するようでは困ってしまう。最後まできっちりマネジメントし,プロジェクトマネジメント学会で畔柳社長自ら事例発表をしていただきたい。
第四に,本来ならどうでもいいことだが,本プロジェクトの失敗を切望している新聞やテレビをがっかりさせたい。新聞やテレビ批判は別の記事(「失敗を待つマスメディアの監視下,システム一本化を始める三菱東京UFJ銀行」)に書いてしまったので繰り返さない。新聞やテレビは,小さいトラブルや些細なオペレーションミスであっても「初日から障害」などと報道するだろう。昨今は,小さなトラブルでもユーザー企業が自ら公表するから取材をする必要もない。無いものねだりになるが,できる限りミスを減らし,新聞やテレビに地団太を踏ませて欲しい。
ここまで書いて急に不安になってきた。「厄病神の告白,『私はシステム事故を招く』」に書いた通り,筆者が特定プロジェクトに言及すると必ずよくないことが起きるからだ。6000人に迷惑をかけては申し訳ない。手遅れかもしれないが,これから5月の切り替え日まで,静かに成功を祈ることにする。すでに現場を離れた方もおられるが,6000人の皆さん,健康に注意しつつ,切り替えを乗り切って下さい。
(谷島 宣之=経営とITサイト編集長)
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