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グラフ確認を見る元記事はこちらで
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080222/147845/
「有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)元年」と言われる2008年。
ポスト液晶とされるこの分野で、日本メーカーは覇権を握ろうと躍起だ。
だが、そこには各社が想定していなかった3つの壁が立ちはだかる。
有機EL業界の将来性について、特許情報サービス会社のアイ・ピー・ビーが「IPB特許・技術調査レポート(有機EL)」と題する調査結果をまとめた。日本で出願された有機EL関連特許の競争力を分析したもので、その結果からは、「日の丸有機EL」の意外な現状が浮き彫りになっている。
「類似特許があるか」「他社が関心を寄せているか」「国際出願をしているか」などの観点から個別の特許を得点化し、その得点を出願企業別に示したのが下のグラフだ。最も高い総合得点を叩き出した企業は有機ELテレビ量産一番乗りのソニーではなく、セイコーエプソンだった。
出願件数は断トツ。直近の公開情報がたどれる2001年からの4年間で、有機ELに関して国内出願された全特許の実に1割を超える1195件を1社で出願している。
技術力の高さは、最近発表した試作品を見ても分かる。2007年10月には8インチの有機ELディスプレーを開発。ディスプレーの明るさが半減するまでの寿命を、テレビとして使っても問題のない5万時間まで伸ばすことに成功している。車載用スピードメーターなども試作し、用途開発にも熱心だ。
目下、有機EL業界の関心事は、より技術的なハードルが高いとされている大型ディスプレーの開発。40インチクラスのディスプレーが実用化されれば、汎用品化した液晶テレビに代わって、有機ELテレビがテレビの主役に躍り出るとの期待がある。エプソンは当然、この分野でも量産化を最速で実現する企業の最有力候補と見られてきた。「有機ELに関する技術の中でも、特に大画面化に適した特許を多く保有している」(調査を担当したアイ・ピー・ビーの日比幹晴研究員)からだ。
エプソンはプリンターの技術を応用して、基板に有機ELの材料を吹きつける方式の特許を数多く持つ。10インチ前後の小型ディスプレーで使われている現行の方式に比べ、大画面の量産をする場合にはコスト面で有利な技術と言われている。事実、エプソンは2004年にはこれらの技術を活用して業界初の40インチフルカラー有機ELディスプレーの開発に成功し、当時、エプソンの幹部も「2007年の製品化を目指して開発を進める」と宣言していた。
最有力候補エプソンの“変心”
だが、既に2008年。その公約の時期は過ぎている。そして、セイコーエプソンの跡部光朗ディスプレイ開発本部長は日経ビジネスに対し、大画面の量産とはおよそ縁遠い見通しを口にした。
「将来はエプソンブランドのディスプレーも出したいが、まずは中小型のBtoB(業務用)製品で信頼性を高めていきたい。ニッチでいい。(花岡清二)社長からも、有機ELは焦らずに育てるように言われている」
大画面の量産に積極的でないと解釈できる発言だ。製品化宣言から3年余り。いったい何があったのか。
「2004年当時と今とでは環境が違う。液晶との競争に巻き込まれるのは得策ではない」(跡部本部長)。液晶テレビの想像以上の進化が、大画面有機ELテレビに関するエプソンの態度を変えた。
確かに液晶テレビは、多くの面で有機ELの持ち味に迫りつつある。画面のコントラストは有機ELの圧勝だが、液晶も動画の応答性や視野角の広さが大幅に改善し、画質が上がった。消費電力の低減も急ピッチで進む。例えば有機ELテレビ1号機のソニー「XEL-1」は11インチで定格消費電力が45ワット。対する32インチの液晶テレビ(シャープLC-32D30)は、画面サイズが約3倍で144ワット。待機電力では液晶が0.1ワットとXEL-1の0.84ワットよりも少ない。本体の薄さも液晶で3.5cmの商品が販売され、2cm台の発売も秒読み段階に入っている。
その性能向上と反比例するかのように、価格は猛烈に下がった。2004年当時、家電量販店における37インチ液晶テレビの実勢価格は60万円前後。32インチでも45万円前後した。1インチ当たりの価格は1万円を大きく超えていた。ところが2008年現在、32インチの国内実勢価格は10万円前後。37インチでも15万円を切る商品が多い。1インチ当たり3000円台で、2007年末には2000円台の商品も出ている。
エプソンは大画面テレビの1つであるリアプロジェクション(背面投射型)テレビのメーカーだったが、液晶などに押されて2007年に撤退した苦い経験がある。「事業は儲からないと意味がない。大型で、画面がきれいで価格も下がった液晶テレビに勝つには何か圧倒的な強みが必要」(跡部本部長)。
「材料が間に合わない」
有機ELの当面の開発目標である大画面化。要素技術で優位に立つエプソンですら大画面有機ELディスプレーの開発に及び腰になるのだから、それより不利な立場にあると見られるメーカーの視界はより不透明だ。
東芝もそんな1社だ。東芝の場合、2007年4月に西田厚聰社長が「有機ELはカラーテレビ用の大型も生産する」「2009年に有機ELのカラーテレビが出てくると思っていただいて構わない」と花火をぶち上げたものの、同12月には「大画面では有機ELよりも液晶の方が優位の状態が長く続くと判断した。次世代大型は液晶でいく」とこれを撤回。大画面の有機ELテレビ開発にブレーキをかけた。
わずか半年余りでの趣意変え。ここには液晶の進歩とは別の問題が横たわっている。ある化学メーカーがその背景を明かした。「大画面に適した高分子型の有機EL材料の開発が2年は遅れている。これだけはテレビメーカー単独ではどうしようもない」。
この点に関しても、今回の調査で興味深い傾向が浮かび上がっている。下のダイヤ状グラフはエプソンのほか、有機ELの共同開発を発表した松下電器産業、日立製作所、キヤノン陣営、世界初の有機ELテレビを開発したソニーと出光興産の連合、さらに東芝グループなどの有機EL特許を、生産に必要な6つの要素に分けて競争力を分析したものだ。
このグラフを見ると、東芝だけでなく、エプソンでも得点の低い分野があることが分かる。その1つが有機EL素子の材料だ。有機ELの材料は化学メーカーや印刷会社が優位性を持つ分野だが、大画面に適した高寿命の材料はまだ実用化段階に入っていない。
「2008年中には実用化に堪える材料を開発できるメドが立ちそう」(住友化学)とはいうものの、「重要な要素技術の進歩が外部頼みで、かつ見通しが立てづらい有機ELに、東芝がしびれを切らした」(テレビメーカー幹部)。
有機ELの大画面テレビは2004年当時、2011年7月のテレビ放送の地上デジタル化完全移行が最大の商戦と言われていた。放送信号のデジタル化で、映像を液晶よりきれいに映すことができる有機ELテレビへの買い替えが見込めるからだ。「その頃には価格がこなれて液晶と戦えるはずだった。だが、2011年では主流は液晶やプラズマ。大画面の有機ELテレビが出たとしてもまだ贅沢品で量は見込めない」(同)。
こうした判断から、テレビメーカーの多くは、2011年を目指して液晶やプラズマの新工場に数千億円単位の資金をつぎ込む。その分、有機ELテレビに回す投資の余力が細る。
素材に注力するサムスン
競争の前提が全社共通なら問題はないだろう。だが、日本のテレビメーカーのそんな甘い期待を打ち砕くデータも今回の調査は示している。要素別の競争力を示したダイヤ状グラフ。有機EL素子材料の競争力で高い得点を出しているテレビメーカーがある。韓国サムスングループのディスプレー製造会社、サムスンSDIだ。
グローバル企業も、将来の係争などに備えて日本での特許取得に積極的だ。サムスンSDIの場合、日本での有機ELの特許出願件数は今回の調査対象となった4年間で354件。エプソン、三洋電機に次いで3位だ。三洋電機は有機EL事業から2006年に撤退しているため、現有プレーヤーでは事実上2位。しかも、化学メーカーの独壇場であるはずの有機EL素材の分野で重ねた得点が最も高い。
「有機ELの素子材料では、3原色のうち青色材料の耐久性がネックになっているが、サムスンSDIの特許はこの青色で評価が高い。利益は川上にあると見定めて材料の世界でも足場を築こうとしている」(アイ・ピー・ビーの浴野稔取締役)
既にサムスングループは、小型の有機ELディスプレーでは量産技術を獲得して、圧倒的な勝ち組となった。KDDIがauブランドの携帯電話で採用している有機ELのメーン画面はサムスン製。大画面化でも昨年、量産化を念頭に置いた31インチのディスプレーを開発している。こと要素技術を見る限り、液晶テレビと同じく、大画面の有機ELテレビでも日本メーカーがサムスンの後塵を拝する可能性があるということだ。
ソニーはノウハウを蓄積?
現在のところ、日本のテレビメーカーで大画面の有機ELテレビ開発と将来の量産化に積極的な姿勢を打ち出しているのは、世界1号機を送り出したソニーだけだ。
ソニーは今回の要素技術の評価ではさほど高い得点にはならなかった。ただ、「開発と量産は別。あれだけの高画質有機ELテレビの量産にこぎ着けたのは、特許には表れないノウハウの積み重ねがある」(セイコーエプソンの跡部本部長)と同業の評価は高い。
そのソニーは2007年に40インチクラスの大画面有機ELテレビを量産するための新技術を発表。2008年度下期からは220億円を投じて開発を加速させ、2009年の生産技術確立を目指す。
大型化を進める中で、長期的には他社が所有する有用性の高い特許とぶつかる局面も予想されるが、11インチのXEL-1量産化に関連する技術では特許のポートフォリオを構築済みだという。ソニーは大画面化に向けての課題の多さを認めたうえで、「独自技術の数々を使うなどして、あらゆる手段で有機ELテレビを実現する」とのコメントを日経ビジネスに寄せた。
急速な進化を遂げて、価格が大幅に低下した液晶テレビという強力なライバル、ブレークスルーを確信できない材料開発、そして意外な分野で着実に地力をつけているグローバル企業の足音――。要素技術という持ち駒を通して見ると、近未来テレビが離陸するための現実的な課題が明確な像を結んだ。これが日本勢の次世代テレビ敗北の始まりとなるか、反攻への転換点になるかは、そう遠くないうちにはっきりするはずだ。
日経ビジネス2008年2月25日号6ページより
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