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(回答先: 米大統領選の報道が問題(「大和ごころ。ときどきその他」から) 投稿者 忍 日時 2008 年 1 月 10 日 20:01:22)
異色のド根性大統領候補:マイク・グラベル
実際に合衆国大統領になれる可能性がほとんどないとしても、マイク・グラベルほど愉快な大統領候補はいないだろう。彼ほどアメリカの懐の深さを体現した人物は、最近では珍しいのではないか。
ところで、マイク・グラベルって誰だ?
2008年度大統領選に民主党で一番早く名乗りを挙げたマイク・グラベルは、マサチューセッツ州スプリングフィールド生まれの76歳。21歳で米陸軍に入隊し、5年ほど陸軍防諜部に勤務。後にコロンビア大学で経済学を学び、1969年から1981年までアラスカ州選出上院議員を務めている。
フランス系カナダ人移民の家庭に生まれたグラベルはフランス語に堪能で、カナダのメディア取材にはフランス語で対応している。一方で、米国内メディアはこの風変わりな合衆国大統領候補を1年間全く無視してきた。しかも、選挙資金が全くないグラベルは、出馬表明後もニューハンプシャー州以外ではほとんど遊説していなかった。
2007年4月26日、サウスカロライナ州立大で最初の民主党大統領立候補者討論会が開催された。舞台に現れた8人の民主党大統領候補者の中に、見知らぬ白髪の老人の姿があった。「あの爺さん、誰?」と皆が首を傾げたのも無理はない。支持者達の関心の的は、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマら“エリート先頭集団”が何を言うかということだった。
ところが討論が開始されると、ヒラリーやオバマは共和党議員よりもはるかに退屈な保守派であることが露呈してしまったのである。一方でこの日最も会場を沸かせたのは、知名度ゼロのために討論会に招かれるかどうかも定かでなかったマイク・グラベルだったのだ。
率直なアメリカ人
元アラスカ州上院議員マイク・グラベルのエネルギッシュなトークが炸裂。(写真:NYタイムズ紙)
もともと退屈なイベントだった。討論会とは言っても、基本的には司会者が各候補者に質問をして、候補者が制限時間内に回答するという形式だ。これではディベートとは言えないし、議論が沸騰して候補者が本音を言うこともありえない。(NBC放送が主催し、司会進行役は人気ニュースキャスターのブライアン・ウィルソン:MSNBCのtranscriptへのリンク)
討論会の内容をいくつか抜粋し解説しよう(強調は訳者による):
司会者:
「クリントン議員、民主党上院院内総務ハリー・リード氏の最近の発言によれば、イラク戦争は敗北したとのことでした。本日のUSAトゥデイ紙に掲載された投書には、リード氏の発言が“背信行為”であり、もしもパットン将軍が生きていたなら、リード氏を使ってブーツを拭うだろうと書かれています。あなたは上院院内総務の主張に賛成しますか?」
ヒラリー・クリントン:
「ブライアン、まず最初に、アメリカ国民の主張について言わせてください。議会はすでに戦争終結に向けて表決しています。今はただ大統領が耳を貸すことを望むだけです。・・・(中略)・・・これはアメリカが勝ったり負けたりという戦争ではないのです。我が国はイラク国民に自由と統治の機会を与えました。その機会を活用するかどうか決定するのはイラク国民次第なのです。」
ヒラリー・クリントン議員によれば、戦争の口実をでっち上げて無差別に爆撃し、所構わず銃撃して占領したのは、イラク国民に“機会”を提供するためだったというわけだ。ブッシュ政権の主張や言葉遣いをソックリ真似ているわけだが、これならワシントンで敵を作ることもないだろう。まさに“勝てる候補”の面目躍如である。
司会者:
「バイデン議員、同じ質問です。リード議員の言うように、イラク戦争は敗北でしょうか?」
ジョー・バイデン:
「ブライアン、これはゲームショウじゃないんですよ。フットボールでもない。勝ち負けじゃないんです。問題となっている事実は、大統領は根本的に誤った政策を実行しているということなんです。それはバグダッドに強力な中央政府を民主的に建設するという考えに基づいたものです。・・・(中略)・・・この取り組みの根本的な前提を変えてみてはどうでしょう。つまり、イラクに中央政府を作るのではなくて、地域ごとに支配を任せるのです。(以下略)」
バイデン議員はワシントンで密かに検討されているイラク分割統治案について言及している。確かに、イラクという国が無くなれば、“イラク戦争”という概念もなくなり、“イラク戦争”は歴史に埋没させ易くなるだろう。しかしそれなら、欧米石油メジャーはイラク各地の油田をきちんと地元に返さねばならない。
司会者:
「オバマ議員、あなたはこのイラク戦争を評して、“愚か”と発言しています。その姿勢で、この戦争に身を捧げた人々に対してどのように向き合いますか?そもそもなぜあなたは過去において戦争予算に賛成してきたのですか?
バラク・オバマ:
「ブライアン、私は開戦時からこの戦争に反対してきた自分を誇りに思っていますよ。イラクの地で現在見られるような惨憺たる状況になると思ってましたからね。それに、戦地にこの国の若者を数十万人も派遣するのなら、彼らの安全のために暗視スコープや補強済みハンビーや他の装備が必要になることも私はずっと主張してきました。しかしアメリカ国民が主張しているのは、共和党であれ民主党であれ、もう戦争を終わらせる時期だということなのです。・・・(以下略)」
戦争に反対?本当ですかねオバマ議員?−バラク・オバマはディベート後半で、思わず本音を話してしまうことになる。・・・
司会者:
「エドワーズ議員、あなたはイラク戦争開戦決議に賛成した件を謝罪したことで注目を集めました。あなたは、“我が国にはオープンで正直な指導者が必要だ。過ちがあれば真実を告げることができる人物だ”と言ってます。これはあなたの競争相手であるクリントン議員への直接攻撃ですか?」
ジョン・エドワーズ:
「いいえ、そうではなくて、それはこの戦争に賛成した者の良心の問題なのです。クリントン議員や他の戦争賛成者は自省して正しい判断だったのかどうか考えてみる必要があるのです。正しいと信じるなら、そうすれば良いのです。正しくないと思うなら、率直且つ正直に振舞うのが大事です。なぜなら私は、次の大統領は、国民と合衆国大統領府の信頼関係を取り戻せるような人物であることを国民が切望していると思うからです。(以下略)」
エドワーズは冷静で優等生的発言しかしないが、右派系メディアから叩かれまくっているので少々疲れているらしい。
司会者:
「クシニッチ議員、イラク戦争に反対しながらそれに資金を提供することができるでしょうか?」
クシニッチ:
「できません。国民に対して、戦争には反対だが引き続き資金提供に賛成してくれというのは矛盾しています。戦争への資金提供に賛成するたびに、戦争を再度支持することになるのです。実際のところ、この場に居る同僚議員達はワシントンDCで戦争への資金提供に賛成してきたばかりです。民主党はこの戦争を終わらせる力があるのだから、終わらせるべきです。(以下略)」
デニス・クシニッチはワシントン界隈では“オハイオ州のホビット”と呼ばれている。クシニッチはチェイニー副大統領弾劾案を提示しているが、民主党内ですら同意するものは少ない。
司会者:
「リチャードソン知事、あなたがもしもニューメキシコ州議員だったなら、反戦の立場であるにも関わらず戦争への資金提供に賛成しますか?」
リチャードソン:
「いいえ。私の立場について明確にしておきましょう。この戦争は大失敗です。戦争を終わらせねばなりません。もしも今私が大統領だったら、すぐそうします。追加部隊も含め、全ての兵士を年内に撤退させます。(以下略)」
リチャードソンは初のヒスパニック系大統領候補として注目を集めているが、今回のディベートでは凡庸な政治家にしか見えなかった。
ここまできてようやく、司会者のブライアン・ウィルソンが舞台隅の見知らぬ白髪の老人の演台に質問を向けた。マイク・グラベルの愉快な大舞台デビューである。
司会者:
「グラベル元議員、あなたをよく知らない人たちのために説明しますが、アラスカ州上院議員として2期務めましたね。ベトナム戦争時には、戦争資金停止のために活躍しましたね。(中略)この舞台上の議員達に、あなたならどのようなアドバイスをしますか?
マイク・グラベル:
「まあ、まず第一に理解しなきゃならんのは、ジョージ・ブッシュが詐欺的な基準に基づいてイラクに侵攻した時点でこの戦争は敗北していたということですな。それを理解しないといけません。議会で進行中の件については、実に嘆かわしい事態ですな。表決は下され、メディアは半狂乱だ。どんな表決だ?ジョージ・ブッシュは1年以上前から、大統領任期中はイラクから撤退させないと言い続けてる。信じられんだろう?
別の方策が必要だ。ペロシやリードと同じ席について、他の議員にも集中して話し合うよう望むが、どうやって撤退するつもりかね?決議案じゃなくて、法律を制定すべきだよ。撤退しなきゃ重罪になるという法律を作るんだ。その条文は私が用意する。
フィリバスター(発言による議事妨害)が心配なら、戦術をさずけよう。下院は通過できるだろうな。すでに多数派だから。上院では、フィリバスターをやらせればいいさ。それで、リード院内総務は毎日12時に討論終結動議を出すんだ。そしてアメリカ国民に、誰が戦争を長引かせているのかハッキリと見せてやれ!」
(会場:拍手)
この怒れる白髪の老人の話し方はまさしく率直で、正直で、おまけに過激だ。イラクから撤退しなきゃ重罪にされる法律?ユニークで効果的なアイデアじゃないか。おまけに、ブッシュ政権批判に加えて、いきなり民主党の議会政策を批判している。−マイク、あんた無党派か?
司会者:
「グラベル議員、今年初旬にある会議で・・・これは確認したいのですが、あなたは大統領に選出されてもされなくても関係ないと発言していますが、ではなぜ、今夜この舞台に登場したのですか?討論会は大統領選に勝つために出馬した候補者のためにあるべきでは?」
グラベル:
「その通りだな。確かにわたしはそう発言した。しかしそりゃ、ここの人たちと同席する機会に恵まれる以前の話だ。上院議員になるのも同じようなもんだ。初当選の時は、興奮して“どうやって当選できたんだろう?”と言うさ。ところが6ヶ月もすると、“他の連中は一体どうして当選できたんだ?”と言い出すんだ。(会場:笑い)実を言うと、彼ら議員さんと同席してみると、心底恐ろしくなるんだ。恐ろしいよ。主流派の候補者諸君は、イランに関してはあらゆる可能性を検討するなんて言っている。そりゃつまり、核攻撃もありうるということじゃないか。核兵器だ。言っとくが、私が大統領になったら、核兵器による先制攻撃など絶対にやらないぞ。わしが思うに、そりゃ不道徳だよ。もっとも、過去50年間のアメリカ外交はずっと不道徳だったがね。」
司会者:
「ちょっと自由討議しましょうか。グラベル(元)議員、それは重大な問責ですね。このステージ上の誰がそんなに恐ろしいのですか?」
グラベル:
「先頭陣営の方々だよ。彼らが発言してるんだ。(ジョー・バイデン議員に向かって)ああっ、ジョー、あんたもその1人だぞ。あんたは本当に傲慢な人だな。あんた、イラク国民に国の運営について講義するつもりか?言っとくぞ!我が国はさっさと撤退すべきなんだ。何もせず撤退するんだ。彼らの国なんだぞ。彼らは我々に出て行けと言ってるんだ。それなのに我が国は駐留継続を主張している。なぜ出て行かない?どんな害があるというんだね?まあ、“それじゃ兵隊達の死が無駄になるじゃないか”という声もあるが、ベトナム戦争だって全部無駄死にだったじゃないか。今この瞬間にも、どんどん無駄に死んでいくんだぞ。1人の兵士が無駄に死ぬ以上に酷いことは何だと思うかね?もっとたくさんの兵士が無駄に死ぬことさ!それこそもっと悲惨だ。」
この討論会の後で、30年来の知り合いであるジョー・バイデン議員は妻にグラベルを紹介して言った:「このグラベル爺さんは、今回の大統領選挙に手榴弾を投げ込もうとしてる人だよ。」(サロン誌の報道)
民主党の重鎮でありながら軽率で知られるジョー・バイデンも、この日は言葉を選んで慎重に振舞った。
司会者:
「バイデン議員、上院外交委員会所属のあなたにお尋ねしますが、イラク以外に合衆国にとって脅威となる国は?」
バイデン:
「合衆国にとって最大の脅威は、現在のところ、北朝鮮です。イランはそれほど脅威ではありませんが、長期的には脅威です。さらに率直に言うと、全体主義に傾倒しつつあるプーチン政権は、ヨーロッパ全体の混乱要因になるでしょう。(以下略)」
一方でグラベル候補は、まるで暴発したマシンガンのように喋りまくり、合衆国の政策全体を穴だらけにしてみせる。
司会者:
「グラベル議員、同じ質問です。イラク以外に合衆国にとって脅威となる国は?」
グラベル:
「重大な敵などいない。我が国に必要なのは、世界の国々に対し公平に対応することだ。それをやってない。我が国は世界の全ての国を合わせたよりも多くの金を防衛に費やしているんだ。一体何を恐れる必要がある?ブライアン、一体誰が怖いと言うのかね?わしゃ何にも怖くないぞ。イラクだって脅威ではなかった。それなのに侵攻した。全く信じがたい。軍産複合体は政府、株、石油を支配するだけでなく、わが国の文化まで支配している。」
この討論会の主催はMSNBC、親会社はGE、つまり米防衛企業最大手のひとつだ。
グラベルの言葉は正直で、あまりにも危険過ぎる。
司会者:
「グラベル議員、あなたはアラスカ州選出上院議員として2期務めましたが、アラスカといえば石油資源が豊富ですね。フランスの制度をモデルとすれば、合衆国はお粗末なくらい原子力エネルギーの利用が遅れていませんか?」
グラベル:
「全くそう思いませんな。この国で核開発批判を始めたのは私だよ。さらに言うと、徴兵を終わらせるために私は議事妨害をしたから、ジョージ・ブッシュを地上軍入隊から救ったのは私ということになる。アラスカにパイプラインを敷設したのも私だ。ところで、エネルギー問題や他の問題について聞かれるくらいなら、戦争や現在の状況について話させてほしいんだがね。我が国はテロリズムを誤解している。テロリズムとは文明の始まりから存在したし、文明の終わりまでつきまとうんだ。テロ戦争における成功はドラッグ戦争と同じ程度だ。効果ないんだよ。我が国に必要なのは、外交政策全体を見直すことだ。共和党側は民主党が祖国を防衛するつもりがないと責め立てるが、軍事侵攻はテロリストを増やしただけじゃないか。我々がイラクに侵攻したおかげで、オサマ・ビン・ラディンは今頃毛布の中で転げまわって喜んでるに違いないぞ。」
司会者の質問を適当に捌いて、勝手に話題を変えるグラベルに司会者も困惑気味だ。
ところで、この討論会から1週間後、“アルカイダのNo.2”アイマン・アル・ザワヒリがビデオで世界にメッセージを発信し、「イラク駐留米軍は20万から30万人の兵隊の死を味わってから撤退するだろう」と勢い良く宣言している。明らかに、アルカイダは米軍の駐留延長を歓迎しているようだ。やっぱりビン・ラディンは転げまわって喜んでいるのだろうか?
管制塔から支持者へ緊急連絡:バラク・オバマ航空旅客機はサウスカロライナ上空で急速に右旋回を繰り返し、ホワイトハウス方面に向かっています!!脱出の準備を!
さて、ここからが今回の討論会のハイライトである。“テロに弱腰”という批判をずっと恐れているバラク・オバマは、どうしても“オバマ・ドクトリン”について説明したかったらしい。
オバマ:
「このテロリズムという問題にもういちど立ち返ってみましょう。打ち倒すべき正真正銘の敵、解体すべきネットワークが存在することは確かです。理知的に我が国の軍事力を行使するにあたっては我々の誰も対立しませんし、あるいはテロリストを排除する際に致命的な武力を行使する場合もありますが、同時に、同盟を組織し世界中に信頼を拡大する努力がこの6年間非常に欠けていました。思うに、次期大統領にとって最重要課題となるのは、我が国の直面するそうした困難への取り組みでしょう。」
クシニッチ:
「オバマ議員、今の発言は非常に挑発的ですね。以前からあなたは、イランに関してあらゆる選択肢を考慮すると言ってますね。国民にとってその本当の意味を思案することは非常に大切だと思うのですが、あなたは別の戦争に向けて準備を整えつつあるようです。私が思うに、地球温暖化と地球戦争化は避けることが重要です。全ての中心は石油です。我々は石油のためにイラクに侵攻しました。今、我が国は石油のためにイラン攻撃を目論んでいます。外交政策を変えない限り、つまり戦争を政策手段としている限りは・・・」
司会者:
「時間です」
クシニッチ:
「・・・そしてエネルギー政策を変えないと・・・」
司会者:
「時間です」
クシニッチ:
「我が国は過ちを繰り返すことになるのです。」
司会者:
「クシニッチ議員、ありがとうございます。時間です。オバマ議員、30秒で反論をどうぞ。」
オバマ:
「もう少し時間をもらって反論します。イランと戦争を始めるのは深刻な過ちになると思いますよ。しかし、イランが核兵器を保有し、合衆国と周辺国にとって脅威であることは疑いようのない事実で・・・」
クシニッチ:
「・・・(音声を拾っていない)」
オバマ:
「核兵器開発途上にあるのは明らかでしょう。専門家も否定しませんよ。イランはテロの最大支援国であり・・・」
クシニッチ:
「それはまだ論争中で・・・」
オバマ:
「ヒズボラやハマスも支援を受けてます。」
クシニッチ:
「それはまだ論争中です。」
オバマ:
「デニス、(党内に)反論はないはずだ・・・」
クシニッチ:
「まだ論争中ですよ。」
オバマ:
「終わりまで聞いてくれ。世界各国に同盟を拡大することについては我々に対立はないはずだ。だが、核拡散国家が存在すればテロリストの手に核兵器が渡ることになり、アメリカにとって深刻な脅威になるのだから、この問題を真剣に受け止めるべきだ。」
司会者:
「時間オーバーです。グラベル議員、30秒でどうぞ。」
グラベル:
「とんでもない。イランなら、我が国はもう26年間も経済制裁してるじゃないか。合衆国大統領は彼らを“悪魔”と呼んで、連中をひどく脅してるんだ。それでどうなる?そんなことに効果などない。意味ないんだよ。彼らを認めるべきだ。わかるか?核不拡散条約の最大の違反国は誰だ?アメリカ合衆国だよ!我が国は軍備縮小を始めると約束しておいて、何にもやっちゃいないんだ。我が国は核兵器をさらに増やしているじゃないか。あんたら、どこを核攻撃するつもりだ?教えてくれ、バラク!バラク!あんたはどこを核攻撃したいんだね?」
オバマ:
「(苦笑して)どこも核攻撃する計画はないよ、今のところはね。マイク。約束しよう。」
(会場、笑い)
グラベル:
「そうか、良かった。それじゃもうしばらくは安全だな。」
バラク・オバマはリーダーシップを示したつもりかもしれないが、醜態をさらしたのは彼だ。クシニッチの指摘は見事だった。グラベルの突っ込みはジョン・スチュアートを超えそうなほど過激だ。
ディベート後の評判
他の候補者達−特にオバマ、バイデンらは、グラベルの率直な話法にかなり困惑して苦笑いをしていた。多くの専門家が総じてグラベルを奇人扱いし、「アル・シャープトンの代役だ」「次の討論に呼ばれる可能性はなくなった」と冷やかした。
ところが、ネット界では全く反応は異なったのだ。グラベルの大胆な主張に、絶賛と批判の嵐が沸き起こった。・・・「この爺さん、何処から来た?」「危険人物だ」「正直者だ」「彼こそ私の大統領だ」「異常者だ」「この人は怒ってるが、狂人じゃない!知性派だ」「無作法だ!」・・・
USAトゥデイ紙によれば、討論会放送直後から、グラベルの名はブログ検索総合ランキングで15位を占めたという。動画サイトYouTubeに投稿されたグラベルの討論会ビデオはあっという間に20万PVを超え、その日のランキング上位を占めた。
討論会直後から、マイク・グラベルの公式サイトはオバマ、ヒラリーを超えるアクセスが殺到し、あまりの負荷に耐え切れず、ページが表示されなくなった。ブロガー達は献金しようとしてもサイトにアクセスできないと文句を言い始めた。
一番驚いているのはマイク・グラベル選挙チームのスタッフらしい。財務を担当するエリオット・ジャコブソンはボストン・グローブ紙の取材に対してこう言った:「彼はエドワーズ候補の散髪代より少ないお金で選挙活動を開始したんですよ。」(エドワーズ候補はビバリーヒルズのカリスマ美容師に1回400ドルで髪を切ってもらっている。豪邸の新築に加え、その成金趣味が本人の公約である“貧困層の救済”にふさわしくないという批判の声がある。)
グラベル本人も討論会の後で貧窮ぶりを吐露している。「今、一泊55ドルのモーテルに泊まってるんだ。もしこの後さらに討論会があるなら、ヒッチハイクしなきゃいけない。」
ヒッチハイク?−ご冗談でしょうグラベルさん?−さらにグローブ紙はこんなことも報じている。:「今月上旬、グラベルはニューヨークで選挙活動を終えてからバージニア州アーリントンの自宅へ帰るため、ヴァン・ムース・バスの乗客列に25ドルの切符を持って並んでいた。」
なんと、76歳のマイク・グラベル合衆国大統領候補は、移動手段に格安の長距離バスを使っているというのだ。専用ジェット機3機で全米を遊説するヒラリーとはえらい違いである。
こんなにお金のない人間が大統領選に名乗り出るとは非常に奇妙で無謀だ。ワシントンポスト紙の候補者紹介ページには、マイク・グラベルの職歴として「タクシードライバー」とある。退役直後の1950年代に、NYでタクシードライバーをしていたらしいのだ。この老人は何を考え、何をしてきたのだろう。何が彼をあんなにも怒りへと駆り立てるのだろうか?なぜ彼は他の民主党候補者達とあんなにも違うのか?
質素、正義、ド根性、過激:マイク・グラベルの破天荒人生
サロン誌はマイク・グラベルの経歴と人間像を以下のように説明している:
一文無しで、無職の彼は幸福だと言う。本人の言葉を借りれば“資産ゼロ”の男だ。上院時代の年金は全て前妻に支払い、彼自身は最近何年も光熱費すら稼いでいない。上院議員の席を奪われて以来、二度の破産を経験した。ひとつは自分の会社、もう一つはつい3年前の自己破産である。それでも彼は気にしていない。彼は“至福を追求せよ”という神話学者ジョセフ・キャンベルの言葉を引用する。グラベル夫妻は経済的には“困窮している”が、本人によれば充分満たされているという。
マイク・グラベルは単に自身の至福を追及しているだけで、その至福とは彼にとって常に政治なのだ。マサチューセッツ州スプリングフィールドで、労働者階級のフランス系カナダ人移民夫婦の下に生まれた時から、その至福は始まった。26歳の時、軍務を終えてコロンビア大学を卒業した頃、政治家人生をスタートするべく模索を開始したという。「一文無しで、有名でもないし知り合いもいなかった。だから、どこかに行ってゼロから始めなけりゃならなかった。」彼は選択肢をアラスカとニューメキシコに絞ったが、暖かい気候が嫌いなのでアラスカに行くことにした。
「アラスカに着いた時、私は文無しだった。たぶん午後3時くらいだったと思うが、ガソリンスタンドで店員に聞いたんだ。“どこに行けば仕事を見つけられるか知ってる?”何でもいいから仕事が欲しかった。一文無しだからね。すると店員はこう言ってくれた。“友人に不動産会社の社長が居るよ。電話をしとくから、月曜の朝にでも行ってみたらどうだい?”」
マイク・グラベルはこうしてアラスカに活動拠点を見出したという。1956年の出来事である。当時のアラスカにはまだ州としての自治権がなかったらしい。それから3年後、アラスカ最初の州議員に立候補し、落選。次の年にはアンカレッジ市議会に出馬して落選。3度目の挑戦で市議会議員の座に当選したのは1962年のことだった。
1968年、38歳のグラベルはアラスカ州から上院議員選挙に出馬し、当選を果たした。
上院議員時代のグラベルには失敗も悪評もあるが、二つの輝かしい功績を残している。ペンタゴン・ペーパー事件と、徴兵制度更新への反対活動である。
当時はベトナム戦争が泥沼化していた時代。1971年、米国防総省の悪名高き機密文書“ペンタゴン・ペーパー”を元国務省職員ダニエル・エルスバーグがNYタイムズ紙とワシントンポスト紙にリークし、両紙が文書内容を記事で公表し始めると、ニクソン政権の司法省は両紙に対し記事差し止め命令を出し、法廷闘争に発展させた。
そこでアラスカ州上院議員マイク・グラベルの登場である。ペンタゴンペーパーの存在を知り、政府の隠し事に怒った彼は、同じ時期に議会で討議されていた徴兵制度の更新法案に反対し、たった一人でフィリバスター(議事妨害)を開始していた。そのフィリバスターのためにグラベルが議会で読み上げようとしたのが、極秘で入手した4,100ページ分のペンタゴン・ペーパーだったのだ。
上院議会での機密文書読み上げが禁止されると、グラベルは自分が委員を務める上院小委員会(国防と全く関係のない委員会)の聴聞会を、たった一人でこっそり真夜中に議会地下室で開催し、勝手にペンタゴン・ペーパーを読み始め、参照としてその機密文書4,100ページを小委員会議事録に収録するというユニークなやり方で、司法省の攻撃を逃れ、公開議事録を通じてペンタゴン・ペーパーに一般国民がアクセスできるようにした。本人曰く「この機密文書をただちに公開すれば、ベトナム戦争政策はひっくり返るはずだ」という信念に基づいた危険な挑戦であった。
1971年:ペンタゴン・ペーパー出版を発表する上院議員時代のマイク・グラベル(右)(ビーコンプレス社より)
さらにグラベルは、議会議事録に収録したペンタゴン・ペーパーの内容を、ニクソン政権の差し止め命令を無視して一般書籍として出版する行動に出た。ペンタゴンペーパーの出版を複数の出版社に持ちかけたが、訴訟とニクソン政権の攻撃を恐れた業界側は依頼を拒んだ。しかし1社だけ、ボストンの小出版社ビーコンプレスがグラベル議員の申し出を受け、ノーム・チョムスキーとハワード・ジンの協力を得て『ペンタゴン・ペーパー:マイク・グラベル版』として出版にこぎつけた。ビーコンプレス社側は、訴訟覚悟、破産覚悟でニクソン政権に挑戦したという。グラベルは司法省に訴えられ、最高裁で敗北したが、すでに弱体化したニクソン政権側は湧き上がる世論の批判に逆らえず、機密文書出版の件でグラベルを罰することができなかった。(参照:ビーコンプレス社ペンタゴンペーパー特集ページ)
同時進行していた徴兵制度更新案についても、徴兵制度廃止を求めるグラベルは民主党上院議員団の反対を無視し、たった一人で5ヶ月間フィリバスターを続け、結局ニクソン政権側と上院共和党議員団から譲歩を引き出すことに成功。1973年に合衆国の徴兵制度は事実上廃止されたが、それにはマイク・グラベルの活躍もおおいに貢献したのである。
イラク戦争がベトナム戦争の軌跡をなぞっているとしたら、マイク・グラベルはまさしく歴史に再び呼び出された人物といえる。
どん底状態で大統領選出馬を宣言
1980年に選挙で敗北し上院議員の座を失ってから、マイク・グラベル絶望の日々が始まった。企業家を目指し不動産業に乗り出したが、設立した会社は倒産。妻とは離婚した。興味深いのは、この時期に悪名高きカーライルグループとビジネスで対立し法廷闘争を行っているらしい(詳細は不明)。
1989年に国民投票制度導入を訴えて再び政治活動を開始するが、困難は続いた。政治団体を3つ立ち上げ、政界復帰を目指すが、2003年に受けた外科手術の費用が元で2004年に自己破産に陥った。破産時の負債はカードローン8万5,000ドル。自家用車以外に資産はなくなった。
そんなわけで、マイク・グラベルは常に他の政治家がやりそうもないことをやってきた。財布が空っぽのままで大統領選に出馬を表明することで、またしてもその本領を発揮したわけだ。(以上経歴参照元:サロン誌)
実際に、マイク・グラベルと“先頭集団”には、資金面でどれくらいの差があるのか?以下に2007年3月31日時点のデータで比較すると:
ヒラリー候補:
集めた献金額は2,604万1,109ドル(約31億2,068万449円)
手持ちの現金は3,097万4,780ドル(約37億1,327万7,311円)
バラク・オバマ候補:
集めた献金額は2,566万5,688ドル(約30億7,692万6,558円)
手持ちの現金は1,919万2,521ドル(約23億89万4,714円)
エドワーズ候補:
集めた献金額は1,402万1,504ドル(約16億8,068万8,521円)
手持ちの現金は1,073万1,881ドル(約12億8,646万2,153円)。
一方でマイク・グラベル候補はというと、献金額はわずか1万1,118ドル(約133万2,911円)、手持ちの資金は498ドル(約5万9,703円)しかない。これじゃあ、選挙用にノートパソコンも買えない。
経済学者クルーグマンは米政界に庶民派時代の到来を予告した。マイク・グラベルはいわば究極の庶民派だが、議員としての実績はヒラリーやオバマら民主党議員を上回る。
だがアメリカでは、レーガン登場以来、最大の政治資金を稼いだ人物が合衆国大統領になるという暗黙のルールがある。したがってグラベルが大統領に当選する可能性はほとんどないだろう。
グラベルは掲げる政策も個性的だ。彼は、直接民主制実現に向けた国民投票制度の導入を主張し、法人税・所得税を全面撤廃して代わりに消費税を一律23%にすると言っている−過激すぎて実現の可能性はどれも低い。
だが、マイク・グラベルのド根性人生は、アメリカが世界に対して誇るべき数少ない側面を反映しているように感じる。爆撃外交を重ねる脅迫盗聴大統領ばかり目立つアメリカよりも、マイク・グラベルが評価されるようなアメリカのほうが、本当は誰だって好きなはずだ。
米世論調査専門家ゾグビーは言う:「国民はマイク・グラベルについて話題にしています。彼にバスの切符を買う金が続く限り、国民はもう数ヶ月は彼の言葉を聞くでしょうね。」
暗いニュース
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2007/05/post_9dcc.html