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http://www.magazine9.jp/isezaki/071226/071226.php
このコラム、ちょっと間が空いてしまいましたね。
その間、アフガニスタン情勢は更に悪化。
衝撃だったのは、先月11月に起きた自爆テロ。タリバン政権をアメリカと一緒に倒した旧北部同盟の拠点地で比較的安全と思われてきたアフガン北部のバグラン州で、何と過去最悪の規模の40人余りが犠牲になってしまいました。それも、犠牲者の中にアフガン国会議員6名が含まれているという話です。つまり、テロの政治的効果を最大限に考慮し、大変用意周到に実行されたと言えるでしょう。
それまで、アフガニスタンでの自爆テロは、“命中率”があまり良くない。つまり、自爆犯として高度な訓練をあまり受けず、隣国パキスタンとの国境の辺境の貧農地区のマドラサ(イスラム教のモスクに付属する寺子屋みたいなもの)で反米の洗脳教育を受けた若年層という見方がありました。ちなみに、パキスタン国内では、こうしたマドラサが一万ヶ所以上もあり、義務教育にも満足に行けない貧しい子供たちを救済する唯一の教育機関という目的がありますが、一方で過激思想を子供たちに吹き込み、テロ訓練を行ったりしているという批判もあります。パキスタン・アフガニスタン国境地帯は、昔からトライバル・エリア(部族地域)と呼ばれ、植民地支配も、その後の中央政権の覇権も全く及ばない。だからこそ、未だにここに潜伏していると思われているオサマ・ビンラーディンが捕まらないわけです。
こういうのがアフガニスタンにおけるテロの背景ですから、パキスタン・アフガニスタンへの内面からの支援。つまり、テロリストを生む根本の原因に焦点を当て、貧困対策やそうしたいわゆる政治的過激派が暴力を最終手段としないように国の民主化を手伝うのが重要という意見があったのですが、今回のテロ事件を見ると、そんなに悠長に構えている場合ではないようです。
かといって、テロリストをせん滅する軍事作戦:OEF(不朽の自由作戦)も、泥沼に近い困難な局面を迎えているようです。
先日、在京のアフガニスタン大使のアミンさんと一緒にご飯を食べる機会がありました。色々アフガン情勢を語った後、最後に、「アフガン政府として今一番、日本を含む国際社会に訴えたいことは?」という問いに、アミン大使は、じっと考え込んだ後、一言。
「コラテラル・ダメージ」。
「もっとアフガニスタンに支援を」ではなく、「第2次被害」もしくは「巻き添え被害」です。
「コラテラル・ダメージ」については、このコラムの第6回に書きましたので繰り返しませんが、そろそろアフガン人の忍耐の限界に来ていることが、アミン大使の言葉から読み取れます。OEFを主体とする「対テロ戦」のための米主導多国籍軍の軍事行動が、一般市民を巻き添えにしているのは、主にアフガン南東部です。“テロリスト”、タリバンを生んだパシュトゥン部族地域です。この地で、これ以上巻き添え被害が多くなると、その憎悪は外国の部隊に向かい、それはその象徴としてのアメリカ、そして、ブッシュ政権の傀儡である現カルザイ大統領政権へと向かい、それは、アフガニスタンで最大部族であるパシュトゥン人の更なるタリバンへの帰依につながるからです。
敵をつくりながら進行している対テロ戦の中で、辛うじて政権を維持するカルザイ政権の悲痛な叫びが、アミン大使の言葉から読み取れます。
対テロ戦という概念の中で、私たちが想定している“テロリスト”とは、それほど曖昧なものなのです。
もちろん、9.11同時多発テロを実行した国際テロ組織アルカイダと一緒に行動しているタリバンのコアの人たちは健在でしょう。でも、タリバンの裾野は、一般の農民です。基本的に民兵組織ですから、トップから裾野まで一本の指揮命令系統が通っているようなものでは、絶対にあり得ません。
歴史的にしっかりとした国家の覇権が及ぶことのなかった地の人々が、安全と食いぶちを求めて、“国民”になるか、タリバンに帰依するかの間でフラフラしている。これが、対テロ戦の現場なのです。
ですから、アフガニスタンにとって、テロリストとは、内政の問題なのです。
イギリスのブラウン国防相は、今年九月になってから、「アフガニスタンでは、ある時点で、和平プロセスにタリバンが関与する必要が出てくる」と公式に述べています。つまり、アフガニスタンでは、“テロリスト”を内政に取り込んでゆかないと、対テロ戦の出口は無いと、他ならぬアメリカの最大の軍事的パートナーであるイギリスの、それも国防大臣が言っているのです。
実は、「テロリストとの和解」は、現在までアフガニスタン国内で、ブッシュさんの傀儡カルザイ大統領が、当のアメリカに気を使いながら、細々と進めてきたことなのです。ブッシュさんも任期が終わればただの人。カルザイさんには、自分の政権を自前で維持していかなくては、という危機感があったのかもしれません。このまま対テロ戦が続けば、どんどんパシュトゥン人が自分から離れてゆく。カルザイさんは、実はパシュトゥン族出身なのです。
この動きは、今年になって更に加速しました。3月には、何と「恩赦法」がアフガン国会を通過したのです。これは、ソビエト占領時代から現在のタリバン戦までのすべての戦争犯罪を、下から上、つまり一平卒からトップリーダーまですべて許すというものです。
何か、第4回で扱ったシエラレオネの「ロメ合意」を彷彿とさせるでしょう?
テロリストを赦す。
自衛隊派遣に反対する、特に護憲派勢力(僕もその一人なのですが)が、これこそ平和憲法の精神に沿った方向だ。日本は、この和解に向けて支援をするべきだというような声が聞こえてくるようですが、ちょっと待ってください。
テロリストを赦すことは、その被害者、もしくはその家族の大変な痛みを伴うことはシエラレオネのケースで述べたとおりです。事実、このアフガンの恩赦法は、日本では全くと言って報道されませんでしたが、欧米で大変な物議を醸し出しました。あたり前です。人権に関する国際倫理を根底から揺るがすと、人権団体は警戒感を表明しています。でも一方で、ここまでしないと、対テロ戦の活路はないということも自明であるから、目立って反対はできない。正義か、平和かのギリギリの選択なのです。
ですから、単に自衛隊派遣に反対するための対案として、日本人にこれを軽々しく扱ってもらいたくないのです。それには、私たちにとっての北朝鮮問題に当てはめて考えるといいでしょう。
拉致問題という、日本が直接の被害者である北朝鮮という存在を、テロ国家(もちろんこの定義も検証されなければいけませんが)という存在を、横田めぐみさんのご両親の顔を思い浮かべながら、それでも平和のために赦さなければならない場面がきたら、どうするか…。この真剣さと「当事者意識」をもって、アフガニスタンにとっての「究極の選択」の支援を考えて頂きたいということです。
先月の11月5日に国会の「テロ防止・イラク支援特別委員会」に参考人として呼ばれました。この「究極の選択」についても話してきました。与野党の議員さんたちに、「当事者意識」が伝わったかどうか。
「衆議院TV」で委員会の中継がご覧になれます。
(衆議院TVサイトで、「ビデオライブラリ」のカレンダーで11月5日をクリックし、「テロ防止・イラク支援特別委員会」をクリックしてください。)
伊勢崎賢治
いせざき・けんじ●1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある。