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イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 2(副島隆彦の学問道場 今日のぼやき)
http://www.asyura2.com/07/war97/msg/420.html
投稿者 天木ファン 日時 2007 年 10 月 26 日 15:26:34: 2nLReFHhGZ7P6
 

http://www.snsi-j.jp/boyaki/diary.cgi

「890」 『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の下巻が発売中です。本書の、第10章「照準の中のイラン」を読めば、なぜアメリカの対イラン政策が失敗したのかが手に取るように分かる。ブッシュが「第三次世界大戦」の危機を煽動している今だからこそ是非読んでください。2007.10.26

アルルの男・ヒロシです。今日は、2007年10月26日です。

 本サイトでも、上巻の発刊を一ヶ月前にご案内した、『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の下巻(U巻)が発売されています。本サイトでも販売しておりますのでよろしくお願いします。

本の入手はこちらからでも可能です

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イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 2
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[ 原題 ] The Israel Lobby and U.S. Foreign Policy

[ 著者 ] J.J. ミアシャイマー (著), S. ウォルト (著), 副島 隆彦 (翻訳)
[ 分類 ] 単行本
[ 出版社 ] 講談社
[ 発行 ] 2007年10月17日

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 さて、この本がアメリカ中、そして欧米中にわき起こした大激論は、日本では伝わってこないように見えますが、実は「イスラエル・ロビー」が取り扱った政治問題は、皆さんの自宅に毎日届く新聞の国際面に載っているのです。それは、イランの核開発問題です。イランの核開発問題については、ブッシュ大統領は、「核兵器を持ったイランは第三次世界大戦の危機を招く」とつい最近発言し、アメリカ政権内強硬派のチェイニー副大統領も、「核を持ったイランを容認するわけにはいかない」と強く出張しています。

 つい最近も、イランに対する制裁に消極的なロシアのプーチン大統領が、カスピ海サミットの名目でイランを訪問し、最高指導者のハメネイ師と、大統領のアフマディネジャドと会談しています。その場では、プーチンは核開発問題に対する新しい提案を示したと言われているのですが、そのイラン訪問の数日後に欧州の側と交渉窓口になっていて、アメリカが注目している、イランの核問題担当大使が辞任、強硬派のアフマディネジャド寄りの新しい担当者が任命されています。国連ではイランに対する新しい制裁決議が議論されようとしています。


プーチン大統領とイランのアフマディネジャド大統領

 『イスラエル・ロビー』の著者のミアシャイマーとウォルトの二人のアメリカの国際政治学者たちは、今回発売された、下巻の第10章の結論で、米国のパレスチナ政策、イラク侵攻、シリアへの対決的な対応と同様に、アメリカの現在の対イラン政策が国益を損なっていると指摘します。そればかりではなく、別の場所では、「要するに、もしイスラエルと<イスラエル・ロビー>がこの大義名分の後押しをしていないなら、ワシントン政府周辺でイラン攻撃が真険に論じられることはほとんどないのである」(下巻203p)とまで述べ、<イスラエル・ロビー>の影響によって、アメリカの外交政策がゆがめられていると指摘しています。

 明確には彼等は書いていないのですが、国際政治問題で大国間の覇権争いを研究してきた彼等の立場からすると、彼等がなぜアメリカのイスラエル・ロビーの過度の影響力行使に対して批判的になるかと言えばそれは次のような理由でしょう。

 アメリカの外交政策が「イスラエル寄り=イランと対決路線」になることは、イランに対して別の大国であるロシアと中国の影響力を及ぼし、このイランというかつてのペルシャ帝国が、アメリカにとって予測不可能な地域になるのだ、というわけです。そのように私には思えます。

 つまり、彼等の批判を分かりやすく言えば、「バカ、アメリカが、公正な国益重視の政策でイランを取り込むのではなく、一方的にイスラエルに肩入れしているそのスキに、中国とロシアはアメリカに対抗する勢力圏をイランに作り出してしまったではないか。手遅れになる前に外交政策を健全化せよ」ということになります。

 要するに、「問題は中国だ、バカ」(It's China,stupid )あるいは、「21世紀のグレートゲーム」(a 21st-century version of the Great Game)に目をむけよということなのです。

 実際に、プーチン大統領の動きを見たり、国連における欧米主導の制裁決議に対して、中国とロシアが及び腰になっているのは、国際政治におけるリアリストの立場から観れば、「中国とロシアが手を組んで、アメリカの覇権を脅かそうとしている」ということを裏付けているかのようです。

 だから、<イスラエル・ロビー>の問題は、中東地域だけの問題ではなく、最終的にアメリカの世界覇権のぐらつきに繋がるわけで、リアリスト学者の二人にとっては、「その大きな問題が見えないのか!」という怒りに繋がるわけです。

 無論、実際に本の中で展開される彼等の主張の中心は、具体的に、アメリカが中東政策で誤りを犯している点、その背景には、アメリカ国内でイスラエルのPR活動をやっている勢力が存在するという指摘に大部が割かれています。今回の下巻には、人名索引が付されており、その名前には、有名なネオコン派(ネオ・コンサーヴァティヴズ)の名前が多数観られます。その中の一人が、ノーマン・ポドーレツというユダヤ系アメリカ人の知識人で、彼については副島『覇権アメ』(講談社+アルファ文庫)に詳しく書かれています。ポドーレツのようなネオコン派は、80年代は「反ソ共産主義」で先頭に立って『コメンタリー』などの言論雑誌で論陣を張った知識人です。


ノーマン・ポドーレツ

 そのポドーレツについては、『イスラエル・ロビー』下巻では、第10章の200ページで、「イラン爆撃の根拠−私はブッシュがそれをやってくれることを希望し、そう祈る」と題された論説を、保守系の『ウォールストリートジャーナル』のコラム欄に寄稿し、強くイラン爆撃を主張したと書かれています。ポドーレツのような、元反共ネオコンは今は、「イスラモファシズム」(イスラム教ファシズム)に対する強硬な方針をアメリカの政府は採るべきだという主張を行っています。ポドーレツがこの夏に出した本のタイトルは『第4次世界大戦』(なぜ第4次かというと、冷戦が第三次だから)という過激な題名になっており、アメリカ国内でも群を抜いた対イラン強硬派です。それをブッシュやチェイニーが支持しており、イスラエル・ロビーの影響もあって、実際にイラン空爆が早期に実行されるかはともかくとして、アメリカの主流派の外交専門家が主張しているような、イランに対するエンゲージメント政策や軽い封じ込め政策に打って出ることが出来なくなっています。方針を転換できないことが国益の損失に繋がっているといえるでしょう。

 巨大な帝国アメリカの外交政策を内部から、そして国外から動かす、<イスラエル・ロビー>は、長い間ネットワークを張り巡らせ、イスラエルに対する協力者を育ててきました。それは、選挙の票集めや政治資金、イスラエルに同情的なメディア報道による支配でもあります。その全体像を解説し、今後イスラエル・ロビーに対処するにはどうすればよいかを論じたのが本書です。

 本書は、学術論文でありながら、非常に読みやすく、二人が調べ上げた、<イスラエル・ロビー>の影響力の実例の数々は、正直言って、驚きの声を隠せないほどに巧妙なものです。
ぜひ、上下卷併せてお読みください。

 なお、本書は、2006年上旬に、ハーヴァード大学のインターネットサイトで公開された同名論文や、その簡約版としてイギリスの書評誌で紹介された論文とは、タイトルこそ同じものの、内容は全く新しくなっています。

 本書の元になった論文もまた、大きな衝撃派を欧米の論壇に巻き起こしました。一冊の書籍になった後は、現状のイラン問題の進展と併せてさらに議論が沸騰しており、同名論文に対する反響、本書の英語版に対する反響については、下巻の「あとがき」に内容がまとめてあります。上下卷に分けて出すことで、海外の書評について紹介できることが出来たのは非常に良かったと思います。

※ PDFにてハーヴァードサイトに掲載された論文は以下でアクセスできます。
http://ksgnotes1.harvard.edu/Research/wpaper.nsf/rwp/RWP06-011

※ 『イスラエル・ロビー』(書籍版)の公式サイト
http://www.israellobbybook.com/

 以下に貼り付ける記事は、ハーヴァード大のサイトに掲載された、同名論文に対する反響の一つで、書いているのはイギリスのリベラル系有力紙『インデペンデント』の有名中東特派員、ロバート・フィスク氏が同紙に書いた内容です。日本の『クーリエ・ジャポン』に翻訳され、転載されていたものです。(最初にイギリスで公表されたのは2006年4月27日です)本書の内容について、「さわり」となる部分を紹介している記事で、参考になると思いますので、転載しておきたいと思います。

アルルの男・ヒロシ 拝

(貼り付け開始)

The United States of Israel?
ブッシュの外交政策を操作・・・アメリカ゛最後のタブー″イスラエル・ロビー「影の権力」

今年3月、アメリカの名門大学に籍を置く二人の国際政治学者が、イスラエル・ロビーの活動を激しく批判する記事を学術誌に発表した。アメリカの外交政策は、強力な「イスラエル・ロビー」が取り仕切っており、その影響力はアメリカの国益を損なっている――大胆にもそう主張した二人の著者は、親イスラエルの論客やメディアから、激しい攻撃を受けている。やはり「イスラエル=ユダヤ」問題はアメリカ「最後のタブー」なのか?英高級紙「インディペンデント」の著名な中東特派員、ロバート・フィスクがアメリカに赴き、中東問題をめぐる「アメリカの歪み」を取材した。

(インディペンデント  UK)

 ハーバード大学近くのエリオット通りを、私は長身のスティーヴン・ウォルト教授と並んで歩いていた。アメリカにおけるイスラエル・ロビーの影響力に関する学術論文をシカゴ大学のジョン・ミアシェイマー教授と共同執筆したウォルト教授は、今まさに渦中の人物だ。賞賛の声もあれば、非難の声もある。だが本人は、一切意に介していないように見える。

「ジョンと私はテレビ番組への出演を意図的に断ってきた。こんな重要な事柄を10分やそこらで議論できるとは思えないからだ。テレビに出てもただイスラエル・ロビーについて書いたJさんとSさん、で終わってしまう。私たちが望んでいるのは、この問題について真面目に議論する道を開き、アメリカの中東政策を形成しているものについて幅広い議論を促すことだ」 と同教授は言う。


アメリカの国益は二の次

 ウォルトとミアシェイマーという二人の国際政治学者が論文で指摘した内容は、アメリカ以外の国々では、すでに明白な事実と受け取られていることだ。だがアメリカでは、中東問題をめぐって近年のアメリカ史上まれにみる大きな政治的騒動を巻き起こした。彼らの主張は、以下のような内容だ。


(1)アメリカは自国や多くの同盟国の安全保障を二の次にしてまでイスラエルの利益を促進してきた。
(2)イスラエルは「対テロ戦争」にとっての障害である。
(3)最大のイスラエル・ロビー団体アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の実態は外国政府(つまり、イスラエル政府)の代理人(エージェント)であり、AIPACは米議会にゆるぎない足場を築いている――その証拠にアメリカの対イスラエル政策が議会で議論されることはない。
(4)イスラエル・ロビーはイスラエルに批判的な学者を監視し、非難している。

「イスラエルの行動を批判したり、親イスラエル団体がアメリカの中東政策に重大な影響を及ぼしていると主張する者は、誰でも反ユダヤ主義のレッテルを貼られる可能性がある。それどころか、イスラエル・ロビーが存在すると主張しただけでも反ユダヤ主義だと批判される恐れがある。だが誰も反ユダヤ主義だと言われることを意図しているわけではない」 と二人はこの論文で書いている。黒人やゲイ、レズビアンについて語ることがタブーでなくなった今、アメリカの対イスラエル関係について真面目に議論することは、この国の「最後のタブー」(故エドワード・サイード(1935年、英国統治下のエルサレム生まれのパレスチナ人文研究家、文芸評論家。コロンビア大学で長く英文学・比較文学の教鞭をとった。著書『オリエンタリズム』では、欧米の植民地主義・帝国主義を徹底的に批判。また、パレスチナ人の主張を擁護する発言でも知られ、日本の作家、大江健三郎との親交が深かった。2003年没。))なのである。だからこそ、こうした主張をするのは相当な勇気を必要とする行為なのだ。


怖じ気づくメディア

 ウォルトは昨年、国際政治におけるアメリカの支配を批判する卓越した著書『Taming American Power: The Global Response to U.S. Primacy(アメリカの力を抑制する――アメリカの優位に対する世界の対応)』を出版したが、この本にもイスラエル・ロビーを怒らせるような記述がある。例えば、AIPACは「イスラエルに対して充分に友好的ではないとみなした議員をたびたび標的にし、その政敵に資金を注入することによって彼らを議員の座から追放することに手を貸してきた」といったくだりだ。

 大部分のアメリカ人は危険を冒してまでこの問題を議論することに消極的な姿勢をとっている。アメリカの主要な新聞やテレビ(二人の教授によれば、親イスラエルで偏向した意気地なし、ということになるが)は当初、二人の論文について報道すべきか、おとなしく沈黙を守るか態度を決めかめていた。そもそも、論文は2002年に「アトランティック・マンスリー」誌に掲載されたのだが、同誌編集部は怖じ気づいて掲載を拒否。今年3月にようやく「ロンドン・レビュー・オブ・ブックス」誌が短縮版を掲載した。

 そして、「ニューヨーク・タイムズ」紙がこの論文をめぐる「波紋」について詳細に報じたのは、論文が発表されてから2週間以上も経ってからであり、その後の続報は19面の教育面にひっそり掲載されただけだった。同紙の見出しも、この論文がイスラエル・ロビーの影響をめぐる「論争」をひき起こしたという抑えた表現にとどまっている。


「中東問題は議論できない」

だが実際には、論争以上のことが起きている。元国連大使で現在はイスラエル・ロビー団体を率いるドーア・ゴールドは、「反ユダヤ主義」のレッテル貼りに対するミアシェイマーとウォルトの批判が正しいことを、迂闊(うかつ)な形で証明してしまった。ゴールドは「反ユダヤ主義とは、非ユダヤ人がユダヤの陰謀まがいのやり方でユダヤの陰謀を言い立てることだ」と発言したのだ。またニューヨーク州選出のエリオット・エンゲル下院議員は、この論文そのものが「反ユダヤ主義」的であり、アメリカ国民の軽蔑を受けるに値すると述べた。

 ウォルトはすぐさまこう反論した。

「私たちは陰謀が存在するなどとは言っていない。イスラエル・ロビーには当然、自分たちの役目を果たす権利がある。アメリカ人は皆、ロビー活動が好きなのだから。私たちが言いたいのは、イスラエル・ロビーがアメリカの国益にマイナスの影響を与えていること、そしてそれについて議論する必要がある、ということだ。中東には厄介な問題がたくさんあり、私たちはそれをオープンに議論する必要がある。例えばパレスチナに誕生したハマス政権にどう対処したらいいのか、といった問題だ。安全な解決はないとしても、少なくとも手に入れられる情報はすべて入手するよう努めなければならない」

 ウォルトはこうした極端な反応にショックを受けた、とは言わない。おそらくは、自分たちの議論をアカデミックな論争にとどめておきたいという願望があるのではないか。だが、そうはいかないようだ。

 例えば、ハーバード大学の同僚であるアラン・ダーショウィッツ教授は、ミアシェイマーとウォルトが「反ユダヤ主義のもくろみを推進しようとする偏狭野郎どもにつけ入る隙を与えるような」主張を繰り返している、と非難した。これを聞けば、怒らないほうがおかしい。現在、二人は45ページにわたるダーショウィッツへの反論を準備中だ。

 また、勘違いから擦り寄ってくる輩(やから)もいる。よりにもよって白人至上主義者で元KKK(クー・クラックス・クラン)幹部のデヴィッド・デュークが二人の論文をほめちぎっているのだ。その大げさな賞賛に惑わされて、二人の名前とデュークの名前を一緒にして報じる新聞まで現れた。「ワシントン・ポスト」紙は「ハーバード大のウォルト教授とKKKのデュークのイスラエル観」などというとんでもない見出しを平気で掲げている。

見当違いばかりの批判

 アメリカの新聞のなかでも親イスラエル色の強い「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙の取り上げ方はさらに奇怪だ。「中東政策への影響を問う論文が発端で、親イスラエル団体の元ロビイストが法廷に」という同紙の見出しは読者をギョッとさせた。AIPACのロビイスト二人が国防総省の元中東問題アナリスト、ローレンス・フランクリンから受け取った機密情報をイスラエルに提供したとして、傍聴法違反で起訴された件のことを指しており、被告のスティーヴン・ローゼンとキース・ワイズマンの弁護団によれば、コンドリーザ・ライス国務長官やスティーヴ・ハドリー国家安全保障担当補佐官が証人として召喚される可能性もあるという。

 だが、ミアシェイマーもウォルトも、この件に言及したことは一度もない。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙の記事のほぼ3分の1はこの裁判に関する記述で占められ、起訴事実に関する詳細が書かれている。

「[AIPACのロビイスト二人は]米政府高官数人に利益を供与し、アメリカの対イラン強硬策の促進をはかったとの疑いがかけられている。元国防総省アナリスト、ローレンス・フランクリンは機密情報漏洩の事実を認めている。フランクリンはイランに関する国家安全保障会議のレポートの草案についての情報および他の機密情報を口頭で提出したとして起訴された。フランクリンは昨年12月に懲役12年の有罪判決を下された・・・・・・」

 同紙の記事は、さらにこう続ける。

「[弁護士や]多くのユダヤ人指導者(名前はあげられていない)は、AIPACの職員の行動は、ワシントンの何千人ものロビイストがやっていることとなんら変わらないと指摘する。彼らによれば、アメリカ市民が相手との会話を介して国家機密を受け取り、流したことで起訴されたのはアメリカ史上かつてないことだという」

 さらに記事はこう続ける。

「2004年にこの事件が発覚して以来、何人かの連邦議会議員は、司法省がAIPACのような親イスラエル・ロビー団体を標的にしているのではないかとの危惧を表明している。議員らは訴訟のなりゆきを見守りたいとしながらも、裁判には透明性が欠けているとの懸念も示している」

「反アメリカ=反ユダヤ」

 ダーショウィッツの攻撃については、私自身も体験がある。私は以前、アイルランドのラジオ局のインタビューで9・11の同時多発テロについて、「テロは人道に反する犯罪だが、この事件がなぜ起こったのか、その原因も問うべきだ」
と発言したが、これに腹を立てて罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせてきたのは、ほかならぬダーショウィッツなのだ。彼は放送で私を「危険人物」だと罵(ののし)り、さらに反アメリカ的であり(その理由は、私が「なぜ?」と問うからだという。彼に言わせれば、それは思想犯罪らしい)、それはすなわち、反ユダヤ主義であるのと同じだと言い立てた。

 実のところ、私自身は、こうした体験をしたのはこのときが初めてではなかった。12年前になるが、私はイギリスのテレビ局のチャンネル4と、アメリカのディスカバリー・チャンネルでムスリムに関する映画シリーズの制作に関わった。そのとき、あるイスラエル・ロビー団体が、私が関わったことを理由にそのシリーズの映像をたとえ1秒でも放映させないようストップをかけたのだ。このロビー団体は、ミアシェイマーとウォルトが論文中で名指しした団体だった。彼らは、イスラエルがパレスチナ人の土地に大規模なユダヤ人入植地を建設しているという私の「主張」が「とんでもない嘘」だと言い張った。また、別の親イスラエル団体は私が「アメリカ中の居間に毒を垂れ流している」と中傷した。

デッチ上げによる中傷

 こうした馬鹿げたことは今日に至るまで続いている。例えばオーストラリアで中東問題に関する私の著書が出版されるにあたり、講演で私は反ユダヤ主義の陰謀説とは反対に、9・11テロの責任はイスラエルにはないと繰り返し主張した。ところが「オーストラリアン・ジューイッシュ・ニュース」紙は、私が「9・11の攻撃の原因はイスラエルにあると言わんばかりの発言をし、観客は(予想されたとおり)喝采を送った」と書いたのだ。もちろん、事実無根である。観客は拍手も喝采もしなかったし、私は9・11テロという人道に反する犯罪の責任がイスラエルにあるなどと言ったことは一度もない。「オーストラリアン・ジューイッシュ・ニュース」の記事はまったくのデッチ上げだ。

 というわけで私自身のささやかな経験からも、ミアシェイマーとウォルトの指摘は的を射ていると言わざるをえない。

連帯のできない左派

 アメリカを代表する道徳的哲学者で著名な言語学者のノーム・チョムスキー(そのあまりの反イスラエル的立場に、アメリカのどの新聞も彼のコラムを掲載しようとしない)は中東各地を頻繁に訪れており、イスラエル・ロビーの冷酷無比なやり方についてもよく知っている。だが、そのチョムスキーは、親イスラエル勢力より財界のほうがアメリカの中東政策に対して強い影響力をもっているという意味の発言をしている。どうやらアメリカの左派は相変わらず互いの足の引っぱりあいをしているようだ。

 ウォルトは自らを左派とは言明していないが、彼とミアシェイマーはともにイラク戦争に反対の立場をとった。イラク戦争に反対することは、2年前なら社会的な孤立を意味したが、今は政治的に受容されるようになった。二人はイスラエル・ロビーに関する議論もいずれはそうなると、はかない望みをつないでいる。

リベラル派ユダヤ人の煩悶(はんもん)

 マレーシア料理レストランで食事をしながら、ウォルトは私に、自分がユダヤ陰謀説の信奉者だという言いがかりがいかに馬鹿げているかを丹念に説明してくれた。彼は6月にハーバード大学ケネディー行政大学院の学部長を辞することになっているが、この辞任は例の論文が発表される以前に決まっていたことであり、追放などでは断じてない。また、メディアは大学側が論文の所有権を放棄したとさんざん報じたが、一部のウォルト「支持者」が主張したように大学側が怖じ気づいたり、論文に批判的だったからではない。共同執筆者のミアシェイマーがシカゴ大学に所属しているため、ハーバード大学が所有権を持てないだけのことだ。

 だが事態が差し迫っていることも事実だ。いまやアメリカ全土で、イスラエル・ロビーとネオコン(新保守主義)・ロビーはかつてないほど強大な勢力を手に入れている。今年2月、2003年にガザ地区でイスラエル軍のブルドーザーに轢(ひ)き殺された若いアメリカ人女性コリーの手記に基づく舞台作品『マイ・ネーム・イズ・レイチェル・コリー』のニューヨーク公演が中止になったが、その原因がユダヤ系アメリカ人の反対にあったことは、リベラル派ユダヤ人にとりわけ大きなショックを与えた。

 「パレスチナ人の声を代弁する西洋社会の書き手の声を封じておきながら、イスラム社会がムハンマドの風刺画を受け入れないことをどうして非難できるだろう?ヨーロッパやイスラエル本国ではパレスチナ人の人権に関して健全な議論が行われているのに、アメリカではそれができないのはなぜなのか?」 と、ユダヤ系でリベラル派の論客、フィリッフ・ワイスは「ネーション」誌に書いた。

 コリーはパレスチナ人の家が壊されるのを止めようとして轢き殺された。ところがこの芝居を敵視する人々は、殺されたのは、彼女がイスラエル軍が武器の密輸に使われていたトンネルを壊そうとするのを止めようとしたからだ、と嘘の主張を繰り返し、コリーについての憎悪に満ちたEメールをばら撒いた。

 故エドワード・サイードの近親者でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授のサリー・マクディシは、同校の学生に政治的に(とりわけ中東問題に関して)偏向した教授の名前を知らせるよう呼びかける右派のウェブサイトの存在を明らかにした。このサイトによれば、学生が講義メモや講義の録音テープを提供すれば100ドルで買い取るという。

「私自身も事実に反し中傷に満ちた『プロフィール』をこのサイトに載せられた」 とマクディシは言う。

「私の専門はワーズワースやブレイクなどの英詩ですが、『プロフィール』では、中東政治について新聞に寄稿した文章について、中傷されたのです」

 ミアシェイマーとウォルトの論文も、こうした”戦術”について次のように言及している。

「2002年9月、マーティン・クレイマーとダニエル・パイプスという二人の根っからの親イスラエル、ネオコンの人物が『キャンパス・ウォッチ』(www.campus-watch.org)というウェブサイトを立ち上げた。このサイトには、彼らが『反イスラエルの傾向がある』とみなす学者の人物調査記録が記載されており、反イスラエルとみられる言動をとった教授について報告するよう学生に呼びかけている(中略)。このウェブサイトは現在も『反イスラエル的』行動について報告するよう学生に呼びかけている」

イラク戦争を唆(そそのか)したのは?

 二人の論文の中で最も刺激的な箇所はおそらく、イスラエルがアメリカ政府に対しイラクを攻撃するよう圧力をかけたと論じるくだりだろう(その内容はすでにイスラエルの新聞が確認し報じていたものなのだが)。

「イスラエルの情報機関当局者は米政府に対し、イラクの大量破壊兵器開発計画に関して恐怖心をあおるようなさまざまな報告を提供してきた」と二人は書き、イスラエルのある退役将軍の言葉を引用する。

「米英の情報機関がイラクの核兵器開発能力に関して見解を示した際には、イスラエルの情報機関が全面的に協力していた」

 ウォルトは「イスラエル・ロビー評論家」とのレッテルを貼られるのは不本意だと思っている。学部長という重要ポストを辞した後は1年間のサバティカル(長期研究有給休暇)をとって休養する予定だという。イスラエル・ロビーのロビイストたちは、それが1年ではなく永久の休暇になることを願っているに違いない。だが、私はそうはならないと踏んでいる。

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スティーヴン・ウォルト ハーバード大学ケネディー行政大学院教授。
専門は、国際関係と外交政策。1955年生まれ共同で論文執筆

ジョン・ミアシェイマー シカゴ大学政治科学学部教授。
専門は、国家安全保障と国際関係。1947年生まれ共同で論文執筆

アラン・ダーショウィッツ 親イスラエル系の論客は「反ユダヤ的」と二人を罵倒
ハーバード大学ロースクール教授。反イスラエル的な発言に激しい非難を浴びせることで知られる親イスラエルの大物論客。ウォルトらの論文は「反ユダヤ主義の連中につけ入る隙を与えている」と主張。

ドーア・ゴールド イスラエルの元国連大使は超大物ロビイストに
アメリカの保守的なユダヤ系家庭に生まれ育ったゴールドは、コロンビア大学で修士号を取得した後、イスラエルに移住、テルアビブ大学で政治学博士号を取得。イスラエルの国連大使を務めた(1997-99年)後、米国でロビイストとして活動している

アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPEC) 外交政策を左右する強力なロビー団体
1953年にアメリカのシオニスト団体が設立した、親イスラエル・ロビー団体。財力と政治力で、今や「アメリカの中東政策を左右する最も大きな存在」(「ニューヨーク・タイムズ」紙)になっている。ブッシュ政権とのつながりも深く、2004年の総会にはブッシュ大統領が出席し、「イスラエルは、ガザで活動するパレスチナ過激派を攻撃する権利を有している」と発言した

デヴィッド・デューク KKK幹部は「ユダヤ嫌い」から論文を称賛
元ルイジアナ州選出下院議員。白人至上主義者の団体KKK(クー・クラックス・クラン)の元トップ。ユダヤ人への嫌悪から、ウォルトらの論文を「反ユダヤ主義」と勘違いし、絶賛した

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ウォルト/ミアシェイマー論文の抜粋

「ロンドン・レビュー・オブ・ブックス」誌3月号に発表された論文「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」の主張は、以下のような内容だ。


*「アメリカの外交政策の第一の目的は自国の国益の促進に置かれるべきである。しかし過去数十年間、とくに1967年の第3次中東戦争以降のアメリカの中東政策の重点は対イスラエル関係に置かれてきた。アメリカの揺るぎないイスラエル支持と中東全域に民主主義を広めようというもくろみは、アラブ・イスラム社会からの猛反発を引き起こし、アメリカの安全が脅かされる結果を招いている」

*「こうした状況はアメリカ史上類をみないものだ。なぜアメリカは自国の安全をさしおいてまで、他国の利益を促進しようとするのか?この2国間の絆は共通の戦略的利害あるいは切実な道徳的要請に基づいているからなのだろうか?だが先に示したように、このいずれをもってもアメリカがイスラエルに提供してきた膨大な物質的および外交的支援を説明することはできない。アメリカの全般的な中東政策の要点はほとんどすべてアメリカの国内政治、とりわけ『イスラエル・ロビー』の活動に端を発している。それ以外の特定利益集団がアメリカの外交政策を自分たちの都合のいい方向に向けさせてきた例もないわけではないが、アメリカの外交政策をアメリカの国益とこれほどまでにかけ離れた方向へと導きつつ、同時にアメリカとイスラエルの利害は根本的に同一であると国民に確信させた利益集団はほかに例をみない」

*「読者のなかには本論の分析を不快に思う向きもあるかもしれない。だがここに根拠として示した事実は、専門家の間で重大な論争を呼んでいるものではない。それどころか本論はイスラエルの学者やジャーナリストの書いたものにかなりの部分依拠しており、これらの問題に彼らが投じた光明は称賛に値する。本論は、信頼の置けるイスラエルの人権擁護団体や国際人権擁護団体が提供する資料にも依拠している。同様にイスラエル・ロビーの影響力に関する本論の主張は、そのメンバーや彼らと関係の深い政治家の証言に基づいている。当然ながら本論の結論を受け入れがたいと感じる読者もいるかもしれないが、私たちが依拠した根拠は決して議論の余地のあるあやふやなものではない」

*「1973年の第4次中東戦争以来、米政府はイスラエルに対し他国からの援助とはけた違いの莫大な援助を行ってきた。イスラエルは1976年以来毎年アメリカから受けている経済・軍事援助の最大の受給国であり、第2次世界大戦以後に受けた援助の合計でも最大の受給国である。2003年現在、アメリカがイスラエルに直接行った援助の総額は1400億ドルを優に超える。イスラエルはアメリカから直接対外援助金として毎年30億ドルを供与されているが、これはアメリカの対外援助予算のおよそ5分の1に当たる。一人当たりの額に換算すると、アメリカは毎年イスラエル国民一人につき約500ドルの直接援助を行っていることになる」

*「この気前の良さは、イスラエルがいまや韓国やスペインとほぼ同じ国民一人当たり所得をもつ豊かな国家であることを考えるといっそう顕著である」

アメリカとイスラエルの「特別な関係」

□1948年5月 ユダヤ国家とアラブ国家に分割する国連のパレスチナ分割案に基づき、イスラエルが建国される。当初は乗り気でなかったトルーマン政権は譲歩し、イスラエルを承認。

□1956年 アイゼンハワー大統領は英仏主導の第2次中東戦争(スエズ戦争)にイスラエルが加わったことを非難、英仏に対して撤退しなければ両国への戦後復興援助は行わないとの脅しをちらつかせる。

□1967年 アラブ諸国が軍事的圧力を強めたことに反発したイスラエルがエジプト、シリア、ヨルダンに先制攻撃を行う。この第3次中東戦争(6日間戦争)を境にアメリカとイスラエルの関係は大きく変化し、以後米政府はユダヤ系アメリカ人社会のロビー活動に応えて公然とイスラエル支持の立場をとるようになる。

□1973年 エジプト軍とシリア軍がイスラエルに奇襲攻撃をかけ、第4次中東戦争(10月戦争)が勃発。ニクソン政権はイスラエルに対し220万ドルの緊急軍事支援を行う。このあとイスラエルはアメリカによる対外援助の最大の受給国となる。

□1978年 カーター大統領が中東和平交渉を仲介し、イスラエルとエジプトの間に初めての和平合意(キャンプデービッド合意)が結ばれる。

□1981年 イスラエル軍がイラクのオシラクにある原子炉を空爆。アメリカは表向きはイスラエルを非難したものの、直接イスラエルを批判することはほとんどなかった。

□1982年 イスラエル軍がレバノン南部に侵攻、国際社会から厳しい非難を浴びる。イスラエル軍に撤退を求めるフランス主導の国連決議にレーガン政権は拒否権を発動。

□1991年 第1次湾岸戦争が勃発、イラクはイスラエルをスカッドミサイルで攻撃するが、ジョージ・ブッシュ(シニア)大統領はイスラエルに報復攻撃に出ないよう説得。同大統領はイスラエルに対し、パレスチナ人が管理する土地に新たな入植地を建設しないよう求め、もし従わなければ数百万ドルの融資保証を取り消すとした。

□1993年 イスラエルとパレスチナ間に和平合意が成立。実質的に仲介したのはノルウェーだったが、ホワイトハウスの芝生の上で、イスラエルのラビン首相とパレスチナ解放機構のアラファト議長がクリントン大統領の前に立って握手する姿は、アメリカがあらゆる中東和平交渉に中心的役割を果していることを印象づけた。

□2000年 クリントン大統領は中東和平プロセスの最終解決をはかるためにキャンプデービッド会談を仲介したが、交渉は決裂。やがて第2次インティファーダが発生する。

□2001年 9・11の攻撃によって、アメリカとイスラエルの外交政策は一致の方向へ向かう。テロ攻撃以後ブッシュ政権が推進する中東政策の多くは、この地域におけるイスラエルの戦略的立場を強化することに重点を置いている。

(貼り付け終了)

アルルです。<イスラエル・ロビー>を構成するノーマン・ポドーレツについては以下に講演の動画を貼り付けます。こういう顔をしているのか、と眺めてみてください。

アルルの男・ヒロシ 拝


2007/10/26(Fri) No.01


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