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http://www.nikkei.co.jp/seiji/column.html
日中防衛交流、氷は溶けるか
政治部・関口圭(9月24日)
小泉純一郎前首相の靖国神社参拝などで停滞していた日中の防衛交流が再び動き出した。日本政府は24、25両日、中国人民解放軍が吉林省瀋陽軍区の軍事訓練基地で実施する進攻戦闘実動実弾演習「勇士―2007」に初めてオブザーバー2人を派遣する。8月30日に約4年ぶりに開催した日中防衛相会談での合意の実行第1弾だ。
中国海軍艦艇が11月か12月に日本を訪れるほか、東シナ海での不測の事態を防ぐための日中防衛当局間のホットラインも創設される。日本の防衛相の来年早い時期の訪中でも一致した。
急速な軍備近代化を続ける中国に警戒する日本と、脅威論や包囲網の広がりを懸念する中国。昨年秋の安倍晋三首相の訪中を契機とした政治面での氷解に続き、軍事面でも氷はようやく溶け始めた格好だ。
「想定外で正直驚いた。こんな提案をしてくるとは思わなかった」。防衛相会談に同席した防衛省幹部は、事前の事務協議にはなかった軍事演習へのオブザーバー招請を曹剛川国防相が切り出したことに驚嘆し、中国側の意気込みを感じた。会談は「友好的、率直かつ誠実で非常に成果が大きかった」(曹氏)という。
中国はこの軍事演習に日本をはじめ世界各国にオブザーバー招請している。「各国が中国の軍事的透明度に懸念を持っており、実際に演習を見せることが透明度、開放度を高めることにつながる」(中国関係筋)との判断のようだ。
中国は8月末には「国連軍事支出報告制度」に今年から参加するとともに、1998年に停止した「国連通常兵器移転登録制度」に復帰すると国連当局に伝えた。同時に「2006年軍事支出表」と「2006年通常兵器移転状況表」を提出するなど、国際社会の懸念払拭(ふっしょく)に動き始めた。
それでもなお日本の中国への軍事的透明性への不信感は根深い。高村正彦防衛相は曹氏との会談の際、19年連続で前年度比2ケタ増を続ける中国の国防費を巡り、「総額は公表されているが、装備費や装備数量の詳細や部隊配置の基本データのほか、軍事力整備目標といったビジョンが示されていない」と迫った。曹氏は「努力をしている」と言葉を濁した。その後も高村氏は「中国が脅威だと日本政府が言うことは現時点ではあり得ない。だが、懸念を示していると言うことだ」「『日中友好でも』ではない。『日中友好だからこそ』透明性を要求するんだ」と中国側にメッセージを送っている。
日本が中国に警戒感を強めるのにはいくつか背景がある。2004年の中国の原子力潜水艦による領海侵犯事件と今年1月の人工衛星破壊実験といった事案が相次いでいることだ。
2007年版防衛白書では潜水艦戦力や揚陸艦や補給艦の増強などをとらえ「より遠方の海域で作戦を遂行する能力の構築を目指している」と分析。航空戦力も「より前方での制空戦闘能力、対地・対艦攻撃能力の構築を目指している」と明記した。
特に中国の潜水艦能力の向上に注目。昨年10月の沖縄近海の国際水域で宋(ソン)級潜水艦が米空母キティーホークの近くに浮上した事件について「軍事的に注目すべき事象」と記載した。1月の人工衛星破壊実験も中国政府の説明不足に不満を表明。「軍事作戦の一部として想定している可能性がある」と断じた。
日中防衛相会談の際も高村氏が「国民が安心する」とさらなる説明を求めたが、曹氏は「透明性を高めるよう努力しているところだ」との回答にとどめた。
臨時国会最大の焦点となるテロ対策特別措置法の延長問題を巡っても中国の存在を意識すべきだとの声が政府内にある。インド洋に派遣された海上自衛隊の補給艦は、テロリストや武器弾薬、麻薬などの移動を防ぐ海上阻止活動に従事する米英艦船などに給油支援を続けている。だが、現行法は11月1日いっぱいで期限が切れ、海自艦船はいったん撤収する公算大だ。自衛隊の統合幕僚監部の幹部は「日本が撤収した後に中国が補給艦を出したらどうするのか。国際社会は中国を評価し、日本は軽んじられるだろう。安全保障上もシーレーンを押さえられることになる。国会には大局的な判断をしてほしい」と述べ、中国の国際的な活躍の場の拡大と日本の地位低下を懸念する。
一方、中国側も日本に対して不信感を抱いている。第三国から飛来する弾道ミサイルをイージス艦や地対空ミサイルで迎撃するミサイル防衛(MD)や在日米軍再編を通じた日米同盟の強化を警戒。首相が掲げる日米豪印の連携強化や麻生太郎自民党幹事長が外相時代に提唱した「自由と繁栄の弧」を「中国包囲網」として懸念している。一時自民党内で広まった「核保有論」にも潜在的な不安感を抱いている。
斎藤隆統合幕僚長は「お互いにどういう考え方をしているかを知るのは一番大事。最初の交流の原点だ」と強調。そのうえで「ハイレベル交流が動き出すと期待している」と今後の交流拡大に伴う信頼醸成の深まりに期待感を強めている。日中間の信頼が醸成できれば、北朝鮮に強い影響力を持つ中国軍を経由して、北朝鮮に拉致、核、ミサイル問題の解決を働きかけるという新たなチャンネルが開ける利点もある。両国に深く根ざした不信感を解きほぐす取り組みは始まったばかりだ。