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有力紙フィナンシャル・タイムスが
>「対テロ戦争」の遂行において、イラク侵攻がとんでもない失策だったのは
>間違いない。
と激しく批判し、米国に再考を促すコラムを掲載。
オンライン版FT.comは540万人に購読されているそうです。
翻訳gooニュース より
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アメリカが自らに刻んだ戦争の傷跡――フィナンシャル・タイムズ
2007年9月12日(水)10:22
(フィナンシャル・タイムズ 2007年9月10日初出 翻訳gooニュース) FT国際担当コラムニスト ギデオン・ラクマン
9月11日の米同時多発テロから6年となるその直前に、イラク駐留多国籍軍のデイビッド・ペトレイアス司令官が米上院外交委員会で証言した。いかにも象徴的なタイミングで司令官の議会証言が実現し、ホワイトハウスは満足そうだ。しかしこれは、とんでもないことだ。実にみっともないことだ。ペトレイアス将軍がイラク戦争をなんとか軌道修正しようとすればするほど、この問題の本来の馬鹿馬鹿しさが強調されるだけ。そもそも、ニューヨークとワシントンをテロ攻撃された報復に、イラクを侵攻したこと自体が、馬鹿げたことだったのだ。
9/11から6年たった今、米国は考え直す必要がある。イラク戦争は、ブッシュ政権下における最大の失態だった。それは今や明らかだ。そして、対テロ戦争をこれからも米外交方針の主軸に据え続けてはならないということも、今や歴然としてきた。同時多発テロ事件に関する独立調査委員会の最終報告書が示したように、サダム・フセインは9/11に何の関係もなかった。核兵器も持っていなかったし、アルカイダとの間にこれといった関係もなかったのだ。9/11への反応としてイラクを侵攻したのは、大間違いだった。しかしイラク戦争の問題はそれだけに留まらない。イラク戦争のせいで、テロ問題はさらに悪化してしまったからだ。イラク戦争がテロ問題に与えた悪影響は5つある。
第一に、イラク戦争のせいで、アフガニスタンでの戦いがかすんでしまった。人々の関心はアフガニスタンから離れ、兵力も削がれてしまった。おかげでタリバンは残っているし、アルカイダは勢いを盛り返している。オサマ・ビンラディンはまだ生きていて、ホームビデオに主演している。ビンラディンの居場所は不明だが、イラクにいないことだけは確かだ。
第二に、イラク戦争のせいで、イラクは破綻国家となってしまった。国家として成り立っていない国は、テロの温床となるに最適だ。9/11を受けてブッシュ政権は、「『ならず者国家』がテロリストに大量破壊兵器を渡したらどうなる」という発想に取りつかれてしまった。確かに、そんなことになったらと思うとゾッとする。しかし、まだ現実にはなっていない。それとは対照的に、広い地域が無法状態にある破綻国家があれば、そこでテロリストは多いに栄えるものだ。証拠はいくらでもある。アフガニスタンやソマリアでは現実に起きていることだ。イラクも、そういう場所になってしまった。
第三に、イラク戦争のせいで、アルカイダはかえって過激化した。イラク戦争以前のアルカイダよりもさらに過激な新組織が分派として発生してしまったのだ。イラク戦争を支持するワシントンのシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」のタカ派研究者でさえ、「イラクのアルカイダ」の9割は地元イラク人だと見ている。米国がイラクを侵攻したことによって、イラクで民族的反乱が起こった。そしてその反乱はアルカイダの国際的なテロ活動と結びついてしまったのだ。
第四に、イラク戦争のせいで、テロリスト志願者が世界中で増加してしまった。イラク戦争はアルカイダにとって格好のプロパガンダ材料となり、世界のあちこちで志願者たちがテロ組織に参加するようになってしまったのだ。9/11を計画した男たちは確かに、イラク戦争がなくても一念発起し、行動を起こした。しかしアルカイダを効果的に攻撃したいなら、アルカイダ志願者や同情者の人数を効果的に減らすよう努めなくてはならない。なのにイラク戦争は全くその真逆の効果を生んでいる。これは今や、米英両国の情報機関が共に認めていることだ。
最後に、イラク侵攻のせいで米国は、古くからの同盟国との関係をひどく損ねる羽目になった。米の世論調査機関ドイツ・マーシャル基金が今月初めに発表した毎年恒例の世論調査によると、ヨーロッパ人の58%が世界情勢において米国が指導力を発揮することは「好ましくない」と考えている。欧州における反米感情はエリート層特有の米国蔑視だと従来は解釈されてきたが、今回の調査では正反対の結果が出た。というのも、欧州連盟(EU)上級官僚となると約75%は、米国が世界のリーダーとして行動することを支持しているからだ。米国を信用しなくなったのは、欧州の一般市民。この結果もやはり、米国が自らに刻んだ対テロ戦争の傷跡だ。ヨーロッパで有権者の大半が米国の指導力にそっぽを向いている状況では、欧州の政治家は米国と緊密に協調すべきだと国民を説得できなくなる。しかしテロと効果的に戦うには、各国と米国の緊密な連携は不可欠なのだ。
「対テロ戦争」の遂行において、イラク侵攻がとんでもない失策だったのは間違いない。とするならば、米軍がイラクから撤退すれば事態は改善するだろうか? 米軍が撤退してしまったら、イラクのアルカイダは勢いを増し、ブッシュ大統領いわく「米本土まで追いかけてくる」かもしれないという懸念がある。しかし実際には、シーア派が多数派を占める国をスンニー派がすんなり支配するようになるとは考えにくい。ましてイラクのスンニー派の多くは今やアルカイダと敵対するようになった模様だ。それだけに米軍がイラクから撤退しても、アルカイダがイラクで主要勢力になるとは考えにくいし、イラク国内のアルカイダ拠点を米軍が攻撃する機会はなくならない。
米国がイラクで敗れたということになれば、アルカイダの威信が高まってしまうという懸念もある。確かにその可能性はある。しかし米軍が撤退すれば、「十字軍」がムスリムの国を占領しているという扇情的な言い分はなくなり、イラクに駐留する米軍の映像がアラビア語のテレビで流れることもなくなる。
とするならば、もし本当にテロとの戦いが米外交の主要課題であるなら、イラクから撤退すべきだ。それが理にかなっている。しかし米国は今、9/11以降に「常識」として定着してしまった世界観、つまり米国の外交と安全保障政策の全ては「対テロ戦争」を柱にしなくてはならないという世界観を、再考すべきところに来ている。確かな事実は、2001年9月11日以降、米国本土に対する本格的なテロ攻撃はなかったということ。米本土よりも遥かに危険にさらされているのは、より攻撃しやすい状態にあるヨーロッパの方だ。
米軍がイラクから早急に撤退したとしても、米国が今まで以上にテロ攻撃の危険にさらされる事態にはならないだろう。しかし米軍がイラクから撤退すれば、それ以外の望ましくない結果をあれこれ呼びこむことになるかもしれない。つまり、対テロ戦争を目的としたイラク侵攻の大失態によって、米外交の主軸は対テロ戦争であってはならないということがかえって明白になったのだ。これは実に不幸で皮肉なことだ。
イラク侵攻は、伝統的な地政学上の問題をいくつか引き起こした。たとえばイランの台頭、地域戦争拡大の危険、人道上の大惨事が起きる危険、湾岸地域からの石油供給が途絶える危険などだ。こうした地政学上の危険が、イラク撤退で悪化するおそれもある。
ほんの数カ月前まで、今回のペトレイアス司令官の議会証言は、米国のイラク政策における重要な節目になるだろうと期待されていた。しかしどうやらそれはなさそうだ。来年にはおそらく、ささやかな規模の撤退が実施されるだろう。しかし、「対テロ戦争」とはあまり関係のない、伝統的な地政学上の問題からくる伝統的な戦略上の要請を理由に、米軍はこれからもしばらく数年はイラクにとどまり続けるかもしれない。
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