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中東和平と戦争のはざま [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/07/war94/msg/217.html
投稿者 white 日時 2007 年 7 月 14 日 16:24:49: QYBiAyr6jr5Ac
 

□中東和平と戦争のはざま [田中宇の国際ニュース解説]

田中宇の国際ニュース解説 2007年7月14日 http://tanakanews.com/

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★中東和平と戦争のはざま
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 7月10日、パレスチナ自治政府(ファタハ)は、ガザにおける治安担当長
官だったモハメド・ダハランが、病気治療のため、エジプトからドイツに移動
したことを明らかにした。ドイツで十分な治療が受けられない場合は、さらに
アメリカに移動すると発表されており、病気治療を理由にした「亡命」という
観が強い。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1183980036256&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull

 ダハランは、ガザにおけるファタハの軍勢を率いていた人で、6月中旬にハ
マスがガザを武力で占拠し、ファタハを追い出すまで、ガザ最強の人物と言わ
れ、マフムード・アッバス大統領の後継者とも目されていた。ダハランは、ガ
ザが占拠される少し前に、アメリカの支援を受けてファタハの軍勢を軍事訓練
する名目でエジプトに出国しており、ガザ陥落時にはガザにいなかった。

 ダハランだけでなく、その傘下のファタハ幹部の多くは陥落時にガザにおら
ず、5日間の戦闘の前にエジプトにボートなどで逃げ出しており、ハマスと最
後まで戦ったファタハの勢力は、下っ端の歩兵ばかりだった。ガザ陥落は、戦
闘前に逃げ出たダハランらの責任だという声が、パレスチナ人の間で大きくな
っている。
http://www.mcclatchydc.com/world/story/17136.html

 ダハランへの非難は、それだけではない。ドイツ行きが発表されたのとほぼ
同時に、パレスチナ自治政府は、ダハランの銀行口座にあった700万ドル
(約8億円)の資金を、横領された公金であるとして没収した(ダハラン以外
に、数人の幹部が同様の容疑を持たれている)。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1183980036256&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull

 ガザを占拠したハマスは、ダハランの事務所などを家宅捜索し、ダハランが
1993年のオスロ合意以来、アメリカやイスラエルの諜報機関と定期的に会
合を持ち、アラブ諸国やハマスに関してファタハが得た諜報を米英イスラエル
側に流していたことが確認されたと発表した。パレスチナ自治政府は、中東各
国に大使館的な代表所を置いており、そこを拠点に中東各国の情報を収集して
きたが、その情報は自治政府の諜報責任者だったダハランを通じて、米英イス
ラエル側に筒抜けだったことになる。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1183053090065&pagename=JPost%2FJPArticle%2FPrinter

▼表面化するファタハの腐敗

 ハマスは以前から、ダハランは米英イスラエルのスパイだと主張してきた。
ダハランの敵だったハマスが、ガザを占拠した後で「ダハランの事務所を捜索
したら、スパイだった証拠が出てきた」と主張しても、それだけでは事実とは
認めがたい。敵を悪者に仕立てるためのねつ造かもしれない。しかし、この件
についてはイスラエルのマスコミも、ダハランは米英イスラエルのスパイだっ
たことを指摘する記事を、ガザ陥落後、何度か出している。

 エルサレム・ポスト紙によると、欧米やイスラエルの政府担当者たちは、パ
レスチナ人の間で人気が高いうえに「現実的(米英イスラエルの命令を聞くと
いう意味)」なダハランが、アッバスの後継者としてうってつけだと考えてい
た。同紙はダハランを「オスロ合意の象徴的な存在だった」と指摘している。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1181570269585&pagename=JPost%2FJPArticle%2FPrinter

 オスロ合意体制下のパレスチナで権力と金力を持ったのは、ダハランだけで
はない。現大統領のアッバスや、前大統領で故人のアラファトも同様である。
2006年1月の議会選挙でハマスに惨敗して民意の支持を失い、先月には武
力でもハマスに負けてガザを失ったファタハの内部では、ダハランだけでなく
アッバスを含めた幹部全体の腐敗を糾弾する声が強くなっている。

 6月末には、自治政府の元内相でアッバスの顧問だったハニ・ハッサン
(Hani al-Hassan)が、アッバスを含むファタハ幹部の腐敗体質を非難すると
ともに、ダハランを「米英イスラエルの協力者」と非難し、アッバス顧問を辞
任した。ハッサンによると、ダハランは米イスラエルの後ろ盾を受け、パレス
チナ政界でのし上がった経歴の持ち主である。(ハッサンは同時に、ハマスと
の連立政権の維持を拒否したアッバスの政策を非難した)
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1183053061583&pagename=JPost%2FJPArticle%2FPrinter

 ハッサンら、ファタハ内部からの非難を受け、アッバス大統領は、ダハラン
を切り捨てざるを得なくなった。その表れが、7月10日の、自治政府による
事実上のダハラン亡命発表だった。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1183980036263&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull

▼オスロ合意体制はパレスチナ傀儡化

 このようなダハランへの非難と、ファタハに対する内部批判を総合して考え
ると、そもそも1993年から現在まで続いてきたパレスチナをめぐるオスロ
合意体制とは、パレスチナ人に国家を与える代わりに、新国家の指導者には米
英イスラエルの言うことを聞く人物を据えるという、米英イスラエルによる傀
儡国家構想だったことが感じられる。

 アラファトもアッバスもダハランも、表向きイスラエルを非難する姿勢を採
ってきたが、それはパレスチナ人が反イスラエルの感情を強く持っているので、
イスラエルを非難する人しか指導者になれないからである。表向きはイスラエ
ルを非難するが、その裏で隠密にイスラエル支配に協力する人物が、パレスチ
ナの指導者として、米英イスラエルにとって望ましかった。

 米英イスラエルは、傀儡になってくれるパレスチナ人の指導者が、パレスチ
ナ国家建設のために欧米や日本からもらった支援金を着服することを黙認した。
その結果、ファタハの上層部全体が腐敗した。

 アラファトは、ゲリラ出身の巧妙な政治家だったので、パレスチナ国家建設
が達成されるまではイスラエルに協力しても、その後パレスチナ国家の力がつ
いたらイスラエルに反逆しようと思っていたふしがある。イスラエルはアラフ
ァトの本質を知っていたので、ダハランをけしかけてアラファトを暗殺させよ
うとしたこともあると報じられている。
http://mparent7777-2.blogspot.com/2007/06/documents-prove-dahlans-involvement-in.html

 6月中旬のハマスによるガザ占拠によって、オスロ合意体制は半分崩壊した。
パレスチナの半分を占めるガザは、イスラエルを潰そうとするイランに支援さ
れたハマスが支配する地域になった。この半崩壊によって、ダハランらファタ
ハ首脳の本質と、オスロ合意体制の本質が暴露している。

▼議員を逮捕して多数派を崩す

 イスラエルやエジプト、ヨルダンは、オスロ合意体制を何とか維持したいと
考え、ファタハのアッバス政権を支援しているが、うまくいきそうもない。
(親米の傀儡的政権であるエジプトとヨルダンは、ガザだけでなく西岸でもフ
ァタハが負けてパレスチナ全体がハマス政権になると、その隣にある自国でも
反米イスラム主義が台頭して自分たちの政権を潰しかねないので、アッバスを
支援している)

 ハマスが勝った2006年の選挙以来、パレスチナ自治政府は、ハマスとフ
ァタハの連立政権だったが、ハマスにガザを奪われた後、西岸ではファタハだ
けで新政権(サラム・ファヤド首相)が組まれた。新政権は、一般のパレスチ
ナ人にほとんど支持されていないと、アメリカのマスコミでも報じられている。
http://fairuse.100webcustomers.com/fairenough/latimesA63.html

 多くのパレスチナ人は、ファタハはイスラエルによる占領を維持するために
存在する腐敗した組織だと感じている。ガザを失い、民心に離反されているフ
ァタハは、米英イスラエルに依存する傾向を強め、ますます支持されなくなり、
代わりにイスラエルに迎合しないハマスへの支持が強まっている。

 パレスチナの憲法では、新しい内閣は発足後30日以内に議会の承認を得る
必要がある。06年の選挙以来、パレスチナ議会の多数派はハマスなので、フ
ァタハだけで結成された新政権は、議会を通らない。定員132人のパレスチ
ナ議会のうち、74議席はハマスが占めている。しかし現実には、ハマス議員
のうち41人は、イスラエル軍によって拘束された状態で、議会に出られた。
ハマス議員で出席可能なのは33人となり、42議席を持つファタハに負けて
いる。イスラエル軍は「パレスチナの治安維持」を口実にハマス議員を拘束し
ているが、実はそれはファタハ支援になっている。

 この状況は不公正なので、ハマスは、アッバス大統領が7月11日に召集し
た議会に出席しないと表明し、議会は最少定数を満たせず開催不能になった。
議会が開けないので、議会が新政権を不信任にする決議を出すこともなく、そ
の意味での新政権崩壊の可能性はなくなったが、その半面、新政権は民主的な
正統性を欠くものになった。皮肉なことに、この状況はブッシュ政権の「中東
民主化政策」の結果である。
http://www.chron.com/disp/story.mpl/ap/world/4960605.html

 議会が開けず、政治解決の道が閉ざされたため、次に西岸で動きがあるとし
たら、それは政治的な和解ではない。軍事的な、ファタハとハマスの内戦にな
る可能性が大きい。それは、イスラエルを巻き込んだ戦争になるかもしれない。
イスラエル政府はハマスと戦争する気がなくても、西岸の入植地の右派(過激
派)のイスラエル人と、ハマスとの間で戦闘が起きるおそれがある。

▼ファタハを見捨てるサウジアラビア

 イスラエルはアッバスのファタハを支援しているものの、同時にファタハが
いずれ民意の支持を得るため「反イスラエル」の側に転じ、ハマスと結合して
イスラエルを攻撃してくるのではないかとも恐れている。そのためイスラエル
によるアッバス支援は消極姿勢で、イスラエルが凍結しているパレスチナ自治
政府の資金のうち一部だけを凍結解除した。アッバスはその資金でパレスチナ
自治政府の職員に1年半ぶりに給料を支払い、離反する民意を何とかつなぎ止
めようとした。(自治政府は、パレスチナ経済の中で圧倒的に最大の雇用先)
http://archive.gulfnews.com/articles/07/07/02/10136332.html

 これまでファタハとハマスを仲裁していたアラブの盟主サウジアラビアは、
すでにアッバスのファタハに対して事実上の縁切りをしている。サウジは従来、
ファタハとハマスの連立政権を強化し、パレスチナ国家建設を立て直した上で、
イスラエルとの和平を実現しようとしてきた。しかし、ガザを奪われた後、ア
ッバスは仲裁者のサウジに約束していたハマスとの連立維持を拒否し、ハマス
を排除して新政権を組んだ。サウジ側はこれを不快に思ったようで、6月末に
ヨルダンで、アッバスとサウジのアブドラ国王の会談がセットされたが、アブ
ドラはアッバスを待ち惚けにさせたまま、会談の場に現れなかった。
http://www.gulfnews.com/region/Middle_East/10135686.html

 イスラエルのオルメルト首相は今年4月、サウジのアブドラ国王と会って中
東和平について話し合いたいと異例の発表を行い、それ以来イスラエルとサウ
ジの首脳会談の可能性が模索されてきた。しかし6月末には、エジプトのムバ
ラク大統領が「イスラエルは、もうサウジ国王と会うことはあきらめた方が良
い」と表明した。反イスラエル感情が高まった結果、事態はもはや、メッカを
擁するイスラム教の盟主であるサウジアラビアの国王が、イスラエル首相と会
える状況ではなくなったと、ムバラクは説明している。
http://africa.reuters.com/wire/news/usnL2967843.html

 従来、サウジ王室内では、親米的なバンダル王子(Prince Bandar Bin Sultan)
の勢力は、アメリカ(チェイニー副大統領ら)に頼まれて、ガザのダハランを
資金援助してファタハを支援してきた。これとバランスを取るかたちで、
親イスラム主義的なトルキー王子(Prince Turki al-Feisal)の勢力は、ハマ
スを支援していた。ハマスがガザを占拠し、ダハランが権力を失ったことで、
サウジ王室内の対パレスチナ政策は、バンダル系が弱くなり、トルキー系が強
くなったと推測される。(サウジ王室内の状況は外に漏れないので、確定的な
ことは分からない)
http://www.worldtribune.com/worldtribune/WTARC/2007/me_saudis_06_28.asp

 パレスチナの情勢は全体として、しだいにハマスに有利、ファタハに不利に
なっている。このままだと、いずれハマスが西岸の権力も握るようになると予
測される。その時点でオスロ合意体制は完全に終わり、パレスチナ人は、米英
イスラエルの傀儡から、イランに支援されたイスラム主義勢力の側に転じるこ
とになる。

 似たような状況は、イスラエルの北にあるレバノンでも起きている。レバノ
ンでは、親米(反シリア)のシニオラ政権より、反米反イスラエル(親シリア)
のイスラム主義組織ヒズボラの方が民意を得るようになっている。シニオラ政
権は民意を失った分、欧米からの支持に頼るようになり、さらに民意を失って
いる。

▼イスラエルを強化するといって窮地に追い込んだ右派

 パレスチナ国家を作り、そこに米英イスラエルの傀儡になる指導者を置くと
いうオスロ合意体制の戦略は、米英イスラエルにとって都合の良いものだった
はずだ。しかし今や、その体制は失われようとしており、その結果イスラエル
は国家的な危機に陥っている。先日エルサレムで開かれたユダヤ人の国際会議
では、過激なイスラム主義勢力の勃興によって、イスラエル(ユダヤ人)は、
1930年代のナチスの台頭以来の危機に瀕しているという指摘がなされている。
http://www.canada.com/topics/news/world/story.html?id=a0c9c561-dfe5-4c0f-a6a4-75b5e5557834&k=12307

 なぜ、オスロ合意体制は失われたのか。オスロ合意体制を潰したのは、イス
ラエルとアメリカの右派(過激派シオニスト)である。イスラエルでは「入植
者」「リクード右派」であり、アメリカでは「ネオコン」である。ブッシュ政
権では、ネオコンを傘下に置いていたチェイニー副大統領である。右派は、イ
スラエルを強化すると言いながら、実は窮地に追い込んでいる。

 オスロ合意を締結したイスラエルのラビン首相は、締結翌年の1995年に
暗殺されたが、ラビンを暗殺したのは右派の青年(Yigal Amir)だった(イス
ラエルの諜報機関シンベト Shabak のエージェントにそそのかされて暗殺を挙
行したとの見方がある。イスラエルの諜報機関、軍など政府要職には、多くの
右派が潜り込んでいる)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Yigal_Amir

 ラビン暗殺後、イスラエルの政権はリクード右派に支持されたネタニヤフ首
相になり、その政権下でさらにオスロ合意体制が崩され、パレスチナ国家建設
は妨害され、西岸やガザの入植地が急拡大した。

 2001年からの米ブッシュ政権では、911事件を機に、今度はアメリカ
が、中東のイスラム教徒を怒らせて過激なイスラム主義を扇動するようなこと
をやり出した。ブッシュ政権は06年1月、イスラエルやアッバスが止めるの
も聞かず、パレスチナで選挙をさせ、その結果ハマスが圧勝し、今につながる
ハマスの拡大とファタハの凋落を誘発した。

 6月中旬のハマスによるガザ占拠も、過激なイスラム主義勢力を扇動する政
策の結果である。アメリカのチェイニー副大統領の側近であるエリオット・ア
ブラムスは、中東の親米穏健派と反米過激派を内戦させる作戦を中東各地で展
開しており、その作戦がガザで失敗した結果、ガザはハマスに奪われた。アブ
ラムスは、ダハランが率いるガザのファタハの軍勢を訓練し、武器を供給して
ハマスと戦わせることを画策していた。ダハランがガザ陥落前にエジプトに行
って監督していた軍事訓練は、チェイニーとアブラムスが企画したものだった。
(資金はサウジアラビアのバンダル王子が出していた)
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2108926,00.html

 西岸では、イスラエル軍がハマスの議員を次々に逮捕していたが、ガザでは
この逮捕作戦をダハラン傘下のファタハの軍勢が挙行することになっていた。
この作戦が事前にハマス側に漏れ、ハマスが先制的にファタハに攻撃をかけた
結果、ファタハが破れ、ハマスはガザを占拠することになった。この間、アッ
バスは「ハマスとの連立関係を切れ」とライス国務長官らから圧力をかけられ
ていた。ダハランやアッバスは、ブッシュ政権に命じられてハマスとの敵対に
入り、敗北した。その意味では、ダハランやアッバスは、右派が動かすブッシ
ュ政権の(故意の?)失策の犠牲者ということになる。

 チェイニーとアブラムスによる、中東の穏健派と過激派と内戦させる作戦は
レバノンでも行われており、それがレバノン北部のパレスチナ難民キャンプで
続いている銃撃戦につながっている。
http://rawstory.com/news/2007/Hersh_Bush_arranged_support_for_militants_0522.html

【続く】


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/070714mideast.htm

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