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北方領土問題でロシアが繰り出した「ハードルを上げる」戦略を見抜け=佐藤優 [SAPIO]
http://www.asyura2.com/07/war94/msg/191.html
投稿者 white 日時 2007 年 7 月 12 日 20:44:39: QYBiAyr6jr5Ac
 

□北方領土問題でロシアが繰り出した「ハードルを上げる」戦略を見抜け=佐藤優 [SAPIO]

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070711-01-0401.html

2007年7月12日
北方領土問題でロシアが繰り出した「ハードルを上げる」戦略を見抜け=佐藤優
 筆者が東京拘置所暮らしをしていたとき、近くの独房に10億円を超える詐欺容疑で収監されている初老の男性がいた。この人物は見事な交渉術を身につけていた。毎日、拘置所の水洗便所に雑巾(青色の小タオル)を落として流すのである。
「先生(拘置所や刑務所では看守のことを“先生”と呼ぶ)! また落としてしまいました。ほんとうにすみません」
 
 最初、看守は激怒し、「あんた何やっているかわかってるのか。下水管が詰まったら、便器だけじゃなくて床板を外した大工事になるんだ。いい加減にしてくれ」と叱る。しかし、囚人は「すみません。間違えて、手が滑ってしまったんです」と言う。「過失である」と言い張れば、懲戒の対象にならないからだ。
 
 この囚人は、雑巾を水洗便所に流すという人為的障害を作り出し、それをやめることを取引材料にして、処遇の改善を図ったのである。拘置所規則では、午前7時に起床した後、午前中は原則として畳の上に動かずに坐っていなくてはならない。畳で横になるためには、「横臥許可」という特別の許可を得なくてはならない。また、囚人は独房に原則として3冊しか本を持ち込めないが、辞書、宗教経典、学習書については「冊数外」という特別の許可を得れば持ち込むことができる。何を学習書として認定するかは、看守の裁量に任されている。看守とうまく手を握れば、エロ小説やマンガ本を「冊数外」に指定してもらえる。拘置所生活の達人は、「雑巾流し」という自ら作り出した障害を取引材料として、午前中、独房で横になったり、マンガ本を何冊も入手できるような環境を整えたのである。
 
 ロシア流外交術もこの「雑巾流し」によく似ている。56年の日ソ共同宣言で、日ソ両国が北方領土問題について交渉したことは紛れもない事実だ。そして、ソ連は平和条約締結後、日本に歯舞群島と色丹島を引き渡すことを約束した。しかし、ブレジネフ時代に「日ソ間に領土問題は存在しない」という頑なな姿勢に転換した。日本は領土問題の存在を認めさせるという守勢の外交を展開することを余儀なくされた。86年1月にシェワルナゼ外相が訪日したときに、ソ連は日本側が領土問題を提起することには異議を唱えないという「歩み寄り」を示し、日本外務省はそれを成果とした。ここで冷静に考えてみよう。ブレジネフ時代の「領土問題は存在しない」という立場変更は、先程の拘置所の事例にたとえれば「雑巾流し」に他ならない。それにもかかわらず、お人好しの日本人はソ連が人為的に作り出した障害を撤回したことを、「成果」と受けとめてしまったのである。
 

ロシア側の土俵に引き込むプーチンの戦略
 プーチン大統領も、人為的に障害を作り出し、それをカードに取引をしようとしているのだが、どうも日本の政治家や外務官僚にはロシア流交渉術がよく見えていないようである。6月6日に開始されたハイリゲンダム(ドイツ)主要国首脳会議(G8サミット)を意識して、同4日にプーチン大統領はG8諸国の記者を集めて会見を行なった。そのときの速記録がロシア大統領公式ホームページ(http://www.kremlin.ru)に掲載されている。日本では断片的にしか報じられないが、北方領土に関してプーチン大統領は以下のように述べている。
〈「係争中の」諸島について、われわれは係争中とは考えていない。なぜならこの状況は第2次世界大戦の結果生じたもので、国際法と国際的文書でも裏付けられている。われわれは日本側の行動の動機を理解している。われわれは過去のあらゆる吹きだまりを除去したいと考えており、日本とともにこの問題の解決を探求する。私自身の考えでは、この方向でことば遊びを少なくして、実務的でもっと深い性格を帯びた問題にしてほしいと思う。われわれはそのことを歓迎する。もう一度述べるが、かつてソ連は、この問題の解決について深い柔軟性を示し、2島がソ連に残り、2島を日本に引き渡すということに同意した然るべき条約(注・日ソ共同宣言)に1956年に署名した。ソ連最高会議がこの条約を批准し、日本の国会もそうした。本当はこの文書は法的効力を持たなくてはならなかった。しかし、日本側は意外なことに、自ら批准しているにもかかわらず突然この文書を拒否した。そのような状況でわれわれが一般的解決を見出すのが容易でないことをわかってほしいが、われわれは強い決意をもってこの問題について日本の人々とともに取り組んでいきたい。ハイリゲンダムで日本の首相と会うことになる。われわれはこの問題についても話し合うことを希望する。それとともに外務省の実務、専門家レベルでの協議も絶やされておらず、むしろ逆に最近、集中的になっている〉
 
 56年の日ソ共同宣言において、2島引き渡しで平和条約を締結することで日本を押し切ったのだというロシア側解釈に日本を引きずり込もうとしている。共同宣言第9項前段で平和条約交渉の継続について明記してあるのは、歯舞群島、色丹島の2島返還では不十分で、日本側が国後島、択捉島に対する返還も要求したからだ。日本側はプーチン大統領に毅然とその事実を伝えればよいのにできていない。外務官僚の基礎体力が弱っているからだ。
 

「目には目を歯には歯を」で日本がとるべき対応
 ロシアは戦略的に行動する。プーチン発言の直前にラブロフ外相が、北方領土を訪問している。
「3日、ラブロフ外相がソ連崩壊後の露外相として初めて北方領土を訪問し、プーチン大統領も「領土問題の解決は困難」と言明、国力の回復を背景に北方領土の実効支配を既成事実化できるとの自信をのぞかせた。/イタル・タス通信によると、ラブロフ外相は北方領土の国後島、色丹島、歯舞諸島の水晶島を視察。色丹島では新築された中学校を訪れ、日露関係史に関するロシア外務省の資料などを寄贈した。生徒らが唱歌「さくら」を日本語で歌うと、外相は「こうして日本との友好を深めるべきだ」と感想を語った。/この後、外相は北海道根室半島の納沙布岬からわずか7キロの水晶島を訪れ、同島に駐屯する国境警備隊員らを激励した」(6月4日付産経新聞朝刊より)
 
 06年8月16日、ロシア国境警備隊が北方領土貝殻島近海で日本漁船「第31吉進丸」を銃撃、拿捕し、乗組員1名が殺害されている。もちろんこのことを踏まえた上でラブロフ外相は水晶島の国境警備隊を激励し、日本を挑発しているのだ。筆者が見るところ、ここで重要なのは、ラブロフ外相が択捉島を訪問しなかったことである。昨06年秋、日本側から出た「3島返還論」、「面積2分割論」等のシグナルに対して、ロシアは「今後の領土交渉の対象となるのは歯舞群島、色丹島、国後島の3島のみで、択捉島はロシア領だ」という返事をしているのだ。ロシア流交渉術からするならば、3島について交渉するということは、3島返還は絶対になく、2島以下で問題を決着するということだ。
 
 知らず知らずのうちにロシア側はハードルを上げている。ここで日本は、4島に対する日本の主権もしくは潜在主権を確認することが平和条約締結の条件であることを毅然と表明するとともに、日本側からハードルを上げることを試みなくてはならない。筆者が現役ならばこういう話をクレムリンに流す。
「固有の領土とは、日本が国際約束で獲得した領土です。ウルップ島からシュムシュ島まで、千島列島の18島、南樺太は日本固有の領土です。太平洋戦争でソ連は日ソ中立条約を侵犯して攻めてきた。ロシアとの関係において日本は侵略された側です。敗戦国なので、51年のサンフランシスコ平和条約2条c項で日本は固有の領土の一部である千島列島と南樺太まで放棄してしまったのです。ただし、ソ連はサンフランシスコ平和条約に署名していないので、この条約によって放棄された千島列島、南樺太は国際法的にロシア領になったわけではありません。ロシアはこれらの領土に法的根拠無く勝手に居座っているだけなんです。こういう話を国際舞台で大きく展開しましょうか。石油開発の関連で南樺太の地位については、連合国であり、サンフランシスコ条約の当事国であるアメリカ、イギリス、オランダも関心をもつでしょう」
 
 ロシアがハードルを上げてくるときは、日本側も上げ、ロシアが誠実に妥協案を提示してくるときは日本も国益に照らしてぎりぎりのところまで妥協する。「目には目を歯には歯を」が外交交渉の大原則であることを忘れてはならない。(起訴休職外務事務官)

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