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http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20070711-01.html から転載。
孤立に始まり抹殺に至る なぜ若者は自爆テロ犯になるのか――フィナンシャル・タイムズ
2007年7月11日(水)11:54
(フィナンシャル・タイムズ 2007年7月6日初出) ロンドン=スティーブン・フィドラー
どうして、あんなことをするのか。中には将来有望な者もいるのに、どうして青年たちは自爆テロ犯になるのか。
自爆テロ犯の家族や友人や隣人を何十人と取材してきた米研究者スコット・アトラン氏は、ひとつの共通項があると指摘する。それはつまり、世間の注目だ。「テロ行為とそれ以外の暴力行為の違いは、世間の注目があるかないか」
テロ攻撃が起きると世間が注目する。政府は過剰反応する羽目になり、マスコミはテロリストをスター扱い。テロ犯は仲間内で英雄となる。アトラン氏がモロッコの都市テトゥアンで低所得層の住むメズアク地区を取材し、子どもたちに話を聞いたところ、子どもたちは将来、ブラジルのサッカー選手ロナウジーニョになりたい、さもなければオサマ・ビンラディンになりたいと答えたという。
メズアク地区の人口は1万9000人。しかしモロッコ当局は、この地区から少なくとも30人がイラクへ行き、自爆テロ犯となったと見ている。30 人のうち11人は、米当局から送られてきたDNA標本から、確かにメズアク地区の出身者だと確認されている。さらに、2004年のマドリード列車爆破テロの犯人7人のうち、スペイン警察に追いつめられて自爆した5人は、やはりメズアク出身だった。
マドリードのテロ犯や、ほかの自爆テロ犯たちにはこのほかにも、あまりに特徴的すぎてほとんど見過ごされがちな、大きな共通項がある。つまり彼らは、グループに属している。それが共通項だ。テロリストの「セル(細胞)」というのはつまり「同胞の集り」、あるいは「男たちの集団」だと解釈して、その前提でメンバー同士のやりとりを観察するのが、一番理解しやすいと言う研究者もいるほどだ。
アトラン氏と共同研究者2人は今年3月、こうしたテロリスト・セルについて報告書をまとめ、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)のスタッフに提出した。その報告の概要は、「聖戦のために自分を捧げたいと考えている数百万人のうち、実際に誰が本当に暴力行為を起こすことになるのか。それを決定するのは、テロ犯の性格でも思想でも教育でも収入でもない。主な決定要因は、小さな集団内の人間関係の力学だ」と指摘している。
アトラン氏は現在、米中央情報局(CIA)出身のマーク・セージマン氏と共同で、テロ組織についてのデータベースを構築中だ。データベースに集めている情報は、裁判記録や聞き取りの成果など。こうしたデータを集めて分析した両氏の現時点での解釈は、これまでの通説と食い違うこともある。たとえばテロリストというのは組織のメンバーを組織の中で説得・転向して、実行犯にするのが常のようだとアトラン氏。通説で言われてきたような、組織トップが外部からテロ要員を一本釣りしてきたり、首謀者を洗脳したりするというやり方については、証拠がみつからないという。
テロリストの約70%は友達に誘われてテロ組織に参加しているし、約20%は親類・血縁者に誘われている。理想的な「セル」の規模は8人で、15〜30歳の間に友達になった者同士で構成される。
若者が社会的に阻害されていたとしても、それ自体はテロリストになる要因ではないという。セージマン氏が2004年に行った調査によると、聖戦のためとして自爆テロをした「ジハーディスト(聖戦士)」の70%以上は、中流や上流家庭の出身だった。英国のロンドンやグラスゴーで起きたテロ事件に関与していたとされるグループがそうだったように、自爆テロ犯の40%以上は、教師や弁護士、医師などの専門職についていた。
テロ組織の中では多くの場合、過激な言葉を過激な行動に移し替える役割を担った、指導者的な存在がいるという。この人物は、グループ内でいちばん信心深い者ではないことが多い。マドリード事件のグループではおそらく、ジャマル・アーミダンがこれにあたる。彼はキリスト教徒を妻にもつ、悪名高い麻薬の密売人だった。
ではそういうグループに参加した後、何がどうなってテロや自爆攻撃の実行につながっていくのか。米ウエストポイント(陸軍士官学校)の上級アナリスト、クリストファー・ヘフェルフィンガー氏は、テロへの道には4つの段階があると分析した。(1) グループと出会う、(2) 過激な教義に没頭する、(3) まずは平和的に変化をもたらそうと努力する、そして最後に、(4) 非暴力から暴力へと移行する――という4つだ。
一方でセージマン氏は、「ジハーディスト(聖戦士)」には3つの世代がいると指摘する。第1世代は、アフガニスタンのムジャヒディーン(聖戦士)。第2世代はもっと若い、教育を受けた青年たちで、たとえばドイツ・ハンブルクで9/11の米同時多発テロを計画したグループがそうだった。第3世代の多くは、中程度の技術しかもたない、あるいは社会から取り残された人々で、たとえばマドリードの列車爆破や2005年7月7日のロンドン同時多発テロの実行犯たちがこれにあたる。
こういう分類の仕方でいくと、ロンドンとグラスゴーのテロを首謀したとされる「医療セル」は、第2世代の最新版のようにも見える。当初報道によると、容疑者のひとりは2004年に渡英する前にすでに過激思想に染まっていた模様だ。グループのほかの4人とは、ケンブリッジ在住中に知り合ったのではないかとされている。その時点ですでに、おそらく強硬派だった者も中にはいる。容疑者の2人は兄弟同士で、1人は彼らのいとこだった。
ケンブリッジ・グループの1人とかつて友達だったという男性によると、このグループは「小さくて、誰でも入れるというものではなかった」。イスラム過激派組織「ヒズブト・タフリル」(イスラム法の下でカリフが治めるイスラム教国家樹立を目指す)に関係のある、思想的に相通じる人間しか、仲間とは認められなかったという。ヒズブト・タフリルは、自分たちはテロ行為を支援していないとコメントしている。
社会から隔絶した集団というこの様相は、ほかのテロ集団にも見受けられる特徴だ。アトラン氏によると、ハンブルクの集団は「周りの社会から自分たちを切り離すことで、ジハード(聖戦)という架空の世界を作り出した、激しく親密な仲間同士の集まり」だったという。
ロンドン同時多発テロの実行犯たちには、リーダーがいた。モハマド・シディック・カーンという若い労働者だ。しかしほかの3人はいずれも、カーンの影響下に入る前からすでに、過激思想にはまっていたとみられる。カーンとシェザード・タンウィアはパキスタンで、爆弾の作り方の訓練を受けたとされている。しかし彼らが過激思想にはまったことと、パキスタンとは何の関係もない。
ロンドン同時テロの実行犯4人のうち3人は、イングランド北部・西ヨークシャーにあるリーズ市南部の同じ地区出身だった。雑誌「プロスペクト」の先月号で、ジャーナリストのシヴ・マリク氏が彼らについて調査した結果を記事にしていた。マリク氏によると、若い実行犯たちは、自分が何者かという問題で苦しんでいたということになる。彼らは第一に、英国社会全般から阻害されていた。この点については理解しやすい。しかしさらに(あまり理解されていないことだが)彼らは同時に、自分の親たちの世代とも接点をもてずにいた。というのも彼らの親たちはカシミールの一地方出身で、その地域の部族的な習慣を行動規範としていたからだ。英国で生まれ育ったテロ実行犯たちは、自分の親とも価値観を共有できなかった。この対立がもっとも顕著に表れたのは、彼らと親たちの、結婚観の違いだった。親たちは、自分たちが条件などを吟味した上での見合い結婚でなくてはならないと主張したが、息子たちは、イスラム教のしっかりしたいい娘なら誰と結婚したって構わないだろうと信じていた。
とはいえ、イスラム主義者になることは、テロリストになることと同義ではない。ほかのあらゆる要素をさておき、何よりも決定的な要因となるのは、チャンスだ。
米ウエストポイントのヘフェルフィンガー氏は、ニュージャージー州のフォート・ディックス陸軍基地に攻撃を計画していたとして5月に逮捕された容疑者6人について、調査した。その結果、どうやら容疑者たちは攻撃目標をかなり適当に選んだ様子だと分かった。というのも、グループのひとりがピザの宅配で基地を訪れたことがあり、基地の様子に詳しいから――というのが、フォート・ディックス選択の理由だったからだ。「実行のチャンスがあったということ。これがほかのあらゆる動機に勝る、最大の動機だった」
こうした一連の研究や調査に共通するのは、ある人間がテロ行為に走るようになるには、複数の原因があるという結論だ。特定の個人に限定される理由と、その人が感じている文化的な疎外感が組み合わさった時、世界的な暴力運動に参加することこそ自分の求めていた答えだと確信する、そういう若者がいるということだ。
しかし残念ながら研究者たちは、どういうタイプの人間がテロリストになりやすいのか、特定しようとしない。「こういう人間がテロリストになる、などと最初から予測できるタイプなど、ない」。英国の反テロ対策担当者のひとりは、こう断言した。