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「パレスチナ内戦」はイスラエルの希望を語っているに過ぎない
ミシェル・ワルシャウスキー
米とイスラエル
が武器を供与
アリエル・シャロン(前イスラエル首相)の古い夢が現実になろうとしいる。パレスチナ人同士が殺し合い、イスラエルは死者の数を数えながら大いに満足している。イスラエルの指導者が流す涙はワニの涙であり、ガザにおける悲劇的事態の発展を遺憾に思うと言っているのは単なる偽善である。この流血の対立は予測できたし、イスラエルと米国の責任と活発な関与はきわめて明白である。
多くのイスラエルのジャーナリストは、イスラエルの責任は間接的なものであると分析している。「百四十万人がガザのような狭い領土に密集し、正常な経済的生活を営むことも、逃げ出すこともできず、互いに殺しあうべく運命付けられている。……箱に閉じ込められたネズミたちのように」。この動物にたとえた説明は、典型的な人種差別主義であるだけでなく、はなはだしい軽視に基づいている。なぜなら、現在の対立におけるイスラエルと米国の役割は、パレスチナ人の内部対立の単なる「条件を作り出した」ことよりもはるかに大きいからである。
何カ月にもわたって、米国国務省はファタハ指導部に、ハマスに対する軍事的攻勢を開始するように圧力をかけ続けた。二週間前には、イスラエルはガザ地区のファタハ民兵に大量の武器を送ることに青信号を出した。この意味において、現在の状況におけるイスラエルの役割は、推測にとどまらない積極的役割を演じているのである。
ファタハを背後
からけしかける
「ハマスが奪取した」、「ハマスのクーデター」――この間のイスラエルの新聞の見出しにはこのような文字が並んでおり、テルアビブとワシントンの政権は大嘘を繰り返している。事態を明らかにすることが必要であるようだ。最近のパレスチナの選挙で、ハマスはファタハに対して圧勝した。この選挙の過程は、ワシントンを含む国際社会全体が「中東でこれまで行われた中で最も民主的」とたたえたほどであった。疑問の余地のない民主的な過程と圧倒的な民衆の支持、このような正統性を主張できる体制は少ない。
このような圧勝にもかかわらず、ハマスは、サウジアラビアとエジプトの庇護の下に形成された民族統一政府においてファタハと権力を共有することを受け入れ、ワシントンとイスラエルを除く国際社会全体の喝采を浴びた。新政府の政治的綱領は、イスラエル国家を事実上承認し、オスロ合意の枠組みに基づいた和平交渉の戦略を認めるものであった。
新政府の優先事項は、火急の国内問題(経済の改善、ガザ地区の法と秩序の回復、古いファタハ主導行政機構の固有の腐敗との闘争)に対処することであったが、同時に、イスラエルがその更新を受け入れる場合は、マフムード・アッバス大統領とPLOが交渉の過程を継続できるようにすることでもあった。
しかし、ハマスの穏健な政府綱領に対して、二つの強力な敵が立ちはだかった。一つは、政治権力の独占とその独占に伴う物質的特権を放棄しようとしない一部のファタハ幹部たちであり、もう一つは、イスラム政治勢力に対する世界十字軍遠征を行っている米国とイスラエルの新保守主義政府であった。マフムード・アッバスの前予防治安責任者で現在安全保障担当顧問であるムハマド・ダーランは、この両方を代表している。彼らは、パレスチナ指導部内におけるワシントンの計画の執行者であり、同時に、自らの経済的資源を守るためにはなんでもする腐敗したファタハ指導者の代表でもある。
ハマスの選挙における勝利以降、ダーランの民兵は政府を挑発し、ハマスの民兵を攻撃し、政府がパレスチナ警察を支配することを拒否してきた。ダーランの攻撃にもかかわらず、ハマスは、ダーランとの合意に到達するために最善を尽くし、ハマスの活動家に反撃を差し控えるように要請した。しかし、ダーランが妥協を求めておらず、まさにハマスの解体をもくろんでいることが明らかになったとき、ハマスは、自己を防衛し反撃する以外に選択の余地はなかった。
膨大な犠牲を出した
アルジェリアの先例
米国とイスラエルの計画は、地域住民の意思に逆らって彼らの利益に忠実な政府を押し付けることを目的とするグローバル戦略の一環である。アルジェリアの例は、このような戦略の一例であるが、失敗と膨大な人的犠牲を出した例でもある。一九九一年の選挙において、腐敗し信用を失ったFLNに対するFIS(イスラム救国戦線)の疑問の余地のない勝利の後、フランスと米国の支持を受けたクーデターが行われ、これによって内戦への道が開かれ、この内戦は十年以上続き、十万人以上の市民の犠牲者を出した。
ハマスは、アルジェリアの悲劇から明確に学んでおり、ダーランの力による権力奪取の計画を成功させない決心をしていた。ハマスの民兵は、地域住民の多数の支持を受けながら、二日もかからずにファタハを粉砕した。ファタハはイスラエルから間接的に武器の供給を受けていたにもかかわらず、である。民衆の支持のない腐敗した民兵は、相対的に規律のある士気の高い組織の敵ではなかった。
ファタハに対するこの圧勝後においても、ハマス指導部は民族統一政府を維持する意図を捨てず、ファタハのクーデター失敗を、組織の撲滅や政府からの排除の口実として利用しようとしなかった。しかし、ファタハ指導部は、ハマス指導部とのあらゆる関係を断ち、西岸地域にハマスなしの政府を設立することを決定した。アリエル・シャロンのもう一つの夢が現実のものになろうとしている。すなわち、西岸地域とガザの完全な分離である。ガザは希望のない「ハマスタン(ハマスの国)」とみなされ、市民が存在せずテロリストばかりの本質的にテロリストの国で、完全な包囲の下に置いて餓死を運命づけることができる、というわけである。
ワシントンはこの方針を全面的に承認し、マフムード・アッバスと西岸地域における彼の新しい「祖国」の全面的支持を約束し、エフド・オルメルト(イスラエル首相)は、イスラエル政府が握っているパレスチナ人の資金の一部の封鎖を解除することを決定した。
ガザで起こっている
ことは内戦ではない
しかし、イスラエルと米国政権の目的の一つは失敗した。ガザには混乱は存在していない。反対に、パレスチナの治安担当者の一人がハーレツ紙(イスラエルの日刊紙)に対して語ったように(6月17日)、「長い間町は平穏ではなかった。私には、現在の状態の方が以前より望ましい。ついに、外出できるようになった……」。ガザからファタハのギャングどもが一掃されたことにより、長い間の無秩序が終わり、一定レベルの正常な生活の回復が可能になった。最近の出来事は、ハマスがこれをもたらすだけの権力を掌握したことを確認するものである。
イスラエルの言う「パレスチナの内戦」は、希望を語っているに過ぎない。武力衝突は武装民兵の間だけのことであり、不幸にして市民の負傷者が出たとしても、それは、米軍が言うところの「付随的な被害」である。実際、住民は、西岸地域においてもガザにおいても、政治的には分かれているが、少なくともここしばらくの間は、双方の間に戦闘はなかった。
ガザが敵性団体で全住民がハマスにつながっていると規定されれば、近い将来、イスラエルの残忍な侵略の対象になり、最終的には軍事侵攻、爆撃と餓死の事態になることは疑いない。
イスラエルと全世界におけるわれわれの最優先課題が、ガザとその住民との連帯を組織することである理由が、ここにある。
(この記事は、最初にwww.alternativenews.orgに発表された。)
(ミシェル・ワルシャウスキーはジャーナリスト・著作家で、イスラエルのオルタナティブ・インフォーメーション・センター設立者の一人である。日本では『イスラエル=パレスチナ民族共生国家への挑戦』(つげ書房新社刊)が翻訳・出版されている。)
(インターナショナルビューポイント07年6月号)