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時評2007 欧州の新指導者を襲う古くて新しい難題=中西 寛 [中央公論]
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投稿者 white 日時 2007 年 6 月 22 日 22:29:41: QYBiAyr6jr5Ac
 

□時評2007 欧州の新指導者を襲う古くて新しい難題=中西 寛 [中央公論]

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070622-01-0501.html

2007年6月22日
時評2007 欧州の新指導者を襲う古くて新しい難題=中西 寛
 ヨーロッパの顔が変わる。過去一二年間フランス大統領を務めたシラクはサルコジ新大統領と交代し、一〇年間イギリスを率いたブレア首相は退陣して、政権は当面、ブラウン財務相が継承するが、やがてキャメロン保守党党首と対決することになるだろう。
 
 七十四歳のシラクはドゴール派保守主義者として長い政治生活の末に頂点まで昇りつめ、停滞するフランス社会の打破を訴えたものの、デモに対して腰砕けになり、また威信をかけたEU憲法条約の国内批准に失敗した。イラク開戦反対で目立ちはしたが、政治的実績は少ないという批判が強い。対してブレアはサッチャー保守党に痛めつけられた労働党再生の星として登場し、四十代で首相となった。保守党の市場主義と労働党守旧派の規制主義の間の「第三の道」を掲げた。その路線に沿った実績はそれほど多くないが、経済の好調に支えられて内政面では順調だった。しかし国内にも反対が強かったイラク戦争を強く支持したことで批判が高まり、退陣を繰り上げざるを得なかった。
 
 シラクとブレアの立場や経歴は異なるが、二人は共に世紀をまたいでヨーロッパの基本課題に取り組んできた。それはヨーロッパ統合の強化であり、東方拡大であり、アメリカに対してヨーロッパの役割を見いだすことであった。二人が政権に就いた当時、共通通貨ユーロはまだ導入されておらず、EU加盟国も一五ヵ国に過ぎず、繁栄するアメリカに対してヨーロッパは不況に苦しんでいた。しかし今日、加盟国は二七に増大し、ヨーロッパ経済は好調となり、ユーロやポンドの価値は上昇した。EU憲法条約は挫折したけれども、そもそも内容が急進的すぎたので、より穏健な案が検討されるのは悪いことではない。また、アメリカとの関係において、ブレアとシラクは対照的なやり方で、アメリカの助言者としてのヨーロッパの役割を体現したと見ることもできる。一〇年前と比べると、ヨーロッパの存在感は高まった。
 
 しかし二人の後継者や他のヨーロッパ指導者たちは別種の課題を抱える可能性が高い。それはイスラムとの関係とロシアとの関係という、ヨーロッパにとって古くて新しい課題である。
 
 ヨーロッパにとってイスラムとの関係は今や内政問題であり、外交問題でもある。ヨーロッパ内のイスラム人口は一六〇〇万人を数え、ヨーロッパの社会統合にとって最大の課題であることは、イギリス在住のイスラム教信者によるテロやフランスでの移民暴動、ムハンマド風刺漫画問題などからも明らかである。かつては世俗的啓蒙主義に基づく各国国民文化への統合が図られたが、イスラム人口が宗教的自覚を強める一方で、各国の国民的統合力は低下しつつある。
 
 しかもこの問題は、近接するイスラム社会との関係とも深く関わっている。たとえばトルコで、穏健イスラム主義をとる公正発展党のギュル外相の大統領立候補をめぐり、伝統的な世俗主義を標榜する市民と共和国の擁護者を自任する軍部とが反対を表明して政治が混乱している。ヨーロッパにとって、七〇〇〇万の人口の大半がイスラム教徒であるトルコのEU加盟を認めることは極めて難しいけれども、EU加盟の道を閉ざすことはトルコをより過激なイスラム主義に追いやる危険をはらんでいる。イスラム世界とどうつき合うのかはヨーロッパの将来を左右する問題になりつつある。
 
 ロシアとの関係もヨーロッパにとって古くて新しい問題である。アメリカによるポーランド、チェコへのミサイル防衛施設の配備、セルビアからのコソボ独立問題、ロシアによるエネルギー供給問題、リトビネンコ暗殺事件に見られるようなロシアの人権問題などを巡って欧ロ間の摩擦は増大しつつある。欧米から見れば、脱共産化した東欧地域を放置しておくことはできず、EUやNATOの東方拡大によってこれら地域の安定化を図らざるを得ないということかもしれない。しかしロシアからすれば、ロシアが混乱して弱体化している間に西側が自らの近隣まで手を伸ばしたと感じ、猜疑心を強めているように見える。プーチン体制下で独裁的な傾向が強まったロシアとどのような関係を築くのか、これまでヨーロッパが避けてきた問題にやがて正面から取り組まざるを得なくなるのではないか。
 
 イスラム世界やロシアとの関係というヨーロッパの根幹に関わる問題に、ヨーロッパの新指導者たちはどのような解答を見いだすだろうか。
 
(なかにし ひろし 京都大学教授)

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