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シンディ・シーハン『引退表明』に思う(3)【レイバーネット】
http://www.asyura2.com/07/war93/msg/283.html
投稿者 gataro 日時 2007 年 6 月 13 日 22:06:25: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.labornetjp.org/news/2007/1181736707181staff01 から転載。

《転送歓迎》
シンディ・シーハン『引退表明』に思う(3)

 ―私たちに求められていることは何なのか(最後の扉を押し開けていくために)ー

     マブイ・シネコープ  木村 修

【We’ll Come Back Stronger】

  この投稿の最初のタイトルに、彼女の再起を約束する言葉を紹介できると誰が数日
前予想しただろうか。『私たちはもっと強くなって戻ってきます』。6月1日米PBCラジ
オのインタビューでのシンディその人の言葉だ。彼女はこんな風にも答えている。『玄
関のゆり椅子に座っている私なんて想像もできません。私はいったん手を引きますが、
再び人を集めより良い方法を考えてここに戻ってくるでしょう』と。(この全訳にエネ
ルギーを傾注してくれた、どすのメッキー氏に感謝)
  ここまで二回、いつの間にかに長大になってしまった拙稿に、お付き合いくださっ
た方々にお侘びを表しておきたい。とにかく『どういう経過の上で、、』『どういう状
況の中で、、、』シンディがあそこまで失意と憔悴に追いこまれたのか、まずはその経
過をたぐらなければと資料を集め直した。しかしその大半は、経過を追いきれていない
私の不勉強を補う過程だった。それでもアメリカの反戦運動が何処まで進んだのか、そ
の一定の整理になる一面があったならどうかご容赦願いたい。
ともかくこのインタビューは、普段のシンディを彷彿とさせる率直さで実にわかりやす
い。最初からここから始めていたら、この投稿ももっと簡潔にまとめられたのではなか
ろうか。彼女の今回の『引退表明』の理由を二つ挙げている。その第一をこう言ってい
る。『先週民主党がブッシュに無条件で彼の戦争を続けるための戦費法案に賛成し、ブ
ッシュがまた何でもできるようにしてしまった、、、、私は民主党にうんざりしてすべ
ての関係を絶ったのです』と。(二つ目に彼女の娘さんの動揺と自分の健康悪化にふれ
ている)。しだがってこの第三稿で私は、ブッシュの拒否権の前に膝を屈した民主党議員の限界が何であったかを跡付け、この呪縛をほどきイラク戦争終結へ最後の扉を押し開ける方向性を考えることにしたい。
  
【民主党は何に屈服したのか】

  それでは民主党の約半数の議員が、大統領拒否権との攻防で躊躇し立ち止まってしまった、彼らが回避した課題は何だったのか。それは、議会とホワイトハウスの間の論
争がもっとも加熱した『撤退期限付き追加予算案』の採決から、拒否権の行使の過程を
見直してみるとはっきりと浮かび上って来る。高まる反戦勢力の『増派反対』『戦費支
出をやめよ』の論調に対して、ブッシュ政権の側が対抗した論理を振り返ってみると議
会に対して二つの論調が浴びせられていたことがわかる。すなわち@撤退期限の明示に
対しては『テロリストに誤ったメツセージを送るもの』(テロリストは期限まで潜伏し
、撤退開始とともに再び暗躍する)という恫喝である。そしてA戦費支出の削減・反対
に対しては『戦場にいる若者たちを一層の危険にさらすもの』という、『イラク戦争の
正否』でも『増派への賛否』でもなく、兵士への『同情』をすくい取って議論を分断し
ようというやり方だ。以下、少しその過程を紹介しょう。

  『撤退期限付き追加予算案』をめぐるホワイトハウスと両議院との激しい攻防は、
下院可決(3月23日)とともに一挙に緊張を高めた。4月3日、ブッシュはホワイトハウス
で記者会見し、拒否権を行使すると真っ向から言明した上で、こう反駁する。『4月中
旬までに補正予算が成立しなければ米軍兵士の生活水準の低下をきたす。5月中旬に遅
れるなら訓練に支障をきたす』と(4月4日、日本経済新聞)。そして拒否権を行使した
その日には、『撤退期限が設定されれば中東全域で殺人者を勇気づける』(5月8日琉球
新報)という言い放って議会を攻撃した。ここで私はもう一つの記事を見つけた。『駐
留経費は削減しない。拒否権を行使したらわれわれは撤退期限の付帯条項を削除する』
(4月4日日本経済新聞)。上記とまさに同じ日、民主党レビン上院軍事委員長の発言であ
る。これからおよそ1ケ月半後、問題の撤退期限を取り下げた追加予算案の採決にあた
って、民主党は賛成91対反対140にクッキリと分岐するが、その亀裂はどうやらこのあ
たりから進行し出している。
ところで大統領が拒否権を行使した時、連邦議員にはどのような選択肢が残されていた
のか。それは@反戦運動とともに国民世論を一層の拡大し、ブッシュの責任を追及して
いく道を進むか、それともA大統領が絶対に受け入れない条件を取り下げて対立を回避
するかの二つに一つであった。(折衝にあたったペロシ下院議長はホワイトハウスの頑
強な主張が『撤退期限を定める付帯条項は絶対に認めない』・ペリーノ大統領副報道官
・であったことを明らかにしている。5月11日日本経済新聞)。そして全議員がその出
所進退を問われた過程で、反対勢力の分断のために加えられた圧力が上記二つのプロパ
ガンダだったのだ。1ケ月半の間、大半の民主党議員がこの間で揺れ動き、相当数がこ
こで妥協の道を選択した。つまりこのブッシュの恫喝の堰を越えるだけの展望と論理を
、議会勢力は、そしてそれに迫ったアメリカ反戦運動も持ち合わせていなかったのだ。
シンディさんが深い失望を味わった過程はもはや明らだろう。彼女は幾度となく声を荒
らげたであろう。『だったらあなた方の、戦争終結・全兵士を帰還させよという主張は
一体何だったの!』と。再び彼女の声が聞こえてくる。

【私たちに問われていることは何か・問題提起を含めて】

  以上三回にわたって、アメリカ反戦運動の到達点と残された課題を振り返ってみた
。最後に私見をはさみながら、このハードルを越える道が何処にあるのかに論点を進め
、今後の問題提起としたい。私がシンディさんが切り開いた山道を登りきるために、ア
メリカそして日本の反運動がどうしても踏み込んでいかねばならないと考えているテー
マは次の二つである。
(1)私たちはイラクのどの勢力と連帯するのか。いかにイラク社会を再建するのか。
(2)新憲法制定に反対する闘いとイラク反戦運動を、日本の運動はどう位置づけて
いるのか。

  (1)から述べていこう。すでに危機にたったネオコン政権が、議会論争の波に反撃
した論理を明らかにした。もっと単純明快な論理を付加えて紹介しょう。共和党右派を
代表する大統領候補のマケイン上院議員曰く。『(米軍が撤退すれば)イラクはアルカイ
ダの基地になる』(6月7日マンチェスターでの共和党討論会 同日産経新聞)と。反戦
勢力の側にこの種の反テロ戦争一本槍の乱暴な議論に同調する人はいないだろう。しか
し、こうしたプロパガンダを『低劣』と無視し、嫌悪感を示すことは容易でも、果たし
て反戦運動は、これに具体的積極的に反論して来たと言えるだろうか。そうでなければ
、権力持つ戦争勢力に勝てないことを知らねばならないのではないか。これにどう反論
するのか。闘いは、答えのないまま立ち止まっているわけには行かない。
  そしてこの点と関連して次の事情を振り返っておきたい。60年代後半から世界に
広がり、国際反戦運動を歴史に登場させたベトナム反戦運動。そこには,南ベトナム解
放戦線という組織された民族独立運動勢力が確固として存在した。80年代から世界に
燎原の火のごとく広がった南ア・アパルトヘイト廃絶運動には、南アフリカ民族会議(
ANC)という世界から尊敬の的となった国民的統一戦線組織があった。さてこのイラ
ク反戦運動の場合は? 世界の反戦運動は、抵抗勢力の顔を見つけられないままここまで
来ている。
(前稿で私は、『出口戦略』の未確立と特徴付けた。『連帯すべき勢力』を規定できな
いところで展望を描くことはできない。また『大量破壊兵器のウソ』で論陣をはること
はできても、ブッシュのいう『自由と民主主義の実現』に対して実例で反撃することも
困難を免れないと考えるからだ。)

 ここで私は05年3月に結成されたイラク自由会議(IFC)(1)の存在を紹介し、ここ
に結集する『政教分離と市民的自由を基礎とする民主的イラク社会の再建』をめざして
『武装闘争とは明確に一線を画し、政治的・社会的な大衆運動』を展開する国民的勢力
についての討議を呼びかけたい。私自身は、イラク国際戦犯民衆法廷運動にかかわり、
その発展としてイラク占領監視センターの活動に注目する中で、イラクに大衆的な労働
運動、女性運動そして失業者や住宅を破壊された人々の社会再建の運動が急速に成長し
ていることを知った。アメリカにおいては、有力な反戦団体といわれるアメリカフレン
ズ派奉仕委員会(AFSC)(2)がIFC連帯ツァーを組織し(06年5月)、アメリカ反戦労働者
の会(USLAW)(3)がその第3回大会にサミール議長を正式招請する(06年12月)など、
ここ1年で大きく注目を集めて来ている。しかし、UFPJ全体に、そして米議会の中にそ
の姿はまだ届いていない。

日本においても『週刊金曜日』06年3月24日号がサミール議長(4)のインタビュー
を掲載し、『赤旗』の同年5月13日号が、このアメリカ連帯ツァーに注目して、サミー
ル氏の発言を紹介している。しかし『イラクのどのような勢力と連帯していくのか』。
このテーマについて日本の反戦運動はどれ程のエネルギーを注いだといえるであろうか

もちろんこの問題提起をIFCの一方的な宣伝とすることは私の本意ではない。どのよう
な運動体であれ課題を内包しないものは存在しない。しかし、率直な指摘や相互批判も
含めながら『イラクのいかなる勢力と連帯していくのか』、この視点で、今新たに登場
している『イラク自由会議をどう評価するか』。このテーマをもう後景に置くことはで
きないのではないか。遅きに失したしてもこのテーマに誠実に向き合うことが、今求め
られていることを私は訴えたい。そうでない限り、前述したマケイン議員発言の類の粗
暴な圧力の前に、日本のイラク反戦運動もまた立ち止まっていることになる。

(2) は今、日本の運動がまさに直面している課題である。かいつまんで述べたい。私
ごとになるが、この5月連休、
一斉に開催された首都圏の護憲集会のいくつかに参加もし、私が取材制作したDVD『シ
ンディ・シーハン』の販売の可否の問い合わせもさせていただいた。そこで『国民投票
法に討議を集中したいのでイラク、アメリカ反戦運動等あまりテーマを拡散させたくな
い』と言う意向を幾度か聞かされることになった。『イラク反戦運動と護憲の取り組み
をどう結びつけるか』『九条改悪を突出して実行しているイラク派兵に反対することが
新憲法制定との最前線の闘いではないのか』等。日本の運動の現状は、この点の討議が
不十分だというより、避けていると私には思える。そうである間は、ブッシュの様々な
発言を暴言と思っていても、世界の政治状況に関与しているとは言えないのではないか

【むすびにかえて】
 この第一稿の最後で私は、UFPJのレスリー・ケーガンさんの言葉を紹介した。再度繰
り返すことにしたい。『この政府に最終的に戦争の終結を決断させるには、世界の力を
結合することが必要なのです』。世界のイラク反戦運動は、疑いもなく20世紀のどの
時期にもなかった程の大きな道を切り開いて来た。しかし、この前進を強調するのと同
じエネルギーで、まだ世界の力を一つに結びつける仕事が終わっていないことに警打を
鳴らし、この現実を正面から引き受けていかねばならない。
この扉を押し開けたその先に、イラク占領を終わらせる道筋が必ずや切り開かれること
を、シンディ・シーハンが繰
返し呼びかけた『この戦争を止めさせるだけではなく、二度とこのような戦争を起こさ
ない世界を!』視界にとらえる
ことができると夢をふくらませつつ。引き続き率直なご批判、ご指摘をお願いしてひと
まず筆をおきたい。                                     
 (6月13日 木村記)

【註】 
(1)イラク自由会議 http://www.ifcongress.com/English/index.htm
(2)アメリカンフレンズ派奉仕委員会 http://www.afsc.org/
(3)アメリカ反戦労働者の会 http://www.uslaboragainstwar.org/
(4)サミール議長は5月30日づけで”Cindy:Do not say good-bye The US needs you,not the criminals and thieves”といタイトルの公開書簡を発表している。
おそらくイラク内部からの唯一のメッセー
ジと思われる。

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【関連記事】

シンディ・シーハン『引退表明』に思う(2)
―彼女の足跡を確かめ、到達点を共有するためにー 
マブイ・シネコープ 代表 木村 修
http://www.labornetjp.org/news/2007/1181361001989staff01

シンディ・シーハンさんの「引退表明」に思う
マブイ・シネコープ 代表 木村 修 mabui1101@nifty.com
http://www.labornetjp.org/news/2007/1180598666334staff01

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