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エストニア 旧ソ連兵像撤去でロシア系住人が暴動【世界日報】
モスクワでは大使館を包囲
バルト三国の一つエストニアが先月二十六日、第二次大戦中に同国をナチス・ドイツから「解放」した旧ソ連兵の銅像を首都タリン中心街から撤去した。これはロシア人の大きな反発を招いたが、プーチン政権の対応は抑えられたものだった。その背景には、ロシアの「エネルギー外交」の切り札の一つであるバルト海底パイプラインが、エストニア領海を通過せざるを得ないという弱みがある。
(モスクワ・大川佳宏)
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ロシア政府は抑えた対応
バルト海底パイプライン計画で弱み?−ロシア
タリン中心街にある旧ソ連兵の銅像―通称「青銅の兵士」は、エストニアをナチス・ドイツの圧制から「解放」したシンボルとしてソ連時代に建立された。もっとも、エストニアにしてみれば、ナチスの圧制がソ連の圧制に代わっただけであり、ソ連崩壊後から撤去を要求する声が高まっていた。
それでも、エストニア人口の約三割を占めるロシア系住人の反対により「青銅の兵士」はその場にとどまっていたが、最終的に郊外の記念墓地への移設を決定し、二十六日夜に撤去作業が行われた。
ロシアの最も重要な祝日の一つであり、ロシア人の愛国心と民族的誇りが頂点に達する五月九日の対独戦勝記念日の直前に「青銅の兵士」を撤去したことは、ロシアをいたく刺激した。
タリンではロシア系住民と警官隊が衝突し、一人が死亡し百四十人以上が重軽傷を負った。モスクワではプーチン政権に極めて近い青年組織「ナッシ」が四月二十七日から連日、エストニア大使館を取り囲み、国旗を引きずり降ろし一部で投石し、大使館を業務停止に追い込んだ。これに対しロシアの治安機関は、何ら積極的な対応を取っていない。さらに「ナッシ」は今月二日、モスクワの新聞社で行われたカリユランド駐ロ大使の会見にも乱入した。
しかし、「ナッシ」の激しい抗議行動に比べ、プーチン政権の対応は「控えめ」である。下院では経済制裁の声が高まり、断交を叫ぶ声もあったが、これらは威勢だけで、実行する動きはない。イワノフ第一副首相はエストニア製品の不買運動を提案したが、これも、その後の動きはない。
プーチン大統領は沈黙を保ち、九日の対独戦勝記念日の演説でやっと、「戦争の英雄の記念像を冒涜(ぼうとく)する人々は、自らの国民を侮辱し、国家や人々の間に不和と新たな不信を植え付ける」と述べただけである。
ロシア側はエストニアの「青銅の兵士」撤去を「歴史に対する冒涜」としているが、ロシアの各地で「戦争の英雄の記念碑」の撤去や移設が行われている。
象徴的なのは「青銅の兵士」撤去とほぼ同じ時期、モスクワ郊外のヒムキ市が道路拡幅工事のため、ソ連英雄飛行士の記念像の撤去と、市営墓地への移設を決定したことだ。退役軍人が反対運動を行ったが、完全に無視された。
また、赤の広場のレーニン廟(びょう)からレーニンの遺体を移動し、別の場所に埋葬するという動きはソ連崩壊後から続いている。ソ連時代、最も神聖な墓地とされたレーニン廟の前で、ロックコンサートを毎年開いているロシアが、エストニアを非難できるのか、という声もある。
エストニアは欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)加盟でロシアに対する政治的・経済的独立性を高め、ロシアの恫喝(どうかつ)や経済制裁は以前のようには通用しない。そのエストニアのイリベス大統領は先週、訪問先のグルジアで、「青銅の兵士」撤去でのプーチン政権の抑えた対応について、このように語った。
「ロシアがもしエストニアに干渉するなら、それはバルト海底パイプラインの運命に影響を与えるだろう」
バルト海底パイプラインは、ロシアがウクライナやベラルーシ、ポーランドなどを経由せずに直接、西欧に天然ガスを供給するための計画だ。エネルギーを外交の武器とするロシアの切り札の一つであり、完成すれば、ロシアは西欧の供給先への影響を気にせずに、反ロシア傾向のあるウクライナなどに向けた天然ガス供給をいつでも停止することができる。しかし、専門家によると、バルト海のフィンランド沿いの海底の状況がパイプライン建設に不適当なことが分かり、エストニア領海の海底を通過せざるを得ない公算が高まっているのだ。
「ナッシ」の激しい抗議行動は、公式にはエストニアを非難できないプーチン政権の、鬱憤(うっぷん)晴らしの手段のようである。
(本紙掲載5月12日)
http://www.worldtimes.co.jp/w/rosia/rosia2/kr070512.html