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【21】中東和平と「政治的地平」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200704040025023
中東和平をめぐり毎月のように中東を訪問してシャトル外交を繰り広げているライス米国務長官が最近好んで使っている言葉がある。”political horizon”という言葉である。”the newest buzzword in Middle East diplomacy”「中東外交の最新の流行語」(デビット・マコフスキー近東政策ワシントン研究所シニアフェロー)になっている。パレスチナ国家樹立を遠くに見据えた「政治的地平」という意味のdiplomatic speak (外交用語)である。マコフスキーが言うように、この言葉は”elusive”である。(鳥居英晴)
ライス長官がこの言葉を盛んに使い出したのは今年1月に入ってから。DPA通信(3月27日)によると、ライス長官はシャトル外交での4回にわたる記者会見で、”political horizon”という言葉を少なくとも22回使った。
1月15日のロイター電は”political horizon”について、次のように説明している。
Diplomats have used the term "political horizon" in the past to mean offering Palestinians a credible expectation they would have their own state and that Israeli occupation would end. (外交官はこの言葉を、パレスチナ人に自分の国を持ち、イスラエルの占領を終わらせるという信頼できる期待を与える意味で使ってきた)
ニューヨーク・タイムズ紙(3月24日)は”a diplomatic shorthand for the contours of a Palestinian state”(パレスチナ国家の輪郭のための外交上の略語)と表現をしている。
パレスチナ問題に関してこの言葉が使われ始めたのは、2000年に第2次インティファーダが始まった以降。パレスチナ側がイスラエルに対して、入植地の放棄、占領地からの撤退などを含む”political horizon”を受け入れるよう要求してきた。イスラエルを最終地位交渉(final status negotiations)に引き入れるためのものである。
1月16日のニューヨーク・タイムズは“The Palestinians have used this phrase on occasion to emphasize the need for some sort of timetable for achieving statehood.”(パレスチナ人は、この言葉を国家樹立のためのある種の時間表が必要であることを強調する際に使ってきた)としている。
ライス長官がこの言葉を使っている具体的な例として3月27日、イスラエルのオルメルト首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談した後の記者会見がある。この会見でライス長官は、”political horizon”という言葉を7回使っている。
In their discussions together, the parties will also begin to discuss the development of a political horizon, consistent with the establishment of a Palestinian state in accordance with the Roadmap. As I've noted before, we are not yet at final status negotiations. …The efforts in which they engage will help to build confidence and therefore ease the path to negotiations to establish two states living side by side in peace and security. I will talk to each party in parallel as well to help structure a common approach to discussions of a political horizon – one that will lead us to more concrete and specific steps.
「一緒に議論する中で、関係者はロードマップに従ってパレスチナ国家の樹立に合致した政治的地平の発展を議論し始めるであろう。以前に述べたように、われわれはまだ最終地位交渉に入っていない。・・彼らの努力は信頼を構築し、平和で安全に共存する二つの国を樹立するための交渉への道を容易にするであろう。わたしはそれぞれの関係者と会談するとともに、政治的地平の議論への共通のアプローチを組織することを援助する。それはより具体的な措置を生み出すであろう」
ライス長官は会見で、オルメルト首相とアッバス議長が信頼醸成を目的に2週間ごとに協議を行うことで合意したと発表した。協議は個別のもの、日常の問題だけでなく、”political horizon”についても話し合うと述べた。
ロイター電はこの点について、イスラエル首相府当局者の話として、パレスチナ国家についての実質的な交渉は行われないであろうと伝えた。
"The issues would be security, humanitarian and the political horizon," the official said, the latter term a loose reference to a U.S.-backed vision of a Palestinian state alongside a secure Israel.
「問題は安全、人道問題、政治的地平についてになるであろう」と当局者は述べた。政治的地平とは、安全なイスラエルとパレスチナ国家の樹立という米国が支援するビジョンのことを意味している。
"Political horizon is not about specifics," the official said, appearing to rule out any discussion soon on core issues such as the future of Jerusalem, the borders of a Palestinian state and the fate of Palestinian refugees.
「政治的地平は個別的なことに関してではない」と当局者は述べ、エルサレムの将来、パレスチナ国家の国境、パレスチナ難民の帰還などの核心的問題(最終地位問題)は議論しない意向を示した。
ワシントン研究所のマコフスキーはインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙(2月13日)で、”Political horizon: enticing and elusive”(政治的地平:魅力的で分かりにくい)と題し、次のように述べている。
Rice's idea to provide what she has called a "political horizon" ― a phrase borrowed from the Palestinians ― is intriguing. But given the history of the conflict, its chances for success must be considered slim.
「パレスチナ人から借りた文句である”political horizon”を与えるというライスの考えは興味深い。しかし、紛争の歴史からみて、成功のチャンスは薄い」
The political horizon idea has been given impetus by Arab concern over the ascendance of Iran and other Islamist radicals in the region. But the idea will work only if the Arab leaders provide Abbas with political cover. If they don't, the likelihood is that the political horizon will end up as another mirage.
「政治的地平の考えは、イランと地域のその他の過激イスラム主義者の台頭に対するアラブの懸念によって勢いが与えられた。しかし、この考えはアラブの指導者がアッバスに政治的口実を与えたときにのみ、うまくいくであろう。もしそうしないのなら、政治的地平はもうひとつの幻影として終わるであろう」
キプロスのミドルイースト・タイムズ紙(4月2日)はイスラエルのジャーナリストで平和活動家のウリ・アブネリは“A US pussycat”と題する評論を載せている。
Israel's largest mass circulation daily splashed a sensational headline across its front-page: "Olmert: Within Five Years We Can Achieve Peace!"
「イスラエルの最大の日刊紙はその一面にセンセーショナルな見出しを書き立てた。“オルメルト:5年間で平和が達成できる!”」
What's that? Five years? In 1993 we signed the Oslo accord, which foresaw the final peace settlement between Israel and the Palestinian people within five years. Since then, 13 years have passed, and even negotiations on peace have yet to begin.
「何だって?5年間? 1993年にオスロ合意に調印した。それはイスラエルとパレスチナ人の間で5年間で最終和平合意に達することになっていた。以来、13年が経った。和平交渉さえ始まっていない」
It seems that the "five years" belong to the same world of illusions as Condoleezza's "political horizon:" the more one goes forward, the more it recedes.
「“5年間”はコンドリーザ(ライス)の“政治的地平”と同じ幻想の世界に属しているようだ。前に進めば進むほど、どんどん退いてしまう」
参考サイト
http://www.iht.com/articles/2007/02/12/opinion/edmakov.php
http://www.cfr.org/publication/12972/
http://www.metimes.com/storyview.php?StoryID=20070402-042747-1167r