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□六者合意は北朝鮮への最後通牒になる=田中 均 [中央公論]
▽六者合意は北朝鮮への最後通牒になる=田中 均(その1)
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070228-02-0501.html
2007年3月28日
六者合意は北朝鮮への最後通牒になる=田中 均(その1)
成否の判断が難しい結果に終わった六者協議。その注目点、北朝鮮とアメリカの真意、
そして日本のとるべき道は−−。北朝鮮外交を最もよく知る田中氏に聞く
正しい方向へのステップ
−−二月十三日に合意された六者協議の結果をどう評価しているか。
田中 そもそも、北朝鮮の核開発問題においては、二〇〇五年九月に出された六者協議の共同声明(朝鮮半島の非核化実現)をいかに実施するかが課題であった。今回の合意はその道筋を示したものであり、正しい方向へのステップだと思う。
北京にて六者協議の合意がなるのと前後して、私はロンドンの国際戦略研究所(IISS)、そしてサンフランシスコのアジア協会のセミナーで相次いでスピーカーを務めた。そこでは、今回の合意は一九九四年の米朝によるジュネーブ枠組み合意の焼き直し、もしくはそれ以下だという議論があったが、私はそうではないと感じている。九四年の合意は米朝二ヵ国間のもので、かつその実施を厳密に監視する仕組みがなかった。今回は六ヵ国が合意に関わり、今後の経緯を監視する。合意の中身以上に、六ヵ国が参加したことが重要な意味を持つだろう。
ただ、北朝鮮はこれまで幾度も合意を破り、瀬戸際作戦に持ち込むのを常套作戦としてきた。そのため、北朝鮮に対して日米を中心に強い不信感があり、合意できたから問題が解決に向かっていると楽観視することはできない。
私は北朝鮮の問題に直接、間接に関わって今年で二〇年になる。八七年から八九年に外務省アジア局の北東アジア課長として携わったのを皮切りに、九三年の第一次核危機の際は総合外交政策局総務課長として、日本におけるKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の担当者を務めた。ついで就任した北米局審議官時代は、日米防衛協力に関する新ガイドライン策定の責任者だったが、その前提には北朝鮮をめぐる有事への危機管理があった。そして〇二年の小泉前総理訪朝にアジア大洋州局長として関わった。
これまでの経験を通して、私は北朝鮮に対して、まったく幻想を持っていない。彼らの行動を過大評価も過小評価もしてはいけない。今後の動きをたんたんと検証していくしかない。
−−北朝鮮に合意を遵守させるため、必要なことは何か。
田中 北朝鮮の核開発疑惑は八九年ごろに端を発するが、国際社会は結局阻止できなかった。その要因として、まず日米韓いずれもあるときはソフトに、あるときは強硬に対応し、対北朝鮮政策に一貫性がなかったことがある。第一に必要なのは政策の一貫性だ。また、関係国の連携に失敗した結果、各国間の隙を北朝鮮に利用されてしまった。第二に必要なのは関係諸国の緊密な連携である。
最後に、外交的解決において、自らの主張を一〇〇%通すことはできないものだ。双方がお互いにとって有利である、という形を作らざるをえない。我々が求めているのは北朝鮮の核の完全撤廃と拉致の完全な解決、そのうえでの国交正常化だ。
アメリカでもジョン・ボルトン(前米国連大使)のように、「ならず者国家に報酬を与えるのか」という見方もあるし、日本にも感情的な反発があるが、国交正常化は北朝鮮のみならず日本にも利益のあることだ。たしかに今回の経済援助等は北朝鮮にとり、核開発の対価としてはなかなか大きなものだ。だが、同時に我々にとっても核を放棄させる対価としては高いものではない。とりわけ経済面ではそう言えるだろう。日本も戦前は朝鮮半島北部にずいぶん投資してきた。今後、北朝鮮が市場として開かれれば、日本が得る利益は相当大きいはずだ。また、麻薬をはじめとした犯罪の問題も収束に向かうだろう。
そのようなベストな状況を導くためにも、事態を包括的に考える必要がある。核開発問題だけを単独で解決することはできない。北朝鮮をめぐる問題とは金正日政権の政策全体の問題であり、その点では核開発も拉致も同根だからである。
六者協議では、北朝鮮の核関連施設の停止・封印、その見返りとしてのエネルギー支援、日朝および米朝の国交正常化、将来の北東アジアにおける安全保障スキームの確立といった方向について合意し、それぞれに作業部会を設けることになった。これは非常に包括的なもので、適切な枠組みだ。
−−日本は拉致にこだわるあまり孤立したのではないか、という意見もある。
田中 前述の英米でのセミナーでもそういった指摘があったが、私はそうは思わない。繰り返すが、これは北朝鮮の政策全体の問題であって、核開発だけの問題ではない。多国間交渉である以上、すべてが望みどおりとはいかないが、日本は拉致問題を提起しながら、正しい外交を行ったと考えている。
また日本が当初、エネルギー協力に加わらないことに批判の声もあるが、日本にも事情はある。日本にとって大事なのは、日朝国交正常化の作業部会を梃子にして、拉致問題解決への道筋を作ること。それも行わないうちに協力などできないのは当然だ。
ただ、私がKEDOについてアメリカと交渉したとき、アメリカは日韓がすべて負担するように主張していたが、終わってみれば三国の負担額はほぼ同程度だった。同様に、日本は第一段階の五万トンの重油支援には加わらないが、最終的な一〇〇万トン分への対応については、まだ態度を決めていないだろう。拉致問題を解決することで、協力への道を開くのが日本にとって望ましい流れだ。
北朝鮮に核抑止論は当てはまるか
−−北朝鮮が何を考えているか、外からはわかりにくい。北朝鮮はこの合意をきっかけにどの方向へ向かうのか。
田中 北朝鮮の内部事情は不透明だが、過去の行動から推測するに、彼らの意図は二つある。ひとつは、体制維持のために核兵器やミサイルの開発を進め、とりわけアメリカの軍事攻撃から逃れるための抑止力に使おうという考え。
もうひとつは、経済を改革しないかぎり、このままでは政権が内部から崩壊しかねない、という考えだ。諸外国に依存することなく経済改革を進めるのは不可能で、事実、〇二年七月以降、彼らは配給制度や価格統制を撤廃し、一部の国際機関や国外の専門家を招聘して資本主義制度を研究している。金正日が中国を視察したことでもわかるように、北朝鮮は資本主義の導入を考えている。
私は後者の道筋をとることが周辺国にとっても有益だと考えるが、彼らはまだ決断できていない。体制維持のための経済改革を行おうと国を開いたとき、今の政権が存続できるかというジレンマを解消しきれていない。
−−このところのミサイル発射や核実験は北朝鮮国内で強硬路線を主張するグループが力を持った表れではないか。
田中 北朝鮮の意思決定を行っているのは、軍を中心とした組織だ。それが国防委員会なのか、もう少し非公式な組織なのかわからないが、いずれにせよ、彼らの行動は戦場の論理に基づいている。つまり、戦争全体に勝てるかは別として、かぎられた局面をいかに有利に運ぶかという論理だが、だからといって、彼らが核開発を進め、ミサイル性能を上げることで政権を維持できると考えているとは決め切れない。現状の経済停滞のなかで十分な技術開発を行い、アメリカに対抗できるとは思っていないのではないか。軍人は現実的な見方をするものであり、核兵器やミサイルを牽制の材料として使いながら、経済力を上げる仕組みを作ろうとしているように思う。
ただ、先日のセミナーで同席したペリー元米国防長官も言っていたように、今後北朝鮮と他国との間で極端に緊張が高まるようなことがあると、相手の意図を読み違える危険性が生まれる。軍人は現実的とはいえ、そこで核兵器の使用が選択肢にないとは言えない。伝統的な核抑止論は合理性に基づいている。核兵器を使用すれば逆に攻撃されるから使わない、というものだが、北朝鮮の場合、どこまで当てはまるか。事態がエスカレートした場合、自爆的な行動を起こす可能性がある。そもそも最近のミサイル発射や核実験も自爆行為以外の何ものでもない。
それでもアメリカでは核抑止論への信頼が根強い。彼らは、北朝鮮が二、三発の核兵器を持つことは大した問題ではない、大量生産してテロリストに渡すような事態に陥らないこと、不拡散こそが大事だと言う。それは日本には受け入れられない論理だ。北朝鮮に一部であれ、核兵器が残ることは許容できない。アメリカが大きく政策を変えるとき、核抑止論に基づき、さらなる妥協を進める可能性はある。その際、日本は難しい局面を迎えるだろう。
(その2へ続く)
▽六者合意は北朝鮮への最後通牒になる=田中 均(その2)
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070228-03-0501.html
2007年3月28日
六者合意は北朝鮮への最後通牒になる=田中 均(その2)
−−インドとパキスタンが核兵器を所有し、イランの核開発も阻止できていない。もはやNPT(核拡散防止条約)体制は崩壊したという見方もある。
田中 約三〇年前にNPT体制が発足した際、このままだと今後二、三十年で二五ヵ国ほどが核兵器を所有すると予測されていた。そこから考えれば、NPT体制により、かなり拡散を防げたと言えるのではないか。そしてNPT体制において、北朝鮮にいかにして核兵器を廃棄させるかは極めて大事な前例になる。今回の合意をもとに核開発を断念させられれば、成功例として他に大きな影響を与えるだろう。
アメリカは初めて真剣になった
−−アメリカは対北朝鮮政策に関して最も一貫性がなかったように思える。ブッシュ政権の政策をどう見るか。
田中 アメリカの政策はたしかに揺れた。ブッシュ政権が成立したとき、私はアジア大洋州局長だったが、日米韓三者の政策連携の場で、ブッシュ政権の担当者は九四年の枠組み合意がいかに効果がないか、強い忌避の姿勢を見せていた。政権に大きな影響を与えていたネオコンは、そもそも北朝鮮の体制に問題があると見ていたのだ。
しかし、中間選挙の敗北もあり、アメリカではネオコン的な考えが影を潜めてきた。武力を行使して政権を倒すよりも、外交で物事を解決しようとするニュアンスが強まっている。これは一時的なものではなく、今後も続く傾向ではないか。
それでもアメリカが北朝鮮やイラン、イラクの問題を考えるとき、世界の秩序をいかに安定させるかを第一に考えているということを忘れてはならない。イラクからなかなか撤退できないのも、それが世界の秩序にどういった影響を持つか考えているためである。
北朝鮮について、アメリカは今回初めて真剣になったのだと思う。当面は外交的解決に舵を切ったが、アメリカは決して北朝鮮を信用したわけではない。今回は北朝鮮に外交的解決の道を与え、妥協できるところは妥協した。だが、もう後はない。北朝鮮がさらに誠意ない対応を続けるなら、今度は逆に非常に強硬な姿勢をとる可能性もある。
−−北朝鮮はアメリカのそういった思いを理解しているのだろうか。
田中 理解しないといけない。私が北朝鮮と交渉しているとき、最も与えたかったメッセージは、アメリカは世界の統治に責任を感じている国だから、強硬措置が必要だと判断すれば間違いなく踏み切る、そこを読み違えれば、北朝鮮に未来はないということだ。
日本は積極的なビジョンを示せ
−−アメリカでは二年後に大統領が変わるが、将来の東アジア政策をどう見るか。
田中 アメリカでは政権が変わるときに必ず新しい政策を打ち出す。我々は往々にしてアメリカは自分たちだけで判断すると考えがちだが、日本がいかなる東アジア政策をとるかによって、大きく変わることを忘れてはならない。
アメリカにとって、東アジア政策の核は対中政策だ。中国は大きな問題を抱えながらも成長を続けており、一〇年ないし一五年後には日本と肩を並べる大国になるだろう。これまで東アジアに二つの大国が並立したことはなく、難しい状況を迎えるかもしれない。そのとき日本は、アメリカより先に、日本にとって好ましい世界はこうだ、というビジョンを提示していなければならない。
−−日本に考えられるビジョンとはどのようなものか。
田中 すでに中国は国際経済に取り込まれており、かつてソ連にとったような囲い込み政策はとれない。一定のルールの下で中国が国際社会において健全な役割を果たすことを期待したい。懸念されることは、経済的に大きくなった国は軍事的にも大国志向を強めることだ。中国共産党の単独政権において、軍の役割には不確実性もある。中国が覇権を求めないような仕組みを作らなければならないだろう。
そのために日本は東アジアの安全保障に貢献することを目的として、日米安保体制をより強化するべきだ。たとえば集団的自衛権の行使を一律に禁じていることには問題がある。現状のようなフィクションに満ちた安全保障政策は、他国から見たとき最も危ういものであり、憲法解釈の変更が必要だ。
同時に、東アジアに中国を含んだコミュニティを築くことも重要だ。まずは東アジアサミット参加の一六ヵ国で経済連携協定(自由貿易協定)を結んだうえで、より広い分野の協力関係へと繋げていくのがよいだろう。
安全保障協力の仕組みも必要だ。NATOのようなハードなものでなく、海賊対策、大量破壊兵器の拡散防止、対テロ政策など、各国が共通の利益を持つ分野に関して、具体的な行動をともなう協力が求められる。その中には、アメリカも入らなければならない。日本はこのような多層的な政策を打ち出し、アメリカの新政権の東アジア政策に影響を与えるべきだ。
また、とりわけ北東アジアは不安定要因が多い。北朝鮮の核開発問題のみならず、南北統一、中国の大国化、ロシアの動きなど課題山積だ。六者協議はそういった課題に直接的な利害関係を持つ国々が集まっており、将来的には北東アジアの安全保障上の協力、信頼醸成の枠組みとして大事にしていかねばならない。もちろん北朝鮮の核開発問題、そして拉致問題の解決に全力を尽くし、成し遂げることが大前提であることは言うまでもない。
(たなかひとし/日本国際交流センター シニア・フェロー)