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行方不明になったイランの将軍の正体〜桜井春彦コラム〜
http://www.ohmynews.co.jp/OhmyColumn.aspx?news_id=000000005944
イランの元国防副大臣、アリラザ・アスガリ将軍がトルコで行方不明になり、拉致(らち)説や亡命説、さらに西側のスパイ説が飛び交う騒ぎになっている。今年2月7日にイスタンブールのホテルにチェックイン、その直後に姿を消したのだという。
この将軍はレバノン駐留イラン革命防衛隊の責任者を1980年代から1990年代初頭まで務めていた人物で、ヒズボラ創設に深く関与したとモサド(イスラエルの情報機関)関係者は強調している。またヒズボラなど武装勢力とイランとの関係を示す文書を持って亡命したとする報道もある。アメリカやイスラエルの政府はヒズボラを「テロリスト」だと見なしている。つまりヒズボラとの戦闘は「テロとの戦争」の一環だということになる。
拉致説の中には、イランの反体制派が実行したとする推測も流れている。その容疑がかけられている反体制派はMEK(ムジャヒディン・エカルク)。アメリカ国務省は「テロリスト」に分類しているが、国防総省とは協力関係にあり、アメリカが警護しているイラクの軍事施設をこのグループは拠点にしている。アメリカ軍が今年1月に拘束したイラン人外交官を尋問したのも彼らだとイランでは言われている。米国バージニア州にあるストレイヤー大学のラスール・ナフィシによると、MEKはここ数年、トルコで盛んに活動しているともいう。
3月11日付のイギリス紙『サンデー・タイムズ』は、アスガリ将軍が2003年から「西側」のスパイで、ドイツのNATO軍基地に保護されているとする話を伝えている。イスラエルの新聞は今回の亡命劇は同国の情報機関モサドが「お膳(ぜん)立て」したと報道していた。「ビジネスの成功」を餌にしたとする報道が正しければ、「手口」はモサドを指している。1985年の「アキレ・ラウロ号事件」の段取りをしたとされているヨルダン軍の元大佐はそうしたモサドの誘いに引っかかったとする証言があるのだ。
1983年10月にレバノンでアメリカ第8海兵大隊の本部が爆破され、241名の隊員が殺されるという出来事があったが、モサドはこの攻撃とアスガリ将軍とを結びつけようとしている。
この事件では爆弾を積んだメルセデス製の大型トラックが建物に突入しているのだが、「自爆テロ」の準備が進んでいることをイスラエルはその年の夏に察知、積み込む爆弾の量が尋常でなかったため、アメリカ関連の施設が狙われている可能性の高いことも認識していた。海兵大隊の本部は有力な候補だったはずだが、イスラエル当局はアメリカ側に具体的な警告をしなかったという。イスラエルにとって、この事件を取り上げることは諸刃(もろは)の剣だろう。
ともかく、拉致であろうと亡命であろうと中東で和平交渉が進むことを願わない勢力、例えばネオコン/キリスト教原理主義者やイスラエルの強硬派にとって、アスガリ将軍は切り札的な存在になりえる。この人物の証言をイラン攻撃の口実にすることも可能だ。たとえ「偽情報」でもこの人物の口から出てくれば、それなりの影響力を持つことになる。ジェームズ・ベーカー元米国務長官のような主流派エリートは戦争の拡大を望んでいないが、そうした抵抗を排除するような出来事が起こる可能性も否定できない。
現在、イランで世界の権力グループが衝突している。戦争に突入したい勢力と、それを阻止したい勢力の力比べはまだ決着していない。宣伝になって恐縮だが、そうした緊迫化したイラン情勢をテーマにした『アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る』を3月24日、洋泉社から出版する。中東情勢だけでなく、アメリカや日本の今後に興味のある方はご一読を。
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桜井春彦(さくらい・はるひこ) 調査ジャーナリスト。早稲田大学理工学部卒。ロッキード事件の発覚を機に権力犯罪を調べ始める。1980年代半ばには大韓航空007便事件や大証券の不正をリサーチ。『軍事研究』誌で米情報機関のリポートを執筆。『世界』誌ではブッシュ政権の実態を発表。著書に『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房)がある。桜井ジャーナルでも「非公式情報」を発信中。
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