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(回答先: ハマス対ファタハの内戦?ーー問題点の再整理(付記あり) パレスチナ情報センター:Staff Note 2006.12 投稿者 Kotetu 日時 2007 年 2 月 12 日 23:15:33)
パレスチナ情報センター:Staff Note
2006.06.15
「存在承認」など要らないイスラエル、パレスチナの団結を恐れるイスラエル
Posted by :早尾貴紀
イスラエルがハマスに求めるもの、と、その自己矛盾
イスラエル国家(ユダヤ人国家)の存在をそもそも「承認」していないハマス政権に対してイスラエルは、「イスラエルの承認」・「武装放棄」・「過去の和平合意の遵守」の三点を求めて、それがないかぎりは「ハマスとは交渉しない」という姿勢を貫いています。この一見まことしやかに聞こえる三条件は、しかしどれもが実は取って付けたような理由にすぎず、よくよく考えれば矛盾だらけだということに気がつきます。
「武装放棄」は、ハマスが選挙前から一年以上にわたって「停戦遵守」という形で継続していました。それに対して、多数の一般市民を殺傷しているガザ空爆などをはじめとして、武力行使を停止していないのはイスラエルの側です。「和平合意の遵守」は、主にハマスがオスロ合意の枠組みを認めていないことを指していますが、ハマスはその方向性は示唆していますし、これについてもむしろイスラエルこそが入植地建設拡大や隔離壁の一方的建設などによって、すでにハマス政権誕生以前から和平の枠組み自体を崩壊させてしまっています。
獄中政治犯からの政策提言とアッバースの圧力
そしていまパレスチナのアッバース大統領、つまりイスラエルを承認し妥協を重ねてきたPLOの主流派ファタハのリーダーでもあるアッバース大統領が、膠着状況打開のために打って出たのが、イスラエルの事実上の存在承認を問う住民投票構想です。これは、「イスラエルの存在を認めますか?」と直接的に問うものではありませんが、1967年以前の境界線(いわゆるグリーンライン)を国境とした「ミニ・パレスチナ国家」路線で一致結束しましょうということ(これはファタハではとっくに既定路線となっている)をパレスチナの全住民投票にかけようというもので、事実上のイスラエル承認です。
この発案そのものは、5月はじめにイスラエルの獄中にいるパレスチナの政治犯のリーダーらが発表した政策提言文書18項目に含まれていたもので、この文書はパレスチナのほぼすべての有力党派の幹部らによる共同署名がなされていたことで注目を集めました。つまり、ファタハ、ハマス、イスラム聖戦、PFLP、DFLPです。アッバース大統領はこの政策定言を受け入れる形で、イスラエル承認を強くハマスに求め、ハマスが承認をしない場合にはハマスの頭越しに住民投票の実施を提案し、イスラエル承認を国民的合意とする言って、ハマスに圧力をかけてきました。5月末のことです。
6月、その交渉は決裂しました。そしてアッバースは住民投票の実施を宣言しました。しかし、、、
奇妙なタイミングの一致?
6月というのは、ガザで9日と13日にそれぞれ10人前後にも達する一般民間人の死者とそれぞれ30人を越す負傷者を出した イスラエル軍のミサイル攻撃 があり、またそれ以外の日も連日「活動家の暗殺」が行なわれ、その度ごとに狙われた活動家の何倍もの民間人犠牲者を出していました。ハマス政権を混乱させることを目論む一部党派が手製ロケットをイスラエル側に打ち込むことはありましたが、それまでハマスは停戦を遵守。しかし、 4月から強められてきたガザ攻撃 は、5月末からさらに厳しさを増し、死傷者数は急増してきていました。
このタイミングはやはりイスラエルの政治的意図を感じさせます。ハマス政権に対して「存在承認」を求めていたはずのイスラエルが、まさにその動きがパレスチナ内部から起きているときに、それを促すどころか、正反対にそれを妨害するとしか思えないようなガザ爆撃を強めるのはいったいどういうことなのか。ファタハとハマスとその他の有力党派の幹部が共同署名で、イスラエルの存在を前提としたミニ・パレスチナ国家で協力しようという呼びかけ、そしてアッバース大統領の断固としたイスラエル承認の姿勢。これこそがイスラエルの求めていたものではなかったのでしょうか? それなのに、なぜそれと同時のタイミングでの暗殺作戦(ハマス、ファタハ、イスラム聖戦などの活動家が殺されている)とあまりに多数の民間人殺害(6月上旬だけで30人)。
この疑問に対する一つの説明は、前稿 「暗殺作戦の真の意図は?」 」にも書きましたが、そもそもイスラエルはハマスとは交渉をしたくない、ということがあるでしょう。「一方的国境画定」、つまり西岸主要入植地の恒久的領土化を押し進めるためには、パレスチナ政権が「パートナー」になっては困るのです。
「存在承認」など要らないイスラエル
おそらく、もっとあけすけに言えば、イスラエルはハマスに「承認」などしてもらわなくていい、いやもっと言えば、「承認」などしてほしくない、そういう本音が見え隠れします。すでにイスラエルを承認しているファタハに加えてハマスが承認をし、上記の政策提言署名のように全党派が一致結束してその方向で動けば、実はイスラエルは従来の入植政策について窮地に立たされるはずです。つまり、全党派がもし、「東エルサレムも含めてグリーンライン(67年境界)を越えて西岸地区内部にあるすべてのユダヤ人入植地を一つ残らず完全に撤去せよ。自分たちはイスラエルを承認した。イスラエルはいまの境界線内部でユダヤ人国家をつくればいい。相互承認だ。自分たちが残された小さな土地でパレスチナ国家をつくることを承認せよ。すべての入植地を撤去し、そのために西岸内につくっている隔離壁を撤去し、イスラエル軍の基地と検問所をすべて撤去せよ」と、そう迫ってきたとしたら。これは否定しようのない正論の一つの形です。しかもそれをパレスチナが武力行使なしに訴えてきたら、これに反対できる論拠はイスラエルにはありません。
そのためにイスラエルは、ハマスを挑発して武装闘争に走らせ、「テロリストとは交渉をしない」という論拠をつくりだそうとした、と前稿に書いたことに加えることがあるとすれば、イスラエルが恐れたのは、パレスチナの全党派による一致結束です。それまでのファタハ政権は、一党的利害の追求(独占権益)もあり、イスラエルの領土的主張を受け入れる傾向がありましたが、今度はそうはいきません。全党派が歩調を揃えて「1センチも譲歩する理由はない」と言ってきたならば、国際法に違反して侵略の既成事実を積み重ねる入植地をつくってきたのはイスラエルですから、反論などできるはずがありません。イスラエルはこの政策提言の共同声明を潰す必要がありました。
案の定、停戦を続けた自分の組織のメンバーも暗殺され、あまりに多くの民間人が殺傷されるに及んで、ハマスが停戦破棄を宣言。同時に、獄中政治犯の政策提言から、ハマス幹部は署名を撤回。イスラム聖戦もまた、「アッバースはむしろ住民間に分断を持ち込もうとしている」として署名を撤回(DFLPはどの段階でかは不明だが、すでに署名を外したらしく、DFLPの名前のないバージョンの定言文書が出回っている)。こうして事実上、ファタハだけの署名文書として骨抜きにされて、従来のハマス対ファタハという対立構図を崩すことができなくなってしまいました。これで利益を得るのはイスラエルです。
党派的結束/民族的団結を妨害するイスラエル
パレスチナの党派横断的結束を潰すこと、いや、民族的団結を潰すこと、これこそは、イスラエルが一貫してパレスチナに対して行なってきたことだということに気がつきます。これは以前にここのスタッフ・ノートに書いておいたことでもありますが、かつてイスラエルは、パレスチナの世俗的な民族抵抗運動がPLOのもとに結束することを恐れて、それを妨害するために宗教勢力としてのハマスに肩入れをしていたことがありました( ハマスに対するイスラエル/アメリカのダブル・スタンダード )。今度のことも、それと同じ行動原理から説明可能です。党派横断的な署名文書によって、ミニ・パレスチナで国家建設にパレスチナ人たちが結集していったとしたら、イスラエルは主要入植地を恒久的領土化するという目論見がいかに不当な収奪行為であるかということを、世界中の誰の目にも明らかな形で訴えられてしまう。もしアメリカがそれを擁護し切れなくなったとしたら、、、
率直なところ、いまの情勢では西岸地区の主要入植地の撤去というのは、ほぼ実現不可能と言っていい。イスラエルが「テロ政権とは交渉しない」と騒ぎ立てているかぎりは、国際社会も毅然とした態度は取れないでしょう。しかし入植政策が不法収奪であるという事実は払拭できるはずもなく、そのことを誰よりもよく自覚しているイスラエルだからこそ、今度のようなガザ攻撃の「暴挙」に出た。しかしそう考えると、民間人の命をなんとも思わず平然と自己正当化の手段として利用するイスラエルの政策は、実は狂気の沙汰などではなく、(吐き気のするほど)冷徹な合理性に裏打ちされているのだという気がします。
【附記】
文章のなかに、「全党派がもし、すべてのユダヤ人入植地を一つ残らず完全に撤去せよ。イスラエルはいまの境界線内部でユダヤ人国家をつくればいい、と迫ってきたとしたら」という仮定を記した箇所がありますが、私自身は何度もスタッフ・ノートなどに書いてきましたように、イスラエル国家のシオニスト的性格、つまりレイシズム的性格そのものが問題だと思っていますので、二国家分離案でパレスチナ問題が解決するとは思っていません。念のため記しておきます
http://palestine-heiwa.org/note2/200606150621.print