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朝鮮半島を非米化するアメリカ (田中宇の国際ニュース解説)
http://www.asyura2.com/07/war88/msg/543.html
投稿者 天木ファン 日時 2007 年 2 月 06 日 23:19:42: 2nLReFHhGZ7P6
 

http://tanakanews.com/070206korea.htm

朝鮮半島を非米化するアメリカ
2007年2月6日  田中 宇


 2月8日から始まる6カ国協議を前に、韓国から、アメリカの朝鮮半島政策のやり方を危惧する声が、いくつも挙がっている。

 従来、北朝鮮に対して、ブッシュ政権のアメリカは「先制攻撃も辞さない」といった強硬姿勢をとり、米とは対照的に、盧武鉉政権の韓国は、経済援助や工業化支援などの融和的な政策をとってきた。だから、アメリカが最近、北朝鮮との問題を外交的に解決する姿勢を強め、6カ国協議の再開までこぎつけたことは、韓国にとってはうれしいはずである。

 ところが韓国からは「アメリカは、問題の解決を急ぎすぎている」「このままでは、むしろ米韓関係が破壊されてしまう」「アメリカは北朝鮮と和解して在韓米軍を急いで撤退しようとしている。韓国の安全が危険にさらされている」といった、アメリカにブレーキをかけようとする主張が相次いでいる。

▼北との和解を急ぎすぎるアメリカ

 たとえば、韓国外務省系のシンクタンク(Institute of Foreign Affairs and National Security)のキム・スンハン教授(Kim Sung-han)は、アメリカと韓国が、北朝鮮の核廃絶と、朝鮮半島の和平の進展を同時に進めようとしているのは危険であり、先に北の核廃絶を完了してから、朝鮮半島和平をやるべきだと指摘している。(Scholars cautious over peace regime process on Korean Peninsula)

 最近の米韓の動きを見ると、キム教授の懸念はもっともであることが分かる。1月26日から28日まで、アメリカ国務省の東アジア担当の中級幹部の一人であるキャサリン・スティーブンス(Kathleen Stephens)副次官補が、韓国を訪問した。スティーブンスは、6カ国協議のアメリカの代表者であるヒル国務次官補の部下であり、アメリカと韓国が、北朝鮮に対し、和平条約を結ぶことを提案することについて、韓国政府の外務省や諜報機関、統一院の幹部と話し合った。こうした話し合いが開催されるということは、アメリカは、朝鮮半島の和平進展を急いでいるということである。(関連記事その1、その2)

 韓国の別のシンクタンク(Institute for Security and Strategy)の所長であるホン・カンヒ(Hong Kwan-hee)は、スティーブンスの訪韓もふまえつつ「アメリカは、以前は、北が完全に核開発を放棄したら和平条約を結ぶと言っていたのに、最近では、単に北が作った核兵器を破棄しさえすれば、核開発施設を完全に廃棄しなくても和平条約を結ぶと言い出している」「和平条約の締結は、在韓米軍の撤退につながる。アメリカは、イラク占領の泥沼化で軍事的な余裕がないので、朝鮮半島から早く米軍を撤退させたい。北との和平条約は、韓国に平和をもたらさず、逆に在韓米軍の急な撤退によって韓国を北の脅威にさらす」と、論文(There's Danger in Bilateral N. Korea-U.S. Talks)で警告している。

▼再核実験をしても不利にならない北朝鮮

 以前の記事にも書いたが、ブッシュ政権は以前、北朝鮮に、核開発事業の「完全な、検証可能な、不可逆的な破棄」(CVID)という厳しい核開発破棄の条件をつけていたが、今回の6カ国協議に際し、条件を大幅に緩和した観がある。たとえば、ブッシュ政権の高官の一人で、東アジア担当の国務副長官に異動することになったジョン・ネグロポンテは最近、米議会の公聴会で「6カ国協議の目標は、北朝鮮の核開発施設を凍結することである」と語り、目標を核開発の「廃棄」から「凍結」へと格下げしたことを示唆している。(関連記事)

 北朝鮮側は「凍結」ならすぐにでも受け入れる姿勢を表明している。北朝鮮は、プルトニウムを作っている寧辺(ヨンビョン)の原子炉を停止し、IAEA(国際原子力機関)の査察を受け入れるので、その代わり、原子炉を止めたことによる発電量の不足分を、年間50万トンの石油か、もしくは韓国からの送電で補償してほしい、と米韓中の側に提案してきた。(関連記事)

(北朝鮮はもともと今夏、プルトニウムを含んだ核燃料棒を取り出すために、寧辺の原子炉を停止する予定だったので、原子炉停止は北にとって譲歩ですらないという指摘がある)(関連記事)

 北のこの提案は、1994年にクリントン政権が北朝鮮と締結した「枠組み合意(ジュネーブ合意)」と同じである。ブッシュ政権の北朝鮮政策は、この枠組み合意を破棄するところから始まっている。ブッシュ政権は、北朝鮮の核兵器開発を看過せざるを得ない状況を作り、朝鮮半島の覇権をアメリカから中国に委譲する結果をもたらすという、アメリカにとって自滅行為を行った挙げ句に、自分から破棄した以前の枠組み合意に戻っている。(関連記事)

 2月8日からの6カ国協議がうまく行かなかった場合、北朝鮮はその後、核実験を再挙行する可能性がある。北朝鮮は、昨年10月の核実験が世界から失敗だったとみなされているので、何とか成功する核実験を世界に見せたい。

 北朝鮮が再び核実験を挙行した場合、一時的に交渉は停滞するが、最終的な落しどころは変わらない。今後時間が経つほど、アメリカはイラクやイランの戦争で手一杯になるだろうから、北朝鮮の核施設を空爆するという軍事的な「解決」はもはや望めない。北との和平条約の締結と、在韓米軍の撤退によって解決するしかない。決着点が決まっているのだから、北は再核実験をしても不利にならず、むしろ立場を強化できる。

(待っていれば北朝鮮の政権が崩壊するという、日本人にありがちな予測は楽観的すぎる。崩壊説は現実と食い違っている)

▼北との和解は在韓米軍の撤退につながる

 アメリカと韓国が、北朝鮮と和平条約を結ぶことは、単に朝鮮戦争が「休戦」から「終結」の状態に変わるという外交関係の変化を意味するだけでなく、在韓米軍の任務の終わりをも意味する。和平は、北朝鮮より韓国の国是を大きく変えてしまう。

 1950年6月25日の朝鮮戦争勃発は、北朝鮮が南侵して始まったというのが定説だが、アメリカは相手から受けた攻撃を、あっという間に「正義はアメリカの側にあり、国際社会はアメリカに協力する」という形に発展させ固定化したという意味で「真珠湾攻撃」や「911テロ事件」「1990年のイラクのクウェート侵攻(湾岸戦争)」と似ている。朝鮮半島で戦いが始まった同日のうちに、アメリカは国連で、北朝鮮非難決議をソ連代表不在のまま決議し、北朝鮮と戦う米軍は「国連軍」になった。

(朝鮮戦争は、アメリカがアジアで中国包囲網を形成し、日本や東南アジアなど中国周辺の国々を傘下に置き続ける冷戦体制を作るのに寄与した)

 朝鮮戦争は1953年に休戦したが、この休戦状態を維持監視するために、米軍は「国連軍」として韓国に駐留し続けている。在韓「国連軍」は建前上、欧米など16カ国の軍隊で成り立っているが、在韓米軍が3万人いるのに対し、国連軍のアメリカ以外の要員は約50人のみで、国連軍の司令官は代々、在韓米軍の司令官が兼務している。(関連記事)

 今後、朝鮮戦争の終結が宣言されて代わりに和平条約が発効すると、朝鮮戦争の休戦を維持監視するために存在していた国連軍は必要なくなる。同時に、国連軍の名目で韓国に駐留していた在韓米軍の存在意義も失われる。

▼北朝鮮による韓国の左傾化を黙認するアメリカ

 アメリカはすでに昨年、休戦の維持監視を行う主体を、米軍から韓国軍に委譲することを決め、韓国政府と話し合いを繰り返している。韓国軍は従来、北朝鮮と戦争になったら在韓米軍の指揮下に入ることになっているが、そのメカニズムもいずれ解消することが、すでにアメリカに提案によって米韓で決められている。アメリカは、韓国の安全に全く責任を持たない状態を作りだそうとしている。ブッシュ政権は、2009年までにその状態を作りたいと主張しているが、韓国政府は「早すぎて準備が間に合わない」として、2012年まで待ってくれと言っている。(関連記事)

 実は、このアメリカのやり方には無理がある。韓国は、朝鮮戦争の休戦協定に参加しておらず、いまだに建前上は北朝鮮とは戦争状態だからである。朝鮮戦争は、アメリカにとって都合の良いように始まったが、休戦もアメリカの都合で進められ、当時の韓国政府はアメリカのやり方に反対し、休戦会談に参加しなかった。休戦協定は、中国・北朝鮮と国連(アメリカ)の間でのみ締結されている。

 アメリカは、北朝鮮と休戦せず戦争状態が続いている韓国に、休戦協定の維持監視を任せようとしている。ブッシュ政権は、国際法上の理屈として無茶なことを進めているわけだ。それだけ急いで韓国から米軍を撤退させようとしているということである。

(在韓米軍のベル司令官は最近、休戦協定の維持監視の役割を米軍から韓国軍に委譲することに反対する発言をしたが、その直後に米政府はベルの発言を打ち消した。アメリカの内部でも、韓国からの撤退を急ぐブッシュ政権の政策に反対している勢力が国防省内にいる感じだが、内部の「反乱」はすぐに消し止められている)(関連記事)

 在韓米軍の撤退は、北朝鮮にとってはうれしい限りである。在韓米軍が撤退した後の韓国社会は、北朝鮮を敵視する傾向を大幅に減じるだろうから、韓国の政界では、アメリカの影響下から脱したい親北朝鮮的な左派の勢力が強まり、親米的な右派勢力は弱くなる。北朝鮮側から韓国社会に対する隠然とした反米・反日的な宣伝活動が強まり、韓国は今よりさらに左傾化するだろう。崩壊直前のはずの北朝鮮が、韓国を動かす勢力に化けるかもしれない。韓国の右派勢力は、北朝鮮と急いで和解しようとするアメリカの動きに危機感を持ち、反対している。(関連記事)

 韓国の右派の懸念を無視して、米政府は来年度の予算に、これまで計上していなかった北朝鮮に対する援助金を200万ドル計上した。気の早いブッシュ政権は、すでに北朝鮮との和解実現を予算化してしまった。(関連記事)

▼100年ぶりに中国の傘下に戻る朝鮮半島

 右派とは反対に、盧武鉉政権を中心とする韓国の左派は、ブッシュ政権が提案する北との早期和解の戦略に、積極的に乗っている。韓国政府の高官は、東亜日報に対し、2月8日からの6カ国協議で北朝鮮側が核廃絶に向けた具体的な日程を示したら、米韓は、そのお返しに、北との和平条約について話し合うことを提案すると話している。(関連記事)

 韓国の野党議員によると、韓国政府は今年8月15日(朝鮮が1945年に日本の支配から解放された記念日)に、韓国と北朝鮮の指導者が会う南北サミットの開催を計画し、すでに南北間で事務レベルの議論が秘密裏に行われている。韓国政府は今年9月には、韓国・北朝鮮に加えて中国とアメリカも参加させ、朝鮮戦争の停戦を恒久的な朝鮮半島の和平に置き換えるための4カ国サミットを開く計画だという。(関連記事)

 韓国では、最近の北朝鮮の強硬姿勢を見て、北朝鮮に寛容な左派の政策に懐疑心を持つ人が増え、盧武鉉大統領に対する支持率が低下している。だが今後、アメリカの北に対する和解策が挫折せずに続けば、南北間では再び和平ムードが盛り返し、左派への支持が復活するだろう。韓国では今年12月に大統領選挙があるが、南北和解の傾向が続くと、左派が勝ち、その後も韓国ではアメリカからの自立(非米化)と、北朝鮮や中国との関係強化の傾向が続くことになる。

 韓国の左派は、北の核廃棄を厳格にやらなくても、北が核兵器で韓国を脅すことはないと考えている。その理由は、北が韓国を脅したら、中国が北を叱ってくれるので、中国の覇権によって朝鮮半島の安定が維持されると考えているからである。

 今、韓国と中国の外交関係は良好だ。国際社会では、韓国の潘基文・前外相が国連事務総長になり、常任理事国である中国と協力して「人権よりも安定優先」のアジア式の世界の安定を模索し始めている。中国は、スーダンなどアフリカの安定化に寄与し、イランやパレスチナ問題など中東和平にも首を突っ込み始めている。外交的に余裕のないブッシュ政権は、中国の外交力の拡大を容認している。

 在韓米軍の撤退は、米韓の軍事同盟を終わらせ、韓国をアメリカの傘下から中国の傘下へと移転させ、韓国における親米右派を衰退させ、反米左派を盛り上げる効果を生む。ブッシュ政権の行動からは、それでもかまわないと思っていることがうかがえる。アメリカは韓国を非米化しようとしている。

 ブッシュ政権が韓国を非米化しようとする「隠れ多極主義者」だとしても、2009年からの米の次期政権は、韓国を再びアメリカの傘下に引き戻そうとするかもしれない。だがブッシュ政権は、自分の政権任期のうちに、不可逆的に韓国の非米化を進めようとしている。ブッシュと盧武鉉の思惑通り、今年中に北の核凍結、南北の和解、朝鮮戦争の終結が行われれば、来年(08年)には在韓米軍の撤退が本格化し、韓国・北朝鮮・中国の関係強化が進む。09年にアメリカで次期政権が就任する時には、すでにアメリカが朝鮮半島を取り戻すことはできなくなっている。

 朝鮮半島は、19世紀までは中国の覇権(冊封体制)の傘下にあったが、1894年の日清戦争で日本の傘下に組み入れられ、1945年からは米ソが分割して傘下に入れた。そして今後、このまま事態が進むと、朝鮮半島は再び中国の傘下に戻ることになる。韓国と北朝鮮では、経済格差や社会体制の大きな違いがあるため、南北の統一はかなり先になるだろうが、その前に中国の傘下で南北が共存する時代がくると予測される。

▼日米同盟も終わりに

 朝鮮半島の南北の緊張が緩和されると、在日米軍も存在意義が失われる。在日米軍は朝鮮半島のほか、台湾海峡の有事にも対応することになっているが、台湾と中国の緊張関係も、しだいに緩和されている。台湾の陳水扁政権は、中国からの独立運動を盛り上げようとしたが、ブッシュ政権はこれに対し、以前から隠然と圧力を加えて抑制している。(関連記事)

 台湾の次期政権を狙う政治家たちは、国民党・民進党を問わず、台湾独立運動から距離をおいている。2月4日には「台湾独立運動の父」と呼ばれていた元大統領の李登輝さえ「私は台湾独立を求めたことはない(台湾はすでに独立状態なので、独立運動は必要ない)」などと発言し、人々を驚かせた。(関連記事)

 今後、台中間の緊張が緩和され、台中が関係を安定化する何らかの協約を結んだ時点で「台湾海峡有事」のおそれが激減する。在日米軍の存在意義はすべて失われ、米軍は日本からも正式に撤収することを決める。在日米軍の撤収は、日米同盟の終わりである。今年中にブッシュ・チェイニーが弾劾されたりしてアメリカの外交戦略が反転しない限り、日米同盟の寿命は、おそらく長くてあと3-4年である。日本政府が、防衛庁を省に昇格させることを急ぐのは、当然である。

 最近、久間防衛大臣が「イラク戦争をしたブッシュの判断は間違い」と言い、麻生外務大臣が「アメリカのイラク占領政策は幼稚だ」と言って、相次いでアメリカを批判したのも、アメリカに頼れなくなることに対する心の準備を国民に誘発するためだと考えれば、納得がいく。

 対米従属の終わりは、日本にとって、黒船来航から明治維新にかけてと同じぐらいの大変動になる。日本人の意識に大きな変化を迫るものになる。日本人がこれまでの気楽な対米従属意識を脱したくない場合、アメリカの撤収とともに、日本人は世界を見ない内向きな状態を強め、衰退を甘受することになる。この件については、改めて考えて書きたい。

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