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米国内の反対を無視するイラク増派
ホルムズ海峡の緊張は高まっている
ブッシュ大統領は1月10日全米向けのテレビ演説でイラク政策に言及し、「過ちがあった点については、私に責任がある。戦略を変えなければならない」と語った。
ところがブッシュが発表した「イラク新政策」は、米軍を2万人増派するという方針だ。ブッシュ政権内でネオコンが強引な巻き返しを図り、更なる強攻策に打って出ようとしているのだ。
イラン、パレスチナへ紛争を拡大しようとするネオコンの悪あがきを許すな。
「イラク新政策」は無謀な賭け
「イラク新政策」の骨子は、@現兵力13万人のイラク駐留米軍に計約2万1千人を増派、Aイラク全土の治安維持権限を今年11月までにイラク治安部隊に移譲、B雇用拡大計画など約12億ドルの経済支援、Cイラン・シリアの影響力排除の4点だ。
ポイントはイラク駐留米軍の増強だが、イラク国内の武装勢力をあくまでも力で押さえ込もうとしているのである。ブッシュは増派の理由を、「(撤退は)イラク政府を崩壊に追い込み、かえって米軍駐留の長期化につながる」と語ったが、説得力はない。
これまでブッシュ政権は3度イラクに増派している。それでも米軍への攻撃は増加する一方だ。1月8日時点で米兵の死者は3014人に達した。宗派間対立の犠牲者も昨年下半期は1万7310人となり、上半期の3倍以上になっているのだ。
今回増派される米軍は、イラク軍と合同でバグダッドで治安維持にあたる。しかしスンニ派は「イラク軍と米軍がスンニ派を一掃する宗派浄化を進めている」と反発を強めている。バグダッドにはイラク北部クルド人自治区の部隊投入も計画されており、シーア派、スンニ派、クルド人の三つどもえの抗争が懸念される。イラク南部では、サドル師派民兵組織マフディ軍とイラク警察が衝突し、シーア派同士の主導権争いも激化している。
こんな泥沼の状況を力で押さえ込むことは不可能だ。米中央軍司令官ジョン・アビザイド大将とイラク駐留軍司令官ジョージ・ケーシー司令官は、「もはや軍事的勝利はあり得ない」と増派計画に反対していた。ブッシュは彼らを任期切れ前に解任し、増派を決定したのである。
しかし、アメリカ国民の意志を踏みにじる「新政策」は破綻する以外ないものだ。昨年11月アメリカ中間選挙では民主党が圧勝し、アメリカ国民はブッシュ・共和党のイラク政策にNOを突きつけた。ギャロップ社などが1月9日に発表した世論調査でも、増派計画に「反対」と回答した国民は6割以上、続いてAP通信が11日に発表した調査でも7割が「反対」を表明している。現在連邦議会では新政策を巡って公聴会が開かれており、民主党のみならず共和党議員からも激しい批判が噴出している。
しかしブッシュは、残り2年の任期でイラク情勢を回復させ、自らが掲げてきた対テロ戦争の正当性を証明しようと、国内世論を無視しているのだ。
イラクへの増派計画は、ブッシュとネオコンの無謀な賭けである。
力に頼るだけのネオコンの巻き返し
超党派有識者組織「イラク研究グループ(ISG)」は昨年12月、イラク政策の変更を提言した。提言項目は79に及んだが、最大の柱は@駐留軍の主任務を戦闘からイラク治安部隊の訓練に変更し、段階的な撤退にむけた準備を進める、Aイラク国内の武装勢力の活動を支援しているとされるイラン、シリアとの直接対話を開始するという2点だった。
ラムズフェルドの後任のゲーツ新国防長官は、ISGのメンバーだった。ゆえにブッシュはISG提言を受け入れると期待されたが、「イラク新政策」はこの提言に逆行するものとなった。
その原因は、チェイニー副大統領や国家安全保障会議(NSC)を拠点とするネオコンの激烈な巻き返しにある。それを象徴するのが、かってチェイニーも所属していたシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」が発表した文書『勝利を選択する』だ。ここでは、ISG提言を真っ向から批判している。
ネオコンの軍事理論家フレデリック・ケーガン研究員と、ジャック・カーン元陸軍副参謀長は、『勝利を選択する』のなかで「撤退は苦痛を終わらせない」「我々は勝てるし、勝たねばならない」と主張している。
彼らはイラクに駐留する陸軍と海兵隊の派遣期間を延長し、2年間で3万人の増員を行うプランを提起したのだ。 ブッシュの「新政策」は、『勝利を選択する』を下敷きとしている。ブッシュ政権内ではネオコンと現実主義者の激烈な権力闘争が行われており、ブッシュはネオコンの主張する強硬路線に引きずられたのだ。そこでの最大の問題は、ネオコンはイラクの武装勢力の背後にいるイラン、シリアを叩かなければイラク情勢、ひいては中東の安定はあり得ないと固く信じていることである。
アメリカ海軍大学教授でネオコンの論客トマス・バーネットは、イラク戦争はイラン、シリアとの戦いの口火に過ぎないと明確に述べている。
「『イラクの自由作戦』は湾岸地域全体へ向けたメッセージであり、イラク自体はターゲットというより引き金の色合いが強かった。ビッグバンのターゲットの一つは、もはや自国の未来を築くのを断念したイランの不機嫌な大多数≠セった。またシリアの元首アサドには、これ以上国内改革を遅らせると我が国の忍耐が限界に達すると通達し、レバノンでの対イスラエル紛争の責任はシリア政府にあると考えていることを伝えた」(『戦争はなぜ必要か』講談社インターナショナル)
ネオコンの巻き返しのなかで打ち出された「イラク新政策」は、中東の火種に油を注ぐものでしかない。
ユーロとドルの戦いが始まる
既にブッシュ政権は、イラン攻撃の準備を進めつつある。 米軍はイランを威嚇するため、ペルシャ湾に空母打撃群を2組配備する計画だ。空母アイゼンハワーを中心とする一つ目の部隊は、昨年9月以来アラビア海に駐留し、イランがホルムズ海峡を機雷封鎖した場合に備える機雷除去の訓練を開始している。空母ステニスを中心とする二つ目の部隊は、昨年12月末にアメリカを出航し、1月末にはペルシャ湾に到着する。この部隊には上陸作戦を遂行できる海兵隊の水陸両用艇部隊も含まれており、有事の際にはイラン本土へと侵攻できる体制を整えている。
アメリカによるイランへの挑発行為も開始された。「イラク新政策」を発表直後の1月11日、イラク駐留米軍はイラク北部のアルビルでイラン領事館を急襲し、職員5人を拘束し、書類やコンピューターを押収した。外交官を理由なく拘束するのは明らかにウィーン条約違反だが、それを百も承知で米軍はイランを挑発しているのだ。
1月9日には、ホルムズ海峡で日本のタンカー最上丸と米原潜との接触事故が起きた。事故を起こした原潜は、イランの監視網を避けるため、わざと巨大タンカーに隠れるように航行していた可能性が高い。オイルルートを戦場として、既に水面下でアメリカとイランの熾烈な攻防が始まっているのだ。
今問われていることは、世界各国が共同して、ブッシュの無謀な賭けを阻止することだ。万一イラン戦争が開始されれば、オイルルートの命脈であるホルムズ海峡は閉鎖され、原油価格は瞬く間に急騰して世界経済はクラッシュするだろう。
既にEUはイラン攻撃反対の意志を表明し、国連を中心に外交努力を続けている。EUは同時に、最悪の事態に備えてもいる。ドル経済が破綻しても被害を最小限に抑えるために、ユーロ経済圏を拡大し、ユーロによる原油取引を行っているのだ。
ところが安倍政権は、相変わらずの対米追随を続けているだけだ。安倍は「イラク新政策」に関して「米国の努力がよい成果を上げることを強く期待する」と、早々と支持を表明した。同時に今年7月末に期限が切れるイラク特措法を、さらに1年延長する検討を開始している。
ブッシュの盟友であったイギリス・ブレア政権でさえ、今春までに南部バスラなどの治安権限をイラク側に移譲してイギリス軍を順次撤退させる方針だ。
安倍の対米従属の下で、日本だけがイラクの泥沼に引き込まれていく。安倍がブッシュ・ネオコンと心中する前に、日本の政権交代が行われるべきだ。
http://www.bund.org/editorial/20070125-1.htm