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NYタイムズ:1.2兆ドルで何が買えた?
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2007/01/ny12_7699.html
「1.2兆ドルで何が買えた?」NYタイムズ紙1月17日付けの記事で、経済部のデビッド・レオンハート記者が興味深いレポートをしている。1.2兆ドル−約144兆6,650億円−とは、イラク戦争全体の費用について同記者が試算した金額である。
この記事によれば、イラク戦争の年間費用は2,000億ドル(約24兆1,178億円)。国連人権委員会の報告によれば、昨年1年イラクでは3万4,452人の国民が殺され、3万6,000人以上が戦傷を負った。一方で、仮に世界中の子供に破傷風や百日咳等の予防接種を実施したならば、その費用はたったの6億ドル(約724億円)であるという。
デビッド・レオンハート記者の記事を以下に引用する:
(中略)・・・今から5年前の計画で、国防総省は戦争費用を500億ドルと見積もっていた。議会の民主党スタッフも大筋で合意していた。当時ホワイトハウスの経済顧問だったローレンス・リンゼイは、もう少し現実的に戦争費用を2,000億ドルと予測したが、その発言が一部災いしたのか、彼はブッシュにクビにされてしまった。
そうした予測は、もし戦争が順調であったとしても、結局は非常に楽天的な数字だったのだろう。イエール大学の経済学者ウィリアム・ノードハウスが指摘するとおり、歴史を通して、人々は戦争費用を軽く見積もりすぎている。
しかし、悪化するイラクの状況は、当初の見積が恐ろしく見当違いであったことを知らしめている。ワシントン在住の経済学者スコット・ウォールセン氏の試算によると、ヘリコプター、戦車、燃料費、兵士の戦闘手当、予備役兵や契約事業者への給与、イラク復興費用等々のために、1日あたり3億ドル以上が費やされているという。
つまり1週間で費用は数十億ドルに膨れ上がり、戦争全体でみれば直接費だけですでに7,000億ドル(約84兆4,158億2,800万円)が支払われたことになる。
イラク戦争費用予測でよく知られた2つの研究でも上記費用は見積もられているが、今後の費用予測は分岐している。ハーバード大ケネディ校のリンダ・ビルメス氏と、ノーベル経済学賞受賞者でクリントン政権のアドバイザーを務めたジョセフ・スティグリッツ氏は、イラク戦争の全体費用を2兆ドルと予測している。これには戦争による経済への影響等の間接費も含まれている。
ウォールセン氏は、他の経済学者カトリーナ・コゼック氏と共に、戦争全体費用を1兆ドルとみている。私自身の試算は保守的なものに落ち着いているが、これは戦争がなかった場合にアメリカ国民が使えた実際の金額という部分に焦点をあてているからである。また、3,000人以上の戦死を金銭的費用に換算することもしていない。
軍事上の直接費に加えて、戦争がアメリカ国民に負わせたガソリン税も私の試算に含めている。(イラン、ロシア、サウジアラビア等の石油産出国にとっては利益)2003年初旬、石油は1バレルあたり30ドルで売られていた。それ以来、平均価格はおよそ1バレル50ドルあたりである。ビルミス氏とスティグリッツ氏の話では、この額が5ドル上がると戦争費用予測は1,500億ドルほど増加するという。
戦争は将来の費用にも影を落とす。イラクで使われた軍事設備を交換して合衆国軍を戦争前の状態に再軍備するには1,000億ドルほどかかる。仮に今回のイラク戦争で退役した軍人達が湾岸戦争当時と同様の障害手当や医療手当を受け取るとすれば、その医療費は2,500億ドルに達する。もしも戦傷率がベトナム戦争と同率ならば、費用はさらに上乗せされる。どちらにしろ、ビルメス氏が言うように、「小型のメディケア(高齢者向け医療保険制度)」となる。
経済的観点では、これら医療費は、コンピュータープログラマーや消防士と比較した兵士の生産力の違いであり、また戦傷後の兵士がどれくらい生産性を持つかに依存すると考えることもできる。人間的観点では、昨年ニューヨークタイムズ紙に掲載された若い伍長、ジェイソン・ポールの事例を考えて欲しい。2004年に路肩爆弾で戦傷を負ってから、彼は数百時間を歩行訓練と発話訓練に費やし、現在ではカリフォルニア北部で地域短大と病院の間を行き来する生活を送っている。
戦争費用の試算にどの数字を持ち出してみても、その額は通常ではありえないほど高い。現在、全てを含め、イラク戦争費用は年間で2,000億ドル(約24兆985億円)ほどである。
それに比較すると、心臓病や肥満対策には年間500億ドルかかる。9/11調査委員会の改善案を実施するとしたら−費用が賄えないために議会で実施が停止されている−その費用ははるかに低額だろう。公的保育を提供するなら、費用は350億ドル。アフガニスタンでは、100億ドルあれば事情は相当変わる。国立がん研究所では、年間予算はおよそ60億ドルである。
「イラク戦争で資源に関する我々の思考は歪められてしまった」保守派の研究グループ、『進歩と自由財団』の上級研究員ウォールセン氏は言う。「戦争の文脈では、200億ドルなんて何でもないんです。」
実際、200億ドルという数字は、ブッシュ氏の計画する兵力強化策の追加費用としては悪くない概算である。もちろん、数字だけでは、兵力強化策が悪い考えであるとはいえない。もしもそれがイラク平常化につながるなら、選択肢のひとつとなるだろう。
しかし、兵力強化が他の選択肢−イラク政府には厳しいがはるかに安価な政策とどちらが良いかという単純な議論になるべきではない。問題は、200億ドルあれば達成できる他の政治戦略と比較して、兵力強化案がより良い選択となるかどうかである。
今回は、兵士達がイラクに到着する以前に議論しておいたほうが良いだろう。
(以上)