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五十嵐氏が主張する「今の市場は悲観に傾きすぎ」との見方に、私も賛成である。ただ、その判断の中身に関しては、だいぶ違うように思う。
ひとことで言えば、五十嵐氏は「このサブプライム問題は、大したことはないから大丈夫」といった主張である。例えば、「可処分所得が6%前後増加しているのは心強い」としているが、その6%の伸びは、これまでの堅調な雇用情勢の下でもたらされたものであり、住宅関連や金融関連の雇用鈍化が予想される今後に関して、同様の高率での伸びを期待することは難しい。
また、クレジットクランチに関する見解でも、「米国では間接金融の比率が低い」との指摘の下、楽観的に解釈している。しかし、今回の金融市場混乱は、資産担保CP(ABCP)発行残高の急減に象徴されるように、「直接金融」に近いところが震源となっている。と同時に、証券化でリスクが分散されているどころか、子会社を含め、大手の金融機関にリスクがかなり集中している側面もある。自己資本不足から、クレジットクランチが発生するリスクは小さくないのである。
一方、私は、この信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)を契機とした金融問題を、秋以降、かなり深刻なものと考えている。深刻なものと捉えるようになったのは、本来証券化でリスク分散がされているはずが、実態はそうではないと考えるようになったからである。もっとも、深刻であることは、世界の金融当局者も認めるところとなった。そうであるならば、深刻な事態を回避すべく、何らかの「対応策」が打ち出される可能性が高い。その「対応策」の可能性を想定すれば、「今の市場は悲観に傾きすぎ」と考えられる。
言うなれば、目の前に「落とし穴」が迫っていれば、それを回避するための対応がなされるはずである。五十嵐氏の主張は、その落とし穴は深くないから大丈夫だ、との判断に近い。私は、「落とし穴」があるので、米国は、政府・中央銀行挙げて対応し、落とし穴に落ちないようにする。そこまで考えれば、なんとかできるのではないか。逆に、あまり悲観的に捉えすぎると間違えるという見解だ。
それでは、具体的な対応策として、何を想定しているのか。6つほどある。
(1)中央銀行による流動性の供給
(2)利下げによる景気・資産価格の下支え
(3)大手金融機関の資本増強策
(4)ストラクチャード・インベストメント・ビークル(SIV)の資産買取共同基金の設立
(5)政府支援機関(GSE:ファニーメイやフレディマック)の住宅ローン買取額拡大策
(6)変動金利型サブプライムローンの金利上昇の凍結
このうち、(1)はすでに十分行っている。米連邦準備理事会(FRB)による潤沢な資金供給が、金融機関の資金調達を支援しよう。(2)もこれまで、使ってきたが、これからも有効な対応策だろう。FRBによる利下げによって、市中金利が低下すれば、住宅ローン借り換えや新規の住宅投資を下支えすることは間違いない。また、さらには、利下げによる長短金利差の拡大は、傷んだ金融機関への栄養剤として、中長期的な体力回復に役立つ。
ただ、10月まではこの政策対応で良かったが、11月以降の大手金融機関の巨額損失等により、追加策が待ったなしになった。(3)は大手金融グループの中東マネーによる増資など、具体的なものが出始めたが、今後は、金融業界の再編に向けた大型M&Aなどの可能性もあろう。(4)も、大手金融機関の簿外運用機関の支援策だが、750-1000億ドルで年内設立されるとみられ、その詳細のスキームが待たれるところだ。
(5)は米国議会で審議され、共和党保守派がモラルハザード問題から反対し、難航しているが、実現すれば、借り手保護と同時に、住宅の投売り防止効果が期待される。(6)も借り手保護策だが、変動金利の金利上昇が相次ぐと、住宅ローンの延滞率上昇を招くわけで、それを防止できる効果は大きい。
このように、「この問題は大したことはないから大丈夫」ではなく、様々な対応策が出てくることまで考えれば、悲観的になり過ぎないほうが良いというものだろう。五十嵐氏の「今の市場は悲観に傾きすぎ」との結論は正しいだろうが、その説明は今や周回遅れの見解になりかかっているように思える。
なお、「ドル暴落」のリスクに関しては、私も否定的である。理由は2つある。1つはドル安が進行すれば、日本を含む海外勢からみて、ドル資産が割安になるからである。その割安なドル資産への投資意欲は、いずれ(暴落する前に)復活するはずである。例えば、もし、円ドル相場が1ドル=105円ぐらいに進行したならば、日本の個人投資家などが、それを放っておかないだろう。また、中東マネーや中国マネーも米国資産を買うチャンスをうかがっているのではないか。
もう1つ、こちらは五十嵐氏の主張の中にはないが、極めて重要なものとして欧州中央銀行(ECB)の利下げの可能性が、来年1―3月には意識され始めよう。欧州経済の減速も2008年に入ると徐々に表面化し、次の一手は利上げではなく、利下げということになれば、ユーロ高是正、ドル持ち直しの大きなきっかけになるだろう。