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筆者は9月11日付本コラムに以下のように記述した。
私は米国経済、株式市場の調整はバブル崩壊期の日本ほど深刻にはならないと考えている。詳細は『金利為替株価特報』を参照いただきたいが、米国政策当局の問題対応能力の高さがその最大の根拠である。9月7日の雇用統計で経済の減速を示す数値が発表されることは十分に予想できた。その場合、景気後退を懸念して株価が下落することも容易に想定できた。
だが、そうなればFRBは当然、対応策を発動することになる。FRBはすでに8月17日、公定歩合を6.25%から5.75%へ50ベーシスポイント引き下げた。臨時のFOMC(連邦公開市場委員会)を開催しての決定だったが、FRBの機動力を鮮明に示す行動だった。
9月18日に次回定例FOMCが開催される。FRBはFFレートを5.25%から4.75%へと引き下げる可能性が高い。問題は消費者を中心にした経済主体の心理がどのように変化するかだ。米国の不動産価格の方向が上昇から下落に転じることの影響を軽視すべきではない。米国経済における住宅のウェイトは日本よりもはるかに大きい。住宅と自動車販売、個人消費は不可分に結びついている。住宅市場の調整本格化に伴って米国経済がはっきりと減速することは避けられないと考える。
しかし、株式市場は中期の経済の方向と株価の絶対水準を考察する。米国株価に際立った割高感は生じていない。20倍弱のPERは現在の米国長期金利水準から見て妥当な水準であると判定できる。FRBが経済情勢を総合的に判断して、利下げ政策を適切に発動するなら、米国経済のリセッション入りを回避することは可能であると考える。
日本では9月18、19日に金融政策決定会合が開かれるが、金融市場の不安定性が残存し、為替市場では対ドルでの円高傾向が強まっており、3度目の金利引上げは見送られる可能性が高い。日本では消費者物価が現状でも前年比マイナスを示しており、経済活動にも黄信号が灯っていることから、当面、金利引上げは見送られることになる可能性が高い。
日本経済の基本環境が景気減速、円高、長期金利低下に転換しつつあることに留意すべきである。日本企業の株価には著しく割安なものが大幅に増加している。長期金利が当面、低位で推移するなら、利回りから判断して株価は上昇しておかしくない。内需、好業績、低PERの優良企業に対する投資は好機を迎えていると判断する。
筆者は上述の基本判断を変えていない。9月18日に、FRBは米国のFFレートを5.25%から4.75%へ0.50%ポイントの引下げを断行した。事前の市場予想は0.25%引下げ予想が優勢だった。FRBが大幅利下げに踏み切った意味をしっかり考察することが重要である。
筆者は7、8月に米国株式市場で調整が生じ、日本をはじめとする世界市場が連動することを警告し続けた。しかし、調整はトレンド転換の契機にはならないだろうと予測してきている。その最大の根拠は、米国政策当局の対応能力の高さにある。詳細は『金利・為替・株価特報』を参照いただきたいが、米国政策当局の対応により、米国経済がソフトランディングに成功する可能性は依然として高いと考える。
NYダウは7月19日終値の史上最高値14,000ドルから8月16日の12,845ドルまで1155ドル、8.3%下落した。9月7日には8月米国雇用統計での雇用者減少を受けて、NYダウが250ドル下落して13,113ドルに達した。しかし、9月18日のFFレート引下げを受けて、NYダウは同日、336ドル上昇して13,739ドルに反発した。NYダウは再び史上最高値に接近している。
日経平均株価は7月9日の18,261円から8月17日の15,273円まで2988円、16.4%下落した。その後16,000円台を回復したものの、米国での株価反落に連動して9月10日には、再び15,764円にまで下落した。しかし、9月中旬以降、反発に転じて、9月25日には16,401円に到達している。
筆者は8月31日付の本コラムに、「9月中旬まで株式市場の波乱に警戒を要する」と記述し、9月11日付の本コラムに「7、8月の株式市場の調整局面の陰の極の終盤に差しかかっていると判断する」と記述した。米国のサブプライムローン問題に対する警戒感が強く、株式市場の先行きについては、慎重な見解が優勢だが、筆者は9月中旬以降の株価反発を予想してきた。
2006年央の株価調整は、NYダウが5月10日11,642ドルから6月13日の10,706ドルへ936ドル、8.0%下落、日経平均株価は4月7日17,563円から6月13日14,218円へ3345円、19.0%下落だった。7月から8月にかけての日米の株価調整は昨年の株価調整とほぼ同規模の調整になっており、調整は値幅の面では完了した可能性が高いと考える。
今週、米国では25日(火)に9月消費者信頼感指数、26日(水)に8月耐久財受注、27日(木)に8月新築住宅販売、28日(金)に9月シカゴ購買部協会指数、8月個人消費支出が発表される。
FRB関係者の発言機会としては、25日(火)にプロッサー・フィラデルフィア連銀総裁講演、26日(水)にプール・セントルイス連銀総裁講演、27日(木)にローゼングレン・ボストン連銀総裁挨拶、エバンズ・シカゴ連銀総裁挨拶、バーナンキFRB議長挨拶、ミシュキンFRB理事講演、28日(金)にロックハート・アトランタ連銀総裁講演、イエレン・サンフランシスコ連銀総裁講演、エバンズ・シカゴ連銀総裁挨拶、ミシュキンFRB理事講演、プール・セントルイス連銀総裁講演が予定されている。また、29日(土)には、トリシェECB(欧州中央銀行)総裁講演が予定されている。
国内では、26日(水)に8月貿易統計、28日(金)に9月東京、8月全国消費者物価指数、8月失業率、8月有効求人倍率、8月家計調査、8月鉱工業生産指数、8月商業販売統計、8月住宅着工戸数が発表される。
9月12日、安倍前首相は突然、辞意を表明した。安倍前首相は7月29日の参議院選挙で大敗した際に辞任すべきだった。政治家の資質が問われるもっとも重要な出処進退の判断を誤り、醜態を晒した。安倍前首相は内閣改造を8月27日まで引き延ばしたが、内閣改造8日目の9月3日に遠藤武彦農水相が「政治とカネ」の問題で辞任した。9月9日、オーストラリアでのAPEC総会でインド洋での自衛隊の給油活動継続をブッシュ米国大統領に確約し、「職を賭して取り組む」と宣言した。9月10日に衆参本会議で所信表明演説を行ない、12日には代表質問が行われる予定だった。その直前に辞意が表明された。無責任極まりない「政権投げ出し」だった。
自民党総裁選は9月14日の段階で、麻生派を除く自民党の全派閥が福田康夫氏を支持することを表明したために、福田氏の総理総裁就任の流れが決定的になった。そうであれば、自民党は迅速に後継総裁を決定すべきであった。ところが、自民党は総裁選の日程を9月23日に設定し、新政権の発足は9月26日にずれ込んだ。参院選直後に安倍首相が辞任していれば、8月末には国会を召集できたはずである。ほぼ1ヵ月の政治空白を生んだ責任はひとえに自民党にある。
ところが、メディアは自民党総裁交代、新内閣発足を一大国民的行事として批判的視点を完全に欠如したまま報道した。参院選で有権者は安倍政権に対して明確にNOを突きつけた。NOの意味は、小泉・安倍政権の基本政策に対する評価であったと判断できる。小泉・安倍政権の政策路線に対する明確な総括を示すことが政府、与党に求められている。
今回の突然の安倍政権総辞職、福田新政権発足の大混乱を政府、与党が狡猾に利用していることを明確にしておかなければならない。三つの大きな問題にしっかりと光を当てなければならない。第一は、9月に1ヵ月の政治空白が生じたために、郵政民営化を凍結する法案の審議が極めて困難になったことだ。米国は力づくで、郵政民営化の10月1日実施を確保しようと注力したと考える。郵政民営化凍結法案の民主党と国民新党とによる共同提出が民主党の反対で見送られたが、民主党にその真意を糺す必要がある。
第二は、参議院選挙で有権者が示した民意を総括し、小泉・安倍政権の基本政策をどのように評価し、どのように方向を転換するのかを明確にしなければならない。福田後継の流れを生み出した古賀誠氏、谷垣禎一氏、山崎拓氏は、小泉・安倍政権の基本路線に対して批判的な姿勢を示してきた。ところが福田新首相は「小泉改革の基本精神を引き継ぐ」との発言を示している。経済運営における「市場原理主義=弱者切り捨て」を「セーフティーネット重視」に転換するのかどうかが明確にされなければならない。
第三は、今回の総裁選騒動に「KK(空気を変える)」という政権の思惑が隠れていることだ。ことの発端は参議院選挙での自民党大敗だった。有権者は2001年以降の小泉・安倍政権に対して強烈なNOの意思を表示した。その民意を受けて安倍首相が辞意を表明した。
ところが、自民党総裁選に2週間の時間があてがわれ、その間に主要メディアが総裁選を正規の国民的行事として大々的に報道したために、ほとんどの有権者がものごとの経緯の発端を忘却してしまった。忘れやすい国民をメディアコントロールによって新政権発足祝賀ムードに引きずり込むことが画策されている。「KK(空気を変える)作戦」が展開されていることを明確に認識しなければならない。
国民を覚醒させる責務を負っているのは民主党である。年金保険料流用禁止、政治資金法改正、障害者自立支援法改正、テロ特措法、天下り根絶、郵政民営化の諸問題に対して、毅然とした対応を示さなければならない。
安倍前首相が日本政策投資銀行、国民生活金融公庫、国際協力銀行への財務省からの天下りを断ち切る方針を示していたが、私はその実現を強く疑ってきた。福田政権が発足して最初の試金石がこの問題になる。財務省からの天下りを制度的に未来永劫にわたって遮断する措置を取るかどうかを全国民が監視しなければならない。
インド洋での自衛隊による給油活動については、これまでの給油が米軍のイラクでの軍事活動に用いられていなかったのかどうかが最大の論点になる。国連決議前文に一般的な「謝意」が記されたことなどは瑣末な問題である。問題の本質を見誤ってはならない。
国家が正しい方向に進むためには、国民を正しい方向に誘導する政治勢力が存在することと、国民が賢さを持つことの二つが不可欠である。どちらを欠いても国家は正しい方向に進んでゆかない。民主党をはじめとする野党の責務は重大だ。他方、マス・メディアが政治権力に強力にコントロールされているなかで、国民が正しい判断を続けることは極めて困難であるが、我々はその困難を克服しなければならない。
国民が正しい判断力を備えるうえで、以下に示すブログなどを参照することは有益である。有益な情報は他にも多く存在すると思うので、以下のブログはほんの一例だが、マスメディアが伝えない真実の情報を市民が獲得し、共有することは極めて重要であると思う。
(順不同)
2007年9月25日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀