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投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 8 月 10 日 19:41:15: mY9T/8MdR98ug
 

http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=MMITzv000001082007

参院選、政治バブルの終焉(宋文洲)


 参院選の直前まで私は北京にいました。中国のメディアは、安倍晋三首相の人気もあるのかあまり自民党に厳しい予測をするところはありませんでした。ただ、中国は、食の安全性で議論が白熱している時期だけあって、メディアも日本の政治に関心を持つ余裕がなかったのかもしれません。

 東京に戻ってすぐ、数人の友人と電話で話して初めて自民党の大敗を予告されました。その友人たちの言うとおり、自民党は歴史的大敗を喫したのでした。


 参院選のニュースが世界中に広がった後、北京の友人に感想を聞きましたが、逆に驚いた口調で「何があったか」と皆に聞かれました。私は理由として「年金の記録紛失」問題を挙げましたが、「それは安倍内閣のせいではないだろう」と言われました。それではと「閣僚の失言」問題を挙げたところ、「それは日本の政治家によくあることではないか」と言われました。「閣僚の不明瞭な経費」問題も説明しましたが、「それも特別に酷い話ではないのでは」と言われました。

 外国から見た場合、今回の選挙結果は「予想外」の一言に尽きるのです。この「予想外」にはそれなりの理由があります。安倍内閣は明らかに小泉内閣の流れを継承しているのです。北朝鮮政策などに代表されるように、むしろ安倍氏こそが小泉内閣の人気を支えていたのです。その安倍氏にこれだけ厳しい判断が下されたことを、果たして年金問題や失言問題だけで説明できるのでしょうか。

■小泉内閣から始まった政治バブル

 しかし、日本の有権者が下した判断は冷静かつ真剣なものでした。「自民党をぶっ壊す」と絶叫した自民党の総裁に国民が歓喜し、こぞって自民党に投票したのは遠い昔のことのようです。

 考えてみれば米国のブッシュ大統領が「共和党をぶっ壊す」と叫び、中国の胡錦濤国家主席が「共産党をぶっ壊す」と叫んだら誰でもおかしいと思うはずです。それならまず党首を辞めて新党を作るのが筋です。


 しかし、小泉劇場ではこのロジックが通らない台詞がまかり通ったのです。せっかくの解散総選挙でも郵政問題だけに観衆の視線を集め、「郵政改革一つできないならほかに何が改革できるか」との台詞に多くの「観客」が頷いたものでした。今に思えばあの時点ですでに年金問題は存在していたのです。

 近年、日本の政治が非常に軽薄になっているような気がします。衆院選で大勝した結果生まれた「小泉チルドレン」の一群のはしゃぎぶりや元ライブドア社長の堀江貴文被告の立候補からも分かるように、選挙に勝てば誰でもいいようなムードがあります。

 普通の人が政治家になることはよいことですが、それは軽薄と意味が違います。政治にまったく関心のなかった堀江被告を自民党の幹事長が「弟です」と連呼して選挙に引っ張り出したのはその象徴的な出来事でした。

 堀江被告は落選しましたが、3年連続投票にも行かなかったテレビ局のアナウンサーは当選したのです。政治理念とかではなく、投票しない人があれだけの人に投票させたことはまったく不可解な現象です。

 長年地味に努力してきた同じ自民党のプロ議員の落選と引き換えにそのテレビ局のアナウンサーが当選しましたが、選挙全体への影響は間違いなくマイナスだと思います。

■政治は本来、地味な仕事である


 「政治」という言葉には「正しい文人が水をオサメル」という意味があります。太古の中国では黄河流域に生息する人々の生活を一番脅かしていたのは洪水でした。政治とは堤防(台)を作り洪水から住民の生活を守ることでした。

 政治家にはビジョンや理念も大事ですが、それは住民の生活を守ってからの話です。しかし、ここ数年来、日本の政治家はビジョンや理念を過剰に強調し、それを表現するための台詞とパフォーマンスに大切な時間と労力を注ぎすぎたような気がします。

 古い政治スタイルを改革してほしいとの国民の要望に応えるのはいいのですが、「政治は住民の生活を守る」という基本を疎かにしているような気がします。

 安倍首相が「美しい日本」や「憲法改正」に力を注ぐのはいいことです。若者に愛国心を植え付けようとすることも評価すべきです。しかし、政治とは最終的に一人ひとりの市民の生活を守る地味な仕事であることを忘れてしまったのだと思います。

 安倍首相に欠けているとされるのは、閣僚の不祥事が相次いだことからわかるように、リーダーに必要とされる能力の基本的な部分である「人事力」だと思います。つまり人を見抜く力が欠けているのです。

 この弱い部分と高邁なスローガンやビジョンとの大きなギャップを選挙前に国民にさらけ出してしまいました。その乖離の大きさが膨張した政治バブルの引き金を引いたのです。

■基本への回帰が始まる


 戦後政治を全面的に否定する風潮がこの数年来ずっと続いていました。「改革」さえ言っておけば具体論から逃避できたものです。しかし、果たして戦後の政治はそれほどだめだったのでしょうか。

 金銭体質はたしかにあり、今回もそれが目立ちました。トップがなかなか責任を取りません。人間の本質は数千年も変わらないのです。

 しかし、人間の能力はすぐ変わります。創業者とそのボンボン息子は同じ遺伝子を受け継ぎながら、能力は天と地の差があります。生まれた時から雲の上でいた人達がそのまま先祖の基盤を世襲すれば、人間としての厚みと奥行きに欠けるに決まっています。

 格好良いことを言い、格好良いことをし、人生のどん底をみたことのない人は逆境に弱いのです。これはもう世界中の普遍原理です。


 目標到達できない場合は潔く引退すると宣言し、地味に田舎や工場を訪ねて歩く小沢一郎民主党代表に多くの有権者が古き良き政治家の影をみたと思います。いつまでも改革をしか言わない自民党に対して「政治は生活だ」とはっきり言った民主党に有権者が投票したのです。

 これは明らかに政治の基本への回帰の始まりであり、政治バブル崩壊の始まりでもあるのです。今回の選挙は間違いなくもう一つの歴史の転換点です。悪い方向ではなく良い方向への転換です。そうさせた日本の国民は真に羨ましいと思うのです。


宋 文洲(そう ぶんしゅう)
ソフトブレーン マネージメントアドバイザー
略歴
 1963年中国山東省生まれ。85年に北海道大学大学院に国費留学。天安門事件で帰国を断念し、札幌の会社に就職するが、すぐに倒産。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、92年28歳の時にソフトブレーンを創業。98年に営業など非製造部門の効率改善のためのソフト開発とコンサルティング事業を始めた。00年12月に東証マザーズに上場。成人後に来日した外国人が創業した企業が上場するのは、初のケースとなった。05年6月東証1部上場。06年9月会長を退任し現職に。著書には「やっぱり変だよ日本の営業」「ここが変だよ日本の管理職」などがある。

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