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6月25日8時18分配信 毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080625-00000001-maiall-bus_all
こぬか雨が東京・アキバ(秋葉原)の交差点をぬらす。殺傷事件(8日)から2度目の週末の21日午後、埼玉県の純子さん(28)が献花台で黙とうしていた。
あの男を理解できるか−−。インターネット上で加藤智大容疑者(25)と事件を考えるサークルの「オフ会」の帰りだ。
「フツーの新卒正社員」を夢見ていた。しかし、超氷河期の就職戦線は約30社すべて不採用だった。清掃会社、スーパー、不動産……。短大を出て8年間で12の職場で働いた。
男と同じ25歳で仕事が途切れる。恋にも破れ、行き場のない感情をブログに書き続けた。
<仕事はちゃんとしているのに>
<私は恋愛に失敗したからダメなのかな>
だれからも反応がなく、部屋で泣いた。「心をなくした奴隷として生きればいいんだ」
どん底からはい上がれたのは新しい派遣先が見つかったからだ。「仕事は続けたい。自分が社会とつながっている証しだから」。今年2月、また派遣先との契約が切れた。「正社員でなくてもいい。とにかく、働きたい」
□ □
つなぎがない。
派遣社員だった男は事件前の5日朝、静岡の工場の更衣室であばれた。
名古屋市の職業訓練校に通う酒井徹さん(24)は作業着が頭に浮かんだ。ポケットの少ない化学繊維の「専用つなぎ」である。
事件を報じる新聞を広げて驚いた。工場こそ違う。しかし昨年、愛知県の自動車車体工場で塗装工として働いた。登録派遣会社も男と同じではないか。
男の職場では派遣の契約解除が話題に上がっていたが男は含まれていない。「でも」と酒井さんは言う。「つなぎは仕事に欠かせない。『ない』のを『お前はいらない』と受け取ったのではないか」
酒井さんは工場で車のバンパー単品を塗装前に磨いてちりを落とす作業をしていた。「1ミリのちりでも塗料が引き寄せられて盛り上がり不良品になる」。1日約8時間労働で250個程度を磨く流れ作業だった。
時給1270円は悪くない。1カ月約25万円になった。だが部屋代、つなぎのクリーニング代、食費、光熱費などを差し引くと残らない。食堂の社員割引もない。「正社員が400円のメニューを600円で食べた」
クビは突然だった。
昨年9月、働けるのは派遣半年を迎える翌月まで、と言い渡された。「目の前真っ暗」。加盟労組と団体交渉したが、新しい仕事を紹介されず、寮を追われた。ホームレス一時保護所に駆け込み、路上生活だけは免れた。
□ □
つなぎの件の翌日の6日未明、男はケータイサイトに書き込む。
<あ、住所不定無職になったのか。ますます絶望的だ>
仕事と住まいを同時に失う恐怖。住所を失うとケータイも使えない。通話が止まれば、派遣会社と連絡がとれない。自暴自棄になっていく男の心情が読み取れる。「少しでも行政の制度を知っていれば……」
酒井さんは、一時保護所を出て、再び働きだした。今度は日雇いの工場派遣だった。研修の名のもと、最低賃金すらもらえない外国人研修生もいた。「派遣の待遇改善を」。派遣労組の先頭に立つが、事件後、状況が変わる。
日雇い派遣の原則禁止−−。舛添要一厚生労働相がその意向を示した。歓迎できるが気持ちは複雑だ。「これだけ犠牲者が出なければ制度は変わらなかったのか」
男はアキバへ向かうトラックの座席で何を考えていただろうか。いま、酒井さんは失業保険を得て家賃3万5000円のアパートに住む。同志社大の単位を取りこぼし中退してから、正規雇用の道はまだ開けない。そしてもがいている。
「ハードルは高いが正社員になり、働いてみたい」
◇背景に強い閉塞感
「電波男」の著者で独自の“オタク論”を展開している評論家の本田透さんに容疑者の心の背景を聞いた。
◇
中流だと信じられた時代は努力すればだれでも豊かになれると思えたが、格差が広がり、一度負けたらはい上がるのが難しい。非正規雇用で働くうち社会的にも追い詰められていく。恋愛に居場所を求めもがいたが、そこにも格差があった。ゲームや漫画などに没頭するアキバ系オタクにもなり切れなかった。
人間関係もつくれないこうしたタイプはネット上で、もてない者同士グチりあって気晴らしをしたりする。だが、ここでも適応できず、ケータイ掲示板で独り言のようにぶつぶつ書くしかなかった。どこにも自分の居場所が見いだせず、自分が主人公の物語をつむげなかった。そして、男は1日だけの主人公を目指し、ワイドショー独占と称し“テロリスト”になった。
戦争などで人生をリセットしたいという若者が多い。将来が見えず、現実世界で主人公になれないという閉塞(へいそく)感、不安感が強い。今回のような事件が続く可能性はある。