★阿修羅♪ > 社会問題5 > 513.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
http://www.magazine9.jp/emergency/080423/080423.php
編集部 全国の映画館で、4月に封切り予定だったドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』(李纓監督)の上映中止が相次ぎ、大きな論議が巻き起こっています。一連の問題を、ドキュメンタリー作家としての森さんはどのように見ておられますか。 森 だから政治家のほうもわかっててやってるんだと思っていたんです。それが今になって稲田朋美衆議院議員が、「上映中止は残念。右翼の上映中止運動については、わたしは全然想像していなかった」というようなことを言っている。それでは自分の影響力について最も鋭敏であらねばならない国会議員としてはあまりにお粗末です。 一昨年、週刊金曜日主催の集会で行われた劇団他言無用による皇室パロディが「不敬芝居」として攻撃されたときもそうでしたけど、週刊新潮が書いて、右翼が騒ぐという構造は、何度かの前例がありますから。それを予測しなかったのならあまりに稚拙だし、わかっていてやったのなら姑息です。どっちにしても国政を預かる立場としてはお粗末すぎる。 念を押すけれど批判はいいんです。自分の思想や心情と違うと思うのなら、どんどん批判すればよい。彼女も自分のブログを持っているわけですよね。でも国政調査権を振りかざしながら「議員のための試写会を要求する」というパフォーマンスを結果的には演じたわけです。ならば話は違う。 この帰結として右翼は確かに動いた。でもどの程度の動きかといえば、街宣車一台とか2台のレベルのようですね。銀座の映画館に至っては、21歳の若者が白塗りのハイエースで乗り付けて抗議しただけ。それであっさり上映をやめちゃったというので、抗議をした右翼の若者のほうが面食らっているようです。 編集部 森 政治家もお粗末だし、中止するほうもお粗末だし、右翼もお粗末だし、とにかく全部お粗末だ。――と、思っていたんです。 編集部 森 僕が李監督に聞いた話では、昨年4月の段階で、あの刀匠にも完成した映画は全部見せて、そこで了解をもらったということでした。その場に同席していた人にも確認しました。パンフレットに寄せたメッセージとして「誠心誠意」という言葉までもらったそうです。 それをひっくり返された。確かに干渉です。でも「被写体に作品を見せて了解をもらったのか?」との質問に対しては、李監督は「答える必要はない」と突っぱねるべきだった。見せる必要はないし了解をもらう必要もないんです。モラルとしては最低です。その結果恨まれるかもしれない。ドキュメンタリーを作るならその覚悟をしなくてはならない。その業を背負わなくてはならない。被写体の意に反してはならないのなら、僕はもうドキュメンタリーを撮れません。原一男もマイケル・ムーアも転職しなくてはならない。 編集部 森 僕の『A』や『A2』だってそういう問題はありましたよ。だけど僕は全部踏みつぶした。だからまぁ“鬼畜”なんですよ、ドキュメンタリーを撮る人間なんていうのは。死んだら地獄に行くくらいのつもりで撮らないことにはできないし、そこまでやっても価値のあるものをつくっているんだという矜持があるからこそ、ドキュメンタリーというものは存在しているんです。 『A』の、あの不当逮捕のシーンの警察官だって、彼がもし映像を使うなと言ってきたら、どうすればいいのか。それは常について回ることで、そういう薄氷の上で僕らは作品をつくっているわけなんです。そこをひっくり返されちゃったらもうつくれないですよ。これは同時に映像メディアすべてに共通する問題です。 (※)不当逮捕のシーンの警察官…映画『A』には、オウム真理教の信者が警察官に突き飛ばされた上、転んだふりをした警察官に逆に「公務執行妨害だ」として逮捕されるシーンがある。
森 しかも、この一連の問題について僕がさらに救われないと感じているのは、やるほうもやられるほうも問題の本当の意味を「わかっていない」ことです。 政治家のほうも、単純に「どうやったらこの映画を上映中止に追い込めるか」ということだけ考えてやっているわけでしょう。何もわからないままに、無邪気にパンドラの箱を開けようとしている。後先考えずに手を突っ込んでかき回して、という点では、イラクやアフガニスタンに介入するアメリカとも同じですよね。 編集部 こうした現状に対して、森さんはドキュメンタリー作家として、どう対抗していこうと? 森 下手に反撃してそういう議論になっちゃったらもう、火に油だし悩ましいところですけど、かといってこのまま見過ごすわけにはいかない。だから困っている。意識のある人はみんなまずいと思いながら、困ってるんじゃないかなあ。 ドキュメンタリーの作り手だけじゃなくてすべてのメディア関係者は、みんなもっと危機感を持たないといけない。いまだに最初の入り口で止まって、表現の自由の侵害とか弾圧だとか言っているけど、そんなレベルの話じゃない。それとは違う意味で、とても危ない状況になってきているということに、もっと気づかないといけないと思うんです。 そちらでは、近著『死刑』(朝日出版社)や、9条のことを聞いていきますので お楽しみに! |