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生活保護を考える(上) 単身世帯の高齢者【中日新聞】
http://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2008032202097394.html
2008年3月22日
生活保護を受ける世帯が増えている。普通の生活から、突然貧しい生活に陥ることもある。高齢で働けなくなった、年金だけでは生活できない、離婚で母子家庭になった…。“最後のセーフティーネット”とされる生活保護制度の現状を探った。 (渡部穣)
「これまで一生懸命働いて、税金もきちんと納めてきたのに。どうしてこんなことになっちゃったのかな」。生活保護を受けて二年目の埼玉県内に住む男性(83)は独り言のようにつぶやいた。「楽しみは何もない。毎日どうやって生き延びるかという悩みだけです」
若いころに妻と離婚してから一人暮らし。七十五歳まで道路の工事現場で働いたが、景気悪化と高齢が重なり仕事がなくなった。それから五年後、貯金が底をつき、生活保護に助けを求めた。
男性の一カ月の生活保護費は約十一万円。家に風呂はなく、三、四日に一度銭湯に行く。洗濯機もない。光熱費や家賃などを差し引いた残り約三万円が食費に。「朝食を遅めにとって、一日二食に抑えている。とにかく惨めだ」
「十数年前に夫と死別して急に貧しくなった」という女性(80)も生活保護を受ける。居間のテレビは三十年前に買ったものだ。「もうちょっとお金があるとね。灯油が高くてストーブはほとんどつけないし、こたつも壊れたまま」とため息をつく。腰が悪くて外出できず、週一回デイサービスの介助で風呂に入るのが唯一の楽しみという。
生活保護受給者は一九九五年から毎年増加し二〇〇六年度は約百五十一万人(厚生労働省統計)。生活保護全世帯に占める六十五歳以上の高齢者世帯は47%(〇四年度)で、過去十年間で一・八倍になった。
前出の二人のような、生活保護の高齢者世帯に占める単身世帯は九割に上る。全日本民主医療機関連合会の〇七年調査では、その食費は半数以上が月三万円未満。うち23%が二万円未満という貧しさだ。国立社会保障・人口問題研究所は、二〇三〇年には七十五歳以上の単身高齢者世帯数は倍増すると見込んでいる。
備えがないと、老後の生活は苦しい。六十五歳以降に受け取れる老齢基礎年金は現在、満額でも月額約六万六千円。前出の男性は無年金だが「国民年金をもらっていたとしても少なすぎて、生活保護を受けることになっただろう」と話す。
生活保護基準と世帯収入の差額が生活保護費になるが、国は保護基準引き下げを検討している。「(年金などで生活する)低所得者層との均衡を図る」という理由だ。同じ理由で、国は〇六年、七十歳以上に支給していた月約一万五千−一万八千円の「老齢加算」を廃止した。
生活保護世帯を支援する市民団体「生活と健康を守る会」の幹部は「少なすぎる年金で生活する低所得者世帯と比べて、支給額を引き下げるのは“あべこべ”。長生きすることは罪なのか、国に問いたい」と憤る。
生活保護を受ける高齢者は、社会から孤立する傾向がある。生活保護を受ける後ろめたさに加え、金銭的な余裕がなく、人付き合いを避けるからだ。前出の男性は「外でお茶一杯を飲むのも懐が痛い。人を遠ざけるようになってしまった」。女性も「友人の葬式にも出られない。香典を出せないから」とつぶやいた。
「家にいれば電気代がかかるから」と、男性は天気の良い日は外出し、近くの公園で遊ぶ子どもたちを見ながら考える。「国に何とかしてほしいけど、老後を考えてこなかった自分も悪い。若い人たちには、厚生年金がある大きな企業に入りなさいよ、と言いたい」