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http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=429
メディアで大きく報道された志布志および富山の冤罪事件を受け、警察庁は2008年1月、「警察捜査における取調べ適正化指針」を発表した。しかし、アムネスティは、今回発表された指針を検討する限り、このままでは同じような人権侵害が繰り返される危険が続くだろうと危惧している。 今回の指針は、上記2事件に関する警察内部による調査報告書を受けて発表されたものである。しかし、今回の調査は警察の内部調査にとどまり、独立した公的調査ではいない。 日本での取調べ体制については、代用監獄により警察留置場に身柄を確保した上での捜査が常態化していることや、弁護人の立会いを認めないことなど、国際基準に反する点が多い。すでに、1993(注1)年と1998年(注2)の国連の自由権規約委員会での日本政府報告書審査の際にも、また直近では2007年5月の拷問等禁止委員会による審査(注3)の際にも厳しく追及され、委員会の最終見解で具体的な改善策が勧告されている。しかし、それにも関わらず、日本政府はこれまで抜本的な改善を怠ってきた。 今回の指針では、警察内に取調べを監督する部署を設けるほか、「覗き窓」の設置などを盛り込んでいる。だが、国際的な条約機関から度重なり勧告されている取調べへの弁護人の立会いの保障やビデオ監視、第三者機関による監視などには触れられておらず、各種捜査取調べ技法のうち、拷問や虐待にあたると考えられるものを明確に禁止し、犯罪化することも見送られている。 特に、長時間かつ深夜にわたる取調べは、指針により、なお可能となっている。指針では、午後10時から朝の5時までの取調べと休憩時間等を除き1日当たり8時間を超えて取調べを行なう場合について、警察本部長又は警察署長の事前の承認を受けなければならない旨規定し、「やむを得ない理由がある場合のほか」深夜に又は長時間にわたり取調べることを避けなければならないとしている。しかし、「やむを得ない理由がある場合」という要件が不明確なままであるため、濫用がチェックできない。同様の記述は、被疑者の身体に接触することを禁じる「監督対象行為」にもあるが、「やむを得ない理由がある場合」が万が一あるとしても、規定では、そのような場合を明確に限定して列挙しなくては保障措置とはならない。 また、「有形力の行使」や「一定の動作又は姿勢をとるよう強制すること」などを含む「監督対象行為」が列挙されているが、これらを類型的に禁止しても、警察取調べ室内での状況について客観的に検証できる仕組みが存在しないため、違反行為があっても、それを後日争うことが難しい。また、こうした「監督対象行為」は、国家公安委員会規則に記載するとされているのみで、犯罪化は図られておらず、違反に対する処罰も明らかではない。 最も重要な取調べ段階の記録や監視については、「覗き窓」の設置のみで、取調べ室内への録音録画の導入や、取調べ中の弁護人の立会いを依然認めていない。しかしこれらは、条約機関から再三勧告されている点であり、海外の例を見ても、録画録音、弁護人立会いは避けることができない必須事項である。警察庁は、取調べの全面的な可視化を直ちに進めなければならない。 こうした諸問題の淵源には、代用監獄制度そのものがある。国際基準において、捜査取調べ段階での身柄拘束は、あくまでも例外である。それにも関わらず、日本においては身柄確保が常態化し、その執行場所が警察留置場になっていることが問題である。アムネスティはこれまで、代用監獄制度が発端となって発生した人権侵害の事例の報告を受けている。現在の態様の代用監獄を廃止しない限り、日本での拷問や虐待に対する保障措置は不十分なものにとどまるだろう。 指針では、人事関連で、「技能伝承官」の設置に触れている。「取調べを始めとする各種捜査の手法や適正捜査の在り方を的確に伝承するため」と規定されているが、文書ではなく「技能伝承」として伝えられる中で、国際人権基準から見て不適切な技法が混入しないよう、効果的な監視体制が必要である。また、人事管理を進める上でも、「勤務成績」、「昇進」、「功労」を求めるあまり、行き過ぎた取調べが起こらないよう、国際基準を徹底的に遵守するよう促進することが求められる。 また、今回の警察庁の指針に関連し、警察庁だけでなく、日本政府の関係当局それぞれが措置を講じる必要があることも、問題点として浮き上がった。 拷問等に基づいて収集された証拠は、これを採用してはならない。その点を徹底することで、捜査取調べ官による行き過ぎた捜査取調べを抑止することができる。今回調査の対象となった事件のようにその任意性や内容に異議が出された供述証拠は、これを司法手続きおいて採用してはならないことを保障する制度を構築するべきである。 さらに、安易な身柄拘束を防止するためには、本来、司法府が適切な判断をする必要がある。検察側からの被疑者の身柄拘束の請求が極めて高い率で裁判所により認められている現状は、司法府のチェック機能が機能していないことをうかがわせる。こうした点はすでに1998年の自由権規約委員会の日本政府報告書審査でも触れられている。日本政府はただちに、具体的かつ有効な改善策を講じる必要がある。 本年10月、国連の自由権規約委員会は、日本政府報告書の審査を十年ぶりにおこなう予定となっている。日本政府は、今回の問題を含め、政府報告書に記載した2004年以降に発覚した問題についても、誠実に報告を果たすべき義務がある。 日本の司法改革を進めるためにも、また、日本政府が負っている国際的な責任を果たす努力を示すためにも、日本の刑事司法制度に対する国際人権基準に沿った抜本的な改革が、今ただちに必要である。 *「警察捜査における取調べ適正化指針」は警察庁のhttp://www.npa.go.jp/keiji/keiki/torishirabe/tekiseika_shishin.pdf" target="_blank">ウェブサイトを参照。 注1:自由権規約1993年政府報告書審査の際の最終見解はhttp://www.nichibenren.or.jp/ja/humanrights_library/treaty/liberty_report-3rd_observation.html" target="_blank">こちら。 自由権規約の正式名称はhttp://www.nichibenren.or.jp/ja/humanrights_library/treaty/liberty_convention.html" target="_blank">「市民的及び政治的権利に関する国際規約」。 注2:自由権規約1998年政府報告書審査の際の最終見解はhttp://www.nichibenren.or.jp/ja/humanrights_library/treaty/liberty_report-4th_observation.html" target="_blank">こちら。 注3:拷問等禁止条約2007年5月政府報告書審査の際の最終見解(暫定訳)はhttp://www.jca.apc.org/cpr/2007/zantei.pdf" target="_blank">こちら。 拷問等禁止条約の正式名称は、http://www.nichibenren.or.jp/ja/humanrights_library/treaty/torture_convention.html" target="_blank">「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い 又は刑罰に関する条約」。 アムネスティ・インターナショナル日本声明 2008年1月30日 |