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http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080103k0000m040067000c.html
北方事件:佐賀県警が鑑定細工か
佐賀県旧北方(きたがた)町(現武雄市)で89年に3女性の死体が見つかり、時効直前に起訴された元運転手(45)の無罪が確定した「北方事件」で、当初の「見込み捜査」とつじつまを合わせるため県警捜査本部が証拠となる鑑定に「細工」をしたと、検察側が判断していたことが分かった。被害者の一人に付着した体液が当初、元運転手と別人のものとみられたため、付着の時期を事件当日からずらしたという。検察側は公判段階で一時、鑑定のやり直しを検討していた。
関係者によると、県警科学捜査研究室(科捜研)は事件発覚直後、被害者の一人で縫製会社勤務の女性工員(当時37歳)の胸部に付いた唾液(だえき)からA型の血液型を検出。下半身に付着した体液は当初、O型とされた。捜査本部は女性工員と交際中で、血液型がA型の元運転手を4日連続で事情聴取するとともに、被害者周辺にO型の男性がいないかについても大がかりに捜査を進めた。
しかし、同年10月に元運転手が覚せい剤取締法違反で逮捕・起訴され、起訴後の「任意」(のちに裁判所が違法捜査と認定)の取り調べで3人殺害について追及したところ、計65通の「上申書」で「自供」。この直後、県警はO型とされた体液について、外部の鑑定医に付着時期の鑑定を依頼し、事件当日ではなく約1日前に付着したとの鑑定結果を得た。
こうしたことから検察側は、女性工員が事件当日にO型の男と接触していれば元運転手の「自供」と食い違いが生じるため、捜査本部がつじつまを合わせようと付着時期の鑑定に「細工」をしたと判断。控訴審の際、福岡高検を中心に鑑定のやり直しを検討したものの、裁判所から証拠として認められないとの意見が出て、実施は見送られたという。
O型とされた体液は結局、02年の起訴後に結果が出た警察庁科学警察研究所のDNA型鑑定で元運転手のDNA型と一致。体液は血液型がはっきり検出されにくく、O型と判定されやすい「非分泌型」だったとされた。
裁判所は体液を元運転手のものと認定したうえで、付着時期の鑑定に基づき「事件前日に関係を持っており、当日に接触した裏付けにならない」と判断した。
当時、捜査を指揮した県警捜査1課の幹部は「当時のことを検証し、そう評価をし、そういう見解をもってるならそれはそれで仕方ない。私がどうこう言う立場にない」と話している。鑑定医は「科捜研の資料を見て判断しただけ。仮に(細工を)頼まれてもそんなことはしない」と関与を否定している。【松下英志、石川淳一】
▽北方事件 89年1月、佐賀県旧北方町(現武雄市)の山中で女性3人の遺体が見つかり発覚。うち一人と交際していた元運転手が同年10月に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、3人殺害を認める上申書を作成したが、否認に転じたことなどから当時は立件が見送られた。被害者のうち一人の時効直前の02年6月、元運転手は逮捕されたが、検察側が立証の柱とした上申書について裁判所は「任意捜査の限度を超えた違法な取り調べ」として証拠採用せず、07年4月に無罪が確定した。事件を巡っては▽遺留品の記載ミス▽被害者に付着した体液をふき取ったガーゼ片の紛失▽取り調べ時間の警察庁への虚偽報告−−など捜査への信頼性を揺るがせる問題点が明らかになった。
毎日新聞 2008年1月3日 2時30分