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□薬物依存症：若者中心に広がる 突き放しが最善の治療法 ／新潟 [毎日新聞]
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薬物依存症：若者中心に広がる 突き放しが最善の治療法 ／新潟
7月8日12時1分配信 毎日新聞
◇甘やかしは愛情ではない−−「家族の会」世話人・小西さん
覚せい剤、大麻、合成麻薬などによる薬物依存症が若者を中心に広がっている。薬が切れると強い離脱症状が起き、心身に異常を来す人は全国で推定２５０万人に上るといわれる。１９歳で覚せい剤に染まった長男（２９）を持つ「県薬物依存症者を抱える家族の会」世話人、小西憲さん（５９）＝川口町西川口＝と妻美代子さん（５４）は、壮絶な経験から「親が愛情を込めて面倒をみるのではなく、突き放すことが最善の治療法」と断言する。だがそう話せるまでには５年の歳月がかかった。【根本太一】
「家には入れない」――。０２年２月のある寒い夜、川口町のＪＲ越後川口駅の小さな待合室で、２人は福島県のリハビリ施設「磐梯ダルク」から逃げ出した長男に施設に戻るよう説得し続けていた。
「なぜ？ 息子だろ。だったら死ぬかも」。長男が自殺をほのめかしてすがっても、決して首を縦には振らなかった。福島方面行きの最終電車が出て行くと、「車で送るから。施設に戻りなさい」。憲さんは震える声を振り絞った。「家に帰りたい」となおも救いを求める長男に使い捨てカイロだけを渡して、１人その場に残した。翌朝、長男が福島には向かわず、長岡駅までの切符を買って始発に乗ったと駅員に知らされた。
長男は２日後の夜に自宅に戻ってきた。長岡駅で野宿をしていたらしい。玄関をたたいて「入れて」と叫んだが、憲さんは鍵を開けなかった。同居の義母は泣きながら「それでも親か」となじったが心を鬼にした。そして警察に保護を依頼した。狭い集落をパトカーの赤色灯が照らした時には、もう涙は枯れていた。
◇ ◇ ◇
長男の異常を察したのは東京都内の専門学校に入学して１年後の９７年。半年で退学していたことが分かり、新潟に連れ帰って通院させたが、１年後、医師に見放された。「東京で覚せい剤をやっていたそうです。薬物依存症です」と知らされた。深夜のアルバイト仲間に誘われ、薬を始めたらしい。医師から県立精神医療センターへの入院を勧められた。
入院後、脱走を繰り返した上、看護師の詰め所から抗うつ剤を盗んだり、患者の薬もかすめた。通院時には薬局から風邪薬も万引きした。市販の風邪薬を大量に摂取すると覚せい剤と同じ効果があるためだった。そして自宅ではリストカットを繰り返した。
「親の愛情が足りなかった」。美代子さんは自分を責めた。「私が救ってあげる」。病院を見舞い、万引きしたと分かれば店に行って代わりに頭を下げ続けた。自殺の防止のため家の包丁も隠した。気を張り詰めた暮らしに、家族全員が疲れ切っていた。そんな時、ダルクの存在を知った。
「Ｄｒｕｇ Ａｄｄｉｃｔｉｏｎ Ｒｅｈａｂｉｌｉｔａｔｉｏｎ Ｃｅｎｔｅｒ」（薬物依存症回復センター）の頭文字を取った民間リハビリ施設。担当者の言葉は一つだった。「この病気は治りません」。行き先は、病院か刑務所か、遺体置き場か――。ただ「自律」への道も残されていると言う。
ダルクでは、家族から「突き放された」依存症者が共同生活する。薬を続けるのも自由だが、待っているのは破滅の道だ。入所者は薬を断ち切れないで堕（お）ちていく者、更生する者をじかに見ながら自分の生き方を選択する。
施設を出ることも可能だが、家族は追い返すよう指導されている。「甘やかしは愛情ではないんですよ。親が毅然（きぜん）としないと、彼はずっと『半殺し』の状態なんです。本人も家族も『共倒れ』してしまいます」と憲さんは確信している。
長男はその後、都内の別のダルクに自ら移り、仲間に支えられて暮らし、更生を目指している。先月１８日手紙が届き、Ｂ５判１枚の便せんに「自分は、自分の歩幅で歩いています」としたためてあった。
憲さんは長男を施設に追い返して間もなく、同会（電話０９０・８７２３・３７１５）を設立。現在２０家族が入会し、月１回例会で家族同士支え合っているほか、フォーラムなどを開催しており、依存症者を抱える家族の参加を呼びかけている。
７月８日朝刊
最終更新:7月8日12時1分
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