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規制緩和論者の詭弁が事故招く 「民営化信仰」から脱会しよう〜(2) 2007/06/20
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前回記事:旧道路公団「民営化で黒字」のからくり 「民営化信仰」から脱会しよう〜(1)
鉄道・バス等の交通関係の業種については、民営化とともに、規制緩和による安全性低下、公共交通サービスの事業廃止やサービス低下が問題となった。規制緩和について簡単に整理しておくと、(1)事業の参入・撤退や、料金の設定に関する「需給調整(規制)」と、(2)安全性やサービスの質に関する「質的規制」がある。これは、今回のテーマの運輸部門にかぎらず、マンションや福祉サービスなどでも同様である。
1980年代における民営化の議論に関しては、まず安全性の低下の懸念が指摘された。競争原理によるコスト節減で、安全がおろそかになるという指摘である。これに対して規制緩和論者は、市場メカニズムの働きにより質の低い事業者は淘汰されるから、安全性は低下しないと主張した。「『競争を促進すれば安全性が低下する』という議論は需給調整規制を正当化するための大義名分以外の何者でもない」と豪語する論者さえあった。(*1)
しかし現実の結果はどうなったであろうか。典型的な例は、2007年2月のスキーバス事故(*2)である。これは、規制緩和の結果として参入が可能になった小規模なバス会社が、コストを切り詰めて無理な運行を行ったために起きた事故である。
前述の論者によると「多くの産業では、事故の当該産業に与える影響は過去の経験から十分推測でき、競争の促進が事故の際の消費者離れを過去のケースよりも深刻にすることはまともな経営者ならば容易に理解できる」というのである。つまりリスクは予見できるから、経営者はそれにより経営に支障を与えるような損失を招くまで安全性を低下させることはないという説明である。
前述のスキーバスの事故は、社長の息子がみずからハンドルを握るという小規模な会社で、コストを切り詰めるために、その息子が連日のように徹夜運転を繰り返していた状況で発生した。漠然と不安は感じたかもしれないが、とりあえず今日は無事だったから、明日もなんとかなるだろうという程度の判断であったと思われる。このように、組織がごく単純な小さな会社でさえも、リスクの予見・回避はできないのである。
まして、鉄道や航空機のように、複雑な技術の組み合わせと、多数の人間がかかわるシステムになると、そもそも経営者がコストとリスクの関係について把握することなどは不可能である。コスト削減のための分社化や外注化が、それをますます困難にする。つまり、規制緩和論者の説明は、「規制を緩和しても安全性は低下しない」という結論のために、予見性という前提を必要としただけであって、前提と結論が逆である。
しかも市場で適切な選択が行われるには、利用者が、どのくらいコストを切り詰めたら、どのくらいリスクが上昇するのか、知っていなければならない。しかし、利用者がそれを知る機会があるとすれば、選択する際にではなく、実際に事故に遭遇した時に知るのである。このような不合理を避けるため、安全性に関する基準などの質的規制が必要とされているのであって、規制緩和論者の説明は詭弁である。これらの議論の詳細は、拙著(*3)を参照していただきたい。
サービスや情報公開の面ではどうだろうか。1980年代の国鉄民営化の議論のころ「民営化後の組織は、役所(官僚)と企業(営利優先)の悪いところを合わせた組織になる」と危惧する意見があった。経営体制や意思決定、利用者に対する姿勢は役所のままで、行動原理だけが営利優先になるという最悪の選択である。これこそ、いま日本全体が向かっている方向ではないか。国鉄が世界に先がけて、新幹線を成功させたのと同じく、負の側面でも、国鉄は未来を先取りしたのである。
ある自治体の方が、地域交通について筆者の事務所にヒアリングに来られた。ラッシュ時の鉄道の混雑がひどいので、車両を増結してほしいと、JRの地域支社に申し入れたところ、「列車が混雑していないと本社に申しわけが立たない」と断られたという。「姿勢は役所、行動原理だけ営利優先」という好例ではないだろうか。その歪みが、より極端な形で噴出したのが、JR西日本の福知山事故であろう。
情報公開の面でも、国鉄時代は、経営、事故、労務などにかかわる各種統計が、誰でも購入できる公刊統計として公開されていたが、民営化後はそれらの多くが非公開になった。これも前回の高速道路会社と同じである。
JRは、民営化後、大都市周辺で一定のサービス改善を(JR福知山線事故のような歪みを抱えながらではあるが)行い、一見すると「民営化成功」の印象を作り出すことに成功した。しかし地方部でのサービス低下は著しく、前述の自治体のような状況である。また、筆者の記事「JR中央線線路切り替え工事のトラブルにみる『JR型事故』」で指摘したように、事故も多い。(次回は社会保険庁編)
(*1)『規制破壊〜公共性の幻想を斬る』東洋経済新報社、1995年、p.147
(*2)2007年2月19日、大阪府吹田市で長野県内のバス会社のスキーツアーバスがモノレールの高架橋脚に激突し、乗員・乗客26名が死傷した。
(*3)『クルマの不経済学』北斗出版、1996年。
(上岡直見)
JANJAN
http://www.janjan.jp/living/0706/0706177455/1.php