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旧道路公団「民営化で黒字」のからくり 「民営化信仰」から脱会しよう〜(1) 2007/06/19
各社報道によると、高速道路会社、すなわち旧道路公団を民営化した会社(*1)が、2007年3月期に黒字を計上したという。
しかし、2005年10月にこれらの高速道路会社が民営化会社として発足したとき、過去の累積債務が41兆6,000億円あった。そして2006年度の国全体の高速道路事業事業にかかわる金の出入りを合算してみると、料金収入等が2兆3,598億円に対して、運営や建設など本来の事業に1兆3,149億円と、債務と利子の返済に4兆6,083億円が支出されている(*2)。これでなぜ「黒字」になるのだろうか。
1980年代、国鉄・電々公社などの民営化と、それらの事業分野での規制緩和が大きな政治課題となり、それぞれ現JR・NTT、およびそれらの関連会社として民営化された。次に2000年代になって道路公団が問題となり、2005年に道路会社が民営化された。しかし、これらの一連の政策が、実際に国民の利益につながったのかどうか、きわめて疑問である。そろそろ「民営化信仰」から醒めるときではないだろうか。
高速道路が「黒字」の説明は図のようになっている。高速道路会社(図1の緑)の発足とともに、独立行政法人の「日本高速道路保有・債務返済機構(図1の水色)」が設立された。債務返済機構は、旧道路公団の債務を引き受けるとともに、道路資産を保有し、高速道路会社に貸付けて貸付料の支払いを受ける。これまでに累積した債務は2051年までに完済するとの計画が立てられているが、その実現を本気で信じる者はいないだろう。
図1.「独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構の業務概要」『高速道路と自動車』49巻6号、2006年、p.48より。
図1の(1)が示す高速道路の料金収入は、道路会社を素通りして債務返済機構に支払われる。また(2)で示すように、道路会社が建設のために借り入れる債務も、やはり道路会社を素通りして債務返済機構に帰属する。そして債務返済機構は、建設された既存・新規の道路資産を保有するとともに、(3)のように債務を返済する。このうち緑の境界だけを見れば「民営化によって黒字になった」という「神話」ができ上がる。
また民営化の過程で議論された、採算性の低い道路が際限なく作られるしくみについては改善されたのだろうか。道路会社と債務返済機構は、「協定」と呼ばれる手続きで相互の業務計画を策定し、国土交通大臣の許認可を受けることになっているが、これは関係者の間での内輪の手続きにすぎず、この間に議会や第3者のチェックもなく、官僚の裁量で決まってしまう。
つまり、図1の赤線のように区切ってみると、「借金を返すために借金を重ねる」という財務体質も、不透明な意志決定システムも、何も変わっていない。これが猪瀬直樹氏(こんど東京都副知事になるらしい……)が大騒ぎした道路公団民営化の結末である。
また図1の枠組みと別に、採算性(費用対効果)が低いなどの理由で、道路会社が運営することが適切でないと判断された道路については、道路会社が介在せずに国と都道府県の負担により建設する方式(新直轄方式)が新たに設けられた。また「財投機関債」という新しい財源調達システムが作られた。道路会社と債務返済機構の負担を軽減する措置とされるが、このために「むだな道路」がいっそう作りやすくなった面もある。
また道路事業が及ぼす影響(道路公害、財政負担、交通状況の変化など)を第3者が評価することも、より困難になった。これらの評価に必要な各種の専門的情報について、旧公団は情報公開法で定める「行政機関」に該当したため、同法の対象となった。しかし民営であるという理由から、道路会社は対象外となる。「民営化」されたために、かえって不透明性が増しているのである。
民営化(場合によっては分割を伴う)によって、国民により良いサービスを、より効率的に提供するというのが、民営化の理念であったはずである。今回の高速道路についてみた場合、その理念が達成されたと考える人はいないであろう(次回は「鉄道・バス編」)。
(*1)東日本高速道路・首都高速道路・中日本高速道路・西日本高速道路・阪神高速道路・本州四国連絡高速道路で、各々名称は「株式会社」とつくが、法律上は「特殊会社」である。
(*2)道路経済研究所・道路交通経済研究会編『道路交通経済要覧』平成18年度版より。
(上岡直見)
JANJAN
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