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社説:同時代史として問い続けたい 遠ざかる「昭和」(西日本新聞)
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投稿者 gataro 日時 2008 年 1 月 03 日 09:23:41: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/column/syasetu/20080103/20080103_001.shtml

社説
同時代史として問い続けたい 遠ざかる「昭和」

 この8日で「平成」も20年目に入る。10年ひと昔というから、「昭和」は、ふた昔前ということになる。

 このことは「昭和」という時代が遠ざかり、同時代史から歴史に移行し始めたことを意味する。

 しかし「昭和」を歴史の領域に押し込めてしまうわけにはいかない。「昭和」をどう総括し、その歴史を「いま」と「次代」にどう生かしていくか。それが、これからの日本と日本人の生き方にかかわってくるからだ。

 歴史として語り継ぐと同時に、なお同時代史として「昭和」という時代を問い続けたい。

    ×   ×   ×    

 「昭和」を語るとき、戦争の総括と敗戦がもたらした「戦後」の評価は避けて通れない。

 戦争の犠牲と反省から生まれた戦後民主主義の価値観を次代に引き継いでいくのか、脱却して新たな価値観に基づく体制を求めるのか。

 戦争と「戦後」をどう評価するかで日本と日本人の生き方は大きく変わってくる。そのことを国民一人一人がいま肝に銘じておく必要がある。

 「戦後体制からの脱却」を政治目標に掲げた安倍晋三首相の退場で、いまは一時的におさまっているが、「戦後的価値」を否定する思想潮流は、平成に入って確実に強まっている。

 政治の場では、戦後体制の象徴である日本国憲法を変えることを前提にした議論がいまや主流だ。

 目指す憲法の姿は違っても改憲論に立つ政党が、改正発議に必要な議席の3分の2を優に超えている現実が、改憲論に現実味を持たせている。

 「現実に合わなくなった」「もっと国際貢献を」といった言葉で、戦争放棄を誓った「九条」を変えようという議論だけではない。

 そこでは、「自分」にこだわりすぎて仕事や結婚をしたがらない若い世代の増加や、犯罪の凶悪化・低年齢化、家族意識や共同体意識の希薄さなどから社会の少子化、仮面社会、子どもの学力低下までが「やり玉」にあがる。

 社会秩序の乱れや社会規範意識の低下も、敗戦と憲法がもたらした戦後体制のせいというのだろうか。

 この思想の行き着く先は、自立した個人としての「私」を重んじ、国民の自由と権利を最大限尊重してきた戦後民主主義の否定であり、憲法に象徴される戦後的価値の否定であろう。

 私たちも、「公」への帰属意識が薄れ、「私」にこだわりすぎる最近の風潮は危惧(きぐ)する。だからといって「戦後的価値」を否定しようとは思わない。

 「戦後」を否定することは、戦前・戦中の国家主義体制や戦争への反省や責任を薄めることになりかねない。そう懸念するからだ。
戦後体制は「虚妄」なのか

 戦争を挟んだ「昭和」を考えるとき、思い出したい2人の言葉がある。

 1人は、戦前・戦中の超国家主義体制を批判し続けた戦後言論界のオピニオンリーダーで政治学者の丸山真男氏(故人)だ。著書「現代政治の思想と行動」(未来社)で戦後体制について、こう述べている。

 「私自身の選択について言うならば、大日本帝国の『実在』よりも戦後民主主義の『虚妄』の方に賭ける」

 戦後体制を占領民主主義、虚妄などと批判する言説に反論したものだ。丸山氏は別の論文「『現実』主義の陥穽(かんせい)」で、与えられた現実に政治が追随することの危うさも訴え続けた。

 およそ半世紀前の論ではあるが、眼前の現実論が強調される今日の憲法論議や、戦後体制否定論を予期したかのような見識である。

 もう1人は官僚、政治家として戦中・戦後、政治の中枢を歩んできた元副総理の故後藤田正晴氏だ。

 2000年に刊行された著書「後藤田正晴の目」(朝日新聞社)で、21世紀に日本が進むべき道として、国益中心の道よりも「武力の不行使、平和と国民生活の安定、国際貢献、国際共助、国際連帯」を挙げて、次のように述べている。

 「理想に過ぎ、世界の厳しい現状に目をつむる主張といわれるかもしれない。しかし、理想を忘れ、それへの努力なくして何が残るだろう。破滅のみ。最近の内外の動向と民心の動きを見て、このことを強く思う」

 立場も生き方も思想的背景も異なる2人だが「戦後的価値」を、たとえ「虚妄」「理想」と言われようと積極的に守るという点で共通している。

 「次代」に引き継ぐべきは、丸山氏にとっては「自由と権利を保障する民主主義の価値」であり、後藤田氏にとっては「不戦と国際協調を誓った憲法の価値」であろう。

 同じ年に生まれ「昭和」という時代を生き、同時代史として「昭和」を問い続けた2人の言葉から、私たちは戦争を総括し「戦後」とは何かを考える作業をやり残してきたのではないか、と自問せざるを得ない。

 昭和はまだ歴史になり始めたばかりである。さまざまな歴史認識があるのは当然だが、具体的な事実の検証をしながら「昭和」を問い直すことが、平成20年のいま、重要だと思う。

=2008/01/03付 西日本新聞朝刊=
2008年01月03日00時18分


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