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天皇陛下会見全文(上)
2007年12月23日05時56分
〈問1〉今年は食品の虚偽表示を発端とする「食」への不安、年金や社会格差の問題など、暮らしの安全が脅かされた一年でした。こうした様々な社会情勢について、陛下の思いをお聞かせください。
(回答)十分にお答えができないといけないと思いますので、書いたものを見ながらお答えしたいと思います。生活の基本である食と住に関して、一昨年から今年にかけて国民に不安をもたらすような事情が明らかになったことは残念なことです。
年金の問題については戦後の復興とその後の国の発展を目指し、一生懸命まじめに働いてきた人々が、高齢になって不安を持つことがないように、この問題が解決の方向に向かっていくことを願っています。
社会格差の問題については、格差が少ない方が望ましいことですが、自由競争によりある程度の格差がでることは避けられないとしても、その場合、健康の面などで弱い立場にある人々が取り残されてしまうことなく、社会に参加していく環境をつくることが大切です。
また、心の中に人に対する差別感を持つことがないような教育が行われることが必要と思います。
過去を振り返り、公害によって健康の被害を受けた人々のことを考えるとき、当時はこのような問題に対する安全の問題が国民の間に十分に理解されず、被害者を苦しめてきたことが思い起こされます。多くの国民にこのような実態が少しでも早く知らされていたならば、被害を受けないで済んだ人も多かったのではないかと、返す返すも残念に思っています。
近年、生活の安全性に関し、国民が深い関心を抱くようになったことが、耐震構造の不備なども含め、安全性への危険を明らかにするうえに寄与したことと思います。国民の安全を守るため、関係者の努力を望むことはもちろんのこと、国民全体がこの問題に関心を持ち、みなの協力の中で安心して生活を営むことができるよう願っています。
http://www.asahi.com/national/update/1222/TKY200712220245.html
asahi.com:天皇陛下会見全文(中) - 社会
天皇陛下会見全文(中)
2007年12月23日05時57分
〈問2〉ご家族についてお聞きします。病気療養4年目の皇太子妃雅子さまは地方への泊まりがけ公務を再開するなど活動の幅を大きく広げられました。4人のお孫さまも健やかに成長されているようです。嫁がれた黒田清子さんも幸せな結婚生活を送られているものとお聞きしています。それぞれのご様子について、陛下はどのように見守っていらっしゃいますか。具体的なエピソードを交えてお聞かせください。
(回答)私は家族がそれぞれに幸せであって欲しいと願っており、それを見守っていきたいと思っています。
今年の欧州訪問前の記者会見で、私は皇太子時代の外国訪問に触れ、「名代という立場が各国から受け入れられるように自分自身を厳しく律してきたつもりです。このような理由から、私どもは私的に外国を訪問したことは一度もありません。現在、皇太子夫妻は名代の立場で訪問することはありませんから、皇太子夫妻の立場で本人、政府、そして国民が望ましいと考える在り方で、外国訪問を含めた交流に携わっていくことができると思います」という話をしましたが、一部にこれを皇太子一家のオランダでの静養に対して苦言を呈したものと解釈されました。これは私の意図したところと全く違っています。
国賓に対する昭和天皇の名代としての私どもの答訪は私どもの20代の時に始まり、昭和天皇、香淳皇后の欧州と米国ご訪問をのぞき、昭和の時代は続けられていました。名代としての答訪の場合、相手国は天皇が答訪するものと考えているところを、私が訪問するわけですから、自分自身を厳しく律する必要がありました。
しかしながら、平成になってからは名代による答訪は行われなくなったので、皇太子夫妻は様々な形で外国訪問を含む国際交流に関わっていくことができるようになったわけです。私はこのようなことを記者会見で述べたのであって、決して皇太子一家のオランダ静養に苦言を呈したのではありません。
なお、私は昨年の誕生日の記者会見で、オランダでの静養について質問を受け、医師団がそれを評価しており、皇太子夫妻もそれを喜んでいたので良かったと思っている旨答えています。
このように私の意図と全く違ったような解釈が行われるとなると、このたびの質問にこれ以上お答えしても、また私の意図と違ったように解釈される心配を払拭することができません。従ってこの質問へのこれ以上の答えは控えたく思います。
http://www.asahi.com/national/update/1222/TKY200712220246.html
asahi.com:天皇陛下会見全文(下) - 社会
天皇陛下会見全文(下)
2007年12月23日05時57分
〈問3〉生物学者でもある陛下は、外国賓客との懇談で温暖化を話題にされることも多いようですが、自然・環境をめぐる諸問題をどう見ておられますでしょうか。今年は陛下の国民と自然を分かち合いたいとのご意向で、皇居・吹上御苑で初めて自然観察会が開かれたほか、那須御用邸の一部が環境省に所管換えされることが決まりました。一方、11月の式典のお言葉で、陛下はブルーギルの異常繁殖に触れられました。こうした自然財産の共有、式典でブルーギルに触れた発言をされるにいたった思いもお聞かせください。
(回答)地球温暖化について、最近、アジア太平洋水サミットへ参加されたミクロネシア大統領、ツバル首相からは海面上昇の問題、タジキスタン大統領からはパミール高原の氷河の後退の話がありました。今年の東京は暖冬で、初めて雪が観測されたのは3月16日ということでした。明治10年の統計開始以来、最も遅い初雪とのことです。このように世界各地で温暖化の問題が起こっており、今後、人々の生活に様々な影響を与えていくことが心配されます。現在、世界各地で環境に対する関心が高まり、良好な環境のもとで人々が暮らせるよう、国境を越え、また様々な分野の人々が協力し合う状況がつくられつつあることは誠に心強いことです。世界の国々が協力して地球環境を少しでも良い方向に進めていくことを願っています。
吹上御苑の自然観察会は吹上御苑を中心とした皇居の生物相を2000年の時点で記録するという科学博物館の生物相調査の結果に基づいて行われました。この調査は動物では1996年から2000年まで、植物では1997年から2000年まで行われ、動物群の中には2006年まで続けられたものもありました。自然観察会では、この調査をされた研究者が解説に当たられ、調査の時に見いだした知見を観察会の参加者に伝えられました。このことは参加者にとって、意義深いものであったのではないかと思います。
那須御用邸附属地の調査は栃木県立博物館により1997年から2001年にかけて行われ、その翌年に「那須御用邸の動植物相」という報告書が出版されました。このたびの環境省への移管はこの調査を踏まえた上で行われました。環境省へ移管された地域が国立公園の一部として、訪れた人々の自然への理解や関心を深めるうえに、意義あるものとなればうれしいことです。この地域には炭焼きによる伐採を免れたブナが林になっており、調査した研究者と見に行ったことが印象に残っています。
ブルーギルのことですが、ちょうど30年前の1977年、淡水魚を専門にしておられた国立科学博物館の中村守純博士と、淡水魚保護協会の木村英造氏とお話ししたことが淡水魚保護協会の雑誌「淡水魚」に載せられ、その中でブルーギルのことにも触れています。琵琶湖にブルーギルが入ったのは淡水真珠をつくるイケチョウガイの養殖のために、貝の幼生が寄生する寄主としてブルーギルを使いたいということで、水産庁淡水区水産研究所から滋賀県水産試験場に移されたものが琵琶湖に逃げ出したことに始まります。当時、ブルーギルを滋賀県水産試験場に移すという話を聞いたときに、淡水真珠養殖業者の役に立てばという気持ちも働き、琵琶湖にブルーギルが入らないようにという程度のことしか言わなかったことを残念に思っています。 30年前には釣った魚は食べることが普通でした。従って、ブラック・バスやブルーギルを釣る人が多ければ、繁殖は抑えられ、地域の淡水魚相に変化をもたらすことはないと考えていましたが、現在は釣り人の間にキャッチ・アンド・リリースの習慣が浸透し、釣った獲物を食べるのではなく、そのまま放すことになったため、ブラック・バスやブルーギルが著しく繁殖するようになってしまいました。キャッチ・アンド・リリースということがこのように一般化するとは考えてもいませんでした。ブラック・バスもブルーギルもおいしく食べられる魚と思いますので、食材として利用することにより繁殖を抑え、何万年もの間、日本で生活してきた魚が安全に育つことができる環境が整えられることを願っています。この目的に添う釣り人のボランティア活動にも大きな期待が寄せられます。
なお、豊かな海づくり大会の式典で、琵琶湖水系でニッポンバラタナゴは絶滅したことを述べましたが、ニッポンバラタナゴは日本の淡水魚のなかで、最も絶滅の危機にあるものと思います。それは中国から移入された体の大きいタイリクバラタナゴとの生存競争においてニッポンバラタナゴは弱い立場にあることと、ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴとの間では雑種ができるからです。従ってニッポンバラタナゴのいる池に一尾でもタイリクバラタナゴが入れば、その池のニッポンバラタナゴの純粋性は保てません。現在、純粋なニッポンバラタナゴが住んでいるところはタイリクバラタナゴのいない閉鎖水域だけになってしまいました。誠に厳しい状況にあると言わなければなりません。タイリクバラタナゴは美しい魚ですので、水槽で飼い、その後、池や川に放したことにより各地にタイリクバラタナゴが繁殖するようになったのではないかと思われます。ニッポンバラタナゴはこのような危険な状態にあるので、タイリクバラタナゴが放される心配のないところで飼育することが必要と考え、大阪府八尾市産のニッポンバラタナゴは赤坂御用地内の池で、福岡県多々良川産のニッポンバラタナゴは常陸宮に頼み、常陸宮邸内の池で、それぞれ1983年以来飼育され、ニッポンバラタナゴ研究会が随時調査をし、また研究に用いています。
日本は大陸と離れていた期間が長く、日本の中には琵琶湖のような古い湖、本州などと長い間隔離されていた島々があり、非常に多くの固有の生物が住んでいます。このような生物が今後とも安全に過ごせるよう、日本人みなで守っていきたいものと思います。
〈関連質問〉この2年ほどの間に、昭和天皇の側近の日記などが相次いで世に出ております。昨年の富田日記に続きまして、今年は卜部侍従日記が公表されました。この中に昭和天皇が当時の入江侍従長に書き取らせた拝聴録の話がでております。入江侍従長自身も日記の中で再三拝聴録について触れております。拝聴録、確かに存在したとみられるんですが、陛下はこれをご覧になったことがございますでしょうか。また、現在お手元にあるとも言われていますが、それについてはいかがでございますでしょうか。
(回答)それは見たことがありません。
〈問〉現在、お手元にもないということでございましょうか。
(回答)ないと思います。少なくとも私が知っているところにはないということです。
http://www.asahi.com/national/update/1222/TKY200712220247.html
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