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(回答先: 飄々と始まった増税論議 森永卓郎氏(日経BP社) 投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 12 月 22 日 20:39:12)
国民の目を欺く二つの神話〜「借金漬けの日本」も「日銀の金融緩和」も信じるな〜
経済アナリスト 森永 卓郎氏 2006年5月29日
日銀、財務省、政府の三位一体で国民をだます
マスコミは景気回復と報道しているが、庶民の生活は少しもよくなっていない。にもかかわらず、政府は消費税を5%も上げようとしている。他の国ならデモやストが起きなそうなものだが、不思議なことに日本では増税反対の声も怒りの声も聞こえてこない。
日本ほど政治や経済に関心や知識を持っている国民はいないと思うが、反対どころか「増税やむなし」の声まであるのだ。
これは国民の間に二つの神話が深く浸透し、多くの人が誤解をしているからではないかと思う。
それは「日銀は市場にじゃぶじゃぶと資金を供給して金融緩和をしてきた」という神話と、「日本の政府は借金漬けで、このままでは財政が破たんする」という神話だ。
この二つの誤解によって、政府のやっていることが、さも正しいように見えている。日銀と財務省と政府が三位一体となって、国民の目を欺いてきたといっても過言ではない。
金融緩和と見せて強く引き締めてきた日銀
まず、最初に日銀がおカネを大量にマーケットに流してきたという神話を検証しよう。これはすべての新聞とテレビが言い続けてきたことだが、事実はまったく逆である。
2000年8月に日銀はゼロ金利を解除し、その3カ月後に景気後退を招く大失敗を犯した。その後、ゼロ金利政策には戻せないので、もっと強い政策を採ろうと、日銀当座預金をターゲットにした。
日銀当座預金というのは、市中銀行が預金の一定割合を日銀に再預金するための口座であり、この制度を預金準備制度という。これは日銀の三大金融政策の一つであり、預金準備率を変更することで通貨量を調整するわけだ。
日銀当座預金の残高を増やすと、銀行は企業などに貸し出しやすくなる。というのも、銀行が民間に貸し出すときはキャッシュではなく、小切手を振り出すことが大半だからだ。
銀行が小切手を発行するには、日銀当座預金に預ける預金を増やさなければならないので、あらかじめ当座預金を増やしておけば、銀行は再預金の制限を気にせずに自由に貸し出せるという理屈である。
ところが、この再預金で本当に必要な額はせいぜい6兆円程度である。それにも関わらず日銀は30兆円も積み上げ、今では35兆円にもなっている。
預金高を増やすことで金融不安の沈静化には多少役立ったかもしれないが、金融関係者の間では、これは「ブタ積み」と呼ばれ、何の効果もないといわれていた。
それでも必要な量の5倍以上も積み増したのは、日銀が資金をじゃぶじゃぶと市場に供給していることを国民に印象づけるためではないだろうか。これはまやかしである。
本来、基礎的なマネーとして日銀が供給するのは日銀当座預金と現金だ。これをマネタリーベースと呼ぶ。今年2月では、日銀当座預金は33兆円、現金は75兆円。つまり、マネタリーベースの7割を占めるのは現金であり、現金の方が重要なのだ。
実は日銀は当座預金にはじゃぶじゃぶと資金を供給したが、その一方で、現金は引き締めてきた。金融緩和に見せて、実は強い引き締め政策だったのである。
小泉総理が就任して1年目の2002年4月にはマネタリーベースの伸び率を対前年比で36%も増やし、今の景気回復のきっかけを作った。ところが、その後は一転して引き締めを強化する。最近ではマネタリーベースの伸び率は1ケタ台であり、今年4月の発表では対前年比マイナス7.2%と、統計開始以来最大のマイナス幅となった。
日銀は言っていることとやっていることが違う。本当に金融緩和をやっていれば、デフレなど止まっていただろう。日本以外の国は戦後、デフレを経験していない。丸9年間もデフレが続いたのは日銀が金融引き締めを行ってきたこと以外に理由はない。
なぜ引き締めを続けてきたのかといえば、「デフレから脱却できないのは構造改革が進んでいないからだ。脱却するためには構造改革を進めるしかない」という小泉政権と、日銀がタッグを組んだからだろう。
「財投債は借金」という財務省のウソ
もう一つの神話の主役は財務省である。
財務省が発表した昨年12月末の債務残高(借金)は9月末より約14兆円増の813兆円となった。800兆を超える借金となると、赤ちゃんを含めた国民一人当たりの負担が約637万円になるという。これは大変だ、というのが財務省のキャンペーンである。
ところが、この借金にはウソがある。本コラムの30回目にも書いたが、800兆円の借金と共に、日本は480兆円の金融資産を持っているのだ。差し引き300兆円強はヨーロッパ諸国より少し多い程度であり、破たん状態とはいえない。
そして、昨年9〜12月の間に増えた約14兆円の借金にもウソがある。実はこの中には約6兆2000億円の「財投債」が含まれている。
財投債は郵便貯金改革によって、財政投融資制度から郵貯資金が外されることによって発行されるようになった。もともと郵貯の資金は旧大蔵省が預託運用し、そこから住宅金融公庫や国民金融公庫、道路公団などの政府関係機関に融資されていた。
ところが、郵貯改革でこの制度が廃止され、郵貯は自主運用、政府関係機関は自ら債券を発行して資金調達をすることになった。ところが、政府関係機関は信用度が国より低いために、高い金利を払わなければならない。当たり前のことなのだが、それでは困るというので国が代わりに財投債を発行し、関係機関に貸し付けることにした。
これなら、要するに名前だけ違う国債なので、金利も同じというわけだ。しかも、この財投債を大口で買っているのが郵貯だから、結局、資金の流れは昔とまったく変わっていない。
すなわち、財投債とは政府関係機関のために国が名義貸しして借金の仲介をしているだけなので、国民の考える“借金”とはずいぶん違う。
誰の懐も痛めずに財政再建はできる
何のことはない。結局、郵貯改革で6兆円強の見せかけの借金が増えただけなのだ。
そして、何度も述べているように、この程度の景気回復で基礎的財政収支(プライマリーバランス)も2011年度には黒字化を達成するどころか、2兆6000億円の黒字になる。増税などまったく必要ない。
つまり、一番簡単な財政再建策は日銀がマーケットにもっと資金を供給して、景気回復を促進し、税収を増やすことである。そうすれば、誰の懐も痛めることなく、財政再建ができる。
もし、財務省や日銀、政府のやっていることの本質を理解せず、このままやりたい放題にやらせてしまえば、2009年から消費税は谷垣財務大臣の主張通り、10%に限りなく近いラインで引き上げられるだろう。
97年に橋本内閣のとき税率が3%から5%に引き上げられただけで、日本は金融危機に陥ったのだから、5%も上がったらどれほど大変なことになるか。なぜこれほど単純なことに気づかず、経済の専門家も口をつぐもうとするのだろうか。
新自由主義者たちは小さな政府を目指し、その成果を金持ちに渡して、一般庶民に増税を背負わせようとしている。競争を激化させ、格差を一気に開かせたいのだろう。日本人はお人好しで、増税はやむを得ないなどと好意的に解釈していると、新自由主義者たちの思うつぼだ。
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