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(回答先: 飄々と始まった増税論議 森永卓郎氏(日経BP社) 投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 12 月 22 日 20:39:12)
「順調に進む財政再建」をひた隠す理由 森永卓郎氏(日経BP社)
経済アナリスト 森永 卓郎氏 2007年8月10日
我が国の財政がどういう状態になっているか。国民100人に質問すれば、おそらくそのうちの99人は、借金漬けで破綻状態だと答えるだろう。だが、はたして本当にそうなのか。それに関する興味深い発表が6月25日にあった。
それは財務省が発表した 2006年度末における国の債務残高である。それによると、債務残高は、前年比 0.8%増の 834兆円。これは過去最高の額で、国民一人当たりにすると 653万円になる。
これを受けて新聞各紙は一斉に、「また借金が増えた」と厳しい財政事情を書き立てた。朝日新聞は「『ローン地獄』脱出道遠し」という見出しをつけている。なにしろ債務残高は GDP の 1.6倍。税収の 17年分の借金を抱えている計算になる。確かに先進諸国のなかで、こんな国はほかにない。
しかし、債務残高が大きければ財政事情は苦しくて、小さければ財政は好調だという単純な話ではないこともまた事実である。そう考えて、発表された数字をじっくりと見ていくと、いろいろな事実が見えてくる。
借金の総額だけに目を奪われてはいけない
まず、わたしの目を引いたのは、債務残高の伸びが鈍ってきたという事実である。債務残高の増加額を、前年度と比べてみると次のようになる。
2004年度 79兆円
2005年度 45兆円
2006年度 7兆円
このように、ここ3年間で債務の伸びは急速に小さくなっていることが分かるだろう。実は、この債務の伸びの鈍化というのは、考えようによっては債務残高の額自体よりも重要なことなのである。
それはなぜか。借金が多少増えても、経済規模の拡大がそれを上回れば実質的な負担は減るからだ。
家庭の借金に例えてみれば分かるだろう。同じ 100万円の借金でも、年収 2000万円の人と年収 300万円の人とでは、その重みは大きく違ってくるはずだ。そして、借金の額が 100万円から 110万円に増えたとしても、収入が 300万円から 500万円になれば負担は減る。
つまり、借金の額自体を減らすことも大切だが、収入を増やすことで借金の重さを相対的に減らすこともまた意味があることなのだ。だから、政府による財政再建の当面の目標は、債務の残高を減らすことではなく、債務の GDP比率を下げることとされていたのである。債務の GDP比率が下がるということは、簡単に言えば、借金の伸びよりも収入の伸びが増えるということになる。
そこで、債務残高の GDP比を計算すると、2005年度は 1.64倍だったのに対して、2006年度は 1.63倍と下がったことが分かる。2006年度は、債務は 0.8%(7兆円)しか増えなかったのに対して、名目成長率は 1.4%とそれより高かったからである。
これはどういうことか。つまり、日本の財政再建の当面の目標が、昨年度で達成されたのだ。バブル崩壊以降、厳しい歳出削減を行いながら、ようやく財政再建目標が達成され、日本の財政が健全化の方向に歩みはじめたのである。
「財政再建達成」は消費税増税の向かい風になる
日本の経済面での政策課題は、財政破綻と年金破綻だとずっと言われてきた。その財政破綻が改善方向に向かった。この率を維持していけば、財政はまったく問題ないのである。怖かったのは、借金の GDP比率が上がっていくことだったのだ。
こんなめでたい話はないだろう。本来ならば新聞が特集を組んで、目標達成を大きく報じ、お祭り騒ぎをしてもよいくらいなのだが、少なくとも全国紙でそれを報じたところはなかった。
さらに、経済のプロである財務省も日銀も、何のコメントも発表しなかった。ちょっと数字を見れば分かるのに、なぜ誰もかれもこの財政再建をひた隠しにしているのか。財務省には、それを口にしない理由があるからだろう。なかでも最大の理由と考えられるのは、消費税の問題だ。
消費税については、参院選の自民大敗を受けて、この秋からの増税議論が難しい状況になってはいるが、時期は別にして政府内ではもはや既定路線になっている。そして、国民もしかたがないと思いはじめている。その前提となっているのが財政破綻だ。
借金が膨大な額だから、福祉の充実のため消費税増税はやむをえないというのが、大多数の国民の認識だろう。その前提となる財政破綻が解消してしまったら、消費税増税は難しくなる。そこで、財務省は債務残高が過去最大になったことだけをアピールし、経済に疎い庶民に見えないようにして、財政破綻だと声を大にしていると考えられる。
テレビの番組で借金時計というものを見たことがある人も多いだろう。刻一刻、借金の額が増えていく様子が一目で分かるという仕掛けだ。あれを見ていれると、日本の財政はとんでもないことになっていると素人は思う。だが、経済の仕組みはそんなに単純ではないことを知っておいてほしいのである。
それだけではない。実は、債務残高が大きいという点に関しても、実は大きな疑問があるのだ。
あわてて消費税を上げる根拠はない
借金の GDP比率は下がったとはいえ、まだまだ高い水準のままだという意見もあるだろう。1.6倍という先進国など、どこにもないからだ。
だが、834兆円という債務残高の内訳を見ていくと興味深いことが分かる。例えば、そのうちの約 100兆円を政府短期証券が占めていることもその一つだ。
政府短期証券というのは、為替市場で円売り・ドル買い介入を行なうときの資金調達で発行される。ドル買いといっても、ドルの現金を買うのではなく、利回りのいい米国債を買っている。ここ4年ほどドル買い介入はなかったから、米国債自体は増えていないのだが、以前買った国債に金利がついた。米国債は金利が高いから、どんどん残高が増えていくのである。
そうすると、財政法の規定で、それに見合う額の政府短期証券を発行しなければならないとされている。その結果、債務として政府短期証券は1年で3兆円以上増えたのだが、それは単なる借金ではない。その裏側には米国債という資産があるのだ。
我が国の債務の内訳については、元文京学院大学の教授で、日本金融財政研究所の菊池英博所長は次のように推計している。
2006年末の国の債務のうち、外貨準備が 100兆円、財政投融資 170兆円、社会保障基金 260兆円。これらはどれも裏側に資産のあるものだ。つまり、合計して 530兆円もの金融資産を持っているというのである。
それを差し引けば、純粋な債務は 302兆円。これは GDPの6割にすぎず、西欧諸国と比べて高いわけではない。こうしたことを考え合わせると、やはり財政危機は脱したと考えるのが適当だろう。
もちろん、景気はいつ下降するか分からない。また、将来の社会保障の財源も必要だろう。だが、曲がりなりにも財政再建が達成されたことは、国民が認識しておくべきではないか。少なくとも現時点では、あわてて消費税を上げなくてはいけないという根拠はない。
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