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日米首脳会談で福田・ブッシュは何を話したのか?
BREAKING NEWSコラム / 2007-11-21 15:12:52
日米首脳会談で福田・ブッシュは何を話したのか?
明らかに誤魔化しのある対外発表
11月16日、ワシントンで日米首脳会談が実施された。福田康夫総理としては、「日本国内閣総理大臣」として初の訪米であったが、会談時間はたったの1時間。それに続いて行われた昼食会についても45分だけという、非常に簡素な行事であった。
このブログを書いているのは11月21日なので、会談の実施から数えて5日も経過している。それなのに、「今回の日米首脳会談で、結局、福田・ブッシュは何を話し合ったのか?」という点について、詳細が明らかにされていないとフラストレーションを感じるのは私だけだろうか。
もっとも、このように書くと日本の外務省諸氏は次のように反論することであろう:
「いや、詳細を明らかにしていないというわけではない。しっかりと、外務省HPに『日米首脳会談の概要』をアップしているではないか。これだけ網羅的なものを公表しているのだから、それで国民は満足すべきだ。」
私もキャリアの外交官であった時代に、首脳会談、外相会談があるたびに、「概要ペーパー」を山のようにつくったものだ。いや、もっと「舞台裏」を明かすならば、たいていの場合、「概要ペーパー」は会談が行われる前にすでに作成されているものなのである。なぜなら、会談終了後、1時間以内に概要をブリーフィングすることが、外務省と日本人記者団との間の暗黙のルールとなっている場合が多いからだ。したがって、会談が行われた後に概要ペーパーをつくっているようでは全く間に合わないのである。
しかし、ここに大きな「罠」がある。事前に作成されたペーパーに、せいぜい事後的に若干の筆を入れた程度のものであるが故に、「実際のやりとり」とは違うことがひょんなことで明らかになる場合があるのだ。公開情報インテリジェンスの基本である「網羅的な情報収集」「収集した情報の徹底比較」によってこのことが明らかになる場合は多い。
外務省諸氏には悪いが、実は今回の日米首脳会談について「概要ペーパー」を見ても、実は同様のミスがあることに気づくのだ。
まず、日本側が公表したペーパー「日米首脳会談の概要」を見ると、「5.国際経済」として、「WTO」「米国産牛肉問題」だけが列挙されている。素に読むと、あたかもこの二つだけが取り上げられたかのようである。
しかし、ホワイトハウスのHPにアップされている、首脳会談直後の「共同記者会見」における速記録を見ると、ブッシュ大統領の発言に次の様な一節があることに気づくのだ。
“We discussed our strong economic relationship. Prime Minister Fukuda and I discussed his plans for economic reform in Japan. We discussed Doha, and will continue our discussions over lunch.”
これを読む限り、福田総理はブッシュ大統領に対し、日本の「構造改革」について説明を行い、それについて議論までしたということが分かるのである。だが、この点について日本側の「概要ペーパー」が語ることはなく、日本のプレス報道においても全く言及がない。これはおかしい。
北朝鮮問題の影に隠れたマーケットの重大問題たち
日本の報道陣たちにとって、今回の首脳会談に際しての関心は、第一に「北朝鮮問題」であり、第二に「インド洋における海上自衛隊による給油支援問題」であった。そのことは、会談後における報道内容からも如実に分かるのである。
日本側の発表では、とりわけ前者の問題について、ブッシュ大統領より「拉致問題を決して忘れることはない」との発言があったことを非常にクローズアップしたことが、その後の報道を見ても十分推測できる(たとえばこちら)。もっとも、この発言だけでは日本の世論、とりわけ日本人拉致被害者の家族たちの心情がおさまるはずもない。そこで、日米双方の政府関係者たちは、事後的に「ブッシュ大統領は、北朝鮮に対する『テロ支援国としての指定』の解除が、核問題と拉致問題の進展が条件であると述べた」とのリークを始めており、事態の鎮静化につとめているように見受けられる(11月21日付産経新聞記事)。
もちろん、拉致問題は重要だ。これから寒い冬を迎える中、凍てつく北朝鮮で日本からの救いの手を待っている日本人拉致被害者たちの奪還のため、日本政府は全精力を尽くす責務を負っていることは言うまでもない。
しかし、米国にとって「テロ支援国指定解除」は既定事項であり、またその際に日本を身捨て、さらには日本に文句を言わせぬよう、各国と共に「日本封じ込め」を行うという戦術は、何も今に始まったことではなかったのもまた事実なのである。実際、私はこの公式ブログを通じて、今年の早い段階からそうしたシナリオ展開となることに対し、強く警告を発してきた。
したがって、この場に及んでジタバタしても何も始まらないのである。むしろ状況はもっと複雑なのであって、「北朝鮮」「アフガニスタン」といった国際問題を隠れ蓑にしつつ、目下の緊急課題であるマーケット情勢の激変について、福田・ブッシュが何を語ったのかが全く明らかにされていないことの方が問題というべきなのではなかろうか。
実際、経済問題については「WTO」「牛肉」しか取り上げられなかったかのような対外公表をしている外務省を尻目に、福田総理が「それ以外の重大問題」について話し合っていることを明らかにしている。具体的には、福田総理は日米首脳会談後の11月18日に放映されたCNNテレビ(米国)とのインタビューで、「サブプライム問題が会談で取り上げられ、『大統領は、しばらく時間はかかるが、解決できると話した』ことを明らかにした」のだという(11月19日付時事通信記事)。
ここで福田総理はサブプライム問題が「会談において取り上げられ」たと報道されている。もっとも、だからといって対座して語る「首脳会談」の場で、こうした経済問題が語られたと即断するのは危険だろう。むしろ怪しいのは、首脳会談直後に行われた45分間の「昼食会」である。
外務省における経験からいうと、同行記者団も「首脳会談で何を話したのか?」には関心があるが、「昼食会」については「所詮、食べながらの話だから、突っ込んだ話はなかっただろう」と関心が薄い場合が多い。したがって、事後ブリーフィングを行う外務省の役人たちからすれば、「昼食会」についていうと、極力、「絵になるエピソード」をちょろっと語れば、それで記者団たちとの関係はうまくいくものである。
だが、ここで冷静に振り返ってみたい。まず、先ほど紹介したブッシュ大統領の共同記者会見における説明(および上記引用部分以降の発言)によれば、首脳会談で話し合ったのは経済問題についていうと:
1)日本における構造改革
2)WTOドーハ・ラウンド
3)米国産牛肉問題
4)エネルギー安全保障
5)G8サミット
の5つであったのだという。しかも、そのように紹介した後、ブッシュ大統領は次のように述べている:
“All in all, we had a great discussion that will be continued during lunch.”
くどいようだが、要するに首脳会談後に続く「昼食会」で実はサブプライム問題をはじめとする、喫緊のマーケット情勢について話し合いが行われた可能性が高いのである。それなのに、日本の大手メディアはといえば、「米国で飼育されているコーベ・ビーフがステーキとして供された」といった、いかにも外務省のプレス担当がエサとしてブリーフィングしたに違いない内容に飛びつき、それを活写するだけですませている(関連報道はこちら)。これが重大な問題であることは言うまでもなかろう。
「為替問題」は語られなかったのか
なぜここまでこの問題に私がこだわるのかというと、現下の国際情勢に鑑みて、米国にとっての最大の関心は「ドル安」だからである。実際、福田訪米に先立って、ワシントンの連邦議会筋では「福田がやってきて詰められるのは、米国産牛肉問題と円高への誘導問題。とりわけ後者は、来年12月の大統領選挙を控えて鼻息の荒い民主党勢が自動車産業によるロビイングを踏まえ、しきりに盛り上げてきている。この問題については何らかの言及があるはずだ」という分析が流布されていた。
このことは何も米側だけについて言えることではない。福田総理にとっても、訪米に先立って、最大の関心事項が「為替問題」であったことは、次の英国発報道でも明らかなのだ(リンクはNBonline。インタビューの実施は11月12日):
フィナンシャル・タイムズ(FT):最近の政治情勢についてお伺いする前に、今日(12日)の出来事も含め、いくつか経済に関する質問をさせてください。まず、円相場が1ドル=110円まで上昇し、かなり強くなりました。町村信孝内閣官房長官によれば、これは日本にとって大した問題ではなく、日本の強さを示すサインかもしれないということですが、その意見に賛成ですか?
福田康夫首相:短期的には、円の上昇は間違いなく問題になります。どんな類であれ、為替レートの急激な変動は好ましくない。しかし、長期的な観点に立てば、円の上昇は拒むべきものではないと思いますよ。あくまで長期的ということを強調しておきますが。
FT:しかし、最近の円高はかなり急激です。私が1週間前に日本を出た時、1ドル=115円でした。戻ってきたら、1ドル=110円です。これは速過ぎですか。
福田首相:ええ、急すぎます。
FT:これについて、日本は何か手を打てるのでしょうか。
福田首相:今の動きは、米国経済の状況を反映したものです。日本経済だけの問題じゃありません。我々にできることは限られます。しかし、投機的な動きは抑制する必要があると思います。
FT:どう抑制するのでしょうか。日本が介入に踏み切る可能性はありますか。
福田首相:私が言っているのは、気をつけた方がいい、ということです。
FT:いざとなれば、介入もあり得るということですか。
福田首相:私が言っているのは、それ(介入)が起きないよう注意した方がいい、ということです。
テレビで見せる福田総理の「イライラ顔」が目に浮かぶようなやりとりだが、仔細に読むと福田総理がここで世界に対して発したメッセージは、(1)日本は必ずしも円高を嫌っているわけではない、(2)緩やかな円高への移行であれば望ましく、日本としても反対するものではない、という2点に集約されるといえよう。大手メディアは「急激な円高を福田総理は嫌う」といったタイトルで一斉に報じたが、私はむしろ福田総理、ひいてはその背後にいる金融関連当局(財務省、日本銀行)がここで発したメッセージは「米国の意向の如何にかかわらず、日本は最終的に円高へと移行することを望んでいる」という内容であったのではないかと考えている。
米ドルを売っているのは誰か?
以上を踏まえると、私たちは次のような、決定的な疑問にぶつからざるを得ない:
「その後、実際の円ドル・レートはどうなったのか?」
上記のインタビューが行われる直前(11月5日の週の後半)に急落し始めた円ドル・レートは、その後も徐々に落下。この公式ブログを書いている最中(11月21日午後2時過ぎ現在)には、1ドル=108円94銭までになっている。急落が始まってからここまでくるのに10日余り。「急激」というよりも、「緩やか」と表現できそうな展開ではある。
そこで問題は、さらに究極のポイントへと肉薄していく。それは、
「米ドルを売っているのは誰か?」
という問題である。
率直に言おう。―――果たして、日本政府は福田総理の下、米ドルを現在、マーケットで売りさばいてはいないのだろうか?
テレビでおなじみの(たいていは経済音痴である)「日米同盟バンザイ論者」たちは、こう言われるとムキになって反駁することであろう。
「米ドルを日本が売るだって??「同盟関係」にある日本が、ドル建ての資産の価値が目減りし、米国が困るようなことをわざわざするわけがないじゃないか。それに円安による為替差益で儲けてきた日本の財界、とりわけ輸出関連メーカーが黙っているはずがない」
確かに日本の輸出関連企業(自動車など)は、これまで1ドル=110円〜115円を社内レートに設定してきたという経緯がある。その限りにおいて、現在のように1ドル=109円すれすれという状況は、もはや悪夢の始まりであるかのように思われがちだ。
だが、あくまでも一つの仮説として、こう考えてみてはどうか?
●福田総理、そして日本政府は何らかの抜き差しならぬ理由により、「米ドル」から他の通貨への乗り換えをはかり、もって米国に対するバーゲニング・チップとすることを画策し始めた。
●他方、日本政府はこれによって輸出関連企業が為替差損を被るのみならず、株価の低落に悩むことのないよう、直接あるいは間接的に「事前警告」を行う。これによって、これら企業はしかるべき「自衛措置」を講ずることになる。
以上はあくまでも「仮説」である。しかし、以上のような「補強材料」を考えてみてはどうだろうか:
●対ドル・レートでユーロ、スイス・フランが歴史的な高値を更新中。
●トヨタが猛然と自社株買いを開始している(関連報道はこちら)。
よくよく考えてみると、現在、価格が高騰している「金(ゴールド)」による金本位制を、通貨面でのシステムとして作り上げたのは英国、すなわち、かつての大英帝国なのであった。それが、1971年から73年にかけて生じた、いわゆるニクソン・ショックの中で、米ドルの金兌換が停止となる中、「米国は、何の根拠にも基づくことなく、好きなだけの量の米ドルを刷ることができる」という現在のシステムへと移行したのである。このシステムが今、明らかに大転換の時期を迎え、「次のシステム」へと移行していると考えるならば、いったいどうなるだろうか。
どうやら、米国が圧倒的なコントロールを及ぼしている日本のテレビ・メディアに対し、ほとんどまともに語ることのない福田康夫総理&CO.は、とんでもない大勝負に出たようだ。だからこそ、ここ一番の大勝負の序幕となった今回の日米首脳会談について、大声で語ることはないのだろう。
人知れず始まった私たちニッポン丸のオデッセィ。――――重要なのは、「その先」に描かれている図柄の中で、私たち日本人が、この勝負の勝者として、そもそも福田総理の念頭に置かれているかどうかである。
ちなみに・・・福田康夫総理の父は故・福田赳夫。大蔵省入省後、1年たらずでロンドンの日本大使館に「財務官付」として赴任。3年半もの間、テムズ河畔の空気を吸って生きた人物だそのことを、私たち日本人は忘れてはならないだろう。なぜなら、「世話になった人物の面倒を一生見続ける」というのが、彼らのいつものやり方なのであるから。
[新世紀人コメント]
「世話になった人物の面倒を一生見続ける」というのが、彼らのいつものやり方…
の『彼等』とは誰であるかは今は問う積りは無い。
この生き方は、チャーニーズの大人の生き方であるとも聞く。
どの人種であれ、紳士・君子たるものはわきまえる事がなければ相手にされないのが人間社会であり、わきまえがあれば結構と言えよう。
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