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臨時国会での与野党論戦のあり方 = 山口二郎
http://www.asyura2.com/07/senkyo43/msg/330.html
投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 10 月 19 日 07:36:49: mY9T/8MdR98ug
 

http://yamaguchijiro.com/

 福田政権が発足し、国会はようやく本来の機能を取り戻すこととなった。福田首相に対する世論は今のところ好意的であるが、政権への支持も政治の混乱が収束したことに対する安堵の現われでしかないであろう。福田氏自身、首相になる準備を十分していたわけではなく、こだわりを持った政策テーマもないようである。この政権の性格は、これからの国会論議と世論によって形成していくしかないであろう。

 この政権が政策を実現するためには、参議院で多数を占める野党の賛成を取り付けることが、不可欠である。衆議院における再議決は乱発できる手法ではない。しかし、与野党が一致できる政策は限られている。

 一つのテーマは、与野党を超えた政治全体にかかわる問題である。国民の政治不信を解消するための政治資金の透明化などはその一例であろう。政治家による金の使い道を透明化することは、与野党を問わず国会議員全体に課せられた宿題である。この問題については、国会議員さえその気になればすぐにでも法改正は可能である。臨時国会での速やかな実行を期待したい。

 もう一つのテーマは、強行採決や多数の横暴に対する修正である。つい四、五か月前の通常国会で、与党は衆参両院での多数を背景に、強行採決を連発し、多数の横暴は猛威を極めた。選挙に負けたとたんに低姿勢になり、野党との話し合い路線を強調するなど、笑止千万である。本当に話し合いをしたいのなら、通常国会で強行採決によって成立させた法律を見直し、野党の意見を入れて修正することから出発すべきである。たとえば、憲法改正のための国民投票法がある。この法律は国会審議の中でも多くの問題点を指摘されており、山のような附帯決議も行われた、いわば欠陥品である。安倍首相の退陣によって憲法改正の可能性は遠のいたとはいえ、事は日本の民主主義の根幹に関わる。法律をいったん作ったらそれっきりではなく、問題を是正する不断の検証が必要である。こうした問題について与党がまじめな態度を示さないのならば、野党は話し合いに応じる必要はない。

 税制や社会保障などの実体的政策については、与野党の話し合いによって政策決定を進めることは困難だろうし、また民主政治の理念に照らしても望ましくない。まず、今の衆議院の与党議員は、二年前の総選挙で具体的な政策としては郵政民営化だけを訴えて当選した人々である。しかも、その後「改革」の名の下に高齢者医療費の引き上げや障害者自立支援法などを成立させた。今頃になって与党はこれらの政策を修正しようとしているが、法案審議の段階から弊害は予想されていた。そもそもこれらの法律を通した与党議員の責任はどこへ行ったのであろうか。過去の立法だと忘れ去るわけにはいかない。官僚の口車に乗せられてやすやすと悪法を通すような議員には、政策協議などする資格はない。

 結局、福田政権の役割は、第一に政治の基本的なルールを整備して政治に対する国民の信頼を回復し、第二に適切なタイミングで衆議院を解散して国民の審判を仰ぐということに尽きる。自民党内の都合だけで政権が転がり込んだような首相に、政策的成果を期待するのがそもそも間違いである。

 参議院を野党が完全に制しているというねじれ状況での国会論戦は、戦後の政党政治史上初めての経験である。これから与野党の実りある議論を可能にするためのルールや仕組みを作り出す必要がある。また、次の総選挙において国民が適切な判断を下すためにも、与野党の論争や対決の実態を可視化し、対立軸を明確にすることは必要である。

 折角民主党が参議院で議員立法を進め、与党と対決すると意気込んでいるのだから、各委員会での法案審議についての情報公開を進める必要がある。私もいろいろな委員会に参考人として呼ばれて話をしたことがあるが、委員会の議論は必ずしも活発ではない。委員の出入りが激しく、落ち着いて議論をする雰囲気ではないこともしばしばである。

 しかし、これからの委員会審議は、結論の見えた出来レースではない。委員会の議論が政治家や政党の評価につながるという仕組みを作る必要がある。委員会審議のインターネットによる公開はかなり進んでいる。このインフラを活用することができれば、国会審議も緊張感を増すであろう。日本でも政治をウォッチするNPOがしだいに育っている。本誌10月6日号掲載の「政界四季報」による政治家評価も興味深い。こうした市民やメディアの活動によって政党や議員の活動を評価することが広がれば、政治家にとっても刺激になるし、市民の政治を見る目もレベルアップするであろう。

 また、両院協議会の運営についても、新たな仕組みを作る必要がある。先日の首班指名の際に現れたように、与野党対決のクライマックスが両院協議会である。両院協議会は今まであまり開かれたことがないので、国民にもその実態は分りにくい。与野党が妥協できない問題であれば両院協議会が決裂を前提とした儀式になることも仕方ないが、一つの法案をめぐって与野党がどのような主張を行い、どちらに説得力があるかを見ることは、きわめて重要である。したがって、両院協議会の議事の公開も必要となる。

 参議院の野党優位という現実があり限り、この臨時国会と来年の通常国会は、福田政権が政策的成果をあげる機会とはなりえない。むしろ、与野党の対決の実態を明らかにする場と位置づけて、それぞれの党が効果的に自己主張を展開すればよい。

 その結果、たとえばテロ特措法が失効しても、仕方ない。選挙の結果、新たに民意を受けた議会が従来の政策を変更することは、民主政治では当たり前のことである。国民の意思表示によって政策を変更する経験の方が意味不明の国際貢献よりもはるかに重要である。(週刊東洋経済10月13日号)
 

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