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【赤木智弘の眼光紙背】第1回:年金ってそんなに素晴らしいのか?
2007年10月04日11時00分
安倍晋三が唐突に辞任、それから新総裁選と、政局の流れはあまりにも早く、もはや先の参院選など、古い話題なのかもしれないが、私はどうしても、あの参院選に引っかかりを感じている。
要は年金である。
あの選挙では、年金問題を主な争点にしながら、どの党も「年金を守ろう」をスローガンに、大同小異、同じ色の旗を振っており、具体的な年金制度の問題点など、なんら議論されなかったと言っていい。
私が考えるに、現在の年金制度は、あまりにも強者優遇に過ぎる。
1、掛け金を払わなければもらえない現行の制度では、年金を支払う余裕のない弱者が、安心して老後を迎えることができない。
2、国民年金加入者と、厚生年金加入者での支給額の差が大きく、現役時代に稼げない弱者は、老人になっても年金格差に悩まされることになる。
この2点の問題については、賦課方式から税方式への移行や、年金の一元化で解消できるかもしれない。
しかし、わたしがもっとも重篤な問題と考えるのは、「老人にのみ給付する」という、年金の存在意義そのものである。
かつての、若者がバリバリ働いて、老人になったら隠居をするような時代には、「強い若者から、弱い老人へ」ということで、年金制度が強者から弱者へお金を循環させる役割を担っており、弱者のための政策といえた。
しかし、今の老人は、高度経済成長と安定した右肩上がりの経済成長を経て、生活に十分な資産をたくわえている。その一方で若者たちはバブル崩壊の余波を受け、正社員は長時間労働を強要され、フリーターや派遣労働者は低賃金労働を余儀なくされている。
かつてとは全く逆の、老人が肥え、若者がやせ細る状況で、「弱い若者から強い老人へ」お金を流通させる年金制度は、弱者のための政策どころか、「弱者から強者にお金を流す簒奪装置」と化してしまっている。
こうした状況下で、わたしが考えるのは2つの道だ。
まず1つが、かつてのように、「若者が強く、老人が弱い」社会を作って、年金を維持する方法。
そのためには、定年後の再就職を禁止、もしくは大きな制限をかけ、年長フリーターや派遣労働者に対する直接雇用を企業に対して義務づけることなどが必要となる。若者が安心して働けて、年金を払えるだけの収入が得られるようになれば、年金納付率は向上するし、年金問題と繋がりの深い少子化問題の解決にもなる。
もう1つが、老人だけが得られる年金を廃止し、若者も老人も受給する権利のある、セーフティーネットに移行すること。払ったという根拠なしにはもらえなかったり、資産が十分にある人が老後の小遣いとして受け取る年金ではなく、単純に弱者を社会から取りこぼさないようにのみ給付される、安全装置の制度に移行させる。本来、年金とは、老人という弱者を社会にとどめるためのセーフティーネットだったはずだ。
前回の参院選では、このような論点はまったく浮上せず、ただ現行の年金制度が危機に瀕しているからと、自民や民主はもちろん、普段から「弱者の味方」などとうそぶいている、社民や共産までが現行の年金制度を守ろうと、同じ色の旗を振っていた。
結局、どの政党にしても、その視線は富裕層か中産階級のどちらかにしか向いていない。このあたりが私のような弱者にとって、政党が信用できない部分である。
もし、この選挙に「年金制度廃止」を公約に掲げる政党が出てくるような国だったら、たとえ誰も当選しなかったとしても、少しは明るい未来への可能性を感じられたかも知れない。
プロフィール:
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。
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