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安倍晋三政権の突然の崩壊から二週間たち、ようやく後継首相が決まった。しかし、福田政権は、その発足の経緯からしても正統性を持っていない。また、参議院の野党優位状況を考えれば、政策実現の能力もない。自民党と民主党の対立構図を明確にした上で、解散総選挙を行い、国民の判断を仰ぐべきである。
一年足らずの短命に終わった安倍政権であったが、この政権は戦後政治の中で重要な意味を持つように思える。安倍は、右派の政治家や学者の期待を担って首相に就任し、憲法改正や「戦後レジームからの脱却」を正面に掲げた。教育基本法の改正や国民投票法の制定などの「成果」をあげたときには、これまでになく憲法の危機が深まったように思えた。参議院選挙でも憲法改正を争点に据えようとしたが、その意図は空振りに終わり、最後は惨めな退陣に終わった。安倍政治の破局は、右派の挫折でもある。
右派は強い指導者が大好きであるが、安倍を支持した多くの右派評論家は、人を見る目を持っていないことを告白したようなものである。また、安倍は退陣表明のかなり前から病気で苦しんでいたようである。病気で正常な判断力を持たないかもしれない人物が数週間も首相の座にあり、国際会議に出席して対外公約を行っていたのである。さらに、病気入院後は首相臨時代理もおかず、国政は空白状態のままであった。右派は危機管理も大好きだが、これほど大きな国家の危機に対して、なぜ誰も、安倍や自民党が危機を放置したことを批判しないのか。政権の危機に際して、右派の政治観、国家観の浅さが露呈された。
参議院選挙で、首相が改憲を叫んだが、国民はこれに取り合わず、与党を惨敗させたことの意義は大きい。国民は憲法改正よりも重要な政策課題があると考えていることを、投票によって明示したのである。この点こそ、安倍の意図とは反対方向ではあるが、安倍政治の最大の遺産である。これからしばらく自民党が政権を維持するとしても、その政権はこうした国民の意思を尊重せざるを得ない。改憲の危機は遠のいたと言ってよい。護憲派の人々は悲観主義者が多いようであるが、国民が憲法や戦後レジームを基本的に支持していることに自信を持ってもよいのではないか。
もちろん、私は憲法九条が安泰だという楽観論を唱えているわけではない。小泉、安倍時代に進んだ米軍再編と日米の軍事的一体化は、憲法九条を掘り崩そうとしている。憲法を守るためにはこうした動きに対抗することが必要である。一連の自衛隊と日米安保の変質は、日米の政府間の交渉によって推進されている政策転換である。これに対抗するためには、政権交代を起こし、憲法の理念により忠実な政党を政権につけることが必要である。民主党はこの点で大丈夫であろうか。民主党はテロ特措法の延長には反対しており、アメリカによる一極主義的軍事行動には加担しないという方針は明確である。その点は評価すべきである。
来年に予想される総選挙で政権交代を目指すうえで、安全保障政策をどうするかは難問である。性急に理想を追求するのではなく、まず米軍再編以前の状態にまで日米安保を押し戻すという点で多数派を形成すべきだと私は考えている。(週刊金曜日9月28日号)
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