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(回答先: 東京で子供が産めなくなる日 ルポ 都立病院の産科が消える (中央公論 10月号) 投稿者 どっちだ 日時 2007 年 9 月 18 日 02:01:05)
-----城西大学経営学部准教授伊関友伸のブログ から無断転載---------
http://iseki77.blog65.fc2.com/blog-entry-3588.html#comment
奈良県橿原市の妊婦の搬送中の死産問題について考える
現在、時事通信社から出版予定の本の校正を行っている。
今回、完成原稿に追加して、奈良県橿原市の妊婦死産問題に関して追加の記述を行った。
その追加の記述文をアップしたい。
なお、この文章を作成するに当たって、MJnetというSNSのメンバーの医師の方々の意見をいただいた。
心より感謝申し上げる。
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2007年8月29日の深夜、奈良県橿原市の38歳の妊婦が、自宅近くの深夜営業を行っているスーパーで下腹部の痛みを訴え、119番通報を行った。通報により、救急隊が駆けつけた。妊婦は、産科の受診を行っていなかったが、生理が止まっており、出血もみられた。
このため、救急隊員は妊娠を疑い、産科の搬送先を探した。救急隊が12の病院に延べ16回の要請を行ったが、各病院は、分娩中やベッドが埋まっているなどの理由により、受け入れを行うことができなかった。
結局、大阪府高槻市内の病院に搬送が決まったが、搬送中に死産となった。病院への到着は通報から約3時間後で、妊婦は妊娠6〜7カ月だったという。事件は、テレビや新聞などマスコミに大きく報道された。
さらに、札幌や仙台、千葉、川崎、大阪など、妊婦(その多くがかかりつけ医がいない妊婦)の出産が受け入れられない事例が相次いでいるという報道がなされ、社会の不安を招いている。
今回の事件では、奈良県の周産期医療情報システムが、かかりつけ医のいない妊婦については対象外だったなどの問題が指摘されている。問題点については、新たに設置された調査委員会によって明らかになるものと考える。
筆者が、今回の事件で気になったのは、テレビや新聞の報道で「たらい回し」と「受け入れ拒否」という言葉が多用されていることである。
これらの言葉の語感には、「医療現場(産婦人科医師)が怠けている」「もっとすばやく対応ができたはずだ」というニュアンスが存在するように思われる。
実際、救急の受入要請に、他の妊婦の入院・出産で手一杯で受入ができなかった奈良県立医大病院は、マスコミの報道により、約50件の苦情が寄せられたという(産経新聞07年9月1日付より)。
実際には、奈良県立医大の当直医師2人は、当直外の1名の医師の応援を得て、28日の深夜から29日にかけて妊娠高血圧患者が胎盤早期剥離となり緊急帝王切開手術を行った後、妊娠39週と40週の妊婦が立て続けに入院、うち1人は朝の5時には出産している。さらに、開業医から分娩後の大量出血した患者の受入依頼を受け、満床の病床のやりくりをしながら入院を受け入れている。
その上、当直明け後に医師1名は外来など通常業務につき、もう1名は代務先の病院で24時間勤務についていた(奈良県立医大HPより)。その他の産科のある病院も同様で、産婦人科医不足でどの病院も病床は一杯である。受け入れたくても受けられない病院も多い。
その中で、今回の妊婦は妊娠6〜7カ月にもかかわらず、かかりつけ医のいない(出産予定の病院のない、医師の診察を受けていない)妊婦であった。かかりつけ医のいない妊婦の場合、医療現場は、妊婦、胎児の経過、感染症の有無など基本的な情報を把握することができない。
このため、このような妊婦の出産の場合、最悪の事態を想定すれば、産科医2人以上+麻酔科医(リスクの高い手術をしなければならない場合がある)+小児科医+NICU(新生児特定集中治療室、胎児が未熟児の場合に必要)が必要という。
夜中の2時、3時にこれらのスタッフや病床を確保できる病院は少ない。そしてそういう病院は、既に数多くの妊婦や新生児を受け入れており手一杯ということも多いのが、現在の産科医療の実情なのである。
さらに、今回の場合、妊婦が救急隊に的確に体の状況を話していなかったという報道もある。母子保健法第4条は、「母性は、みずからすすんで、妊娠、出産又は育児についての正しい理解を深め、その健康の保持及び増進に努めなければならない。」と定め、同第15条は、「妊娠した者は、厚生労働省令で定める事項につき、速やかに、保健所を設置する市又は特別区においては保健所長を経て市長又は区長に、その他の市町村においては市町村長に妊娠の届出をするようにしなければならない。」としている。
法律の規定はともかく、おなかの中の胎児のいのちのために、医師の診察を受け自分の体を大切にすることは、成人としてあるべき姿であると考える。そして、このような、医師の診察を受けない妊婦が非常に増えているのが、現在の産科の医療の現場でもある。
わが国の周産期医療を崩壊させないためには、妊婦の側としても、産婦人科医という少ない医療資源を十分生かせるように、医療機関にお任せにするのではなく、自らも妊娠や出産について学び、医療機関と共同して節度ある行動を取る必要がある。
このような周産期医療の状況をきちんと理解することなく、「たらい回し」「受入拒否」という言葉で、国民の医療機関への批判を掻き立てるような報道のあり方は疑問を生じる。
一生懸命現場で働いている産婦人科医のやる気を削ぎ、結局、お産の現場から医師を立ち去らせることにつながる可能性が強いように思われる。このような場合、出産を受け入れる産科医やそれをサポートする小児科医などがいない、他の妊婦のお産などに立ち会っていて手が空いていない、産科やNICUなどの病床が一杯などの視点に立って「受入不能」という表現をすべきと思われる。
そして、このような状況を解決していくためには、何よりも産科医や小児科医を増やすこと(処遇を改善し、働きがいのある職場にしていくこと)が重要であり、その上で、周産期医療システムの機能向上などを図り、可能な限り「現場が人手不足で手一杯のため、受入が不能」の状態をなくしていくべきである。
このことは、医療現場のスタッフの努力だけで解決するものではない。行政や医療機関だけでなく、妊婦を含めた関係者の協力があって実現可能というべきものである。
報道機関は、「たらい回し」「受入拒否」という言葉で、短絡的に医療現場を批判するのではなく、現場で実際起きていること、検診や出産にお金がかかるためかかりつけ医をつくることができない妊婦の存在や、そもそも行政の支援制度があるものの、それを知らない、興味のない妊婦がいることを、単なる妊婦批判ではない形できちんと報道すべきである。
その上で、社会として、かかりつけ医のいない妊婦をいかに少なくしていくのか。妊婦やその関係者に、かかりつけ医を持つことの重要性を理解してもらうためにはどうすべきかについて、もっと深く分析をして報道をしてほしい。表面的に現場の医師を批判しても、産科医療の危機は解決しないと考える。
(今回の議論を行う上で、まず死産となった赤ちゃんが安らかに眠られることを願う。また、不幸にして死産となった妊婦の方については、1日も早い心と体の回復をお祈りしたい。事件については、テレビ・新聞等の報道情報だけで情報が限られており、妊婦の方が何らかの事情で、かかりつけ医を作ることができなかった事情があるのかもしれない。そのような理由のある場合、ご本人の心を傷つける議論を行った可能性がある。その場合は、心よりお詫びをする。日本の産科医療を崩壊させないために、あえて、一歩踏み込んだ議論を行った。)
地域医療・自治体病院のマネジメント | コメント(3) | トラックバック(0) │2007/09/30(日)12:00
コメント
その通りです。
毎日新聞を始めとするマスゴミたちは患者の不安心理をあおり、読者をひきつけ視聴率を上げることにしか興味のない、自己利益団体であります。
マスゴミが騒げば騒ぐほど、医療が悪くなり、国民が医療を受ける社会インフラをつぶしていることになります。
2007/09/15(土)21:41| URL | 産科医
御発言ありがとうございます
伊関先生のここでの御発言に心から感謝します。
分娩室で働く、多くの疲れた産科医たちにとって、いっこうに実現しない分娩手当より、ずっとずっとありがたいメッセージでした。
最近の調査によると専業主婦の家事は年収1400万円の労働に換算されるといわれ、そのまま受けとるならば妻たちの多くはそれに対する特段の対価を要求せず、少なからぬ夫への不満も我慢し、子供と家庭を守りながら穏便に暮らしていることになります。
しかしその一方で、「何かあれば離婚すればよい」と考えるものがこの20年間の間に、23% (1979年)から54% (1997年)にまで増加しているともいわれるそうです。もし夫が生活費を入れず、酒を飲んでは意味不明の罵声を浴びせ、自身の給与額も忘れて料理や子育てに無い物ねだりをするとしたら、妻たちはどうするのでしょうか?
産科医の多くは手当のない産直勤務にも特段の不満をいわず、毋児医療を守り穏便に暮らしてきました。しかし、治療結果に満足しない一部の患者は自身の住む地域医療システムの限界も知らず、治療内容に無い物ねだりの罵声を浴びせます。結果が悪ければ、その診療経過を検証する以前に大衆さらには司法とともに「助けられたはずだ」「医療ミスがあったはずだ」と決めつけるのです。
そう、今私が感じている「疲労感」は、家事に疲れた妻が離婚を考えて思い悩むその心情に類したものなのです。
産科医不足に対して国が提唱する対策のうち、「産科医養成支援」とは、「離婚増加分だけ新しい結婚を増やす」、「産科医集約化」とは「離婚した妻を都会地へ集め再婚させる」計画に他なりません。そして「助産所(師)の活用」とは、テレビ人生相談での「あんた、別れなはれ」という決めゼリフに従って「悩む夫婦に離婚を決断させ新たな同居人を探す」ことに等しいように思われます。しかし、どう考えても新しい同居人が別れる妻以上の家事能力を持つとは思えないのですが。
今、私を含め一線で働く産科医の毋児医療への思いは過労と産科医療に対する理不尽に過剰な要求によって次第に薄れつつあります。いったん醒めた夫婦間の愛情が修復困難であるように、産科医の中に受け継がれてきた毋児医療への情熱もいつか失われていくのかもしれません。
産科医の消えた地方では妊婦さんを守るべき毋児医療システムが急速に崩壊していますが、その周りには深い霧が立ちこめており、現場から発せられるSOSは遠い港の為政者には伝わらないようにみえます。
(産科医ー離婚妻相似論でした)
2007/09/15(土)22:14| URL | 風邪ぎみ
奈良県妊婦救急搬送事案調査委員会への意見
(以下の投稿はマルチポストです。もし不適当でしたら削除願います)
■奈良県妊婦救急搬送事案調査委員会について
この件について「2007年8月奈良県妊婦救急搬送事案調査委員会」が開催され、奈良県のHPhttp://www.pref.nara.jp/
にその概要がアップされています。
http://www.pref.nara.jp/imu/2007-8ninpukyukyu/dai1kai/index.html
このHPでは意見を受け付けていますので、
imu@office.pref.nara.lg.jp
もし可能であれば伊関先生始め、このブログを見ておられるであろう方々からのご意見を是非お願いしたいと思います。
この概要を見ますと、荒井奈良県知事は産科医療の勤務条件改善や一次医療(産科に限定してではないと思いますが)への財政的投資をすると発言しています。
一般からの意見では医師バッシングしかない可能性があります。そこで実態に即した建設的な意見を数多く届ける必要があると思います。
またそれにより荒井知事から国への医療政策についての意見具申となれば世論喚起も期待できます。
国の医療費削減政策の転換や医師の待遇改善マスメディアの問題等、ご意見をお願いできればと思います。
この場を勝手ながらお借りしましたことお詫び申しあげます。
2007/09/17(月)01:35| URL | 地方公務員
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