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瀬島龍三とシベリア抑留の闇(天木直人のブログ 9/6)
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投稿者 天木ファン 日時 2007 年 9 月 06 日 11:37:42: 2nLReFHhGZ7P6

07−9−6

 瀬島龍三とシベリア抑留の闇

 瀬島龍三氏が4日老衰のため死去した。95歳であった。5日の各紙はそれを一斉に報じた。
 瀬島氏の人生には二つの人生がある。太平洋戦争のほぼ全期間、大本営陸軍参謀として戦争運営の中枢にあり、敗戦を満州で迎えて旧ソ連軍の捕虜となり、シベリアに11年抑留された後1956年に釈放され帰国した、という軍人瀬島龍三と、帰国後1958年に伊藤忠商事に迎えられ、専務、副社長、会長と上り詰める過程で歴代の自民党実力者と深い親交を結び、その人脈から、戦後日本の政財界のブレーン的存在として力を発揮した、日本のブレーンとしての瀬島龍三である。
 「瀬島死す!」の訃報が流れた時、メディアが取り上げたのはもっぱら後者の瀬島であった。その業績の数々をたたえて冥土の餞(はなむけ)の言葉とした。
 私が瀬島龍三という人物について関心を持つのは、もっぱら軍人としての瀬島である。それもシベリア抑留時代に旧ソ連とどのような関係にあったか、その一点においてである。
 もう20年ほど前の話になるが、ノン・フクション作家保阪正康が書いた「瀬島龍三参謀の昭和史」(文芸春秋)を読んだ時の衝撃が忘れられない。それは一言で言えば、シベリアに抑留された日本兵を瀬島はソ連に売り渡したのではないかという疑惑である。
 戦時中の出来事はすべて悲惨である。比較する事自体が間違いだ。しかし東京大空襲や沖縄地上戦、そして広島、長崎への原爆投下にくらべ、シベリア抑留の悲惨さについての言及が少ないと感じるのは、私一人だけであろうか。シベリア抑留はもっと注目されてもいい。いや昭和史の負の遺産として日本国民が決して忘れてはならない歴史の一部なのだ。
  日本が降伏する直前の8月9日に、日ソ中立条約を一方的に破棄して宣戦布告した卑劣なソ連は、満州に侵攻して邦人60余万人を捕虜にして抑留した。そしてその捕虜の多くは凍土の流刑地シベリアの収容所へ送り込まれ強制労働させられた。6万人余とも言われる邦人が、終戦になったにも関わらず二度と日本の土を踏む事無く凍土の土と消えた。その無念と辛苦は想像に余りある。なぜ救い出す事ができなかったのか。なぜかくも多くの日本国民がシベリアに長く勾留されねばならなかったのか。有り得ない事ではあるが、もしも、もしもである。その裏で、日本の関東軍参謀がソ連軍と交渉し、賠償のかわりに日本兵を労働力として提供するという密約を交わしていたとすればどうか。
  この闇を追求しようとしたのが前掲の保阪正康の書であり、魚住昭ほか共同通信社社会部の手になる「沈黙のファイル 瀬島龍三とは何だったのか」(新潮社)である。
 もちろん瀬島自身はこれをきっぱり否定している。まったく根拠のない虚構だと一蹴している。
しかし「何もしゃべらずに逝ってしまった。(先の戦争を)自衛のためだったと正当化し続けた。自分の戦争責任に向き合って生きた、とは私には思えない」(魚住昭、5日付朝日新聞)、
 「(二日間で計8時間、瀬島さんを取材したが)最も聞きたかった、大本営参謀とシベリア抑留時代の事は、史実を詳しく話したがらず、最後まで不透明なままだった。肝心な事を聞くと、話を本質からそらす癖があった。」(保阪正康、5日付読売新聞)、
 「終戦前のソ連との交渉に深く関与した人物で、貴重な歴史の証言者。しかし、最後までついに肝心要のことはしゃべってくれなかった。対談などの機会に何度も『話すべきだ』と説得したが、口を開く事はなかった」(作家・半藤一利 同読売新聞)
などという関係者の言葉を、我々はどう受け止めればいいのか。
  「戦後日本を築いた偉大な先輩を失い、悲しみでいっぱいだ。行財政改革でお世話になったのみならず、政治、経済、文化、社会、あらゆる面で日本人を指導してくれた。」(中曽根元首相 同読売新聞)、
  「明晰な頭脳と明治人の気骨を併せ持つ方だった。戦前、戦後を知る日本人のリーダーの一人を失い、寂しい思いがする」(山口信夫 日本商工会議所会頭 5日付朝日新聞)という賛辞の陰で、また一つ昭和の闇が墓場まで持っていかれた。
 

http://www.amakiblog.com/archives/2007/09/06/

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