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【再掲】「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」[from 911/USAレポート/冷泉彰彦]
http://www.asyura2.com/07/senkyo40/msg/335.html
投稿者 小沢内閣待望論 日時 2007 年 8 月 10 日 13:34:21: 4sIKljvd9SgGs
 

「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」[from 911/USAレポート/冷泉彰彦]
http://www.asyura2.com/0403/war50/msg/1044.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 4 月 09 日 16:49:46:dfhdU2/i2Qkk2

  2004年4月9日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.265 Extra- Edition
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』 第140回
   「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』 第140回
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「自衛隊は即時撤退しても日米同盟は壊れません」

今週のイラクはいよいよ危機的な状況になってきました。一部のテロリストによる周
到で悪質な分断工作の結果、シーア派の指導者ムクタダ・サドル師と暫定統治機構す
なわち米軍との関係は最悪になりました。その結果として米軍によるファルージャで
のモスク攻撃という最悪のリアクションが起き、シーア派住民の住む地域にも反米感
情が蔓延しています。今週に入ってからの、米軍の犠牲者は32人という数字に跳ね
上がる一方で、イラクの民間人犠牲の数も拡大を続けています。

そんな中、イラクに駐留している各国軍にも動揺が広がっています。4月7日晩のC
NBCのニュースで、NBCのアンドレア・ミッチェルは「今回のイラク全土の緊張」
の余波として(1)撤兵を言い出したカザフスタン軍、(2)米軍に警護を要請した
ブルガリア軍、(3)改めて兵員派遣を拒否してきたドイツ、と並んで(4)活動を
停止して兵営に閉じこもった日本軍、を紹介していました。「このように今週の危機
は、各国の軍の動静とも全てリンクしているのです」というミッチェルは言っていま
した。

狡猾なテロリストの罠は次々に仕掛けられています。週の前半には、韓国人の民間人
が2名拉致されて、その後釈放、そして木曜日の8日には同じ韓国人の牧師8人が誘
拐され、1名は直後に脱出、更に7名もその後解放されています。尚、この事件に関
しては、アメリカのメディアは、最初の二名の事件は伝えましたが、その解放につい
ては伝えていません。また、2度目の事件については、ほとんど報道されていません。

アメリカ内部の動向としては、議会から「イラクがベトナム化しているのでは」とい
う疑問が出る一方で、8日の木曜日は朝9時から議会での「911調査委員会」が始
まると主要なネットワークは全て生中継に切り替わって、大騒ぎになりました。他で
もありません、散々証言を渋っていた安全保障補佐官である、コンデリーサ・ライス
女史が議会証言したのです。

内容的には、質問する側も「手加減」があり、上品なライス博士一流の弁明を聞く
「儀式」というやや拍子抜けした内容でした。ライス女史は基本的にはブッシュ大統
領を擁護して、クラーク前顧問の言う「ブッシュ政権はイラクに気を取られてアルカ
イダを深刻に考えていなかった」というコメントを否定するような証言に終始してい
ました。

ですが、911の直前の2001年8月6日に「オサマ・ビンラディンが米国本土攻
撃を計画している」というような「安全保障関連メモ」が大統領に提出されたという
証言は波紋を呼んでいます。証言直後からは、安全保障上の機密になっているメモを
公開するように議会は圧力を強めています。所詮は政争に過ぎないとはいえ、ブッシュ
政権が「不必要なイラク敵視政策に気を取られていた」ことへの批判は、今回のライ
ス証言では晴れませんでした。

ワシントンで、そのライス証言の行われている前後に3名の日本人がイラク国内で拘
束され、犯人グループはその方々の生命を脅かしながら自衛隊の撤退を要求している
というニュースが飛び込んできました。とは言っても、アメリカ国内の扱いは大きく
はありません。

完全に伏せられているわけではないのですが、911以来ケーブル・ニュース局が2
4時間流し続けているテロップに出る程度で、主要なニュースにはなっていませんし、
大きなメディアのHPにもメインのニュース扱いとしては出ていません。夜に入って、
人質の映像を含めて報道が始まりましたが、依然として「ライス証言」のニュースに
隠れがちです。

いずれにしても、混乱を引き起こすために、そしてイラクという地域の全体を戦争状
態に陥れるためのテロ活動として、そのどこにも正義はありません。イラク人による
民族自決が正義で、米軍=占領軍が悪だという単純な立場に立つ人から見ても、こう
した行為はイラク全域に不幸を拡散させるだけで、何の根拠もないことは自明です。

そして拘束されている三人は、いずれも米軍の占領を支持する立場というよりも、イ
ラクの復興のために、個人として貢献ができないかと、活動している人とその支持者
に他なりません。テロリストに正義はありません。そのことはハッキリ申し上げてお
くべきでしょう。

その一方で、結論から申し上げれば、今回の事件を契機に自衛隊を即時撤退させるべ
きだと思います。それが反戦的な意見に勝利をもたらすからではありません。「悪し
き」派兵の幕引きがされるのが痛快だからでもありません。日本に国益なるものがあ
るとすれば、それが唯一最上の策だと思うからです。

まず、テロリスト集団の狙いは明らかです。イラク国内でテロを繰り返し、民間人犠
牲を増やすのは彼等の狙いなのです。米軍へのテロよりも、イラク人を殺した方が効
果的だからです。治安が悪化して民生が向上しない事態が続けば、人々の憎悪はアメ
リカへと向かうからです。直接アメリカ軍を攻撃するよりも、結果的に米軍の立場は
悪くなると言うわけです。

今回のシーア派がらみの騒動も同じ理屈です。シーア派へのテロを強め、怒ったシー
ア派住民の感情がアメリカへの反感へと向かうよう周到な工作がされてきたのだと思
います。その結果として、サドル師の言動が反米になり、それが過激になり、という
延長で、米軍は罠にはまったようにモスクへの攻撃をしてしまいました。こうなると、
イラクの中でシーア派住民が多数を占める地域では反米感情が増幅し、6月の暫定統
治機構からイラク人への政権譲渡は難しくなります。実に巧妙な計算です。

私は元来が、自衛隊の派遣には反対してきました。ですが、一旦派兵がされ、とりあ
えずサマーラでの民心を得る努力がされ、その一方で国連の新たな決議や平和維持の
枠組みが出てくれば、「国連やヨーロッパよりも先にイラクの人道支援を始めていた」
ことは、歴史上非難されることにもならないし、当座の「国益」にもマイナスではな
いだろう、そう思って静観していました。

ですが、今週の情勢は違います。テロリストの行為は狡猾ですが、その結果としてア
メリカ主導の占領行政の失敗、そしてシーア派とスンニー派の分断、その先にはイラ
ク国内の内戦というような事態も想定されるのです。CNNで伝えられたように自衛
隊は宿営地へ引かざるを得なくなりました。そのサマーラはシーア派住民が圧倒的な
多数を占める地域です。このままズルズルと駐屯を続けて、内戦に近い状態になると
すれば選択肢は四つしかありません。

第一はシーア派支持に寝返ることです。そうすれば、地域の理解を得て給水などの事
業が継続できるでしょう。ですが、これはアメリカ主導の「コアリション(同盟軍)」
への敵対行為になる以上、日米政権が現在の枠組みであれば不可能です。第二は、完
全に引きこもることです。いつまでも駐屯地にこもって、テロリストの攻撃にも耐え、
しかし人道支援はできず、という状況で何ヶ月も過ごす、その一方で国連の関与やア
メリカの政権交代があったのなら、結局早期派兵はムダだったということになります。

第三は、サマーワに駐屯しているオランダ軍と共同で、暫定統治機構や同盟軍と協力
しながら、サマーワ地区での治安維持に当たることです。ですが、内戦同様の事態と
もなれば、この治安維持活動というのは戦争と同じことになります。もっと言えば、
最悪の事態としては反米感情、反占領軍という情念を抱いたシーア派の武装勢力に囲
まれることもあり得ます。

そこで、不明朗なきっかけでの激戦があり、イラク側に大量の犠牲が出れば、自衛隊
は虐殺者の汚名を浴びることになります。戦後営々と培ってきた軽武装の平和国家と
いう国是も、その国是に基づいた繁栄も全てが一瞬のうちに消え去ることでしょう。

第四の選択肢は撤兵です。今回の派兵はあくまで「戦後の破壊されたインフラを整備
する人道支援」という目的のものです。その「戦後」が改めて「内戦」に事態が変わ
るのなら、そして今日付でイラク国内からの日本人民間人の退避勧告が出たように、
人道支援などできる条件が失われたのなら、自衛隊は駐留を続ける理由すら失ったと
言えるのです。

以上の結論は、サドル師と米軍が最終的に「切れて」、ファルージャでのモスク攻撃
があった時点でのものです。私は、今回の誘拐事件がなくても、この撤兵案を述べよ
うと思っていたところでした。

そこへ、3名の方々が拘束されたというニュースが入りました。3名の方には申し訳
がないのですが、これは撤兵の口実として良いのだと思います。ファルージャの騒乱
が南部の治安を激しく動揺させるとしたら、1週間ぐらいはあるのではないか、そう
考えると確かに今、撤兵するのは余りに唐突です。ですが、今回の悪質な事件は、そ
の口実になるのです。3名の方々の生命を救うために堂々と兵を引くべきです。

今回の犯人グループの言いぐさには恐ろしいものがあります。3人の人質を「焼く」
というような言い方には嘔吐すら覚えます。ですが、私は犯人グループの要求を無視
して、駐留を続けることこそ罠にはまることに他ならず、この機会を捉えて、自衛隊
を引くことにこそ、戦略的な勝利があると思うのです。

それは臆病ではないか、という意見があるかもしれません。ですが、考えたくありま
せんが、撤兵がされず、3名の方々の身に危険が及んだ場合はどうなるでしょう。日
本の世論は反米と親米に真っ二つに引き裂かれると思います。日本社会は激しい動揺
に晒されると思います。悲劇が起きてしまった場合は、長い目で見れば日米同盟は不
安定なものになる可能性が強いのです。

また、小泉政権がチェイニー副大統領あたりに「要請」している「米軍による救出協
力」ですが、万が一この「救出協力」がされてしまった場合はどうなるでしょう。そ
の「救出」が成功に終わっても、失敗に終わったとしても考えられるリスクは二つあ
ります。まず、米軍に犠牲が出た場合です。この場合は、日本側は米軍に頭が上がら
なくなります。

自国民の救命に対して他国民に犠牲を強いた、という「借り」は大変なものです。ま
して、それが他国民の正規軍だとすると、国全体としての「義理」が生じます。まし
て「義理」というような感情に良くも悪くも束縛されやすいのが「首相官邸」なる役
所に詰めている人々ですから、これからどうなるか分かったものではありません。

もう一つのリスクは、日本人の人質の「救命」を理由に、米軍が民間人を含む大量殺
戮をしてしまった場合です。この場合は最悪で、同じような「義理」に束縛されるば
かりか、濁った「共犯意識」も出てきますし、日本の国内の分裂は手がつけられない
ものになると思います。この場合も激しい反米感情が噴出するはずです。

ただ、ここ数日の同盟軍のサンチェス司令官の言動を見ていると、現場の士気低下、
増派をするしないというペンタゴンとのやりとり、そして日々深刻になる現場の情勢
を受けて、相当カッカ来ているようなムードがあります。「イラクはベトナムではな
い」ということを繰り返し言う辺りに苦渋がにじんでいます。そんな米軍に「救出」
を依頼する、それは何重の意味でも危険です。

誘拐や脅迫に晒された時、その脅しに屈服することは、同じような事件を誘発する、
だから多少の犠牲があっても強硬姿勢を貫くべきだ。そんな考え方があります。私は
全否定はしません。確かに誘拐犯の言いなりになって、天文学的な身代金を払えば、
その国の人の命の値段は上がります。その結果、かえってその国の人は誘拐のターゲッ
トになるでしょう。人質が殺されても、馬鹿馬鹿しい金額は払わないという姿勢を見
せれば、その後の犯罪が防げるかもしれません。

ですが、今回のケースは違います。第一に、誘拐事件があろうとなかろうと、今週の
情勢では、サマーワにおける自衛隊の「人道支援活動」は不可能になっていたのです。
そして事態は恐らく来週には更に悪化していたと思われます。何もなくても、引くべ
きタイミングだったということです。

では、自衛隊が撤兵の判断をした場合に日米同盟はどうなるでしょう。私は全く問題
はないと思います。まず、第一に、CNNのアンドレア・ミッチェルが報告している
ように、今回のファルージャの騒乱、更にはその動揺が南部にも波及しており、各国
軍が引き始めているということは十分に伝えられています。その流れの中では、仮に
自衛隊が引いても何ら不思議はありません。

第二に、アメリカ世論には自衛隊のサマーワ派遣のことは知られていません。日本の
外交官や政治家は、ワシントンへ行けば「日本はもっと自覚を持って自主防衛を」と
お説教されるので、それがアメリカ世論を代表していると思っているのでしょうが、
完全な間違いです。

アメリカ世論の多数の日本観は次の二つです。年輩の保守的な人は、いまだに真珠湾
の騙し討ちをした悪い国だが、その後はアメリカと仲良くしているから許す、ハイテ
クや自動車で頑張っているのもここまでやったのだから感服する、というような感覚
です。彼等は、「日本軍の亡霊」が歴史の彼方から表れたら、むしろ不愉快に思う層
だと思います。

今回のヤンキースの日本訪問に当たっては、球団の専門チャンネル「YESネットワー
ク」が「野球が結ぶ日米」という特番を何度も何度も流していました。先週お伝えし
た通り、ベーブ・ルースを含むオールスター軍団の1937年の訪日と、沢村栄治と
の伝説の名勝負に始まる「感動的な日米友好史」です。ですが、一点、その軍団と共
に来日したメンバーが、その後日本に残って大戦直前の日本で「インテリジェンス」
の活動をしていたという紹介がありました。

要するに日本との決戦に備えてスパイをしていたというのです。「そのスパイ行為が
良いことだ」という文脈で紹介されていた内容からして、まだまだ戦争の記憶は消え
ていないのだと知らされます。ある年齢層、そしてある種の政治的な立場からすれば、
日本はいつまでも「旧敵国」であって、その軍事的拡大は決して歓迎されるものでは
ないのです。

もっと若い世代、それこそアニメやマンガ、日本語に日本食、と骨の髄まで日本大好
き、というような層はどうでしょう。例えば『キルビル1』などという「チャンバラ
映画」が絶賛されるのだから、日本の武道や血なまぐさい文化も歓迎され、自衛隊の
活躍やら「勇気」がもてはやされるのでしょうか。『ラスト・サムライ』はどうでしょ
う。

こちらも逆なのです。『ラスト・サムライ』は「天皇に背いた」から正義だとされる
のです。『キルビル』は完全なアート系の趣味的映画ですから、見る人は「パロディ」
が分かる教養層です。この人達は、リベラルな感性を持っていて、日本文化がアメリ
カの西部劇的な文化とは違う、つまり「殺し合い、名誉の奪い合い」というような下
品なことを「しない」日本文化が大好きなのです。

アメリカの映画ファンが黒澤明監督の『七人の侍』や、北野武監督の『ソナチネ』な
どを絶賛するのも、そこにある「正義」なり「破滅」が、荒っぽい強者の論理ではな
く、繊細な弱者の矜持を訴えるものだから支持しているのです。アメリカ文化にはな
い立派さを、そこに見いだしているからなのです。

今回のファルージャでの市街戦という事態を受けて、ラムズフェルド国務長官は「同
盟軍(コアリション)の意志(ウィル)が試されている」などという不敵な発言をし
ています。要するに、アメリカに反抗するものは叩くというのです。同盟軍の中で、
兵を引くものは「意志の弱い」ものなのだ、そんな脅しとも言える発言です。

これに対しては、日本は堂々と自衛隊を引くべきです。胸を張って引き上げるべきで
す。アメリカの庶民は、誰も不思議に思わないでしょうし、大した悪感情も持たない
でしょう。政治家のメンツは潰れます。ブッシュ=チェイニー=ラムズフェルドのメ
ンツは潰れます。小泉=福田=石破のメンツは潰れるでしょう。ですが、それだけで
す、日米関係はビクともしないでしょう。

自衛隊が引いたからと、対日感情は悪化するでしょうか。一時的に悪口を言う人があ
るかもしれませんが、すぐに消えるでしょう。それよりも、自衛隊が米軍の「足手ま
とい」だという話になった場合も、世論の日本観は悪化すると思います。その点でも、
今引いてしまうのが得策です。

トヨタや本田の、あるいは任天堂やソニーの不買運動はどうでしょう、撤兵というこ
とではあり得ないと思います。多少軍のOBの人が騒ぐかもしれませんが、大したこ
とにはならないでしょう。第一、イラク戦争を通じて一貫してアメリカの方針に反対
していたドイツの車は、堂々と売られ人気を維持していました。ですが、自衛隊が
「やりすぎ」ということになれば、それこそ日本車焼き討ちということにもなりかね
ません。

仮に「やりすぎ」や「足手まとい」という事態が防げても、他の同盟軍(コアリショ
ン)が逃げ出した後で、日本だけがアメリカに「道連れ」にされている構図は、何と
しても避けねばなりません。

本稿が配信された直後には、チェイニー副大統領が日本へ行きます。今回の事件を含
めて、チェイニー副大統領が「日米交渉」の窓国になるのでしょう。軍需産業・石油
産業との癒着が公然と囁かれ、一連の外交政策の責任者である同氏の訪日に際して、
日本政府はどう出るのでしょう。頭を下げて「人質救出へのお願い」をするのでしょ
うか。それとも、「カネで解決したいので黙っていてくれ」とでも言うのでしょうか。

あるいは「動揺するな」というチェイニー氏の恫喝にひたすら恐縮するのでしょうか。
冗談ではありません。国を代表し、国益なるものを背負っているのなら、こうした危
機にこそ胆力と知力を発揮すべきです。「こんなはずではなかった。イラクの復興は
進むはずだった。自衛隊の人道支援は役に立つはずだった。一体イラクはどうなって
いるんですか。米国の見通しはどうなのですか」と机を叩き、メタルフレームの眼鏡
の奥に覗く小心な瞳を見据えながら迫るべきです。

日本側の代表が英語が自由である必要はありません。優秀な通訳が正確に仕事をして
いれば十分です。そして「今回の人質事件は、日本に取って心外です。これは脅しに
屈するのではない。治安が悪化した、人道支援はできない、その時期ではない、最悪
のケースは内戦に巻き込まれるか、立ち往生するかだ、日本に取って他に選択肢はな
い」そう毅然として、副大統領に宣言すべきです。

国民の生命財産というものがあるとすれば、それはそのようにして守られるのです。
国の安全保障というものがあるとすれば、そのようにして守られるのです。その簡単
なことが言えないのならば、統治の責任は全うできないと言えるでしょう。

テロリズムの悪に屈するのではありません。悪の仕掛けた罠からは、堂々と距離を置
くべきなのです。悪の敵になる道を選ぶのではなく、悪を憎むがゆえに悪を遠ざける
ことで間接的に悪の力を削ぐのです。この局面での撤兵は、紛争地全体の緊張と対立
のレベルを上げるのではなく、下げるための積極的な行動なのです。

撤兵ではあっても消極策ではないのです。撤兵こそ戦略的な積極策なのです。動くべ
きです。決断の時です。手をこまねいて泥沼に入りつつあるブッシュ政権の外交政策
とは一線を画すべきです。ここは兵を引くべきです。胸を張って引くべきです。今が
そのタイミングです。

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冷泉彰彦:
著書に
『9・11(セプテンバー・イレブンス)―あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093860920/jmm05-22

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