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政治的遺言を心して聞く〜小田実氏の安倍政権論〜(JANJAN)
http://www.asyura2.com/07/senkyo40/msg/247.html
投稿者 天木ファン 日時 2007 年 8 月 09 日 08:40:09: 2nLReFHhGZ7P6
 

http://www.news.janjan.jp/government/0708/0708060431/1.php

政治的遺言を心して聞く〜小田実氏の安倍政権論〜 2007/08/08

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 月刊誌「世界」(岩波書店)8月号に、7月30日に亡くなった平和運動家・小田実氏の政治的遺言とも言うべき最後(?!)のインタビュー「民主主義を殺さぬために」が掲載されている。

 ひとりの国際的な反戦運動家が、己の死を目前にし、最期の言葉を市民のために遺そうと、必死で語っている姿が浮かんでくる。その姿は凄絶ではあるが、どこか清々しいものがある。

 そのインタビューの骨子は、以下の3つである。

 第一に現在の日本の政治局面の分析
 第二に反戦平和活動と自らの想像力について
 第三に憲法9条と平和を守る「中流の復興」という戦略

 尚、このインタビューは、月刊「世界」編集長岡本厚氏によって07年6月13日に病室でなされたものである。

1 現代日本の政治状況分析

 小田氏は、現代の日本の政治状況を、ワイマール憲法下のドイツに似ているとみる。周知のようにワイマール憲法は、第一次大戦で敗北し立憲君主制が崩壊した1919年8月、ワイマールの国民議会で、直接民主主義的な精神に基づいて制定された極めて民主的な憲法であった。

 その後、ヒトラー率いるナチスは、この議会制民主主義体制の下でメキメキと頭角を現し、ついには権力を奪取すると、その暴力的な傾向と全体主義的政策を次々と推し進め、ついには議会で全権委任法成立させて、事実上ワイマール体制は崩れ、ナチス率いるドイツは自身を第三帝国と称して全ヨーロッパを巻き込むバケモノのごとき全体主義的国家に変貌を遂げてしまうのである。

 このことについて、小田氏は「ナチは暴力的なイメージがあるけれども、ワイマール体制を破壊し、権力を奪回する過程は、議会制民主主義のもとで進んだ……(ナチは)民主主義のもとで民主主義を殺した」(前掲)と見る。

 現在の日本において、安倍政権が志向していることは、平和憲法を改憲し自主憲法の制定しようとする明確な意図である。そこで、小田氏は、「安倍の『美しい国づくり』と比すべきは、……ナチが台頭し、少数者に権力が奪取されたワイマール共和国の末期」(前掲)と酷似していると見る。

 その例として去る5月14日に参議院で自公政権によって強行採決された「国民投票法」を上げている。同法は、「得票率が20%でも憲法を変えることができる」(前掲)もので、ナチの「全権委任法(1933)」同様、「少数者への権力委任法」だ、と小田氏は主張する。

 つまり、ワイマール憲法下で、ドイツ国民は、ナチが何を目的に「全権委任法」を成立させたかも理解しないまま、ナチのが1935年に発表した「ドイツ政府はドイツを再軍備するにあたり、戦争を目的とした攻撃用のいかなる兵器をもつくる意図はなく、それとは反対にもっぱら防御用の兵器に限定している、それによって平和維持に資するつもりである」(前掲)という声明を安易にも受け入れて、平穏な社会生活を営んでいたのである。

 小田氏は、安倍首相の「美しい国」の美名のスローガンの先に「防御用の兵器に限定し……平和維持に資する」という声明に共通する何かがある。だから、今こそ日本人の良識が問われていると、私たち市民に警告を発しているのである。

2 反戦平和運動の想像力

 まず小田氏は、ひとりの市民は、小さな人間に過ぎない。市民が戦争に巻き込まれたら、加害者にもなり、被害者にもなる。「小さな存在である市民は、殺される存在でもあるがゆえに、殺す存在でもある」(前掲)と語りはじめる。

ベトナム戦争に駆り出されたアメリカの市民もまた、市民としては被害者だったが、ベトナムの民衆にとっては加害者となった。日本兵もまったく同じだった。

 大切なのは、被害を「する側」からではなく、被害を受ける側、つまり「される側」に立ってモノを見ること。戦後常に小田氏は、この「される側」の視点に立ってモノを見てきたと語る。

 例として、戦時中に見た「日本に爆撃される重慶の写真」と「アメリカ軍に爆撃される大阪の街」を上げる。そしてその写真の黒煙の下にいるのは、「小さな市民」なのだと語る。

 小田氏は、13歳で受けた大阪空襲の悪夢を思い出したのか、どのような活字や映像でも伝わらない戦争の現実として、自分が体験した死体の臭気に言及する。インタビューには小田氏の写真は載っていないが、おそらくそのことを語る時の氏の眼孔が、ギラギラと鈍く光ったはずだ、と想像すると、背筋が凍るような気がした。13歳の少年が、焼土と化した街に立ち、死体の腐臭を感じながらも、黙々と片付けをしているのである。

 小田氏は語る。
 「あの時は、自分の住んでいる大阪が、死体の臭気の漂う町となった。……これはすごい臭いですよ。映像でも活字でも伝えることはできない」(前掲)

 戦後、鮭の缶詰が小田氏は食べられなかったという。それは死体の臭いに似ていたからだとのことだ。

 ベトナム戦争は、日本の戦争体験者にとって、「戦争の追体験」だったと小田氏は語る。

 小田氏がべ平連を組織して活動し始めると、日本のかつての軍人さんたちが、参加してきて、『かつて我々の犯したような間違いを、アメリカが再び繰り返している』日本の失敗をアメリカに引き継がせたくない、と言ってきたというのである。しかしながら、残念なことに、その後もイラクで、アメリカは、ベトナムと同じような間違いを繰り返しているのは周知の事実である。

3 9条を守り平和を守る「中流の復興」という戦略

 「日本が戦後、平和憲法を下で、実現してきた中流の生活は世界に提示しうる道筋ではないか。……日本の『中流』が世界を変革するかもしれない。……安倍政権は、これを壊そうとしている。この国が、戦争のできない国……石油資源を持たない日本は、自前では戦車を走らせることも、戦闘機を飛ばすこともできない。食糧の問題もある。……日本の食糧自給率は40パーセントそこいら……日本は条件的にいっても戦争などできない……」と、小田氏は語る。

 安倍政権に先行した小泉政権の4年間をふり返る。

 2001年4月に誕生した小泉政権は、当面の課題であった財政再建と銀行の不良債権問題を解決するための切り札として、民間から竹中平蔵(1951− )氏を経済財政政策担当大臣として起用し、多少の傷みは伴うとしながら「政策聖域無き財政再建政策を強引に推し進めのであった。

 この間、大企業は、日銀によるゼロ金利政策と、グローバル化の下に徹底したリストラとコストカットを断行し、大企業(特に輸出産業)の利益は、大幅に向上したが、労働者のサラリーは、横ばいあるいは、ダウンという現実があり、景気回復感のないまま、政府の発表する景気指数だけが、好転という奇妙な状況に陥っている。

 またリストラによって、非正規雇用の労働者の数は増して、「ワーキングプア」なる言葉もできるほどの、経済格差が広がってしまっている。特に、東京と地方の格差は凄まじく、この傾向は4年間の小泉政権で、この傾向は顕著になってしまった。

 この小泉政権の流れを引き継いだのが安倍政権である。安倍晋三氏(1954− )は、小泉政権で当初官房副長官であったが、2003年9月から小泉政権の官房長官を拝命。そして昨年9月ポスト小泉で争われた自民党総裁選挙で内閣総理大臣に選ばれた人物である。

 安倍氏の祖父は、憲法改定論者の岸信介(1896−1987)である。そんなこともあってが、就任当初から自分の代で、憲法改正をするとの意気込みがあり、今年の5月14日には「国民投票法」を布石として打つなどした。小田氏は、このことをナチがワイマール憲法下で行った「全権委任法」がドイツ議会で民主主義的手続きを経て通った過程と似ているとして、私たちに注意を喚起しているのである。

 そして、最後に、小田実氏は、戦争の本質をについて、市民という名の「小さな人間たちが戦争に巻き込まれ、死んでいく、殺されていく。崇高という美名がつこうがつくまいが、無意識な氏をとげていく。……だから戦争はおぞましい。日中戦争も、ベトナム戦争も、イラク戦争も、……」と短く結び、最後のインタビューを終えている。

 インタビューを読みながら、小田氏の安倍政権論(日本の政治状況がワイマール体制崩壊前夜に似ている)とする小田氏の論理は、少々オーバーな気もした。しかし、ワイマール体制下でも、市民の油断があって、民主主義を壊滅させる「全権委任法(1933)」のようなおかしな法案が通ったのだ。日本だって、確かに少数の賛成で、最低投票率が規定されていない「国民投票法」が通ってしまっている。

 私たち小さな市民は、やはり、このインタビューで語られたことを、“細心の注意を払って日本の政治状況をウオッチし、憲法9条と民主主義社会を守り抜きなさい”という小田実氏最期の言葉として重く受け止めるべきだと思う。

(佐藤弘弥)

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