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特集ワイド:参院選 怒れる「おばさん」 安倍さんにビシッ
◇小泉さんには「ダマされた」
◇年金、消費税、強行採決、ばんそうこうの人…「多過ぎて語れませんっ」
07年の参議院選挙もそろそろ終盤。新聞・テレビはそろって「与党苦戦」と伝えているが、果たして街の実感は? 選挙の風をさぐるため、東京・銀座に繰り出して中高年女性、いわゆる「おばさん」100人の声を聞いてみた。【夕刊編集部おばさん動向取材班】
土曜日、日曜日の銀座の歩行者天国。4丁目交差点には選挙カーが頻繁に訪れ、候補者らが声を張り上げる。天気は曇り。声をかけたのは班員が「見た目」で30〜50歳代と判断した女性。60歳以上も若干含まれているが、そこは「最近の女性はいつまでも若々しいため」ということでご了承いただきたい。
調査対象を「おばさん」(女性読者のみなさん、ごめんなさい)に絞ったのには理由がある。消費税導入反対で自民党が大敗した89年参院選、逆に小泉旋風で自公が大勝した2001年参院選……大風が吹く時には、いずれも中高年の「おばさん」の怒りや声援が熱帯海上の水蒸気のように立ち上り、台風のように成長した。彼女たちの動向こそ選挙の風を起こす……という大胆な仮説に立ってみた。
参院選に関心がある人は87人、関心がない人は13人。ただアンケートを断る人もいるため、関心がある人の実際の割合はもっと低いと思われる。
「安倍内閣を支持していますか」に「はい」は19人、「いいえ」は52人、「どちらでもない」は27人、無回答が2人。ちなみに毎日新聞が22日に発表した約4万人対象の特別世論調査での自民党支持率は21%で、今回の「安倍支持」とほぼ同水準だった。日曜日の午後3時前、安倍晋三首相は街頭演説に立ち、4丁目交差点を観衆が埋めたが、郵政民営化選挙で小泉純一郎前首相が演説した時とは、雰囲気はかなり違う。
安倍さんの演説を聞いた東京都町田市の池亀頼子さん(50)は「全然、心に響きませんでした」とはねつける。「『やりました』『やります』って、政権政党なら当たり前でしょ。国民の目線で話してないですね。教育改革も言葉が上滑りしていて、実感がこもっていない。何でもかんでも、声高にこぶしを振り上げればいいというものではないと思う」とビシッ。
★「もっと勉強して」
首相就任時としては歴代第3位の支持率67%でさっそうと登場した安倍さんだが、何が評価を下げたのか。
多かったのは、閣僚の失言や事務所費問題への対応への批判だ。千葉市の60代の主婦は「あのばんそうこうの人(赤城徳彦農相)もそうですけど、次々に不祥事が起きても対応できないでいる」と指摘。目黒区の54歳も「事が起こった時の対応がまず過ぎてバタバタしちゃってる感じがするわね。年金問題への対応でも、ボーナス返上とかパフォーマンスばっかり。ちょっと違うんじゃないの」と憤る。
17回もの強行採決を繰り返した政治手法を懸念する声も上がる。多摩市の52歳は「強行採決はごう慢すぎる。安倍さんの言葉遣いは丁寧かもしれないけれど、テレビ討論などで人をさえぎって『私の内閣では』などと言う点も好きじゃない」。新宿区の西尾由永さん(59)は「議論を尽くさず、急いで強行採決して、日本が怖い方向に行ってしまうような不安を感じます。戦争体験がないのは仕方ないけど、もうちょっと(歴史的なことも)勉強してほしい」。
一方、安倍内閣擁護派からは「安倍さんが悪いのではなくて、年金にしても何にしても、長年のツケ」(中央区の57歳)▽「閣僚が足を引っ張りすぎて、気の毒」(大田区の53歳)▽「誰がやっても同じなのに」(埼玉県深谷市の50代)など、運の悪さを指摘し、同情する声も。
★自分のカラーを
調査班は女性たちに「私は小泉(純一郎前首相)さんにだまされたと思うか」という質問をぶつけてみた。きっかけは、女性識者による座談会「おばさんはだまされない」(17日夕刊掲載)で、放送作家の山田美保子さんが「私は小泉さんにだまされた女の一人なんですね」と発言したこと。小泉人気は女性が支え、今も根強いと言われるが、山田さんと同様に感じる女性はいるのか。
結果は「はい」が24人も。「小泉さんは改革なければ成長なしと言っていたが、郵政民営化で日本が良くなるのかだんだん疑問が強くなってきた」(東京都板橋区の50代)などの声が代表的で、4人に1人が「だまされた」と認識。「いいえ」は67人、その他は9人。「いいえ」の内訳も興味深い。
「小泉さんは信念を曲げない人だから、今も支持します。国民や野党が何を言おうが、絶対に信念を曲げない。あれが国のトップの姿でしょう?」(江戸川区の46歳)、「改革の評価は別として、行動力があった。政治に興味がなかった私たちにも(政治を)見せる力があったし、人気絶頂で解散したピンクレディーみたいに、あそこで退陣したからよかったのでは」(大田区の30代)など−−と熱く語る「今も信じている」が37人も。その一方で、21人が「郵政民営化への信念は感じたが、ほかのことはあまり考えておらず、周囲の意見も聞かないと感じていた」(北区の49歳)など「そもそも信じていなかった」と回答。「そもそも」と「だまされた」を合計すると45人で、「今も信じている」を上回り、小泉マジックも解けつつある。
一方、班員からは「今も残る小泉人気も実は安倍さんのマイナスになっている」との報告も。「安倍さんは自分のカラーがないわね。小泉さんの後だから、余計に印象が悪かったのかもしれないけど。今だって小泉さんが一生懸命応援しているじゃない」(千葉県柏市の65歳)などと安倍さんの話をしていても、いつの間にか小泉さんの話題になってしまうというのだ。
★切実な訴え、悲鳴
政治の何に怒っているかと聞くと、一にも二にも年金だった。千葉市の57歳は「自分の年金が不安で、インターネットで問い合わせの申請をしたら、1カ月たってやっとパスワードが送られてきただけですよ。これってどういうこと」。
消費税も気になる。東京都文京区の30代は「消費税は上げる気なんでしょう。上げるなら明確に説明すべきです」。派遣で働く江戸川区の45歳の訴えは切実だ。「私の会社は7割が派遣社員。会社は今はもうかっても、このままでは国がもたないと思う。労働者を使い捨てにするのはやめて」。文京区の30代の医療従事者も「女性が子育てしながら仕事ができることが、年金でも少子化問題でも求められているのに、現実は労働条件が悪くなるばかりで逆行している」と悲鳴を上げる。
町田市の50歳は「たびたび出てくる大臣の暴言や不祥事。事務所費問題に対する庶民感覚とずれたコメント。とにかく『おれたちに任せておけばいい』という態度に、おばさんは怒ってしまうんですよ」。そして、神奈川県鎌倉市の53歳に至っては「怒りが多過ぎて、語れませんっ!」。女性たちの怒り、29日の投票日にはどこに向かうのか。
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ファクス03・3212・0279
毎日新聞 2007年7月24日 東京夕刊
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