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□安倍首相出演要請の裏 [AERA]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070723-01-0101.html
2007年7月23日
安倍首相出演要請の裏
テレビに露出したほうが戦いを制する。それが選挙の現実なのだろう。
だが、最高権力者=首相の出演を官邸が迫ったとすれば、話は違ってくる。
編集部 秋山訓子、有吉由香、伊藤隆太郎
7月6日午後2時。国会閉幕翌日の昼下がり――。安倍晋三首相はテレビスタジオで、キャスターと政治部長にはさまれていた。
日本テレビ系「ザ・ワイド」。ワイドショーに現役首相が単独で生出演するのは前代未聞だ。最近おなじみのクールビズとは違い、濃紺のスーツにストライプの黄色いネクタイというスタイルである。
年金、消費税、内閣支持率……。街の声などもはさみ30分にもわたった首相の出演は、盛り上がりもせず、平板に淡々と過ぎていった。
消費税問題でムキに
その前日には首相は、同じ局の深夜のニュース番組「NEWS ZERO」のスタジオにいた。
「今回の選挙は結果によってどうするという選挙ではない。私たちの政策が正しいのか、小沢さんたちの政策が正しいのか、どちらが実行可能なのかという……」
参院選の意義について語るうちに早口になる安倍首相。そこでキャスターが「それでしたら、消費税を上げて……」と口をはさむと、
「消費税についてはちゃんと説明しています。上げないなんて一言も言ってない。言ってませんね」
とムキになった。
それまで首相は、税制改革の具体的な論議は秋以降になると繰り返してきた。それが、財務官僚出身のキャスターに突っ込まれ、想定外の発言。
あわてて火消しに走った、その舞台もまたテレビだった。
6日の夜、テレビ東京系のニュース番組。「消費税を引き上げない可能性もあるのか」と聞かれ、今度は一転、
「それだって十分可能性がある」
選挙戦本番を前に、かくも単独でのテレビ出演ラッシュとなったのには理由がある。
6月下旬のある日の夕方、東京・永田町の自民党本部の一室。自民党担当のテレビ各局の取材キャップが集められた。
前に立った衆院議員の山際大志郎報道局長や党職員が説明した。
「これまでよりも若い総裁なので積極的にテレビ番組に出演したい。報道番組に限らず、朝のワイドショーなどにも出演します」
「国会閉幕の5日から公示前まで、前向きに日程調整したい」
「単独出演なら20分、討論形式なら1時間でお願いしたい」
「生での出演が早朝から夜遅くまで可能」
党による「要請」の形をとっているが、複数の自民党や官邸の関係者はこう証言する。
「官邸がすべて絵を描いている。党は意向を受けやっているだけ」
その後の調整のなかで、複数の局は自民党からこう要望された。
「安倍首相の単独出演か、民主党の小沢代表と二人という形で」
官邸サイドから直接、
「安倍首相一人か、小沢さんと二人で出演を」
と求められた局もある。
囲み取材は中止を要請
年金、政治資金などで揺れに揺れた国会。選挙を前に支持率は右肩下がりのままだ。安倍官邸はテレビ出演を反転攻勢のてこにしようとしたのだろう。国会閉幕を前に、首相周辺はこう語っていた。
「これから戦闘モード開始。いろんな手を打ってテレビに出る」
安倍首相自身も「自分で国民に直接語りかけるんだ」と話していたという。
各局の対応は分かれた。
ある局は「他党との公平性の観点から、7党の党首討論という形でなければ受けられない」と判断した。別の局は、2005年衆院選の「小泉劇場」で振り回された反省から、首相の単独出演は受けられないという結論に。
いちばん多く露出させたのは、日本テレビだ。冒頭の2番組に加え、結局中止にはなったが、朝の情報バラエティー番組「スッキリ!!」にも出演を予定していた。日テレ側はこう説明する。
「他党の党首についてもインタビューや会見等を放送し、各党の主張を反映させている。政治的公平性が確保される構成だ。出演中止は企画変更に伴うもの」
テレビ東京とテレビ朝日は各1番組に安倍首相を出演させた。テレ東はトーク番組への出演も予定していたが、取りやめた。
官邸はテレビには首相を熱心に出演させようとする一方で、メディア対応を拒もうともした。
安倍首相の秘書官は6日、通常は日に1、2回行われる「ぶら下がり」と呼ばれる囲み取材を参院選投開票日の29日まで中止したい、と内閣記者会に申し入れた。
参院選期間中は自民党総裁の身分になるからとの理由だったが、新聞、通信、テレビ各社が加盟する記者会が反発。すったもんだのあげく、結局、継続することに。
「安倍首相はもともとぶら下がりが苦手。選挙を前に、自分に都合のいいものだけ出て、苦手なほうからは逃げていると見られてもしょうがない」(官邸関係者)
安倍政権は演出家不在
政党のメディア戦略がクローズアップされてきたのはここ数年のことだ。
自民党では、05年の小泉郵政選挙のときの世耕弘成参院議員が率いた「コミュニケーション戦略チーム」が注目を集めた。世耕氏はNTTの元広報課長。自民党はそれまで電通をはじめ広告会社を使ってきたが、初めてPRコンサルタント会社を入れ、役割分担を明確にした。
郵政選挙では約100人もの新人候補が出馬。右も左もわからぬ素人同然の候補に、「コミ戦」は指導力を発揮した。メディアに何を言うかを振り付け、大手新聞の論調はどうか、政策をどうアピールするか、などのポイントを記したファクスを送信し続けたのだ。
小泉政権では、飯島勲秘書官という演出家の存在も非常に大きかった。小泉氏に寄り添い30年、政界の裏も表も知り尽くし、数多くのメディアと付き合った剛腕だ。
1日2回のぶら下がり取材を始め、記者クラブをスポーツ紙に開放し、ワイドショーなど従来は政治をあまり取り上げなかったメディアと積極的に付き合った。ワンフレーズや断定を多用してテレビ映えする小泉氏のキャラクターともあいまって、首相のメディア露出は飛躍的に増えた。
自民党は今回の参院選に向けても、幹事長、広報局長らの「広報チーム」を結成。ファクス指南も継続し、自民党の政策の解説や、民主党の問題点などを送る。PR会社も引き続き起用している。
ただ、と、ある関係者は語る。
「確かに広報は重要。でも郵政選挙のときは、小泉さんという特異なキャラクターと飯島さんという演出家がいたことが最大の勝因だった。『コミ戦』がモンスター化し、広報が選挙の勝敗を握っていると錯覚されているふしがある」
下がり続けた視聴率
かたや民主党。メディア戦略は、当初は自民党よりも先行していたといえるかもしれない。
02年にはPRコンサルタント会社を迎え、コピーライター、デザイナー、メディアのモニタリングをそれぞれ担当するチームをつくった。03年の総選挙では「マニフェスト」を、04年の参院選では「年金」を争点に打ち出し、04年は自民党に勝ち越した。
しかし、05年の郵政総選挙で大敗すると、執行部も小沢体制に代わり、チームは解散。
「何を言うかなどを細かく振りつけるよりも、今回はあくまでも素材勝負。男小沢が38年の政治生命をかけてやるという正攻法の勝負に出る」(民主党国会議員)
よくいえば原点回帰、悪く言えば古い流儀に戻っている。
05年までのメディア戦略を選対事務局次長として担った福山哲郎参院議員は、奇しくも自民党関係者と同じことを言った。
「PRや広報戦略が過大評価されすぎだ。あくまでもサブで、重要なのは役者。我々は小泉に負けたのであり、演出や脚本がいかによくても、役者がよくなきゃだめ」
広報戦略はサポートにすぎない、というわけだ。
「だから役者が安倍さんに代わった途端、光らないでしょう」
実際、安倍首相のテレビ出演も、視聴者に歓迎されているかといえば、そうでもないようだ。
ビデオリサーチの調べでは、安倍首相が出演した5日の「NEWS ZERO」の平均世帯視聴率(関東地区)は5・9%。前4週平均の8・2%に比べて低水準にとどまった。一方、裏番組の「ニュース23」は6・3%で前4週平均を1ポイント上回っている。
「ZEROの瞬間視聴率は、安倍首相の生出演中、どんどん下がっていきました」(テレビ局関係者)
「ザ・ワイド」は5・9%で前4週平均と同じ。視聴率を押し上げる効果はやはりみられなかった。
「自民党側は首相をテレビに出せば出すほど票が取れると思っているのだろう。小泉前首相のときは確かにそうだったが、安倍首相では数字(視聴率)が取れない」(別のテレビ局関係者)
免許事業という弱み
1日の日曜日、各党党首が顔をそろえたテレビ番組で、安倍首相は赤城農水相の事務所費問題をこと細かに説明した。
「事務所費は月3万円、人件費は月5万円くらいだ」
「光熱費は月に800円。800円で辞任を要求するんですか」
同席した日本新党の田中康夫代表に「一国の総理が『光熱費800円』だなんて」と皮肉られる始末。
あるテレビ記者は言う。
「安倍首相は係長みたい。総理どころか課長でもない。大きな方向性を話せばいいのに、こまごまと説明しすぎる」
だが、映りは係長かもしれないが、首相は最高権力者である。メディアを選別し、利用するために権力をふるう、その影響力は甚大だ。それにしては、今回はやり方があまりに稚拙なのだが。
あるテレビ記者は言う。
「テレビは免許事業。官邸や政権与党の意向を蹴れば何か仕返しをされるのでは、逆に首相を出演させればおいしい思いをさせてもらえるのでは、という恐怖感と期待感がある。首相の単独インタビューというのはおいしいネタだから、誰でもとびつきたい。官邸や自民党は、権力をふりかざしているという自覚があるのか」
一方、メディア側の問題を指摘する声もある。
日本BS放送の鈴木哲夫報道・制作部長は、近著『政党が操る選挙報道』(集英社新書)で、05年衆院選での与党による「コミ戦」の舞台裏を描いた。政治家の情報操作に対するメディアの無自覚さを、
「テレビの現場が心してかからなければ、世論を為政者の意のままに誘導してしまう」
と危惧する。
「テレビジャーナリズムには、公共性や公平性を常に自問自答しながら、視聴者の期待に応えていく使命がある。今回、その自問自答がどれだけあったのか。単独出演は視聴者のためでなく、安倍首相のためだったという印象が強い」
上智大学の田島泰彦教授も、メディア側の自覚を促す。
「テレビ局自身が、その大きな影響力について自覚し、政治家へのチェックと公正さに厳しい姿勢をもたないといけない」
横並びで党首を出演させて、発言時間を機械的にそろえたりすることに「メディアの公平性」があるのではないと、田島さんも言う。
「公示前とはいえ、現実にはすでに選挙戦の渦中。そうした時期に政権与党が仕掛ける戦術に、メディアがどう主体的に、毅然と対応していくか。問われているのは、そういう大きな流れにおけるジャーナリズム性と公平性だ」
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