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今回の参議院選挙の最大の争点は、年金問題ではなく、安倍政権の存在であるべきだ。年金問題は1つの政策テーマでしかない。安倍政権が統治能力を持っているならば、具体論はどうあれ、年金問題の解決の道筋をつけることはできるであろう。しかし、この政権が統治能力を持っていないならば、政策をいくら議論してもそれを実行できないのであるから、議論は無意味である。
政権の統治能力を測るためには、指導者の思想や理念が最も重要な尺度となる。安倍首相は憲法改正を軸とする「戦後レジームからの脱却」を自らの最大公約として打ち出している。したがって、安倍の言う「戦後レジーム」の意味を吟味することこそ、この選挙の最重要争点ということになる。
折しも、久間章生防衛大臣が、「原爆投下正当化」発言の責任を取って辞職するという事件が起こった。これは単なる大臣の失言ではなく、戦後レジームをめぐって安倍自民党が陥っている深い分裂を物語るエピソードとして理解すべきである。安倍が唱える「戦後レジームからの脱却」は、憲法や戦後民主主義を否定し、戦前に回帰することを目指すものである。安倍の側近議員が米紙に従軍慰安婦に対する日本政府の公的関与はなかったなどという国辱的な意見広告を出したことなどもそれを裏書きする。他方、久間の原爆正当化発言は、まさにアメリカの歴史観そのものであり、戦後レジームを日本に押しつけた勝者の見方である。この二つの相容れない要素がなぜ自民党という一つの政党の中で併存しているのか。私には、この矛盾こそ現在の自民党の本質を物語っているように思える。
安倍政治は、いわば時間軸に沿って、過去にさかのぼる方向と、未来に下る方向で戦後レジームを引き裂こうとしている。さかのぼるとは、戦前の日本の侵略や圧政を正当化するという意味である。歴史問題や教育問題に関する安倍政治の姿勢は、この方向である。未来に下るとは、戦後政治の中で自民党政権自身が築いてきた平和国家としての原則や縛りを取り払い、アメリカの軍事戦略の完全な下請けになるための態勢を整備するという意味である。そして、今回日本の防衛政策の最高責任者が、「アメリカの軍事戦略のためには日本国民が死んでも仕方ない」とばかりに、アメリカの歴史観に完全に同化したことを宣言したということは、今後日本の自衛隊はアメリカ軍の一部として活動することをはしなくも認めたようなものである。
国のプライドにこだわる右翼的な連中には、過去にさかのぼってバーチャルな空間でせいぜい空威張りしてもらえばよい。実際の国家運営に関しては、日本の指導者をアメリカの指揮下において、骨抜きにする。「戦後レジームからの脱却」の本当の意味は、戦後憲法の下でかろうじて日本が主体性、独自性を確保してきた防衛、安全保障の領域で、まさに戦後的な平和国家路線を完全に崩すことをねらっている点にある。安倍首相が設置した「有識者懇談会」が進めようとしている集団的自衛権の解禁も、その先触れである。(週刊金曜日7月13日号)
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